第33話 夜を駆ける
グローサとガレアがしゃがんで搭乗を待つ。
デュオンとアスベルが先に跨いだ。
グローサ
「ゼナまだ乗ってないの?」
ゼナ
「え?もう乗ってるよ?重くない?」
グローサ
「軽すぎてわからんわ」
ガレア
「おい背毛引っ張るな」
アスベル
「え、ごめん」
ラウル
「アスベルもう少し前行けないか?」
アスベル
「結構ギリだけど…」
ラウル
「……そうか」
グローサにデュオンとゼナが。
ガレアにアスベルとラウルが跨った。
グローサ
「じゃ、行くよ」
ガレア
「ん」
グローサとガレアがゆっくりと走り出した。
丘を降りながら少しずつ加速していく。
アスベル
「本当に2時間くらいで着く?これ」
ガレア
「平地になったら加速する」
ラウル
「(2人乗せながらこの速さで…すごいな)」
ゼナ
「すごいねグローサ!楽しいよ!」
グローサ
「はいはい。今のうちに楽しんで」
デュオン
「いい景色だね」
グローサ
「よく見えんね」
夕方と夜の境目。幻想的な空の色が綺麗だ。
そろそろ平坦道になる。
グローサ
「しっかり捕まってて」
ガレア
「いくぞ」
グローサとガレアがどんどん加速していく。
景色が後ろへ流れ、空気が肌を叩く。
アスベル
「ちょっと待ってちょっと待って!!」
ラウル
「早っ…!」
ゼナ
「すごいすごい!!」
デュオン
「ゼナ片手離しちゃダメだって!」
ものすごい加速だ。
時速100kmはありそう。と思った瞬間、さらに速度が上がる。風が唸り、息を吸うのに一苦労だ。
アスベル
「揺れやばい!!揺れがやばい!!ガレアもっと優しく走って!」
ガレア
「無茶言うな」
ラウル
「まだ速くなるのか!?」
デュオン
「(あの列車追い抜いてしまえそう…!)」
※大鉄道の列車は最大加速が90kmです。
ゼナ
「楽しい!楽しい!!」
グローサ
「下噛んでも知らないよゼナ」
時速130kmあるのだろうか。身体が持っていかれそうなほどの速度だ。息を切らさずに走る伝狼の凄さが伝わってくる。しかも人2人乗せた状態でこれだ。単体ならもっと速度が出せるのだろう。
デュオン
「本当にこっちであってる…?」
グローサ
「近道する」
デュオンが少し不安そうにグローサに問うた。
少しずつ大鉄道の線路沿いから外れて大きな湖がある方に向かったのだ。
前方に黒い帯のようなものが広がる。
近づくにつれ、それが水面だとわかった。
アスベル
「ガレア前!!前!!湖!!」
ガレア
「知ってる」
アスベル
「知らないだろ!!知ってる冷静さじゃない!」
ラウル
「落ち着けアスベル!」
アスベル
「ラウルもびびってるじゃんかよ!」
ラウルは片手でアスベルにしがみついていた。
まもなく大きな湖に差し掛かる。
水面に触れる直前、空気が一気に冷えた。
肺に入る空気が冷たく張り付き、息が詰まる。
視界が風圧で揺れ、耳の奥で低く音が鳴る。
足が沈む気配はない。
ゼナ
「水の上走ってる!!」
デュオン
「すごいねグローサ!」
グローサ
「だから鉄の塊と一緒にすんなって言ったでしょ!」
アスベル
「うわ!?冷た!ガレア前からの水かかっとる!!避けて!顔拭けないんだよ今ァ!!」
ガレア
「避けてるけど範囲広すぎて無理だ」
ラウル
「沈む!!絶対沈む!!」
グローサ
「なんか来る。対処よろしく」
グローサが水面に視線を落とす。
デュオン・ゼナ
「え?」
水面が、不自然に盛り上がる。
次の瞬間――弾けた。
湖の中から、何かが引きずり出されるように飛び出してくる。
形は人に似ているが、関節の向きがおかしい。
ヴァイスだ。
グローサ
「(相変わらず気持ちの悪い。腐った臭いがする。鼻がもげそう)」
ゼナ
「わ!?」
デュオン
「ゼナ、僕のことおさえてて!」
ゼナ
「わかった!」
キィン…
青い魔法陣が展開される。
水面が持ち上がり、盾のようにせり上がった。
デュオン
「(とりあえず遠くへ…!)」
押し上げた水流が、ヴァイスを横へ弾き飛ばす。
グローサ
「流石」
デュオン
「そんなに数いないかも」
アスベル
「なに?めっちゃ揺れたけど??」
水をかぶったせいで目が開けられず、見えないアスベルは状況がわからないらしい。
ガレア
「ヴァイスが出てきた」
ラウル
「早く言ってくれ!」
ガレア
「デュオンがなんとかしてるから大丈夫だろ」
アスベル
「なぬ。ラウルも応戦せな」
ラウル
「水上で雷はやばいだろ。感電させてしまう。それならアスベルが…」
アスベル
「絶賛目見えてない。おれ」
ラウル
「そうか…」
戦闘による揺れが激しくなるが、グローサとガレアは関係なく湖の上を走行していく。
デュオンが続けて周りを警戒していると…。
デュオン
「あれもしかして人かも…?手振ってる」
ゼナ
「どこどこ?」
グローサ
「は?こんなとこに人間?気のせいじゃない?」
???(ガレア側)
「よう鬼神様〜!こんなところに珍しいねぇ」
人がものすごいスピードで泳いでいるように見える。
ガレア
「びっくりした…すごい速度で泳げるんだな」
ラウル
「知り合い…?魚か…?どっちだ…?」
上半身が人で、下半身が魚の尾鰭のようになっているようだ。
アスベル
「(海髪か…)なわけ。人違いです。妖いるけど気にしないで走って!」
グローサ
「なんて?」
デュオン
「妖だって。すごい並走してる…」
海髪(グローサ側)
「あんまりバッシャンバッシャンしないでもらえます〜?」
デュオン
「わ!?こっちにも…」
海髪(グローサ側)
「寝てる子いるんで〜!!」
デュオン
「ごめんなさい…?」
グローサ
「湖抜けたら静かになるよ。ヴァイスそっちで黙らせてくれるならいいけど」
海髪(グローサ側)
「ヴァイスいるの?だる〜。聞いた?ヴァイスいたんだって」
海髪(ガレア側)
「まじ〜?気づかんかったわ。後でちょっかい出してやろ」
アスベル
「(ヴァイスはこっちにだけ反応してきたってこと…?海髪がこんなに生息してるのに…)」
アスベルは不思議に思った。
襲いかかる相手がいるのにこっちに反応してきたのだ。
グローサ
「湖抜けるよ。このあと崖飛び降りるから口閉じて捕まってな」
デュオン・ゼナ
「え?崖?」
水面が途切れる。
その先には、地面がなかった。
――音が消えた。
一瞬だけ、風も声も遠のく。
視界が白く抜ける。
海髪(ガレア側)
「じゃあね鬼神様〜見れて嬉しいよ〜!いいことありそ〜!!今度妖力ちょうだーい!」
アスベル
「おれは嬉しくなーい!ルシファー専用なんで無理ー!」
アスベルが海髪に向かってブーイングのハンドサインを出した。
ラウル
「随分と友好的だな…」
アスベル
「あれの心臓喰うとか絶対腹壊すわ!寿命伸びるわけないだろ!なにが妖力頂戴だ!海祇の喰っとけ!ばーか!」
ラウル
「落ち着けって」
ガレア
「この後崖降りるからな」
ラウル
「え?崖?」
湖を抜けると纏っていた冷気がなくなり、少し速度が落ちた。先が見えない。……崖だ。
デュオン
「うわ!?」
ゼナ
「あぶな」
身体がふわりと浮く。
内臓が持ち上がるような、嫌な浮遊感。
落ちているはずなのに、現実感が薄い。
ゼナとグローサの背毛がデュオンを捕まえているおかげで、一緒に落ちていった。
グローサとガレアは衝撃を殺して着地し、そのまま走り出す。
どん、と遅れて衝撃が来る。
足元が柔らかく沈んだ。
デュオン
「列車で飛んだの思い出した…」
ゼナ
「オレもひやっとした今…」
グローサ
「そんなことあったんだ」
グローサがくすっと笑った。
ゼナ的には手が届かなかったので結構苦い思い出である。
アスベル
「痛…舌噛み切っちゃった」
ラウル
「おい血が…大丈夫か」
アスベル
「もう再生したから平気」
ガレア
「流石妖だな」
しばらく走ると砂漠地帯に差し掛かった。
グローサ
「走りにくいわね」
アスベル
「今度は砂が目に…」
ラウル
「ガレアは前が見えてるのか??痛…」
ガレア
「俺は見えてる」
伝狼は瞬膜があるらしく、平気らしい。
ラウル
「へいそ…う…口に砂が…げっほ…」
アスベル
「砂誤飲してるじゃん…。ガレア並走して並走」
ガレア
「わかった」
ガレアが一瞬スピードを上げてグローサに並んだ。
グローサ
「なに?遅い?」
ガレア
「いや、砂がかかるから嫌だって」
ゼナ
「なんか…霧が…?」
乾いた空気が、急にひんやりと湿り気を帯びる。
デュオン
「ここって今どのあたり?」
グローサ
「もうレブラじゃない?砂漠だし」
ラウル
「かなり涼しく感じるが」
デュオン
「これくらいなら全然平気かも」
グローサ
「砂漠は陽がないと涼しいんだよ」
アスベル
「まじで霧すごいな」
デュオン
「でもすごいね。本当にすぐ着いちゃった」
グローサ
「あんな線路?の上しか走れないのとは違うの」
アスベル
「プライド高い…」
ガレア
「伝狼はプライド高いやつ多いから…」
ラウル
「……あの建物があるところはデューレブラッドか?」
アスベル
「霧で見えませんけど」
デュオン
「あそこ」
ガレア
「目良いな」
ラウルとデュオンが指差す方にしばらく走ると霧を抜けたのか視界がクリアになってきた。月明かりに照らされたデューレブラッドが見えてきた。
ゼナ
「星が綺麗だね。月も。満月だ」
グローサ
「着いた着いた」
デュオン
「ルークたち見つかるかな」
グローサ
「臭いで見つけてあげる」
ゼナとデュオンがグローサからゆっくり降りた。
砂漠の柔らかい足元の感触が伝った。
アスベル
「早く降りてラウル。いつまで握ってんのそれ」
ラウル
「いや握力が…開かないんだ…」
アスベル
「握力やば。しばらく放置だな」
ラウル
「え…」
ラウルは長時間強く握力をかけていたからか、手綱を離せないらしい。万力の握力で解けない。
ゼナ
「帰りもグローサに乗りたい!」
グローサ
「良いけど」
デュオン
「僕も!」
ガレア
「………。」
ガレアがアスベルとラウルの方を見た。
ラウル
「お…俺はいい。結構だ。列車で大丈夫」
アスベル
「おれも…一生に一度でいい」
ガレア
「そうか」
アスベル
「……う…ラウル…おんぶ…」
ラウル
「え?どうした?大丈夫か」
アスベル
「ふらふらする…」
ラウル
「調子良かったのに…。ほら…あ、手綱気をつけてな」
アスベル
「なんか急に…。いつもすまんね」
ラウルがアスベルをおぶった。かなりぐったりしている。いつものアスベルだ。
ガレア
「なんだ急に」
アスベル
「わからん…激しい揺れのダメージが今来たのかも」
ガレア
「悪かったな」
アスベル
「いや…全然…」
デュオン
「大丈夫?」
ラウル
「急にふらついたらしい」
グローサ
「とにかく早く行きましょ。陽が上ると暑いよ。さっさと合流して帰ろう」
アスベル
「扱い雑じゃね」
ラウル
「その姿で国に入るのか?」
グローサ
「ん?あぁ忘れてた」
ふわっ…
グローサとガレアが立ち上がり、人の姿になった。
グローサ
「二足歩行疲れるんだよね」
ガレア
「久しぶりになったな」
白い肌の白髪に先端が青みがかった髪の女性。
小麦肌の黒髪に先端が赤みがかった髪の男性になった。
デュオン
「早く行ってみよう!ルークたち無事だといいけど」
ゼナ
「特にディンとヘスね」
アスベル
「ルシファーも」
ラウル
「ソフィアも」
ゼナ
「……ロアも」
ガレア
「ロア?…ヘス…?ソフィアの…弟だか妹だかの名前じゃなかったか」
ゼナ
「そうそう。見つかったんだよ。今はみんな一緒なんだ」
ガレア
「大集合じゃないか。良かったな」
グローサ
「同じ顔してるんだっけ?会うのが楽しみね」
お留守番組もデューレブラッドに到着した。
無事にルークたちに出会えるのだろうか。
✴︎
【小話】
伝狼の最大速度は150kmとかなんとか。
長距離の移動をしても息が上がらないんだとか。
大鉄道の鉄道よりも全然速いです。
【ワード紹介】
海髪
妖族です。いわゆる人魚ですね。人魚と呼ばれることが多いです。基本的にフレンドリーで愉快な妖です。湖だったり海に生息しています。以前、暴走列車編で少し出てきましたね。
海祇
こちらも妖族。三大妖族です。鬼神と並ぶ力を持っています。海に生息している妖です。
『アルスダリアの祈り』第33話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
最後ロアくん忘れられてて可哀想…笑
ゼナくんがしっかり拾ってましたね。無事に会えますように。




