第15話 『正義』
「ねぇ蓮、私、何だか変なの。」
「友里恵が変なのはいつもの事ジャン?」いきなりバキッ!とシバく音。
「痛いなぁ!何すんのぉ!」
「このセンブリ茶って、ヤッパリただの苦くて不味いお茶じゃないのね。全身の血管全部に微量な電流が走ったみたい。蓮はそう感じなかった?」
「そりゃそうだろ。だってHALO君が言ってたじゃん?このお茶は映像可視化処置用ワクチンだって。これを飲まされるために、わざわざジュネーブくんだりまでやってきたんだから。
僕だって頭から足のつま先までピーンと電流が走ったよ。
あれ?何だか幻覚が見え始めてきたぞ!何だ!これ?」
「私もいろんな景色が幾つも同時に見えてきたんですけど。でも重なっているようで別々に、しかも同時に見えてきているのにちゃんとそれぞれの状況を理解できてるみたい。何これ!この状況!様々な映像がまるで海のように押し寄せてきている!私、頭がクラクラしてきそう!」
「僕も!気が変になりそう!世界中の景色や様子や人の動きや会話までクッキリ見える!ここはジュネーブなのに、ニューヨークやモスクワや・・・ここは北京?天安門広場なのか?誰か中国語で話しているのに、何故か何を語りかけてきているのか理解できる。
僕に中国語なんてわかる筈ないのに。僕に身分証の提示を求めてる?相手は公安か?あれ?僕にじゃないみたい。いや、僕は今、北京にいる誰かの視界の映像をピックアップしてクローズアップしているんだ。
今の僕に見えているのは北京のエージェント特派員の視界か?そうか!映像可視化処置用ワクチンの効能ってこういう事か!」
「そうです。蓮さんや友里恵さんに今見えているのは世界中に散らばるエージェントたちの視界情報が、連動して共有化している映像です。」
「HALO君!このセンブリ茶って凄すぎ!何なのこれ!私じゃないみたい!」
「だから!ただのセンブリ茶じゃないって!映像可視化処置用ワクチンですって言ってるでしょうが!
でも、本領発揮はこれからですよ。まだまだこんなもんじゃないですから!
今のところはまだ蓮さんや友里恵さんたちで、世界中に散らばる全エージェントの10分の3にしか行き渡ってないのですから。
ヨーロッパ地区担当エージェントでは3分の1ってところです。
今夜中にアメリカ地区、明後日には中国・北朝鮮・韓国の全特派員エージェントに届く手配になっています。モスクワを中心にしたロシア地区も明後日には何とかする手筈です。中国や北朝鮮、ロシアは監視網を掻い潜って行き渡らせなくてはならないので、少し時間がかかるのです。
全エージェントにセンブリ茶(映像可視化処置用ワクチン)が行き渡ったところでいよいよ作戦開始です。
蓮さん、友里恵さんも直ちに配置について貰いますので宜しく。」
「それでHALO君?私たちは何処で何をするの?」
「友里恵さんとハンブルクのメンバーは、主にオペレーター任務だと思ってください。ドイツのベルリン・ポーランド・ベラルーシでロシア・モスクワ特派員エージェントたちの後方支援です。
蓮さんやリトアニア・ビリニュスメンバーは、クレムリン突入メンバー(CIA・MI6等の特務諜報機関員の中から選抜されたエージェントたち)やロシアの各基地制圧部隊の支援と周辺機関、及び住民に対する保安工作が主な任務になるでしょう。蓮さんはロシア・サンクトペテルブルクに飛んで貰います。友里恵さんたちとは暫く逢えなくなるでしょう。それから任務の危険度も友里恵さんたちより格段に高いです。
覚悟は宜しいですか?」
「覚悟ですか?そのための訓練を受けてきたのですから、できていないとは言えないでしょう。でもよく分かりません。できれば死にたくないし、怪我もしたくはないので。でも私たちの任務は正義のためですよね?だったらやるっきゃないでしょ!」
「正義?誰の正義ですか?あなたの正義?友里恵さんの正義?」
「え!!誰の正義って何ですか?HALO君は人類を滅亡の危機から救うって言ったでしょうが!言い切ったよね?正義の為って言ったじゃないか!」
「人類を滅亡の危機から救うとは言ったけど、正義とは言っていません。」(あれ?そうだったっけ?)
「エージェントの皆さんは、人類を救う為の問題意識を持って貰う訓練はしましたね。
でも、それは人類存続のため、誰もが納得できる道を模索する訓練でした。でも、常に自分たちが持つ正義って、それは自分たちだけの価値観であって、対立する者たちにとっては悪ではないかって悩んでいましたね?自分たちは神さまじゃない、それなのに正義を掲げるのは不遜じゃないか?ってね。そうじゃなかったですか?」
「そうだったね?その時HALO君は僕たちと一緒に模索するって言ったよね?それが僕らの正義じゃないの?」
「私、AI. HALOを含めニューフリーメイソンZ会メンバーの正義はあくまで私たちの正義に過ぎません。
人類滅亡の危機を回避するという、錦の御旗を掲げているだけです。
人類全体の総意を得ている訳ではないのです。
もっと言えば、所詮は人類社会だけの自分本位の身勝手な論理に過ぎません。
私、AI HALOはギルモア博士が作ったAIなので、人類よりの思考に沿った結論を出すよう設計されていますが、本来ただの機械です。人ではないのです。
だから敢えて地球の生命全体の立場から見た、俯瞰した見地を申し述べます。
人間社会では殺人は罪であると言いながら、戦争を止める事ができません。人を殺す事は悪い事と定義しているのにです。
実に愚かだと思いませんか?自分の意に染まないものは武を以て排除する。今回の作戦もそうです。できるだけ死者を出さないよう最大限の配慮をしても、結局悲劇は避けられないでしょう。
これから人類にとって、極端な論理の話をします。
仮に今度の作戦で完全勝利し、多くの人類が救われ幸福に暮らせる世になったとしましょう。
それは人類の幸せに過ぎません。
人が幸福に暮らすという事は、たくさんの生物が捕食され、殺されていくという事です。
人が生きていくためには、食べていかなければいけません。
そして食べられるのは必ず他の生物たちです。
牛や豚や鶏や魚たち。そして米や小麦やとうもろこし、野菜や果物たち。
皆んなこの世に生を受け生きてきた者たちです。
人は人を殺すのは悪い事で、牛や豚を殺すのは悪い事ではない?
人間は他の動物たちより上位にいるのだから当然である?
そんなしようもない事考えてられない、極端過ぎる思考ですか?
蓮さんや友里恵さんの大切な人が殺されたら、当然その犯人を憎悪し、場合によっては殺意さえ覚えるでしょう?
でも牛や豚や鶏は殺されても仕方ない。だって私たちだって食べていかなきゃ死んじゃうもん。やむを得ないじゃない?
そうかな?牛や豚さんには死の恐怖や、悲しいという感情は無い?
人間は他の動物たちより上位にいるのだから当然である?
そう思いますか?それは思い上がり!そうとは思いませんか?
私たちは産まれながらに、殺戮の罪に加担してきました。
それは事実です。それの何が正義ですか?
自分の愛する者が相手に殺されるのは許されないけど、自分が殺すのはやむを得ないという論法はアンフェアです。それは人も動物も一緒、皆同じ生き物です。
何処かの国の人々が同じ論法で敵対する者たちを追及し醜い争いを増長しているようですが、それは卑怯です。正義を振り翳した偽善者です。人間同士でさえ、そう。
そして私たちがこれからする事は要するに、そういう事です。
それを忘れてはいけません。
決して自分たちを正義の使者だなんて思ってはいけません。
あくまで自分たちの安寧を願って対立する者、自分たちの安全を脅かす者を排除しようとしているだけだと。
それを肝に銘じ、自分の信念を貫いてください。
成功を祈っています。」
「それだけですか?」
「正義とは言えないついでに言っておきましょう。
ターゲットを制圧したからと言って、脅威が永久に除去された訳ではありません。
あなたたちのホントの使命はその後にあります。
制圧後、その国がそうなった原因・元凶を炙り出し、改善していかねばなりません。
特にロシアを例にとると、旧ソ連時代に徹底した国民への締め付けが国家体制崩壊後、一度は民主主義が敷設されました。しかし、今はどうですか?
情けない事に、また同じ独裁を許し、自由と権利は取り上げられました。
この何処に問題があったのでしょう?今回も自由を奪った独裁を除去しても、それだけではまた元に戻るとは思いませんか?
国民の思考や体質にも問題があるからこうなった。だとしたら継続して問題除去の関わりを継続しなければなりません。
中国をみていきましょう
中国も独裁に悩まされた国。
特に1950年代に始まった文化大革命(文革)以降、誠におぞましい事に、その国の独裁者は自国民を少なくとも7800万人も殺害しています。
一説には1億人を超えているとも。
そして恐ろしい事に、それ以降も反革命とみなさてた普通の国民の殺戮を実行した当時の政府は、その国家体制を未だに全く変えずに継続してきているという事実。
あの狂気の時代を実行した当事者たちが処罰されることなく、その後も面々と権力の座に居座り続けているという事実。
あの地獄のような政府の圧政を受けた社会の中で、民衆は狂気のどん底に突き落とされ、人としてのモラルも良心も躾も社会規範も全て消失してしまいました。
今やこの社会は犯罪が横行しており、窃盗の犯人が現行犯としての動かぬ証拠を突き付けられても、開き直って決して謝らないような風潮が横行しています。それが当たり前の社会に落ちぶれているのです。
【あやまちて改めず、これをあやまちと言う】孔子の言葉です。 今の中国の人には死語のようですね。国家は国際規範を無視した横暴な行為で全世界を圧迫し、脅迫する。国民は全世界で自らのわがままを通そうとトラブルを起こし呆れられる。
それらは自国内での生活習慣・慣習に起因しています。もう人間者社会とは言えないような世の中で、多くの国民は当局から獣のような生活を強いられてきたからなのです。
よって、今の彼らには当然国際社会で共存できる素養も能力も喪失し、国際協調の中でやっていけません。トラブルメーカーなのです。
だから体制を崩壊させた後は、国際社会が全力で国家も国民も人間として復帰できるよう、支援していかねばなりません。
ロシアも中国も朝鮮も人間の思考や行動について全面的な介入をする必要があるのです。
実に上から目線ですよね?自分たちは何様なのでしょう?される方の立場は?感情は?プライドは?
でも、それでもやらなきゃならんのです!
彼らに共通する特徴。それを見て改善すべきところは心を鬼にしてもメスを入れなきゃなりません。ひとえに共存するためです。例えば感情的になったら自制を無くする発狂因子を弱めるサプリメントを継続して与えて続けるとか、競合する社会では他者を尊重する思考を増長させる栄養素・薬物を含めた食事療法、もっと発展させて大規模なカウンセリングを国家単位で行うとか。何処かの国でやってきた道徳の授業とか、ラジオ体操を全国民に義務づける、団結・連携プレイ重視の集団行動の中で他者との平和共存の教育・訓練を推進するとか。
これらの国の復帰プランは決して他人事ではありません。
これを聞いて何か覚えがありませんか?
戦後日本を占領・統治したGHQの対日本政策。日本が正しいと信じ、死に物狂いで戦った戦争。
アメリカや その他の白人社会にとっては、日本の行為は有色人種のとんでもない反抗だった。許せない反乱にしか見えなかったのです。
大規模な日本改造。それが占領政策でした。もう二度と歯向かえないように牙を抜く。
平和国家日本の誕生は、アメリカに従順な国家・国民への改造でした。
そういった視点で見てみると、『正義』の意味も意義も違って見えるでしょう?
そういった意味でもう一度自分に求められる今後の行動の意味は、規模の大小、強弱に関わらず、どの国にも導入すべき内容も含まれていると分かりませんか?
何も中露朝だけが諸悪の根源ではないのです。
今回アメリカにもトランポリン大統領失脚作戦が同時に実行されます。他にもイギリスにもフランスやイタリア・ドイツにも、蓮さんや友里恵さんの国、日本にさえ、問題はあるはずです。
日本にはイジメやハラスメントが蔓延り、希望を失った引きこもりの大人が増えていますね?
誰もが他人を尊び、愛し、協力し合う社会や国家を作る。
それが私たちが求める人生を豊かにし、平和を維持するための矜持なのです。
そのための行動。決して正義などではありません。
あくまで人類全体の自己防衛行為に過ぎないと自戒しながら頑張ってください。
気の遠くなる程、遠い道なのですから。」
蓮と友里恵はその気が遠くなる様な道のりに、言葉も無くただ呆然とするのだった。
ファイト!!
つづく




