第43話 再合流
ルーク
「(プロジオンとハルジオン大丈夫かな…)」
城内を走る。
プロジオンたちの臭いはまだ遠い。
でも、確かにこの先へ続いていた。
ルーク
「(急がないと…)」
ふと。
ルーク
「……ん?」
ルークは足を止めた。
人の臭いだ。
それに混じって、血の匂いもする。
ルーク
「(誰かいる…?)」
臭いのする方へ走っていくと…
???
「お助けください…!お助けを…!!」
???
「うるさい…!儂のために死ねい!!この欠陥品が!」
ルーク
「っ!」
見てみるとヴァイスが人を襲っていた。
鼻の奥に死臭が突き抜けた。
死体のヴァイスが襲いかかっているようだ。
老人が女性を盾にして身を守っている。
ルークはディンを抱えたまま、ヴァイスを蹴り飛ばした。
???
「きゃっ…!?」
???
「なんだ!?」
ルーク
「大丈夫?」
???
「っ…!ありがとうございます…!ありがとうございます…!!」
城の前にいた人と同じ服装だ。
女性はひらひらとした服を着ている。使用人のようだ。
女性は泣きながらルークに頭を下げていた。
ルーク
「2人とも立てる?」
使用人
「……あ…あの…」
ルーク
「うん?」
???
「貴様!邪魔をしおって!!」
ルーク
「え…?邪魔…?あっ!おじさん!待って!離れないほうが…!」
老人はすぐさま立ち上がり、奥の方へ走って行った。
しかし…
老人のいる方へヴァイスが湧き出てきたのだ。
ルーク
「っ!!おじさん!」
至近距離に2体だ。
この距離では助けに間に合わない…と思ったのだが。
ルーク
「え…?」
ヴァイスは老人に見向きもせず、こっちに突っ込んできたのだ。
ルーク
「(無視した…?あんな至近距離に人がいたのに…?)」
使用人
「また…!?」
ルーク
「……動かないでね」
ルークは使用人の近くでディンをゆっくりおろし、戦闘態勢に入った。
床を蹴り上げ、身体を捻り、回転させて威力を上げる。
1体を蹴り飛ばし、もう1体を下から思い切り蹴り上げた。一瞬だ。
使用人
「(す…すごい…人…?なの…?)」
ルーク
「………。」
ルークはヴァイスが動かなくなったのを確認して使用人とディンの元へ戻った。
辛そうな表情をして、握る手に力が入っていた。
使用人
「あ…あの…大丈夫ですか…?」
ルーク
「………うん……。君は…?」
使用人
「お…おかげさまで…助かりました…」
ルーク
「腕が切れちゃってるよ…ちょっと待って」
ルークは自分の衣服を破って使用人の腕を軽く縛った。
ルーク
「い…痛くない?強くない?」
使用人
「大丈夫です…申し訳ありません…私なんかの腕…お召し物が…なにか代わりに差し出せるものがありません…」
ルーク
「痛くないんだね。いいよお返しなんて!気にしないで」
使用人
「で…でも…」
ルーク
「布は後でどうにでもなるからいいんだよ。君の腕はそうもいかないでしょ?」
使用人
「………ありがとうございます…」
ルーク
「うん」
ルークはにこっとして見せた。
使用人も少し安心したようだった。
使用人
「お名前は…?」
ルーク
「ルークだよ!君は?」
使用人
「リリィと言います…!あの…このお方は大丈夫ですか…?かなりぐったりされています…」
ルーク
「具合が良くないんだ…。リリィは何してたの?」
使用人
「お昼からお城の清掃を…先ほどから強く揺れたり大きな音が出たりしてて…急におばけみたいのが出てきたり…どうなっているのでしょうか…」
ルーク
「ちょっといろいろ…?とりあえず、今はお城にいると危ないと思うんだ。立てる?移動しよう」
使用人
「……も…申し訳ありませんが…手をお借りしても…?」
ルーク
「え…手……?あ…いや…えっと…う…腕でもいい?肩とか…」
使用人
「は…はい…!すみません…」
ルークがそっと腕を差し出した。
リリィがルークの腕を掴み、立ち上がった。
使用人
「お手数おかけして申し訳ありません…」
ルーク
「ううん…!外の方まで行こう!」
使用人
「ゆ…ゆっくり行きますので、お先に…お連れ様も具合が悪いのでしょう?」
ルーク
「?そういうわけにもいかないよ…またヴァイスが出るかもしれない」
使用人
「ばいす…?」
ルーク
「さっきのお化けみたいなやつ…!さ、行こう?」
使用人
「……私…片足がないので…早く歩けないんです…。だから気にせずに行ってください。さっき身を守る時に杖を壊してしまって…」
ルーク
「足?」
使用人は片足がなかった。長いスカートで隠れているが、左足がなかったのだ。
もしかしたら、城の前にいた人もそうだったのかもしれない。
ルーク
「そっか。ごめんね気づかなくて」
使用人
「とんでもありません…。欠陥品…なので…」
ルーク
「それさっきのおじさんが言ってた……足がないだけで…酷いおじさんだね!」
使用人
「事実ですし…あと…その…あ…あまりそのようなことは言われないほうが…」
ルーク
「え?どうして?」
使用人
「先ほどの方…国王様なので…」
ルーク
「コクオウサマ?…こくおうさま…国王様…?国王様!?さっきのおじさんが!?」
使用人
「し…知らなかったのですか…?外国の方でしょうか?」
ルーク
「うん…!よかった!国王様探してたんだ!」
使用人
「じゃあ追いかけられたほうが…」
ルーク
「うん。でもプロジオンとも合流したいし…ディンがこの状態だからヘスティアにも…」
使用人
「(プロジオン様とお知り合い…)」
ルーク
「と…とりあえず、おじさんは後ででいいや…!臭い覚えたし!ここを離れよう!他にお城でお仕事してる人はいる?」
使用人
「(臭い…?)いえ…城内は私だけかと…」
ルーク
「よかった!ちょっと待って…ディン、ちょっと縦に抱っこするからね」
ルークはぐったりして眠っているディンに一声かけると、俵担ぎにした。
ルーク
「君はおぶるよ。ぼくにしがみつける?」
使用人
「え…!?さ…さすがに重たいでしょう…!?2人なんて」
ルーク
「ぼく力持ちだから大丈夫!早く早く!」
使用人
「し…失礼します…!」
肩と片腕でディンを担ぎ、背中と片腕でリリィを背負った。
使用人
「本当に大丈夫ですか…?遠慮なく降ろしてくださいね…??」
ルーク
「本当に平気だよ!ディンもリリィも軽いから」
本当に平気なようで、歩く足は軽々しかった。
2人分の重さなど感じていないように、普通に歩き出した。
使用人
「あ…」
ルーク
「うん?どうしたの?」
使用人
「いえ…なんでもありません」
リリィの視線はディンを担いでいる手の先だった。
鋭く尖った爪。手の形こそ人のものと変わらないけれど、爪先が鋭く見えた。
使用人
「……ルークさんは、なぜこの国に?」
ルーク
「ちょっと探し物があって、あったら良いなって思って。あとは個人的にいろんなところに行ってみたいんだ」
使用人
「そうだったのですね。見つかりましたか?」
ルーク
「ううん」
使用人
「それは残念でしたね…。プロジオン様とはお知り合いですか」
ルーク
「おとといくらいに初めて会ったんだよ。お城の方にはプロジオンが落とし物しちゃって届けに来たんだ」
使用人
「お優しいですね」
ルーク
「そうかな。ぼくも落とし物しちゃった時見つかったら嬉しいから」
使用人
「……プロジオン様も似たようなことをおっしゃっていたことがあります。似たもの同士きっと気が合うのでしょうね」
ルーク
「プロジオン優しいよね。国の人もみんなプロジオンが大好きみたいだった」
使用人
「はい…!本当にお優しいんです。私たちのような人間にも気をかけてくださいます」
ルーク
「……リリィはあんまり自分のこと好きじゃないの?」
使用人
「……正直…嫌いです。1人で出来ることが私にはできませんから…国王様があのようにおっしゃるのも当然なんです…この国のお荷物…ですから…」
ルーク
「でもさっきお仕事してたんじゃ?」
使用人
「そうですが…結局、他の方がやる何倍も時間がかかってしまいます」
ルーク
「それで誰か困るの?」
使用人
「え?」
ルーク
「え?お仕事はできてるんだよね?」
使用人
「そう…ですけど…」
ルーク
「なのにだめ?なの?」
使用人
「だって…時間がかかりすぎて…誰でも私の時間の半分で終わるのに…」
ルーク
「実際に掃除してるのはリリィなんでしょ?」
使用人
「はい…」
ルーク
「それなのに誰かが出てくるの?」
お互いに話があまり噛み合っていないようだった。
使用人
「掃除なんて誰でもできることが…早くできないんです。価値があるようには思えません…」
ルーク
「うーん…そうかな?誰でもできるかもしれないけど実際にリリィがやってるんだからあんまり関係ないと思ったけど…ディンが『出来る』と『やる』は違うってよく言ってたよ?」
使用人
「…本当にそう思いますか…?」
ルーク
「うん。プロジオンもここに来る時にみんな頑張ってくれてるって言ってたよ?すごく丁寧なんだって。嘘ついているようには聞こえなかったな」
使用人
「プロジオン様が…本当に…?」
ルーク
「だからちょっとリリィが言ってることがぼくにはよくわかんなかったけど…ぼくあんまり頭良くなくて」
使用人
「そんなこと…ありません…ありがとう…ぅ…」
ルーク
「っ…うん」
リリィの声が潤んでいた。
背中で涙をこぼしているのだろう。でもきっと、いい涙だ。
使用人
「プロジオン様は、私のように欠損がある者や、病弱で上手に働けない者を城に住み込みさせてくださったのです。お城のお手入れをする代わりに食事や布団を与えてくださったのです」
ルーク
「そうだったんだ」
リリィは落ち着くと少しずつ話をしてくれた。
使用人
「満足に働けず、金銭がないので薬や食べ物も買えず弱っていく一方だったのですがプロジオン様が助けてくださって…。私たちにも出来ることを探してくださいました」
ルーク
「こんな広いお城の掃除は大変でしょう?」
使用人
「数名で手分けしております。昔はプロジオン様がおひとりで管理されていたのですよ」
ルーク
「え?ひとりで?どうして?」
使用人
「神官様が城にあまり人を入れたがらないみたいで…プロジオン様が小さい頃からプロジオン様がひとりで手入れをしていたと聞いております」
ルーク
「プロジオンも大変だったんだね…でもそしたらリリィたちがやってくれててすごく助かってるんじゃない?」
使用人
「だと良いのですが…ただのお手入れの報酬が贅沢に感じられてしまって申し訳ないくらいです」
ルーク
「そんなことないよ!」
使用人
「ですかね…。私たちがお手伝いさせていただくようになってから遠くまで行かれるようになったみたいです。『グレンロック』のほうや『フレアブレイド』のほうまで様子を見に行かれたり」
ルーク
「じゃあリリィたちのおかげでプロジオンと会えたのかも!ぼくたちプロジオンとグレンロックで会ったんだよ」
使用人
「そうだったのですか?」
ルーク
「うん!」
使用人
「そんなこと言ってもらえるなんて…ルークさんは陽だまりみたいな人ですね」
ルーク
「それたまに言われる」
少しずつ笑い合えるようになったころ…正面口の方に到着した。近くには階段もある。
ルーク
「…あ、プロジオンとハルジオンかな。プロジオーン!ハルジオーン!!ここだよー!」
使用人
「え?ルークさん?」
ルーク
「足音がするから。あと臭い」
使用人
「(ルークさんって不思議な人…)」
少しすると本当にプロジオンとハルジオンが階段から走って降りてきた。
プロジオン
「ルーク殿!!」
ハルジオン
「ルークさん!!あっ!!ディンさん!?大丈夫ですか!?」
ルーク
「具合はよくないけど、きっと大丈夫だから寝かせてあげて」
ハルジオン
「あんなやばそうなのと1人で…無茶しすぎです…!でも…でもよかった…!生きてる…!ディンさんのおバカぁ…!」
ハルジオンはディンが相当心配だったようだ。
ルークとプロジオンと合流した時もルークに急いでディンのところへ向かって欲しいと言っていたくらいだ。
使用人
「プロジオン様…!」
プロジオン
「っ!リリィ!無事でよかった…ルーク殿すごいですね2人も抱えてきたんですか…?」
ルーク
「うん。でも2人とも軽いから平気だったよ」
プロジオン
「……ありがとうございます…!感謝します」
プロジオンはルークに深く頭を下げた。
リリィも続いて頭を下げていた。
ルーク
「あと、おじさ…国王様も見つけたよ」
プロジオン
「本当ですか!?ご無事だったんだ…どちらに?」
ルーク
「今はどっか行っちゃったけど…どこにいるかはわかるから大丈夫!」
プロジオン
「おぉ…!よかったです」
ルーク
「だからヘスティアとジークとも合流したいね。ヘスティアがいればディンも少しはいいだろうし…」
使用人
「聖騎士長様もご一緒だったんですね」
プロジオン
「あぁ。ルーク殿、私はリリィを避難させて来ます。ハルジオンとここで待っててください。すぐ戻ります」
ルーク
「わかったよ。またねリリィ」
使用人
「はい…!また…!」
プロジオン
「失礼」
プロジオンがリリィを抱えて正面口を出た。
ルークとハルジオンは背中を見送った。
ハルジオン
「ジーク様、玉座から移動してるのでしょうか…」
ルーク
「どうだろう。プロジオン戻って来たら玉座のほうに戻ってみようか」
ハルジオン
「はい…!まだ城内にさっきの(ヴァイス)が出てくるかもしれないですし…ジーク様ご無事だといいんですが」
ルーク
「そうだね」
『アルスダリアの祈り』第43話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
離れ離れになってしまったメンバーが少しずつまた集まってきましたね。
次回はジーク様の様子が見られると思います。




