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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK5 「Suspect」
20/23

TRICK 5-6

 藍沢は、ガーディアンに荒らされた部屋を片付け始める。

 動揺しながら、彼女は話し始めた。

「最初、こんなメールが来たの」

 ハンターフォンに来たメールを、ミヤビに見せた。そこには霜村静文からのメールがあった。

“渡したいものがある。ガーディアンに関するものだ。気になるなら理科室に来い。”

ミヤビはそれを見て、霜村らしくないな。と感じた。

第一、霜村静文は藍沢と接点があるのだろうか。

「怪しいと思わなかったのか?」

「思ったわ」

「相談してくれれば」

「そうね。この時点で貴方に相談するべきだったと、後悔しているわ」

「別に悔やむ必要はないけど。で、理科室へ向かったと」

「ええ。その時に、コレを渡されたの。“使用はするな。コレを調査しろ”ってね」

藍沢は、霜村名乗る男から受け取った、ガーディアンsimをミヤビに見せる。

「なるほど。けど何故?」

「それは私が一番知りたいわ。何をさせたいのかよくわからないし」

 なにか言いかけて、藍沢の言葉が止まった。

「どうした?」

「藍沢が、関わっているかもしれないの」

 その言い方は、恐らく会社の事を意味している。

 自分自身の性ではなく、藍沢グループとして。

 藍沢は、自分の父が経営する会社が、なにか良くないことに手を付け始めているのかと、勘ぐっているのだろうか。

「この、ロゴを見て」

 藍沢は持っていたガーディアンsimに刻印されている、見覚えのあるロゴに指を指す。

 ハンターフォンに印字された、藍沢エレクトロニクス社のロゴ。それと全く同じものだった。

「ガーディアンsimを、藍沢エレクトロニクスが製造してるってこと?」

「分からないわ。信じたくはないけれど」

 声は、震えていた。

 しかし、ロゴがあるだけで、事実と断定するには証拠が足りなさすぎる。

「そのsimのデータを第三者が書き換えた可能性だってある。藍沢が直接関わってないかもしれない」

「けど、私に渡した理由って、藍沢の関係者だからって可能性は?」

「……。それは分からない」

《話を戻すけどよ、それでガーディアンsimをお嬢が持ってたから、それにつられてガーディアンが現れたってことか?》

「ええ。たぶん。そして水無君が助けに来てくれた。これ、持っているだけで危険ね。さっきガーディアンに、何故使わないのか聞かれたし」

「霜村先輩が藍沢を、ガーディナイザーにさせようとしていた可能性があると?」

「ええ。たぶん」

「確証がない。本人は今倒れている。すこし、確認させてくれ」

 ミヤビは、藍沢が霜村からガーディアンsimを受け取った時刻を確認する。

 その後、二ノ宮に電話し確認をとった。

 倒れた霜村を運ぶべく、救急車が来た時刻と、霜村から藍沢にガーディアンsimを渡した時刻。

 ほぼ、同じ時間だった。

 藍沢が動転して時間の記憶違いの可能性だって考えられるけど、その可能性は低い。

 じゃあ、この事態を引き起こしているのは、誰だ。

 誰が、藍沢にガーディアンsimを渡した?

 本当に霜村静文が渡したのか?

「……なにか、変だな」

 いろいろ考えようとしたが、結論を急がないことにした。

 このことはきちんと、二ノ宮に相談すべきだろう。

 すると藍沢が、急に床に倒れた。

 ミヤビは慌てて、藍沢の元へ駆け寄る。

「藍沢!? 大丈夫か?」

「え、ええ。腰が抜けちゃったみたい」

「立てるか?」

 ミヤビは肩を貸し、藍沢を椅子に座らせる。

「ええ。ごめんなさい。ありがとう」

「もう今は片付けしなくていい。場所を変えよう。他の部屋は?」

「あるわ」

 藍沢に肩を貸したまま、隣の空いた部屋に藍沢を座らせた。

「……水無君って、あんな怖いものと戦っていたのね」

 藍沢の肩が震えていた。ガーディアンのことだろう。

「これまでだって、現れていただろう?」

「けど、それって貴方に守られていたからだと思うわ。今回は本当に、怖かったもの。本当に死ぬかと思った。息ができなかったし」

「そうか……」

 ミヤビは、最初に彼女に会った時の違和感を思い出す。

 彼女は、たぶん、取り繕っていた。いや、演じていた。

 自分の思い描く、藍沢美月を。だから何か、違和感があったのだ。

 どこか、周りの女子と違う感覚がしていた。

 だけれどそれは彼女が演じているからであって、今日みたいなガーディアンに襲われたとき、恐怖を感じたのだ。

 そしてそれを分かった瞬間、安心した。

 彼女もまた、普通の人間であると。

「ははっ」

 思わず、口にしてしまった。

「な、何? 私なにか可笑しいこと言った?」

「ごめん、侮辱したつもりはないんだ。怖いもの知らずだと思ったから」

「私だって怖い時は怖いわよ。一人でいたときに、殺意を持った怪物に襲われたんですもの……何故貴方は平気なの?」

 その言葉を今の今までそっくりそのまま言おうと思ったことが、これまで何度あっただろうか。

「いや、平気じゃないよ」

「嘘」

「嘘じゃない。すっごい怖いよ、ガーディアンと戦うのは。火炎がいなかったら、死んでたと思うし」

 藍沢だけが、怖いわけじゃない。

 ガーディアンと毎日戦うのは、怖い。

 それに、白いガーディアン。あのガーディアンは恐怖そのものだった。

 今の実力じゃ、到底倒せないと感じた。

 足が動かなかったのだ。

 白いガーディアンの手掛かりを見つけたいと思う気持ちと同時に、あの時感じた恐怖を、打ち破れるかどうかを、日々思っている。

 チカラが出せるのも、火炎流星丸というブレイクアバターがいて、こいつがガーディアンと戦ってくれるからだ。

《おうおう、珍しく良いこと言うじゃねーか》

「強いのね」

「強くはないさ。なんだかんだで、コレに依存しているわけだし」

 ミヤビは、ハンターフォンを藍沢に見せる。

 ハンターフォンと火炎が居なければ、戦う事は出来ない。

 ブレイクアバターを召喚する時に、ハンターフォンを破壊しているが、それはあくまでも召喚の動作でしかない。壊れたはずなのに、戦った後はもとに戻る。

 改めて考えてみると、なんだか不気味だ。

 何度も何度も何度も。

 床に叩きつけて、壊して、召喚している筈なのに、召喚が終わると、元の形に戻る。

 何か意味があるのだろうか。

「依存、そうなのかしら。私にはなにか意味があるのだろうと思うけど」

 ふと、彼女の声色が変わった。

「意味?」

「あなたの言う依存って、俗にいうスマートフォン依存症でしょう? 電車や街に行くと増え続けてる、情報依存症」

「ああ」

「ちょっと気になってたの。何故ブレイクアバターが、スマートフォンを破壊する行為によって召喚されるのかって」

 確かに。

 スマートフォンを壊して召喚する。

 言われてみれば、その行為は不思議だなとミヤビは思った。

「理屈はまだわかんないじゃない?けれど、その行為そのものになにか意味があるんじゃないかって、たとえば、この世間に対するアンチテーゼとか」

「アンチテーゼ……か」

 世間の状態がおかしい。

 日々の生活でそれを感じた誰かが、ブレイクアバターを作り出したのだろうか。

「電車に乗れば、9割近くの人がスマートフォンをみてる。別に悪い事じゃないけど、言葉では言えない何か、異常を感じるのよ。恐らく開発者も、似たようなことを考えたんじゃないかしら」

「・・・・・・異常か」

 自分の祖父母も、そんな光景をみて気味悪がっていることを思い出した。

「けど、そんな異常にしたのは、どこの誰なんだろうな」

「え?」

「たぶん、それしかできないんだよ。きっと」

 人が増えすぎたのか。

 ミヤビは、東京に始めて訪れた瞬間、閉塞を感じた。

 時代が変わったのか。

 祖父母は、昔がよかったという。

 確かに、祖父母から聞いた話はおもしろそうなこともあったと思う。

 ルールが増えたのか。

 たとえば、バイクの3ない運動とか。

 自分は親父がいたから、あんなおもしろい乗り物にのれているけど、多くの高校生が、そのチャンスを逃してるなんて。とたまに思うときがある。

 それは、たぶんバイクに限らずだけど。

 きっと、そんなものが一つ一つあって、出来ることが限られてて。

 だからみんな、見るしか無くなったのか。

 それはわからないけど。

 閉塞は、スマホだけじゃない。

 何か、別の要因も関係している。

 その、言い難い閉塞を、ぶち壊す。そんな意味も込められているのだろうか。

「やっぱ、あなたはちょっと違うわね」

「え?」

「みんなとちょっと違う視点を持っている。初めて会ったときからそう感じたの」

「視点だけだよ。特に何かをしているわけじゃないし」

「しているじゃない。こうして人知れず、未知の生物と戦ってて。”謎”を前向きに追っているわけだし」

「そうかな?」

「うん。私から見た、あなたはそう」

「そうか」

「私は・・・・・」

 藍沢は何か言い掛けると、二ノ宮の車の音がした。

 それに遮られて、藍沢は話すのをやめた。

「どうした?」

「ううん、なんでもないわ」

「そうか」

 しばらくして。

 二ノ宮が藍沢の家に入り、ミヤビは二ノ宮に状況を伝えた。

「・・・なるほどな」

 二ノ宮は手帳に状況をまとめる。

「お騒がせしてすみませんでした。ほかの部屋もあるので、画面のない部屋で今日は寝ることにします」

「ああ。万が一何かあれば連絡してほしい。今日はもう遅い。少し落ち着いたら、いろいろ聞かせてほしいこともあるしな」

「明日、事務所に伺います」

「いいのかそんなすぐ? こちらとしては助かるが」

「いえ。二ノ宮さんや水無君にも迷惑かけちゃったので」

「そうか・・・。じゃあ明日だな。ミヤビ、迎え大丈夫か?」

「はい」

「わかった。じゃあ明日だな」

 藍沢に会釈をし、ミヤビは藍沢の家を出た。






 

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