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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
???編

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37/51

第36話 静かな玉座

本話には差別的思想・倫理的に不快となる可能性のある表現が含まれます。ご注意くださいませ。

扉の向こうは薄暗かった。

広間の奥。人の気配がする。


黒い布で顔を隠し、銅の杖を持った人が立っていた。

その後ろは帷の座になっており、人影のみが確認できる。



ジーク

「っ…」


ヘスティア

「(あれが神官ですか…)」


神官

「……ようこそ」



神官は穏やかな声でルークたちを迎えてきた。

声の質からして女性のようだ。

近くまで行くと、プロジオン、ハルジオン、ジークは片膝をつき、頭を深く下げた。

ルークも真似して頭を下げた。



神官

「……平伏を」


ディン

「そのまま続けて」


ヘスティア

「お気になさらず」



ディンとヘスティアは神官から視線を外さず、立ち上がったままだった。



神官

「玉座でございます。どうか頭をお下げくださいませ」



神官は穏やかなトーンで2人を注意した。

 


ディン

「うん。(あの帷の座だけ随分と文化違いだなぁ…。月華ゲッカの国では見たことあったけど…ここだけ…?しかも玉座の間に異文化…?)」



返事だけして、動かない。

ディンは玉座を横目に神官を見据えた。

ヘスティアは周囲を観察している。



ハルジオン

「ディンさん…!ヘスティアさん…!」


ルーク

「ねぇ、ハルジオン。あの人が国王様?」



ルークは全然2人を気にする素振りはなく、別のことの興味を示していた。

 


ハルジオン

「え?いや…あの方は神官様です」


ルーク

「国王様はどこにいるの?」


プロジオン

「国王陛下ならあそこに。最高位の方ですから、帷の座から神官殿を仲介してお話するんです」



プロジオンがルークに優しく説明した。

 


ルーク

「………。そうなんだ…」



カンっ!!

神官が杖を地面に突いた。

 


神官

「そこのお二人様。ここがどこか、お分かりですか?頭が高いと申し上げております」



ただ、声色は変えず、穏やかな口調で話していた。



プロジオン

「アーディス(神官)殿。こちらの皆さんは私の客人でして…」


神官アーディス

「プロジオン王子。関係ございません。玉座でございます。いくら王子のお客様でも、敬意を払って頂かなければ。むしろ、貴方様はこの場で怒るべきなのでは?」


ディン

「敬意を払ってないってことは敬意を払うほどの相手じゃないってことだよ。言わないとわからないかな?」


ヘスティア

「(さすがです弟よ。その調子で煽ってくださいな)」


ディン

「逆に挨拶もなしかい?ボクたち、"大事なお客様"なんだろ?」


神官アーディス

「……不敬にもほどがございますね」


ディン

「国王様は随分と寛大だね。怒りもしないどころかびくとも動かないなんて。まるで何も聞こえてないみたいだ」


ルーク

「………。」


ジーク

「………。」


プロジオン

「ディン殿…!」



プロジオンが焦ってディンにそれ以上はやめてくださいとジェスチャーをするが効果なし。

 


ハルジオン

「ルークさんからも言ってあげてください…ルークさんのお話ならディンさんも…」


ルーク

「うん…でも、ディンの言うことも一理あると思うな」


ハルジオン

「えぇ…!?ルークさんまで…」


ルーク

「臭いがしないんだ。1人の臭いしか…。本当に国王様って、そこにいるの?」


神官

「おや。随分と、嗅覚がよろしいのですね。まるで獣のようです」



神官は苛立ってはいるようだが、焦っている様子は見せなかった。



ヘスティア

「ジーク…身体は動かせますか?」



ヘスティアがジークに小声で確認を取った。



ジーク

「動けます」


ヘスティア

「(特定のこと以外(神官について話す・攻撃する)はできる…。限定的な契約…でもおそらく契約実行者は神官ではない…)」


ディン

「(こんなもんかな。ヘスティア姉さんがあとは動いてくれるはず)」


ヘスティア

「(ジークに命令を出さない…もしくは出せないのならこっちも動きやすい。まずは契約実行者を探さなければ…)」


プロジオン

「みんな落ち着いてください…!」


ディン

「一番落ち着くべきは君だよプロジオン。ボクたちは落ち着いてるよ」


ハルジオン

「ディンさんたちが頭下げてくれればそれで済むお話じゃないですか…!」


ヘスティア

「どうでしょうね」


ハルジオン

「え?」



キィン…

白色の魔法陣が展開され、室内に突風が吹いた。

国王のいる御帳台に向かって突風が吹く。

そして、帷が吹き飛び、中が露出した。



ハルジオン

「ひっ…!?」


プロジオン

「っ…!?」


ジーク

「これは…」


神官アーディス

「なんということを」


ディン

「へぇ」


 

そこにあったのは――人ではなかった。

椅子に縛りつけられた、

不自然に歪んだ、“人形”。

 


神官

「大丈夫ですか?マリヤ…お怪我はないですか?」



その人形をマリヤと呼び、心配をする神官。

 


ディン

「頭が逝っちゃってるよあれ」


ルーク

「大事なぬいぐるみなんだよ」


ディン

「大事なもの椅子に縛り上げたりしないでしょ。あと、あれ人形だよルーくん」



明らかに突っ込むところを間違えているが、ルークとディンとヘスティアはその異様な行動を呑気に見ていた。



プロジオン

「国王陛下はどこにいる!」


ジーク

「落ち着いてくださいプロジオン様」


神官アーディス

「あぁマリヤ。可哀想に…。髪型が崩れてしまいましたね。あとで梳いてあげますから」



神官は人形を抱き上げてこちらを向いた。



神官アーディス

「無作法ですね」


プロジオン

「大叔父上はどこにいる!」


神官アーディス

「国王陛下は別室でお休みになられているのですよ。その間、私がこの場を管理するようにと。だというのに、こんな惨状になるとは」



ゆっくりと口元が吊り上がっていくのが見えた。

人形を撫でながら、こちらと対話している。



神官アーディス

「茶番は終わりにしましょう。貴方でしょう?聖騎士団長殿。この者たちを連れてきたのは。ある程度わかっているようですし」


ジーク

「……そうだ」


ハルジオン

「ジーク様…?」


神官アーディス

「先ほどの魔法。杖も無しに正確に撃っていましたね。随分と扱いに長けているように思えます。良い人を見つけましたね。外国者で、魔法や魔術に詳しい人と出会うとは。どうやって伝えたのかは知りませんが、厄介な人を連れてきたようですね。迷惑です」


ハルジオン

「(神官様ってこんな人だったの…?)わ…!?」



プロジオンが膝をついているハルジオンの腕を取って立ち上がらせる。前に立ち、守る体制に入っていた。



ディン

「(ヘスティア姉さんの魔法を見ても余裕そうだな。何か隠し玉持っていそう…)」


神官アーディス

「ふふ。陽の国の方々は本当に素直ですから。外国者にまで縋るとは…滑稽ですね」


プロジオン

「アーディス殿…!なんということを…!」


神官アーディス

「本当のことですよ。プロジオン王子。疑うことを忘れてしまった…愛おしい国民です」

 


くすくすを笑いながら話し始めた。



神官アーディス

「貴方のように、疑問を持つ者が少なくて本当に動きやすかった」


プロジオン

「………何が言いたい…」


神官アーディス

「弱者たちをどんどん城へ入れているでしょう?プロジオン王子。そうすれば失踪する者が減ると思ったのでしょう?」


プロジオン

「…っ…!」


神官アーディス

「目の届く場所へ置いておけばすぐにわかりますものね。本当に余計なことをしてくださる」


プロジオン

「余計なこと…?」


神官アーディス

「ええ」


 

神官は、愛おしそうに人形の髪を撫でながら続けた。


 

神官アーディス

「貴方が集めた“弱者”たち。本来であれば、静かに消えていただく予定でしたのに」


ハルジオン

「……え……?」


ジーク

「……っ……!」


プロジオン

「……消える……?」


神官アーディス

「とても“効率の良い”存在でしたのに」


ディン

「(話長いなぁ…)」



ディンはつまらなそうに爪をいじり出す。



神官アーディス

「ご安心くださいませ。城に入った者には手を出しておりませんよ。あれは王子の管理ですから」



穏やかな口調でプロジオンに伝えた。

 


ルーク

「……それって」

 


ルークの声が、少しだけ低くなる。

 


ルーク

「殺してるってこと?」


神官アーディス

「……言い方が雑ですね。“活用している”のです」


 

一切の迷いなく言い切る。


 

神官アーディス

「役に立たない存在が、なぜ許されるのでしょうか」

 


神官の口元が、ゆっくりと歪む。

 


神官アーディス

「この国には、役に立たないものを置いておく余裕などないのです。私が、使える形にしてあげている」



神官は、誇らしげにそう言った。

 


プロジオン

「……っ……!」


神官アーディス

「無能は大嫌いなのですよ」


プロジオン

「…働かない者と働けない者を一緒にするのは違う…!」


神官アーディス

「結果が全てです。なんの不満が?」


プロジオン

「行方不明者たちをどうした…?」


神官アーディス

「生きていると思いますよ。数人は死んでいますが」


プロジオン

「っ…!」


 

プロジオンが声を張り上げようとしたその時。


バキバキっ…!



プロジオン

「…!」


ジーク

「!?」


ハルジオン

「え…??」


神官アーディス

「あら床が…」



音に反応したのは、プロジオン、ハルジオン、ジーク、そして神官だった。


ルークの方へ、一斉に視線が向く。

床には、静かに亀裂が走っていた。

ディンとヘスティアだけは、振り向かない。

 


ルーク

「………。」

 


その足は、地面に深く食い込んでいた。

ルークは歯を食いしばり、拳を強く握っていた。



ディン

「落ち着きなよ、ルーくん。これは彼らの問題で、ボクたちはその場に偶然いただけなんだよ」


ルーク

「………。わかってるよ…」



ヘスティアはルークを横目で流し、質問をした。

 


ヘスティア

「活用というのは…水が絡んでいるのでしょうか」


神官アーディス

「ご名答。察しが良くて良いですね」


ヘスティア

「……水を生み出しているのではありませんね」


神官アーディス

「ほう?」


ヘスティア

「何かを、変換している…。……人を、ですか」


プロジオン

「は…?」


ハルジオン

「え…?」


ジーク

「(人を…水に…?どうやって…)」


神官アーディス

「素晴らしい。そこまで辿りつきますか!」



わずかに声が弾んだ。ここで初めて神官の声色が変化した。



神官アーディス

「貴方とは気が合いそうです」


ヘスティア

「遠慮します。気持ち悪いので」


神官アーディス

「それは残念です。マリヤ聞いてください。振られてしまいました私」



汚れたボロボロの人形に頬を撫でつけた。

はぁ…とため息をついたその時。



神官アーディス

「お話は終わりです。さぁ、口封じの時間にしましょう」



カンっ!


 

『アルスダリアの祈り』第36話を最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。


神官様そういう感じね……。

次回、口封じの時間だそうです…!

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