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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
???編

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48/51

第47話 底なし

ドォン!!バシャン!!!


澪澄れいちょうが暴れ、水面が揺れる。



神官アーディス

「(唯一厄介なのはあのヘスティア。ですが、疲弊した今なら問題ありません。)」


ヘスティア

「(…とか考えてるんだろうな…)」



ヘスティアは小さく息を吐いた。


キィン!!


茶色の魔法陣が澪澄れいちょうの足元いっぱいに展開された。


ドゴォォォン!!!


轟音が地下水路を震わせる。

澪澄の真下にあった床石が大きく抉れ、そのまま鋭く伸び上がる。

何本もの岩石の剣が、巨体を容赦なく貫いた。


 

澪澄族れいちょうぞく

「グォアアアアアアアッ!!」


レヴィス

「なっ……!」


ハルジオン

「す、すごい……!」


プロジオン

「床が……!」


レヴィス

「床ごと持っていったのか…!」

 


澪澄の周囲は大きく陥没し、岩石があった場所だけがぽっかりと抉れている。

 


神官アーディス

「……。(体力バカ…いや、魔力お化けか…)」


 

神官の瞳がわずかに揺れた。


 

神官アーディス

「(まだ、この火力が…)」

 


ギシ……。


岩石が軋む音が響く。


 

澪澄族れいちょうぞく

「グルルルル……!!」


 

巨体が激しく身を捩った。


バキィィン!!


岩石の剣が一本、また一本と砕け散る。


 

レヴィス

「砕いた!?」


ジーク

「いや……違う!」

 


ぐちゅ……


貫かれた傷口が蠢く。

裂けた肉が寄り合い、砕けた鱗が元の形へ戻っていく。


 

プロジオン

「傷が……塞がっていく……!」


ハルジオン

「そんな……!」


 

ヘスティアは表情ひとつ変えず、その再生を静かに見つめていた。


 

ヘスティア

「……(やはり妖相手は骨が折れる…)」

 

神官アーディス

「驚きませんか?」


ヘスティア

「いいえ。…見慣れているので」

 


その一言だけを残し、ヘスティアはルークに目配せした。



ルーク

「っ…!」



ルークはディンを抱えながら思い切り澪澄を蹴った。


バキっ!!


澪澄の顔が砕け、そのまま倒れ込んだ。



神官アーディス

「は?」


レヴィス

「おぉ…」


ジーク

「え…?」


プロジオン

「え?」


ハルジオン

「う???」



ルークはディンをヘスティアの元へそっと置き、澪澄の方へ向き直った。

ヘスティアはディンを抱えて座り込む。

そして何も言わずにただ小さく頷いた。

 


ルーク

「……。」


こほん。

小さく咳払いをする。

口元を手で覆うと、その隙間から小さく…


ぼふっ……


誰にも気付かれないほどの、小さな炎が零れ落ちた。

ルークは何事もなかったかのように澪澄を見据える。

 


神官アーディス

「……?(なんだ…?)」


澪澄族れいちょうぞく

「…………。」


 

再生し終えた澪澄の鼻先が、ぴくりと動いた。


先ほどまでヘスティアへ向いていた視線が、ゆっくりとルークへ移る。

 


神官アーディス

「……何をしているのです。その女を…!」


澪澄族

「グォオオオオオオオオッ!!!」


 

澪澄は神官の声を遮るように咆哮を上げると、一目散にルークへ飛び掛かった。



神官アーディス

「な…!?言うことを聞きなさい!!また皮膚を焼かれたいのですか!!」



神官が怒鳴るも、ルークの方へ向かっていった。

ルークはみんなから離れ、さらに奥の方へ向かってものすごいスピードで走り出した。


 

ヘスティア

「あれ(澪澄)はルークに任せましょう」


ジーク

「あ…あれ(澪澄)を1人で…?」


ヘスティア

「今の見てなかったんですか?」


ジーク

「見てました…。我々は行かない方がいいですかね…」


ヘスティア

「でしょう?……あら。顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」


神官アーディス

「……貴女こそ鼻血が出てますよ」


レヴィス

「ヘスティアちゃん…!」



ヘスティアが鼻血をグッと腕で拭った。

 


ヘスティア

「問題ありません。ルークと逆方向に向かってください。おそらく国王がいます」


ジーク

「本当ですか!」


プロジオン

「っ…!」


ヘスティア

「……レヴィスとハルジオンはここに残ってください」


ハルジオン

「はい…!」


レヴィス

「よっしゃ」


プロジオン

「師匠…!俺も一緒に!」


ジーク

「わかった」



プロジオンとジークが走り出した。

 


神官アーディス

「行かせませんよ」


ヘスティア

「そんなに余裕がありませんか?」


神官アーディス

「何が言いたい」

 

ヘスティア

「行かせたくないなんて。国王がいるのを確定させるようなものです」


神官アーディス

「黙りなさい!!」


 

神官が杖を振り上げた。


キィン!!!


青色の魔法陣が展開し、プロジオンとジークに大波が向かっていく。



ハルジオン

「ジーク様!!プロジオン様!!」



キィン!!


黒色の魔法陣が展開された。


ドォン!!



神官アーディス

「がぁ!?」



神官が地面に思い切り叩きつけられる。

魔法が解け、波が緩やかになる。



ヘスティア

「げほっ!げほっ…ごふ…」



ヘスティアが激しく咳き込み、血を吐き出した。

 


ハルジオン

「ヘスティアさん…!しっかり…!」


レヴィス

「今のうちにあいつを!」


ヘスティア

「っ…殺してはいけません…!」


レヴィス

「(そっか…師匠の契約…!)」


ハルジオン

「と、とにかく拘束を…!」


神官アーディス

「どいつも…!!こいつも…!!!私の邪魔をするな…!!」



ベキベキ…バキバキ…!


骨が砕けるような音をさせながら神官が立ち上がっていく。



ハルジオン

「お…音が…」


神官アーディス

「これだから外国者を入れないようにしていたのに…!!許しません…絶対に許さない…!皆殺しにしてやる…」



バキバキ…メリ…ボキ…ベキ…!シュウ…


身体から出血してもなお、立ち上がる神官。

切れた場所が修復していく。


ベキ…ベキベキ……。


骨が軋む音が地下水路に響く。

神官の背が大きく反り返った。


バサァッ!!!


純白の巨大な翼が一気に広がる。


 

ハルジオン

「っ……!」


レヴィス

「翼……!?」


 

白い羽根が宙を舞う。

さらに、顔の上半分が音を立てて変形していく。


メリ……


白い嘴のような面が額から鼻先へと伸び、目元を覆い隠した。

 


ハルジオン

「あ……!」

 


その姿を見た瞬間、ハルジオンの顔色が変わる。

 


ハルジオン

「ディンさんが戦ったやつと似てる…!」


レヴィス

「知ってるのか!?」


ハルジオン

「色は違いますけど……あの嘴……あの翼……!」


ヘスティア

「……チッ…」


レヴィス

「(舌打ちした…)」


ヘスティア

「貴方も妖…」


神官アーディス

「………。」

 


アーディスは静かに顔を上げた。

白い嘴の奥から覗く口元だけが、ゆっくりと歪む。


 

神官アーディス

「……なるほど…」


 

バサッ……


純白の翼が大きく広がる。


地下水路に突風が吹き抜け、舞い上がった白い羽根が静かに降り積もる。

 


神官アーディス

「あの子(澪澄)が貴女ヘスティアを攻撃しなかったのは…感知できないくらい妖力がほとんどないから…。なるほど…あの緑髪は妖力が強いのですね…よく特性を理解していらっしゃる…」



バサァ!!!ビュン!!!



レヴィス

「!」



神官が飛ばした羽をレヴィスが剣で捌いた。



レヴィス

「硬っ…!」


ハルジオン

「(反応できなかった…!)」


ヘスティア

「……そっちのほうが強そうではありませんか…」


神官アーディス

「本来の姿ですからね。でもこの姿はあまり好きではありません。人間だった頃の姿のほうが好きだったのに…貴女のせいで台無しだ。化けるのも大変なんですよ」



神官が錫杖を引き摺りながら向かってくる。

 


ヘスティア

「……ディン、起きて。起きてください」



ヘスティアは神官から目を離さずにディンを揺すった。

それでもディンは気絶から戻ってこられない。



ヘスティア

「もうすこし…わたくしが時間稼ぎをしたかったのですが」



神官が杖をがしゃんと突き、ヴァイスを召喚した。

死体の群れがヘスティアたちに向かう。

そして、神官も杖を掲げ、青い魔法陣を展開して水魔法で攻撃してくる。



キィン!!



ヘスティアは水色の魔法陣を展開し、結晶で自分とレヴィスとハルジオンを守る。



ヘスティア

「はぁ…はぁ…はぁ…」


レヴィス

「あのゾンビはなんとかなるけど、神官がやばいな!」


ハルジオン

「(ヘスティアさんの魔法がなかったらぼくたちとっくに串刺しだ…!)」



バサァッ!!


純白の翼が羽ばたく。

無数の白い羽根が宙を舞い、その一枚一枚が鋼のような光沢を帯びた。


 

神官アーディス

「死になさい」


 

ビュン!!ビュン!!ビュン!!


 

レヴィス

「くっ!!」


 

ガギィン!!ガギン!!


剣で受け止めるたび、火花が散る。


 

レヴィス

「羽根じゃねぇだろこれ!!硬すぎる…!」


ハルジオン

「レヴィスさん!」


 

キィン!!


青色の魔法陣。


ドォン!!


今度は巨大な水柱が3人へ襲い掛かる。


 

ヘスティア

「ぐ…はぁ…く…」



キィィン……



ヘスティア

「っ……!」


 

ビキ……


パリン!!


結晶が砕け散る。


 

ヘスティア

「げほっ……!」


 

口元から血が滴る。


 

レヴィス

「ヘスティアちゃん!」


ハルジオン

「後ろです!」

 


ガシャッ!!


ヴァイスが結晶の隙間から腕を伸ばす。


 

レヴィス

「邪魔だァ!!」


 

ザン!!


一体を斬り伏せる。


しかし、


ガシャ……

ガシャ……

ガシャ……


水の中から次々とヴァイスが這い上がってくる。


 

レヴィス

「くそっ……数が減らねぇ!」


神官アーディス

「そうでしょうとも。」


 

錫杖を軽く鳴らす。


ガラン……


 

神官アーディス

「死体はいくらでもありますから。この国周辺でたくさん集めたのですよ?」


 

ガシャッ!!


さらに十数体のヴァイスが立ち上がる。


 

ハルジオン

「そんな……!」


神官アーディス

「貴女はもう限界でしょう。」


ヘスティア

「…………。」


 

呼吸が浅く、肩で息をしている。

魔法陣は維持できている。

しかし身体だけが言うことを聞かない。

ハルジオンもレヴィスも息が上がってきていた。



ヘスティア

「……。」


神官アーディス

「あと何回、防げます?」


ヘスティア

「……レヴィス、ハルジオン。」


レヴィス

「!」


ヘスティア

「下がって」


ハルジオン

「でも……!」


ヘスティア

「早く」

 


その声に逆らえず、2人はディンを抱えて後退する。

ヘスティアは静かに目を閉じた。


キィィィィィン……


青と茶。

2つの魔法陣が交差する。



神官アーディス

「(まだ複合を撃ってくるのか…底なしにも程がある…!)」



地下水路の水面が震え、床石も同時に唸り始めた。


ドゴゴゴゴゴゴ……!!


床が砕けて大量の岩石が水流へ巻き込まれた。


ゴォォォォォォォォッ!!!


地下水路を埋め尽くす濁流。

土砂と岩石を巻き込んだ激流が、一気に神官とヴァイスの群れへ襲いかかる。


 

神官アーディス

「……!!」

 


ガガガガガガッ!!

巨大な岩石がヴァイスを次々と押し潰す。

腕が砕け、胴が裂け、濁流へ飲み込まれていく。



レヴィス

「全部……流した……!」



神官も巻き込まれる。


ドォォォォン!!!


錫杖ごと濁流に叩き込まれ、岩壁へ激突した。


 

神官アーディス

「がぁぁぁっ!!」


 

濁流は止まらない。

何度も、何度も、巨大な岩石を叩きつけながら神官の身体を押し流していく。



レヴィス

「流石に死ぬんじゃ…」


ヘスティア

「妖はあんな簡単に死なないでしょう…信用しているのですよ…」



そう呟いた瞬間。

大量の血を吐き、膝から崩れ落ちた。




ハルジオン

「ヘスティアさん!!」


レヴィス

「無茶しすぎだ!!ハル、横向きにして!」


ハルジオン

「はい!」



濁流が少しずつ静まる。

そして。


ゴボ……


濁流の中から、白い翼がゆっくりと姿を現した。



レヴィス

「……(まじかよ…まだ動くのか…)しつこいぞ…!!」


ハルジオン

「あれで本当に死なないなんて…」


レヴィス

「手足を切り落としてでも…!」


ヘスティア

「待って…あい…ては…妖です…妖力を…喰われます…近づかない方が…」


レヴィス

「……くそ…!師匠…プロジオン急いでくれ…!!」



ずるり……


全身を砕かれ、羽根も半分以上失った神官が立ち上がった。

 


神官アーディス

「……はぁ……はぁ……」


 

白い翼はボロボロ。嘴も欠けている。

それでも、肉が蠢き、骨が音を立て、再び修復を始める。


 

神官アーディス

「……本当に……面倒な女ですね…。くそが…」


レヴィス

「面倒なのはあんたのほうだろうが!!」


神官アーディス

「……。」



返事はなかった。

砕けた嘴の奥から荒い呼吸だけが漏れる。

蠢く肉が砕けた骨を繋ぎ合わせ、裂けた翼をゆっくりと修復していく。

 

ギチ……


錫杖を握る手に力が戻る。白い翼が小さく震えた。


ガラン……


錫杖の輪が静かに鳴る。

その音だけで地下水路の空気が張り詰めた。


キィン……


巨大な青い魔法陣が再び展開される。



レヴィス

「(嘘だろ……まだそんなやばいの撃てんのかよ…)」


 

ハルジオンはヘスティアを支えながら息を呑んだ。



ハルジオン

「ヘスティアさん……!」

 


ヘスティアは返事をしない。

浅く息を繰り返し、血で濡れた口元を袖で拭う。

身体はもう、起き上がることすら難しい。



神官アーディス

「終わりです。」

 


バサァッ!!


 

白い翼が大きく羽ばたく。

無数の羽根が再び浮かび上がり、水魔法の魔法陣も一層輝きを増した。

 


レヴィス

「ハル!!下がれ!!」

 


ハルジオンはディンとヘスティアを抱え直し、後退する。

しかし逃げ切れない。


魔法も。羽根も。


すべてが一斉に放たれようとしていた。



神官アーディス

「皆殺しです!」



口角を吊り上げ、錫杖を振り下ろした。

 

キィィィィン――!!


巨大な青い魔法陣が眩く輝く。


同時に。


バサァッ!!


無数の白い羽根が一斉に射出された。


ゴォォォォォッ!!


地下水路を呑み込む巨大な水流が唸りを上げる。



レヴィス

「くっ……!」



ハルジオンはディンとヘスティアを庇うように抱き締めた。



ハルジオン

「っ……!」

 


ヘスティアは薄く目を開く。

もう魔法陣を展開する力すら残っていない。



ヘスティア

「………。」



そしてゆっくりと目を閉じた。

『アルスダリアの祈り』第47話を最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。


間違えて先に48話を公開してしまいました…。

なので今週は2話投稿になりました。笑

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