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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
???編

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41/51

第40話 折れてもなお

ジーク

「ディン殿っ…!」



床が崩れ、ハルジオンが落下してしまった。

その後をディンが瞬時に追いかけたのだ。



ハルジオン

「(叩きつけられっ…)」



高さは10mほどだっただろうか。

人間が落ちるのに数秒かからない高さだ。



ディン

「っ…!」


 

キィン…!

黒色の魔法陣が展開された。



ドゥゥゥン…



ハルジオン

「………っ…?え…?」



覚悟していた衝撃が来ない。

ハルジオンの身体は宙に浮いていた。

崩れた床もふよふよと浮かんでいた。



ハルジオン

「う…浮いてる…!」



ディンがハルジオンの手を取り、優しく丁寧に着地させた。足元を確認するとパッと手を振り解き、力魔法を解除した。


ドォン!!ドスン!!パラパラ…


崩れた床たちが無造作に床に叩きつけられる。



ディン

「………。(ルーくんかヘスティア姉さんと合流しないと…)」


ハルジオン

「う、浮いて…っ、え…!?今の…魔法…ですよね!?ディンさん、剣士じゃ…」


ディン

「……君、戦えないなら今ここで離脱しなよ」


ハルジオン

「え…?」


ディン

「ボク行くから」


ハルジオン

「え?え!?どこに…?」


ディン

「ルーくんかヘスティア姉さんと合流する」


ハルジオン

「ま…待ってください!」


ディン

「……次、何かあったら。ボクは君を見捨てる」


ハルジオン

「……っ…。すみません…。切り替えます。大丈夫です。次何かあれば見捨ててください」



ハルジオンは真剣な眼差しではっきりとディンに意思表示をした。

 


ディン

「(喚き散らすと思ったのに…)……あっそ」



ディンはルークのいる方向へ早歩きで向かい始めた。



ハルジオン

「あの…ジーク様を待った方が…」


ディン

「待ちたいなら勝手に待てば?」


ハルジオン

「……(ジーク様は…きっと1人でも大丈夫…。プロジオン様とルークさんが心配だ…)」


ディン

「(さっきの飛んできた槍みたいなのが見当たらない…すでに移動したのか…今この状況で遭遇したくないけど…)」


ハルジオン

「あの…ディンさんってもしかして魔法使いなんですか?浮遊って確か魔法使いの人しかできないって…」


ディン

「…………。(ヘスティア姉さんも戻ってこない…ルーくんより姉さんと先に合流するべきか…?時間がかかりすぎてる気がする…)」


ハルジオン

「さっきの何魔法なんですか?初めて見ました…!炎とか風は見たことあるんですけど…」


ディン

「静かにして」


ハルジオン

「ご…ごめんなさい…」



沈黙に耐えられず、ハルジオンが再び口を開く。



ハルジオン

「………。(気まずい…)」



コツコツ…と廊下の床を足で叩く。



ハルジオン

「………。(人形みたいな綺麗な顔…無表情だとちょっと怖いけど…)」


 

ハルジオンはディンをちらちら見ながら、その後を追った。

城内は静かだった。人が全然いないのだ。



ハルジオン

「(寂しいお城…)」



まるで空洞のような城。建物は立派なのに活気がない。

普段なかなか入ることがなかったから気にしたことがなかったが、薄暗くて、寂しいお城に思えた。


パキ…


 

ハルジオン

「?」

 


ドォン!!



ハルジオン

「っ!!ディンさん!!」


ディン

「っ!」


 

パキパキッ!!

壁が裂けた。


 

ハルジオン

「っ!!」


 

崩れた石塊がディンへ飛ぶ。

考えるより先に、ハルジオンが前へ飛び出した。


ガキィン!!


槍で瓦礫を弾く。


だが、


 

ハルジオン

「…っ!(防ぎきれない…!)」



キィン

水色の魔法陣が展開し、ディンとハルジオンを結晶が包んでいく。防御魔法だ。



ディン

「(最悪だ…)」


???

「見つけた」


ハルジオン

「(羽…?嘴…?)」


ディン

「(本当に不幸体質だなぁボクってば…)」


???

「久しく神官アーディスに呼ばれてみれば…。そうか…ふふ…中身無し…。花精にちょっかい出したのはお前たちか」


ディン

「失礼だなぁ。ちょっかい出されたのこっちなんだけど。あんなところに花精がいたのは君が絡んでるのかな」



ディンは会話をしながらハルジオンを後ろに下げる。



ディン

「……どうでもいいけど」


???

「私を見ても動じない…鴉天狗を見るのは初めてではないのか」


ハルジオン

「(鴉天狗…?)」


ディン

「"鳥"くらいその辺にいくらでもいるでしょ?」


鴉天狗

「ほう…不気味なやつだ」


ディン

「君には負けるよ」



キィン!!!



鴉天狗

「っ!!」



白色の魔法陣が展開し、突風が発生する。

鴉天狗を壁に叩きつけ、そのまま城外に追い出した。

追い出した反対側の壁も壊した。



ディン

「君は誰でもいいから合流して」


ハルジオン

「ディンさんあの人相手するんですか!?」


ディン

「急げ」


ハルジオン

「っ…」



そういうとディンは鴉天狗を追いかけた。

ハルジオンは逆方向に走った。



 ✴︎



鴉天狗を吹っ飛ばした方向には国民たちがいたらしく、ざわざわと声が聞こえた。

鴉天狗はケロッとしており、傷はなさそうだった。



鴉天狗

「……魔法か。魔法使いのくせに杖を持たないとは」


ディン

「邪魔だからね」



国民たちは逃げるそぶりはなく、ディンと鴉天狗を見守っていた。



ディン

「(どんだけ平和ボケしてるんだここの人たち…。うざいなぁ)」



壁を突きやぶって来た奴がいれば、普通は危機を感じてその場から逃げるはずだが。

ディンは一番人が多いところに向かって風魔法を使った。

地面を切り裂き、吹き飛ばす。



ディン

「……殺されたいの?」



無表情で低く呟いた。

塵になった地面を見てやっと危機を覚えたのか、声をあげて逃げ始めた。



鴉天狗

「なぜ逃す?」


ディン

「好きな子に怒られるから」


鴉天狗

「……理由が気持ち悪いな」


ディン

「まじで失礼だな」



対話をしているうちに周囲から人がいなくなった。



ディン

「……てっきり、人質でも取ってくると思ったけど」


鴉天狗

「回りくどいは好きではない。お前こそ恩でも売りそうな顔してるくせに脅してどかすとは。あっぱれ」


ディン

「恩を売るほど他人を信用してないもんで」



鴉天狗が翼を動かすと、ひゅうっと砂が舞う。


キィン!!


赤色の魔法陣と白色の魔法陣が交差する。

灼熱の暴風が空へ噴き上がる。


熱に揺らいだ空気が歪み、白昼の空を赤く染めた。


 

鴉天狗

「……。」

 

 

だが。


 

ヒュン!!


 

黒い翼が広がる。

錫杖が振り抜かれた。


ガキィン!!


 

衝突した熱風が四散する。

砕けた炎が火花のように街へ降り注いだ。


 

ディン

「っ…!」


 

カララララッ!!


 

鴉天狗が腕につけていた数珠が空中へ散開する。

次の瞬間。


 

バン!!バン!!バン!!


 

銃声のような轟音が連続した。


 

ディン

「(多っ…!)」


 

水色の魔法陣が展開される。


 

ガガガガガッ!!


 

結晶障壁に数珠が突き刺さる。

ヒビが走った。


 

ディン

「(防御抜ける…!)」


 

障壁を解除。

横へ跳ぶ。

直後。

 


ズドォン!!


 

錫杖が石畳を叩き割った。

衝撃で砂埃が噴き上がる。



ディン

「(流石に妖相手はきついな…)」



鴉天狗の羽が揺れる。

ヒュウっと熱風が流れた。

砂が舞い、視界が白く霞む。

その奥で、焼いたはずの羽がもう再生していた。



鴉天狗

「……人間とは思えないな」


ディン

「…………。」

 


ディンは肩で息をしながら、空中へ手をかざした。


 

キィン……


 

白。

赤。

黒。


三色の魔法陣が重なっていく。

空気が軋んだ。


 

鴉天狗

「……っ…!(まだ火力が上がるだと…!?)」


 

ヒュウっ!


翼が広がる。

周囲の風が鴉天狗へ集束した。


だが。


 

ゴォォォォッ!!!!


 

暴風が収束する。


熱。

圧力。

重力。


三つが混ざり合い、空間そのものが押し潰されていく。


 

鴉天狗

「っ……!」


 

空が歪んだ。

暴風の渦が鴉天狗を飲み込む。

逃げようとした翼が、圧力に押し返される。


 

ガギギギギッ!!


 

錫杖が軋む。

数珠が弾け飛ぶ。


黒色の魔法陣が明滅する。

圧力がさらに増した。


 

ドォォン!!!


 

空中で爆ぜた熱風が、白昼の空を揺らす。


 

鴉天狗

「……ッ!!」


 

翼の羽が千切れ飛んだ。

再生が追いつかない。


焼けた肉が裂け、黒い羽が渦の中へ散っていく。



ディン

「っ…!」



キィン!!



黒色の魔法陣が展開される。

チカチカと点滅したが、発動した。

鴉天狗を思い切り地面に叩きつける。



鴉天狗

「がぁっ…!?」



茶色の魔法陣が展開し、地面から岩の刃が鴉天狗を貫いた。



ディン

「はぁ…はぁ…はぁっ…」


 

ゴギッ……

 

岩の刃が軋む。


 

ディン

「………。」


 

鴉天狗の腕が動いた。

貫かれたまま。

翼が半分焼け落ちたまま。

 

メリメリメリ……


岩を掴み、砕く。


 

鴉天狗

「……良い」


 

ボタボタと血を流しながら、

嘴の奥で笑った。


 

鴉天狗

「実に良い…はは…神官アーディスが呼びつけるわけだ…」


 

ミシッ……


貫かれた身体を無理矢理引き抜く。

血が飛ぶ。

だが止まらない。


 

鴉天狗

「妖をここまで焼くか。しかも街を避けながら」


 

ズルリ……


焼け落ちた翼が蠢いた。

肉が盛り上がる。

黒い羽根が再び生えていく。



ディン

「っ…!」



ディンは腰の細剣を左手で抜き、右手で細剣に炎を纏わせて切り刻んだ。



キィン!



そのまま右手で赤色の魔法陣を展開し、燃やす。

 


鴉天狗

「――――ァァァァァァァッ!!!!」


 

絶叫。空気が震えた。

もはや言葉ではない。

裂けた喉から無理矢理絞り出したような咆哮。

焼け爛れた翼を広げ、鴉天狗が地面を蹴る。

 

ズドォン!!!

 

石畳が爆ぜた。


 

ディン

「っ……!」


 

速い。

先程までとは比べものにならない。

片腕は焼け落ち、片脚も砕けている。

顔の半分が潰れているのに、それでも突っ込んでくる。


 

ヒュン!!


 

黒い影が目の前へ迫る。錫杖。

振り下ろされる。

 

キィン!!


反射的に、水色の魔法陣が展開された。


だが…


 

キィ…ィ…


 

術式が乱れる。

結晶が形成されない。


 

ディン

「(まず…)」


 

次の瞬間。


ブォンッ!!!


錫杖が目前まで迫っていた。

反射だった。

 

ガギィィン!!!

 

ディンは細剣を振り上げた。

火花が散る。

重い衝撃が腕を突き抜けた。


 

ディン

「っ……!!」


 

細剣が軋む。

妖の膂力。止めきれない。


 

鴉天狗

「ァァァァァッ!!!!」


 

パキン!!


刃が砕けた。


 

ディン

「……!」


 

ズドォォォン!!!


錫杖の衝撃がディンへ叩き込まれた。

身体が吹き飛ぶ。


石畳を削り、何度も跳ね、壁へ激突する。


 

ドガァン!!!


 

壁に亀裂が走った。


 

ディン

「がっ……ぁ……!!」


 

肺から空気が抜ける。


 

キィ……


 

強打を避けるために展開されかけていた水色の魔法陣が、

不安定に明滅した。


 

チカッ


 

消える。もう、上手く展開しなかった。


 

ディン

「っ……」


 

嫌な感覚。

身体の奥が、急に静かになった。

魔力が流れない。


指先に力を込めても、術式が浮かばない。

 

 

ディン

「(……や…ばい…今は…)」


 

魔力エンジンが停止した。


カラン……

 

折れた細剣が、遅れて地面へ転がった。



ディン

「ひゅ…」



ディンは立ち上がれない。

息が上手くできない。

身体が鉛のように重くなり、視界がひっくり返る。


ゴッ……

 

重い音。鴉天狗が歩く。

焼けた羽を引きずりながら、ゆっくりと。

焼け爛れた翼から煙が上がっていた。

片腕は途中から無い。

顔の半分は焼け潰れ、嘴の奥から血が垂れている。


 

ディン

「っ……は……っ……」


 

息が入らない。身体が動かない。


 

鴉天狗

「…………。」



じっ……


 

瞬きもせず、ディンを、見ている。


 

ディン

「(……っ……立て…再生される…)」


 

肉が蠢く。

焼けた断面から、黒い羽根がゆっくり生えていく。

それでも鴉天狗は、何も言わない。


ズル……


錫杖を引きずる音だけが響いた。

動きが遅い。鴉天狗も限界なのだろう。


爛れてドロドロの腕が、ゆっくりと錫杖を持ち上げる。

 

黒く焦げた翼が、ギシギシと軋んだ。

潰れた顔。

再生しきれていない嘴。


それでも。


鴉天狗は、ディンを見下ろしていた。

『アルスダリアの祈り』第40話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。


ハルくん無事っぽい!よかったー!

ディンくんの魔法戦、かなり無理したみたいですね…


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