第39話 優しいひと
ドゴォッ!!
瓦礫が砕け散る。
ルークが背中から地面へ叩きつけられた。
プロジオン
「っ……!!」
衝撃で息が詰まる。
気づけば、自分はルークの腕の中だった。
ルークが空中で身体を捻ったのか、完全に、自分を庇う形で。
プロジオン
「っ…ルーク殿…!!ルーク殿…!!」
ルーク
「う…」
人ひとり庇って全身を強打したのだ。
無事なはずがない。
プロジオン
「どうしてっ…こんな…!」
ルーク
「痛てて…プロジオン大丈夫…?」
プロジオン
「は…?」
どうして普通に喋れているのだろうか。
そもそもなぜ生きてる…?怪我は…?
ルーク
「(…プロジオンは無事…下に人もいなくてよかった…)」
ルークはプロジオンの身体を支えながら周囲を見渡した。
プロジオン
「ル…ルーク殿…」
プロジオンは自分が頭を打って幻覚でも見えているのか、現実逃避をしているのか理解できていないといった具合で、ルークの上で混乱している。
ルーク
「ん…?なんか…プロジオン、あったかいね?」
プロジオン
「え…?ハッ!?ルーク殿!!火傷は!?」
プロジオンが立ち上がり、急いでルークから離れた。
ルーク
「え?火傷?全然大丈夫だけど」
プロジオン
「そんなはずは…!」
ルークを見ると慌てた様子もなく、きょとん…とプロジオンを見あげていた。
ルーク
「(あぁ…そういうことか…)…ぼくなら大丈夫だよ。プロジオンは?手とか大丈夫?」
プロジオン
「俺は全然…ルーク殿が犠牲に…」
ルーク
「いや生きてる生きてる。元気元気」
ルークが困ったように笑った。
本当に大丈夫だよとプロジオンを落ち着かせるために。
ルーク
「よいしょ…と。みんなと離れちゃったね。お城の方戻ろう。動ける?」
プロジオン
「俺は全然…。か…身体は大丈夫ですか…?」
ルーク
「うん。ぼく、丈夫なんだ。全然大丈夫」
2人はゆっくりと歩き出した。
プロジオン
「………。」
あの戦いの動きも。この頑丈さも。
人間というには、説明がつかない。
ルーク
「……プロジオン。大丈夫?」
プロジオン
「俺は本当に…ルーク殿の方が…」
ルーク
「そうじゃなくて。気持ちのほう」
プロジオン
「え?」
ルーク
「神官様?だっけ。身近な人に攻撃されたらびっくりすると思うし。あと…水の話とか」
プロジオン
「……そう…ですね…」
定期的に発生する行方不明者。
深刻な水不足のはずなのに、出所もわからない常に供給し続ける水。
そして神官の露出した異常性。
この国で起きていることを予想するには十分だった。
プロジオン
「ルーク殿は…どう思いますか?」
ルーク
「誰かが犠牲になってるなら、ぼくは嫌だなって思うよ」
プロジオン
「……それで生きながらえている者たちがたくさんいたとしても…?」
ルーク
「うーん…難しいけど…。でも、それだと犠牲になる人がいなくなっちゃったらみんな死んじゃうんだよね?」
プロジオン
「そうですね…」
ルーク
「この国は優しい人が多いのに、攻撃的になっちゃうかも。身を守ろうとして」
プロジオン
「…………。」
ルーク
「きっと、何をしても何かが間違っていて、何かが正しいんだと思う。だから難しいよね。ぼくは、水の作り方がわからないから、解決はできないし」
プロジオン
「(俺さえ…いなければ…)」
プロジオンの手に力がこもる。
ルーク
「でも、できることはしたいな!」
プロジオン
「…できること…本当に優しいですね…。どうしてそこまで」
出会って間もない間柄。
他人事だと突き放せば良いのに、手を差し伸べてくる。
ルーク
「ぼくも困ってる時に助けてもらえたら嬉しいから」
プロジオン
「知らない人でも?」
ルーク
「最初はみんな知らない人だよ。それに、誰かと仲良くなる時っていつも優しい時だから」
プロジオン
「……良い考え方ですね。それ。思いやりというか」
ルーク
「でしょ。ディンにはよく怒られちゃうけど」
プロジオン
「そうでしたか。今回はよく納得してくださいましたね」
ルーク
「ふふ。あれは納得してないよ」
プロジオン
「え?」
ルーク
「絶対納得してないし、すっごく本当は嫌なんだけど、着いてきてくれてるだけ」
プロジオン
「えぇ…?」
ルーク
「ディンは優しいから。ぼくとヘスティアがほっとけないから来てくれたんだ。もちろんみんなことも心配してると思う」
プロジオン
「……そうだったんですか…申し訳ないことをしました…てっきり納得してくださっていたのかと」
ルーク
「いつもだから大丈夫だよ。気にしないで」
プロジオン
「いつも?」
ルーク
「うん。ディンはいつもぼくを優先してくれちゃうから…ぼくのせい」
プロジオン
「なんか…いいですね。さっきもまるでお互いが見えているようで…。なんだか羨ましいです。そんな人がいたら、どんなことでも頑張れてしまいそう」
ルーク
「でも大変なこともあるんだよ。ディンは人に言うのに、すぐ無理しちゃうんだ」
プロジオン
「そうですか?要領良さそうに見えたけど…」
体力を回復させながら歩く。
足取りは重い。
ルーク
「……それで、プロジオンはどうしたいの?」
プロジオン
「え?」
ルーク
「悩んでたら声に出したらいいし、決まってるなら教えてくれるとぼくも一緒に頑張れるし」
プロジオン
「俺は…」
真っ先に浮かぶのは、国の未来よりもジークの姿だった。
尊敬している師。でもどこか何かを抱えているような。
今回も人を殺すと言っていた。あれだけ優しい人が。
城に来たと言うことは、おそらく神官か現代国王のどちらかの可能性が高い。
プロジオン
「……師匠に、人を殺してほしくありません」
ルーク
「ジーク?」
プロジオン
「家を出る前に、『人を殺す』と言っていました。いつもたくましく見えていたのですが…その時、とても儚く見えてしまって…。きっと…その人を殺したら師匠もいなくなってしまいそうで怖いと…思います」
ルーク
「じゃあ、国はひとまず置いといて、まずはジークから助けたいね」
プロジオン
「師匠から?」
ルーク
「水のこととかは、ぼくたちがすぐ出来ることって思いつかないけど、ジークのことはどうにか出来るかもしれないでしょ?」
プロジオン
「た…確かに…」
ルーク
「じゃあ、国王様探しに行こう!」
プロジオン
「え?玉座に戻るのでは?」
ルーク
「国王様は違うところにいるんだよね?探しに行こう!」
プロジオン
「大叔父上をですか…?」
ルーク
「ヘスティアが神官様を吹き飛ばしてたから、多分、神官様捕まえても意味ないと思うんだ。口封じ?って言ってたから、話ができるようになったら目的もわかると思うし」
プロジオン
「そんなことまでわかるんですか?」
ルーク
「ううん。ちょっと聞こえただけ。ヘスティアは意味がないことはしないし」
プロジオン
「なるほど…!」
ルーク
「じゃあ行こ!」
ルークがプロジオンの手を取ろうとしたが、掴んだ瞬間にプロジオンが引っ込めた。
プロジオン
「っ…す…すみません…」
ルーク
「………。」
ルークが振り返ってプロジオンの手元を見た。
ルーク
「……プロジオン」
プロジオン
「はい…?っ!?わっ!?」
ルークがプロジオンの頭を撫でた。
強く、でも、優しく。
プロジオン
「あ…あの…!」
ルーク
「いいからいいから」
うりうりと大人しく撫でられる。
それからルークが力強くハグをした。
プロジオン
「っ…」
ルーク
「ぼくは触っても大丈夫だよ。ほら」
プロジオン
「……ほ…本当に…熱くないですか?」
ルーク
「うん」
ルークが全然平気だよ。とアピールする。
プロジオン
「………ちょっともう一回お願いします…」
ルーク
「もちろん」
プロジオンはそっとルークを抱きしめた。
ルーク
「……ぼくも、誰かに触るの怖いから。少しだけわかるよ」
プロジオン
「…そうなんですか?」
ルーク
「うん…。…さ、行こう!ジークより先に国王様見つけないとね!」
プロジオン
「は…はい…!」
ルークが背中をトントン…と叩いて離れた。
2人は城へ戻ろうと走り出した。
プロジオン
「ルーク殿…絶対モテますよね」
ルーク
「も?」
プロジオン
「誰かから口説かれたりとか…話しかけられたりとか…」
ルーク
「うーん?あんまり?」
プロジオン
「そうですか…」
ルーク
「ディンとかゼナの方が多いかな」
プロジオン
「ゼナ?さん?」
ルーク
「そう!ぼくたちの大事な人!ジークみたいに黒髪でね。かっこいいんだよ」
プロジオン
「黒髪いいですよね!俺も黒髪が良かったです」
少しずつ、明るさを取り戻し始めたプロジオン。
ルーク
「赤色、綺麗で好きだけどなぼく」
プロジオン
「………うぅ…」
プロジオンが足を止めてしまう。顔を両手で覆う。
プロジオン
「眩しい…」
ルーク
「え?プロジオン?」
プロジオン
「天使は存在したんだ…」
ルーク
「え?どうしたの急に…」
『アルスダリアの祈り』第39話を最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
ルークくんまじで良い子…
プロジオン王子も良い子だね…
王子という立場上、いろいろと揺れてしまってるみたいですね…今後どうなるのやら…




