TRICK 5-6
藍沢は、ガーディアンに荒らされた部屋を片付け始める。
動揺しながら、彼女は話し始めた。
「最初、こんなメールが来たの」
ハンターフォンに来たメールを、ミヤビに見せた。そこには霜村静文からのメールがあった。
“渡したいものがある。ガーディアンに関するものだ。気になるなら理科室に来い。”
ミヤビはそれを見て、霜村らしくないな。と感じた。
第一、霜村静文は藍沢と接点があるのだろうか。
「怪しいと思わなかったのか?」
「思ったわ」
「相談してくれれば」
「そうね。この時点で貴方に相談するべきだったと、後悔しているわ」
「別に悔やむ必要はないけど。で、理科室へ向かったと」
「ええ。その時に、コレを渡されたの。“使用はするな。コレを調査しろ”ってね」
藍沢は、霜村名乗る男から受け取った、ガーディアンsimをミヤビに見せる。
「なるほど。けど何故?」
「それは私が一番知りたいわ。何をさせたいのかよくわからないし」
なにか言いかけて、藍沢の言葉が止まった。
「どうした?」
「藍沢が、関わっているかもしれないの」
その言い方は、恐らく会社の事を意味している。
自分自身の性ではなく、藍沢グループとして。
藍沢は、自分の父が経営する会社が、なにか良くないことに手を付け始めているのかと、勘ぐっているのだろうか。
「この、ロゴを見て」
藍沢は持っていたガーディアンsimに刻印されている、見覚えのあるロゴに指を指す。
ハンターフォンに印字された、藍沢エレクトロニクス社のロゴ。それと全く同じものだった。
「ガーディアンsimを、藍沢エレクトロニクスが製造してるってこと?」
「分からないわ。信じたくはないけれど」
声は、震えていた。
しかし、ロゴがあるだけで、事実と断定するには証拠が足りなさすぎる。
「そのsimのデータを第三者が書き換えた可能性だってある。藍沢が直接関わってないかもしれない」
「けど、私に渡した理由って、藍沢の関係者だからって可能性は?」
「……。それは分からない」
《話を戻すけどよ、それでガーディアンsimをお嬢が持ってたから、それにつられてガーディアンが現れたってことか?》
「ええ。たぶん。そして水無君が助けに来てくれた。これ、持っているだけで危険ね。さっきガーディアンに、何故使わないのか聞かれたし」
「霜村先輩が藍沢を、ガーディナイザーにさせようとしていた可能性があると?」
「ええ。たぶん」
「確証がない。本人は今倒れている。すこし、確認させてくれ」
ミヤビは、藍沢が霜村からガーディアンsimを受け取った時刻を確認する。
その後、二ノ宮に電話し確認をとった。
倒れた霜村を運ぶべく、救急車が来た時刻と、霜村から藍沢にガーディアンsimを渡した時刻。
ほぼ、同じ時間だった。
藍沢が動転して時間の記憶違いの可能性だって考えられるけど、その可能性は低い。
じゃあ、この事態を引き起こしているのは、誰だ。
誰が、藍沢にガーディアンsimを渡した?
本当に霜村静文が渡したのか?
「……なにか、変だな」
いろいろ考えようとしたが、結論を急がないことにした。
このことはきちんと、二ノ宮に相談すべきだろう。
すると藍沢が、急に床に倒れた。
ミヤビは慌てて、藍沢の元へ駆け寄る。
「藍沢!? 大丈夫か?」
「え、ええ。腰が抜けちゃったみたい」
「立てるか?」
ミヤビは肩を貸し、藍沢を椅子に座らせる。
「ええ。ごめんなさい。ありがとう」
「もう今は片付けしなくていい。場所を変えよう。他の部屋は?」
「あるわ」
藍沢に肩を貸したまま、隣の空いた部屋に藍沢を座らせた。
「……水無君って、あんな怖いものと戦っていたのね」
藍沢の肩が震えていた。ガーディアンのことだろう。
「これまでだって、現れていただろう?」
「けど、それって貴方に守られていたからだと思うわ。今回は本当に、怖かったもの。本当に死ぬかと思った。息ができなかったし」
「そうか……」
ミヤビは、最初に彼女に会った時の違和感を思い出す。
彼女は、たぶん、取り繕っていた。いや、演じていた。
自分の思い描く、藍沢美月を。だから何か、違和感があったのだ。
どこか、周りの女子と違う感覚がしていた。
だけれどそれは彼女が演じているからであって、今日みたいなガーディアンに襲われたとき、恐怖を感じたのだ。
そしてそれを分かった瞬間、安心した。
彼女もまた、普通の人間であると。
「ははっ」
思わず、口にしてしまった。
「な、何? 私なにか可笑しいこと言った?」
「ごめん、侮辱したつもりはないんだ。怖いもの知らずだと思ったから」
「私だって怖い時は怖いわよ。一人でいたときに、殺意を持った怪物に襲われたんですもの……何故貴方は平気なの?」
その言葉を今の今までそっくりそのまま言おうと思ったことが、これまで何度あっただろうか。
「いや、平気じゃないよ」
「嘘」
「嘘じゃない。すっごい怖いよ、ガーディアンと戦うのは。火炎がいなかったら、死んでたと思うし」
藍沢だけが、怖いわけじゃない。
ガーディアンと毎日戦うのは、怖い。
それに、白いガーディアン。あのガーディアンは恐怖そのものだった。
今の実力じゃ、到底倒せないと感じた。
足が動かなかったのだ。
白いガーディアンの手掛かりを見つけたいと思う気持ちと同時に、あの時感じた恐怖を、打ち破れるかどうかを、日々思っている。
チカラが出せるのも、火炎流星丸というブレイクアバターがいて、こいつがガーディアンと戦ってくれるからだ。
《おうおう、珍しく良いこと言うじゃねーか》
「強いのね」
「強くはないさ。なんだかんだで、コレに依存しているわけだし」
ミヤビは、ハンターフォンを藍沢に見せる。
ハンターフォンと火炎が居なければ、戦う事は出来ない。
ブレイクアバターを召喚する時に、ハンターフォンを破壊しているが、それはあくまでも召喚の動作でしかない。壊れたはずなのに、戦った後はもとに戻る。
改めて考えてみると、なんだか不気味だ。
何度も何度も何度も。
床に叩きつけて、壊して、召喚している筈なのに、召喚が終わると、元の形に戻る。
何か意味があるのだろうか。
「依存、そうなのかしら。私にはなにか意味があるのだろうと思うけど」
ふと、彼女の声色が変わった。
「意味?」
「あなたの言う依存って、俗にいうスマートフォン依存症でしょう? 電車や街に行くと増え続けてる、情報依存症」
「ああ」
「ちょっと気になってたの。何故ブレイクアバターが、スマートフォンを破壊する行為によって召喚されるのかって」
確かに。
スマートフォンを壊して召喚する。
言われてみれば、その行為は不思議だなとミヤビは思った。
「理屈はまだわかんないじゃない?けれど、その行為そのものになにか意味があるんじゃないかって、たとえば、この世間に対するアンチテーゼとか」
「アンチテーゼ……か」
世間の状態がおかしい。
日々の生活でそれを感じた誰かが、ブレイクアバターを作り出したのだろうか。
「電車に乗れば、9割近くの人がスマートフォンをみてる。別に悪い事じゃないけど、言葉では言えない何か、異常を感じるのよ。恐らく開発者も、似たようなことを考えたんじゃないかしら」
「・・・・・・異常か」
自分の祖父母も、そんな光景をみて気味悪がっていることを思い出した。
「けど、そんな異常にしたのは、どこの誰なんだろうな」
「え?」
「たぶん、それしかできないんだよ。きっと」
人が増えすぎたのか。
ミヤビは、東京に始めて訪れた瞬間、閉塞を感じた。
時代が変わったのか。
祖父母は、昔がよかったという。
確かに、祖父母から聞いた話はおもしろそうなこともあったと思う。
ルールが増えたのか。
たとえば、バイクの3ない運動とか。
自分は親父がいたから、あんなおもしろい乗り物にのれているけど、多くの高校生が、そのチャンスを逃してるなんて。とたまに思うときがある。
それは、たぶんバイクに限らずだけど。
きっと、そんなものが一つ一つあって、出来ることが限られてて。
だからみんな、見るしか無くなったのか。
それはわからないけど。
閉塞は、スマホだけじゃない。
何か、別の要因も関係している。
その、言い難い閉塞を、ぶち壊す。そんな意味も込められているのだろうか。
「やっぱ、あなたはちょっと違うわね」
「え?」
「みんなとちょっと違う視点を持っている。初めて会ったときからそう感じたの」
「視点だけだよ。特に何かをしているわけじゃないし」
「しているじゃない。こうして人知れず、未知の生物と戦ってて。”謎”を前向きに追っているわけだし」
「そうかな?」
「うん。私から見た、あなたはそう」
「そうか」
「私は・・・・・」
藍沢は何か言い掛けると、二ノ宮の車の音がした。
それに遮られて、藍沢は話すのをやめた。
「どうした?」
「ううん、なんでもないわ」
「そうか」
しばらくして。
二ノ宮が藍沢の家に入り、ミヤビは二ノ宮に状況を伝えた。
「・・・なるほどな」
二ノ宮は手帳に状況をまとめる。
「お騒がせしてすみませんでした。ほかの部屋もあるので、画面のない部屋で今日は寝ることにします」
「ああ。万が一何かあれば連絡してほしい。今日はもう遅い。少し落ち着いたら、いろいろ聞かせてほしいこともあるしな」
「明日、事務所に伺います」
「いいのかそんなすぐ? こちらとしては助かるが」
「いえ。二ノ宮さんや水無君にも迷惑かけちゃったので」
「そうか・・・。じゃあ明日だな。ミヤビ、迎え大丈夫か?」
「はい」
「わかった。じゃあ明日だな」
藍沢に会釈をし、ミヤビは藍沢の家を出た。




