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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
???編

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第46話 水の正体

ヘスティア

「はい、せーの」



ザボン!!

ヘスティアの声に合わせて全員身体を水に沈めた。



キィン…



青色の魔法陣が展開し、周りをミスト状にする。

そして赤色の魔法陣を展開し、炎を繰り出す。ミスト状になっているからか、炎の威力は小さめだ。

さらに水色の魔法陣を展開し、炎の可視光線を結晶で集めていく。



ヘスティア

「こんなもんですかね」



ヘスティアが水面を叩いた。

それを合図に全員が水から顔を上げる。


ヘスティアの手には小さな結晶が浮遊していた。

暗闇に閉ざされていた地下水路が、一瞬にして紫色の光に満たされた。


魔法の結晶が集めた『紫の炎』の可視光線は、霧の粒ひとつひとつで屈折し、無数の光となって空間へ弾ける。


それはまるで、紫色だけでできた星空のよう。



ハルジオン

「わぁ…!!」



足元を流れる静かな水面も、すべてが濃淡の異なる紫の輝きに染まっていく。立ち上る霧は光を吸って淡く発光し、まるで空間全体が紫色の光に包まれたかのような、息をのむほどに幻想的な光景が広がっていた。



レヴィス

「うわぁ…」


プロジオン

「綺麗…」


ジーク

「美しい…」


ルーク

「綺麗な灯りだねヘスティア!これで見えるよ!」


レヴィス

「でもさっきできないって…」


ヘスティア

「光がないって言っただけです」


プロジオン

「一体どうやって?」


ヘスティア

「炎の可視光線を集めたんです」


ジーク

「魔法のですか?でも爆発してしまうとか言ってたような」


ヘスティア

「加減が難しいんです。特に炎は…。水がない籠った場所で至近距離で使えば、みなさん丸焦げになりますし。ガスが発生していたら爆発しますでしょ。できればルーク頼りで行きたかったですが」


レヴィス

「なんでヘスティアちゃん平気なの?熱くないの?」


ヘスティア

「わたくしの魔力が宿った炎ですから平気です。聖騎士も武器に魔力を宿すでしょう?それで火傷や感電しないのと同じです」


レヴィス

「なるほど!だから本人だけ平気なのか」


ハルジオン

「本当に星空みたい…!」


ルーク

「見てハルジオン!水もキラキラしてる」


ヘスティア

「長くは持たないので急ぎましょう」


ジーク

「鎧が…」


 

ジークは鎧を置いた場所へ目を向けた。

水面に半ば沈んだそれから、目を離せない。

持っていけないことはわかっている。

それでも、どうしても足が動かなかった。


 

ヘスティア

「沈みませんか?」


ジーク

「そう…なのですが…」


レヴィス

「流石に水の中は危ないですよ師匠。置いていくしか…」


ルーク

「………。大事なもの?」



ルークがその様子を見て尋ねた。



ジーク

「とても…」


ルーク

「…………。」



ルークは抱えていたディンを見つめた。

腕に込める力が、ほんの少しだけ強くなる。

静かに息を吸って口を開く。

 


ルーク

「じゃあ、ぼくが持っていくよ」


ジーク

「え?」


レヴィス

「鎧抱えて泳ぐってことか?流石に無理じゃ…」


ハルジオン

「いくら銀鋼鎧シルバーメイルといっても15kgはありますよ!?ヘスティアさんにお願いしたら…」


ヘスティア

銀鋼鎧シルバーメイルは魔法耐性がありますから…着てくれていればできますけど…」


ルーク

「ヘスティアはもう、あんまり魔法使わない方がいいと思うんだ。15kgくらいなら多分大丈夫。2人分は難しいかもしれないけど…」


レヴィス

「俺のはいいよ。置いてって」


ルーク

「わかった。……でも」


ジーク

「でも…?」


ルーク

「何が何でもディンを守ってほしい。ディンはぼくにとってすごく大事な人だから。…それを、約束してくれるなら」


ジーク

「っ…必ず。約束します」



ルークはゆっくりとディンを差し出した。

ジークもまた、両腕を伸ばして静かに受け取る。

眠ったままのディンを丁寧に抱きかかえると、ルークはそれを確認して小さく息を吐いた。


そして、ルークは自分の服のテールスカートの部分はずし、上手く包んで鎧をひとまとめにし、ゆっくり水に入った。

 


ルーク

「うん、いける」


プロジオン

「すごい…」


ヘスティア

「では、行きましょう」



再びルークを先頭に、水路を進み始めた。

逸れないよう、水をかき分けながら。



レヴィス

「この光るやつ、早くやってくれたら良かったんに」


ヘスティア

「明るいの苦手なんです」


レヴィス

「珍し」


ヘスティア

「それにルークが言ってた何かの刺激になっても嫌だったので。極力使いたくなかったんですよ」



レヴィスの背にヘスティアがおぶられて進んでいく。

プロジオンはその様子をちらりと見て、小さく視線を逸らした。



プロジオン

「その、随分と水が透き通っていますね」


ハルジオン

「ですね。なんか…ふわふわします…上手く言えないけどなんか…怖い…」



ザザ…

かなり奥のほうまで移動してきたが、波が荒れてきた。



ジーク

「波が大きくなってきてないか」


レヴィス

「ですね。ハル、大丈夫?」


ハルジオン

「はい…!なんとか」


ルーク

「?ヘス…?」


 

ルークが鼻を引くつかせ、レヴィスのほうへ振り返った。



レヴィス

「ヘスティアちゃん?」


ルーク

「意識ある?血の臭いする」


レヴィス

「え!?そういえば静かかも…ヘスティアちゃん?大丈夫?」


ヘスティア

「え…?大丈夫です。あ…少々鼻血が。お気になさらず」



ヘスティアが少し状態を起こして意識があることを伝えた。



レヴィス

「そっか、魔法使ったから…?無理させちゃったか…ごめん」


ヘスティア

「鼻血出てるの気付きませんでした。あぁ首のところに血が…すみません」


レヴィス

「んーん。全然。本当に平気?なんかあったらすぐ言って」


ヘスティア

「はい」



グル…グルル…



ルーク

「っ!また…!」


プロジオン

「今度は俺も聞こえました…!」


ハルジオン

「僕も…!」



今度は全員が、その不気味な唸り声を聞いた。



ルーク

「あ!ここから足がつくよ」


プロジオン

「よかった」


ハルジオン

「あそこ、奥の方に光が見えますよ!」


レヴィス

「あそこにいるのかもな」



全員水から上がると、ルークはジークに鎧を渡した。

ディンを丁寧に受け取り、しっかりと抱き上げる。


 

ジーク

「本当にありがとうございました。ルーク殿」


ルーク

「ううん。ぼくもお願い聞いてくれてありがとう」



ジークは鎧を再び身に纏った。

レヴィスはヘスティアを背からそっと降ろし、抱き直した。



ジーク

「お待たせしました。行きましょう」



相変わらず波は荒れているが、前方から自然の光が差し込み始めていた。もうヘスティアの灯りがなくても足元は見える。



ルーク

「国王様の臭いがすごく強い!近くにいるのかも」


プロジオン

「本当ですか!?」



グルル…



ハルジオン

「ひ!?唸り声…?も近くないですか?」


レヴィス

「でかい生き物がいるようには見えな…」


ルーク

「っ!下から何か来る!」



ザバァン!!!!!


水面が大きく盛り上がる。



???

「グル…ルル…」


ハルジオン

「へ…?」


プロジオン

「え…?」



時が止まったように思えた。

巨大な影。

逆光で何が現れたのか理解するまで時間がかかった。

濁ったガラス玉のような目と、目が合う。

そして…



???

「グォオオオオオオオオ!!!!」


ハルジオン

「うわぁああああ!?」


ジーク

「下がれ!」


レヴィス

「なんだあれ!?」


ヘスティア

「…………。(獣…?いや、妖か…?)」



キィン…

青色と黒色の魔法陣が展開され、大きな影に回転がかかった水を纏わせ、遠くへ流した。



プロジオン

「あんなものが地下に住み着いていたのか…!?」


レヴィス

「あんなのが泳げるほどの水…いったいどこから…」


???

「全く…捕らえておけと言ったのに。使えませんね。平和ボケした聖騎士たちは」


ジーク

「っ!(この声…!)」


ヘスティア

「……また会いましたね」


神官アーディス

「えぇ。先ほどはどうも。顔色がさらに悪くなっていますね。大丈夫ですか?優秀な旅人さん」


ジーク

「は…?」



神官がゆっくりと浮遊して現れた。

全員を見下ろし、不敵な笑みをしている。



ジーク

「な…ぜ…姿が昔と変わっていない…?」


神官アーディス

「あら?貴方に見せたことはありましたか?」


ジーク

「っ…」


神官アーディス

「まぁいいです。まさかここまで来るなんて。執念深いですね。残念ですが、正直私は貴女ヘスティアにはおそらく勝てないでしょう。でも、この子なら話は別です」


???

「グルル…」


ハルジオン

「っ!もう戻ってきた…!」


神官アーディス

「可愛いでしょう?ちょうど、餌を与えていなくて腹を空かせているのですよ」



水面から姿を現したそれは、巨大な澪澄族れいちょうぞくだった。


真珠を砕いたような白銀の鱗。

幾重にも重なる透明な鰭。

珊瑚や真珠にも似た装飾を纏ったその姿は、美しいはずなのに恐怖しか抱かせない。


神官の肩口に顎を置き、大人しく撫でられていた。



プロジオン

「餌…?」


神官アーディス

「えぇ。プロジオン王子。貴方が余計なことをするから、餌の確保が大変なのですよ」



神官は澪澄の頭を撫でながら、穏やかに続けた。



神官アーディス

「役に立たない無能者をこの子に与えていたのに。城に招き入れるなど。水が枯れたらどうしてくれるのですか。この子が満たされれば、水を出してくれるのに。ねぇ?」


澪澄族れいちょうぞく

「グルル…」


プロジオン

「っ…!行方不明者たちは…これに…喰わせたと…?」


神官アーディス

「行方不明者…。国民でもないのに行方不明?笑わせてくれますね。王子。あんなもの国民でもなんでもありません」


プロジオン

「笑い事ではない!!彼らは陽の国の民たちだ!」


神官アーディス

「いいえ。笑い事ですよ。国のためになんの役にも立たない無能者を排除し、その上、再利用までしてあげているのですから。感謝して欲しいものです」


ヘスティア

「(水の正体は妖…と人の命…)」


ハルジオン

「そんな…」


ルーク

「…………。」


神官アーディス

「国に貢献をしない者など、民ではありません。ただの無能者です。他の者が働き貢献している中、貴重な食物や水、薬を消費するだけのお荷物。それを価値のある水にする。やっと他人の役に立てる存在たちです」


プロジオン

「働かない者と働けない者を一緒にするな!命をなんだと思っている!!」


神官アーディス

「おや。言い返しますか。いつもはおとなしいではありませんか。やっと反抗期ですか?」



クスクスと小馬鹿にして笑う。

 


ジーク

「(どこまでも不快な…!!!)」


レヴィス

「まじでやばい奴じゃんか…こんなのが国を裏で操ってたのか…」


神官アーディス

「私への侮辱は国王陛下への侮辱と同等。それを理解しているのですか?」



ニコニコしていたのに急に表情を消して睨んでくる。



レヴィス

「(またあの視線…あんな目で睨んでたのか…気味が悪い…)」


プロジオン

「っ…そうだ…陛下はどこにいる!!ここにいるはずだ!」


神官アーディス

「陛下は安全な場所におりますとも。さて…他に言いたいこと…いえ、言い残すことはありますか?」


プロジオン

「は?」


神官アーディス

「ここまで知られたのですから、生かしておくわけにはいかないでしょう。残念です。王子だけは生かして差し上げるつもりでしたのに」


ルーク

「どういう意味…」


神官アーディス

「この国の厄災である自覚がおありでしょう?王子」


プロジオン

「っ…」


神官アーディス

「貴方様さえいなければ、この国が水不足で苦しむことはない。その呪いを持っているせいで、このようなことになっているというのに」


ヘスティア

「(なるほど…)」


ジーク

「なんだと…?」



ジークが神官を睨みつけた。

 


プロジオン

「そんなこと俺が1番わかっている!だから何度も殺せと言ったはずだ…!」


ジーク

「っ」


ルーク

「え…?」


神官アーディス

「殺すわけないではないですか。そんなもったいないこと。私はその呪いに感謝しているのです。呪いがある限り、民たちは私を崇拝せざるを得ないのですから」


ハルジオン

「プロジオン様を…利用して…」


神官アーディス

「えぇ。利用価値のある素晴らしいお方です。そして哀れです。自害もできず、この国を出ることもできない。ここで寿命を尽きるか、殺されるかを待っていることしかできない」


プロジオン

「………(今は…俺のことは関係ない…切り替えろ…)」


ハルジオン

「そこまで…知ってて…お城で…プロジオン様をひとりぼっちにしていたんですか!!」



ハルジオンが神官に向かって怒鳴り上げた。

槍を握りしめて睨みつける。



ジーク

「…………。」


プロジオン

「っ!」


レヴィス

「ハル…」


ハルジオン

「プロジオン様がどんな想いで…!!!

 許せません…神官様だろうが…!!絶対に!!」


ヘスティア

「その意気ですよハルジオン。1発ぶん殴ってやりましょう」


ハルジオン

「ヘスティアさん…!」


ヘスティア

「ああいうのはプライドをへし折ってやるのが1番いいんですよ」



ヘスティアがレヴィスから降りて立ち上がった。

ハルジオンの隣に立ち、背中を叩いた。



神官アーディス

「聖騎士の見習い風情が何をイキっているのやら。味方するだけ無駄ですよ。貴女は頭が良いのに、バカなことをするのですね」


ヘスティア

「心意気が気に入ったので。貴女こそ大丈夫ですか?そんなに余裕ぶっこいて。ベラベラとうるさいですよ」


神官アーディス

「何も知らずに死ぬのと、ネタバラシされて死ぬのとでは絶望が違いますでしょう?私の邪魔をしたのですから、後悔して死んでもらいませんと。それに、この子(澪澄)がいますから。弱い人間の聖騎士たちよりも遥かに強いのです」


ヘスティア

「聖騎士たちに守ってもらって逃げ出したくせに。何を偉そうに」


神官アーディス

「(こいつ…)」



神官が杖を構えた。



神官アーディス

「奴らを喰らいなさい」


澪澄族れいちょうぞく

「グォオオオオオオオオ!!!!」



水面が激しく揺れた。



 ✴︎


【用語集】


澪澄族れいちょうぞく

妖族に分類されます。

水辺に生息している妖族です。

水を綺麗にする習性があります。

体内に妖力が満ちると、身体から綺麗な水を排出します。

他の妖族よりも妖力吸収率が高く、海に生息している澪澄族は死骸を食べたり、海に流れている海祇族の妖力を分けてもらって補給をしています。

本来なら滅多に生き物を食べることがありません。


見た目は、イタチ・リュウグウノツカイ・タツノオトシゴを混ぜたような見た目をしています。

イタチのような顔の額に宝石のようなものがあり、胸元にも似たような宝石が生えています。

体表は半透明で、ヒレが光に反射します。

珊瑚や真珠などを身に纏い、美しい見た目をしています。

個体差がありますが基本的には小柄で温厚な性格をしています。

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