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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK6 「Potent」
21/23

TRICK 6-1



 藍沢美月は、目を覚ました。

 あたりを見渡すと、照明の消えた電車の中に。

 いつの間にか、乗っていたようだ。

「あれ、私・・・・・」

 何か忘れている気がする。

 ましてや、この電車に乗っている理由すら、わからない。

 いつも乗っている、電車とは違う感覚。

 外は真っ暗で、街の明かりすら見えない。

 それに、車内の人々はそれに動じず、スマホの明るい画面をただ凝視している。

「すみません、今何が起きてるんですか?」

「・・・・・」

 乗客は、美月の問いかけに反応しない。

 それどころか、声に気づいていない。

 怖くなって、席を立つ。何か変だ。

 美月はそう思って、車両を前の車両に変える。

 寝過ぎたのだろうか。頭が痛い。

 前の車両に移動すると、さっきより意識がはっきりとしてきた。

 一つ、気づいたことがある。

 この電車、止まっているのだ。

 意識がはっきりして、音がしなくて、外の景色が動いていないし、動いている感覚もしないから、多分そうだ。

 何か、事故に巻き込まれたのだろうか。

 美月は考える。

 乗客が問いかけに反応しないのであれば、運転室や車掌室に行けば、状況がわかるかもしれない。

 前か後ろか。進行方向がわからなかったから、とにかく美月はただ前に進むことにした。

 車両を変えるごとに、同じように問いかけても、誰もなにも反応しない。

 ただただ、暗い車内で、皆うつむきながら画面を見つめているだけだ。

 そして、一番前方の車両にたどり着く。美月は運転室の人間を確認しようと、ガラスをのぞき込む。

 そこには、ちゃんと運転手がいて、指さし確認をしていた。

 しかし、その手はまっすぐ延びたまま、微動だにしていない。

 美月が声をかけても、その運転手はなにも反応しない。

 疑問が、確信に変わった。

 乗客が反応しないのではない。

 電車が止まっているわけではない。

 時間が、自分以外の時間が、止まっているのだ。

 そうとしか、今体験している現象を表現できない。

「信じられないわ・・・・・」

 彼を呼ばなくちゃ。

 何か、悪い予感がする。

 そう美月は感じて、ハンターフォンを取り出す。

 その瞬間だった。

 

<Peeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee>


「モスキートノイズ!?」

 この音は、やばい。

 美月のハンターフォンは、画面が赤く光っていた。

 乗客のスマートフォンや車内広告、運転台の画面など、ありとあらゆる”画面”が赤く光って、それぞれのスマートフォンから、モスキート音を発している。

 画面はただ赤いだけではなく、血の色に似た液体がこぼれ始め、床に垂れ落ちる。

 そして、獣臭い臭い。

 これは、間違いない。ガーディアンが来る。

「呼ばなきゃ、呼ばなきゃ・・・・・」

<ミツキ。アイザワ・ミツキ・・・・・>

 どこからともなく、不気味な声が聞こえてくる。

<アナタハナニモシラナイ。シラナイ。ノウノウトイキテイル。ワタシニハソレガニクイ>

 低めの機械音声。美月は動揺した。

<ニクイ。憎い。憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い>

 憎い。という言葉を発する度に、電車が大きく揺れ、赤い画面から多数の手が這いずり出てくる。

<オノレノタチバモシラナイデ>

<ナゼオマエガ”アイザワ”ナノカ!!>

美月は、憎悪むき出しのその声に、さっきまで恐怖していたが、その言葉を聞いた瞬間、ふと我に返る。


 いつもの風景。

 とはいっても、部屋を変えたので天井は少し違うが。

 久しぶりに、悪夢を見た。

 というより、夢でよかった気がする。

「夢だったのね」

 昨日、ガーディアンに殺されかけそうになったから、余計だろう。

 目覚めの悪い朝に、夢の中の怪物にとびきりの憎悪を向けられたのだ。しかし、夢の途中まで恐怖を感じていたのに、怪物の最後の言葉が気になった。


 ーー何故お前が、藍沢なのか。


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