第21話『ビスワ川の夕陽』
友里恵と蓮たち一行がワルシャワに滞在中、市内はNATOの部隊が入れ替わり立ち替わり動き周り、不穏な活気で満ちていた。
その多くはベラルーシを経由し、ロシアに向かう追加部隊。
中にはウクライナからの部隊も多く、彼らの目は血走っているように見える。
彼らはロシアの侵略から受けた一番の被害者であり、復讐に燃える気持ちも分からぬではない。
しかし、彼らが復讐に燃えその私怨から勝手に国境を越えロシア領内を進軍しては、この戦争はいつまで経っても終わらない。
『ニューフリーメーソンZ会』の影の影響と意向で動くNATOは、ベルギー・ブリュッセルに本部を置き、多数のエージェントが派遣されている。
そのブリュッセルの働きからNATOを動かし、武器供給の停止をちらつかせ、停戦を呼びかけられたら従うしかない。
だからロシア制圧後、NATOの指示により直接ロシア領内を進軍するより、一旦ポーランドに集結してワルシャワで合流、NATO軍の一員として行動するのが一番と判断された。
もちろん、EUとの裏取引で、今後ウクライナをEUとNATOの(遅くとも)一年後の無条件同時加盟の協定を締結して。
特にEU加盟は、民主制の成熟度や経済・社会制度の基準がEUの求める水準に徹しているのが絶対条件であるが、ロシアに侵略され、政治も経済も破壊されている現状からの一刻も早い復帰を考えたら、ウクライナの要求にも同情の余地がある。
そもそもウクライナはロシアから蹂躙され続けた悲惨な歴史がある。
古くは日露戦争に駆り出され、奉天会戦等の最前線で戦わされ(有名なコサック騎兵部隊)たり、ロシア革命後の無能な食糧増産政策の失敗から未曾有の大飢饉を招いたソビエト政府。
そんな彼らがやった事は当時から『ヨーロッパの穀倉地帯』と呼ばれていたウクライナから食糧をゴッソリ搾取する事であった。
そして1922年、ロシアの共産主義に反抗するウクライナ人に対して飢餓政策を推し進め、大飢饉を起こさせる。
その結果、ウクライナでは1933年、数百万人と言う夥しい餓死者を出している。
第二次世界大戦時には、スターリンの命令一下、またしてもウクライナ人虐殺を展開し、対ドイツ戦を凌いできた。
ロシア(ソビエト連邦)にとってウクライナは食糧のみならず、全産業の中心地でり、その犠牲の上に成り立った国家集合体であった。
更にチェルノービリ原発事故での被人道的終結工作など、その後も彼らの人権は紙切れより軽く扱われ、ロシア人に対する怨念は非常に強かった。
こんな近代史の略歴を見てもその心情は分かろうと言うもの。
その後ウクライナでは2004年『オレンジ革命(ウクライナの大統領選挙。ロシアからの離脱、EUへの加入を問うた選挙の動乱)で危機意識を持ったロシア『プータン政権』が2022年、ウクライナ東部ののロシア系住民を保護を名目に起こした侵略戦争。それが現在まで続いたのだ。
この泥沼の戦いを耐え抜いた彼らが、どんな想いでNATOの部隊と共にロシア領に向かうのか?
苛烈な占領政策を推し進めるのは誰の目にも明らかであろう。
『ニューフリーメーソンZ会』の迷いも、まさにここにあった。
眼には目を。人権侵害には人権侵害を。
そんな行為を許しては、正義の御旗は成立しない。
彼らに自制を求めるには、あくまで国際法に則った裁判による正当な懲罰と制裁を課し、ウクライナ国民のみならず、全世界の納得を得る必要がある。
第二次世界大戦終結時、ニュールンベルク裁判と極東国際軍事裁判(東京裁判)という極めて不公正な裁判で、彼ら戦勝国はドイツと日本を裁いた。
今、まさに同じ事をロシアと中国を対象に執行しようとしている。
(アメリカも強引な覇権主義の罪を問われたが、トランポリンの弾劾と民主主義ガイダンスの徹底を図る以外は、彼の国が自ら招いた没落と、全ての侵略兵器の強制供出(没収)とCIAの解体と世界連邦への吸収の処分が発表され、それ以上の処分は免れた。)
洋の東西で同時に世界連邦から派遣された連合軍が中露に進駐。
徹底的に反抗を封じ込めた。
ここで不思議なのは我が日本の動き。
日本は中露どちらにも自衛隊を派遣していない。
日本人のエージェントは、ほぼロシア方面の任務に従事している。
何故中国を含めた極東に不介入なのか?
その理由は中国、韓国、北朝鮮人の特性にあった。
彼らの異常な反日感情はもはやDNAに擦り込まれた本能と言える。
彼らに冷静な判断も理性も存在しない以上、関わるべきではない。それが日本政府の判断だった。
特に北朝鮮と韓国は中国東部戦区の暴走により、戦乱に巻き込まれ国家としての機能を失っている。不幸な巻き添えであるが、残念ながら日頃の行いが招いた自滅の運命とも言えた。
だからこんなところにノコノコ日本人が出張っては、待ってました!と彼らが発狂するのは眼に見えている。
だから不介入なのだ。
しかしその裏で日本政府は『ニューフリーメーソンZ会』が起こしたフェーズ. 1成功の一番の立役者であり、核戦争を阻止、防止した功労者であった立場を最大限に活かし、世界連邦の中枢を占めるに至った。
そして世界連邦総会を主導し、フェーズ 2【戦後処理】の骨子を作成、国際裁判と領土の再編成、国連管理の仕組みを作り、即時実行した。
中南海とクレムリン関係者の厳しい懲役処分と、中露の国家分割を取り決め施行する。
そのためのNATO及び、【AUKUS】(アメリカ・イギリス・オーストラリアの3カ国安全保障枠組が編成した特殊部隊』や日欧共同の統治組織【 UNFOR】が送った部隊を駐留させ、治安を徹底的に封じ込めた。
その骨子を見ると、国家分割ではロシア領はウラル山脈を境に東西二分割。
更に樺太・千島列島は全島日本が中心になり、国連信託委任統治。従前から居住するロシア系住民は、新規移植する日本系住民との平和的共生を保証し、日本の資本力と技術力を注入、産業と生活水準を発展、加速させ実質的な準保護国とする。
特に開発中の『サハリンⅡ』の石油・天然ガスは、ロシアから全面的に事業継承を受ける協定を結び、これらを以て第二次世界大戦の負の遺産を完全精算するすることとした。
(当時ソ連は日本との不可侵条約を一方的に破棄し、満州・樺太・千島列島に侵攻、更に満州の日本守備隊・民間人65万人を不当に拘束、シベリア抑留・強制労働を強要した。その結果6万5千人の犠牲者を出している。)
中国は内モンゴル自治区をモンゴル国に編入・併合させ、ここで産出するレアアースはモンゴルの国有化としながらその運営はノウハウ含め、日本が担当する。
ウイグル自治区は、それまでジェノサイドを実行してきた漢民族を処罰の上、全員追放。保護したウイグル人は領土と共にカザフスタン共和国に編入、国連管理下で復興を目指す。
チベット自治区は侵略した漢民族を全追放し、そのまま独立を促す。経済や国家経営は国連管理下におき、自立を目指す。
残りの領土を五分割させ、特に旧東部戦区を満州国として満州民族による統治を目標とする。
この五分割した領民は前のepで述べたように、全民族の徹底的な再教育を施すため、国連としても100年単位の長期戦が予想される。それ程困難な事業であるのが悲しい。
そんな流れが形成されつつある中、蓮と友里恵たちはエージェントによる全体オンライン会議に出席させられ、今後の活動方針を話し合う事となった。
特に日本人の役割は全体の調整役としての立場と成果を求められ、冷静な仲裁者として活躍する立場に押し上げられる。
以前、研修中に『正義』とは何か?と議論していたが、ビスワ川を臨むビルの会議室で、お馴染みのメンバー同士でディスカッションする。
「なんか、マズイ事になったなぁ〜!」と蓮。
「そおぉ?蓮には一番相応しい役割と思うけど?」友里恵が蓮の肩を揉みながら言う。
「だよね!蓮は見た目、頼りないけど、その頼りなさが同情を買い、知らず知らずのうちに味方に引き込む天才だからな。」
「それって褒めてる?全然嬉しくないんだけど!」
「全会一致の意見だから、有り難く受け入れろ!蓮!」とペーターと頷くカバロフ。
「やっぱり流石人気者の蓮ね!頑張って〜!」ジェーンが腕を上げて応援する。
「良いじゃない?子供の頃からの夢だった『正義の味方』になれるのよ。」友里恵がけしかける。
「皆んな間違ってるぞ!自分をシレッと蚊帳の外に置くな!ここに居る全員は一蓮托生、同じ穴のムジナだかんな!な!劉太原!」
「僕だけフルネームで呼ぶな!」
「良いだろ!一番濃い仲間なんだから!」
「濃くない!」
「醤油か!」
窓越しのビスワ川の夕陽が、この低次元の会話を溶かしていった。
つづく




