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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK5 「Suspect」
17/23

TRICK 5-3

「……お帰りなさいませ。旦那様。今夜はどうされますか?」

 藍沢家のロビーに、細身の男性。イタリア製の高級スーツを着こなしている。使用人は男性から荷物を預かり、用件を伺う。

「今夜は葬儀だ。済まないが、夜食はなしにしてくれ」

「かしこまりました。葬儀後は戻られますか?」

「いや、社に戻る。少し厄介な事になっていてな」

 ため息をつきつつ、男性は軽やかに階段を登っていく。

 その会話で気がついたのか、藍沢美月は自室の扉を開け、帰ってきた男性に声をかける。

「お父様……」

 そう、その男こそ。

 藍沢グループのトップ、代表取締役社長の、藍沢稔史(あいざわとしふみ)である。

「美月か。済まないが急に仕事が入って、今日はすぐ出る。何か用事か?」

「い、いえ。何でもありません。」

「そうか」

 稔史はそれ以上何も聞かず、自分の部屋に入っていった。

 美月はその姿を見て、そのまま扉を締める。

「……聞きたかったけれど」

 右手には、霜村静文から渡された、ガーディアンsim。この製造元が藍沢の名前が入っている理由を、直接聞きたかった。けれどよくよく考えれば、これを何処で手に入れたのか、ガーディアンとはなんなのか、逆に説明しないといけないこともあり、自分が行った行動を後悔する。

 だから、あえて聞けなくてよかったと。

 仕事、とは言うけれど、美月は知っている。

 藍沢グループの従業員が亡くなったのだ。

 恐らく父は、その関係で今夜バタバタしているのだろう。

 けど、それをただ見ているだけの自分が嫌で、美月は父に声をかけようと、ガーディアンsimを机の上に起き、父の部屋へ向かう。

 ノックして、入れ。と返事の後、美月はゆっくりと部屋に入る。

「お忙しいところ申し訳ありません。あの、私も」

「ダメだ」

「っ……」

 次の言葉を言う前に、稔史は少し大きな声で遮った。

「ニュースで知ったのか?」

「はい」

「尚更ダメだ」

「けれど、私は!!」

「……これは、“私”と“私の会社”の問題だ、お前が行く必要はない」

「はい……」

 扉を締める。

 確かに、まだ会社に何も貢献していない、一学生の自分が行く理由はない。

 けれど、それでも。

 美月は思っていた。藍沢は、私が継がなきゃいけない。

 だから、こんな問題が起きて、見過ごす訳にはいかない。

 何が起きているのか、知りたい。そして見極めたい。

「用件はそれだけか? 私は出る。お前は家でおとなしくしていなさい」

「……はい」

 稔史はそう言い、家をすぐに出ていった。

 美月は自室に戻り、車に乗り去っていく父を眺めながら、小さなため息をついた。

「お父様……」

 跡継ぎ。

 昔は、藍沢グループの跡継ぎは自分になると、周りから言われ続けていた。

期待の目を向けられ、その期待に答えるように、自分も努力を重ねた。

 しかし、ここ数年、自分の父は、自分をあまり見てくれない。

 それは何故なのかわからないけれど、仕事が忙しいからだと思っていた。

 見てくれないのは自分に実力がないから。

 そう自分に言い聞かせ、見てくれなくなってからも努力を重ねている。

 けど、父が、求めてくれないのならば、自分はもっと努力しなくちゃいけない。

 こんな事、自分ひとりだけで考えても埒が明かないし、本心を自分の父に聞いた上で判断した方が良いと思っている。

 だけれど、そんな会話ですらも暫く出来ていないとなると、いったい自分は何を糧に努力していけばよいのかと、ふと思う。

「考えないようにしていたけれど、私も、もっと考えなくちゃいけないわね」

 水無ミヤビ。

 彼に会って。命を助けてもらって。

 “彼”に、少なからず興味を持ったのは事実だ。

 そして、そんな彼が自分の父を亡くしても、下を向くことをせず前を向いて、進んでいるあの姿も。

「相談、してみようかしら」

 藍沢は、充電していたハンターフォンを取り出した。


 *


「二ノ宮さん、霜村……先輩はどうして倒れたんですか?」

 二ノ宮の車で病院へ向かう途中に、ミヤビは二ノ宮に訪ねた。

 霜村さんと言おうとしたけれど、そういえば自分よりも先輩だったことを思い出して、先輩付けで呼ぶ。

 彼は実力がある筈だ。すくなくともガーディアンと戦っているのは自分よりも長いはず。

 だから、彼が倒れた理由が気になる。

「俺にもわからない。ただ高校教師から連絡があってな」

「高校……? もしかして静華に?」

「ああ。しかもガーディアンに倒されたかどうかも定かではない。ガーディアンノイズが発生しなかったからな」

「!?」

「詳しいことは、静文に尋ねよう」

「はい」

 

 霜村静文が入院している病室を病院の端末で確認し、ハンターフォンに案内情報を読み込む。

 この病院、“受付”に常駐する人は居ない。スマートフォンに用件に関する解答を読み込ませ、それに応じて案内されるような仕組みになっている。人件費を削減しているのだろう。

 スマートフォンがなければ、社会のシステムで活動することが出来ない。

 持っている人からしたら当たり前の行動かもしれないけど、持っていない人からしたら使いづらいことこの上ない。だからこの病院はあまり高齢者には受け入れられていないと、どこかで聞いた記憶がある。

 そんなことはさておき。

 ハンターフォン、もとい火炎が霜村の病室へ案内してくれた。

 ブレイクアバターである火炎、意外とナビゲーションもこなしてくれるらしい。

 少し、煩いが。

「着いたぜ」

 ミヤビは二ノ宮に続き、入室する。

 医師がちょうど、部屋に居たので、軽く会釈をする。

「霜村さんの保護者の方ですか?」

「ええ。先程連絡をいただきまして。二ノ宮と申します」

「担当医の須藤です。よろしくおねがいします。彼の容態ですが、幸い命に別状はありません。ですが、頭部を強い衝撃を受けたためか、軽い脳震盪を起こしており、気を失っている状態です」

「そうですか……」

 ミヤビは、霜村の腕に包帯が巻かれているところを見ると、あきらかに事故というより、戦闘したのだろうかと推察する。

「話せないとなると、記録を見るしかないな」

「二ノ宮は、そばに置いてあった霜村のハンターフォンを取る」

「すみません、このスマートフォン。お借りします」

「わかりました。それではこちらの電子署名に記帳をお願いします」

 医師はタブレットとペンを取り出し、二ノ宮に見せる。記名が終わると、失礼と言って霜村の体の様子を確かめ始めた。

「……切り傷が数箇所。恐らく自分ではなく、他人に傷つけられた跡でしょうか。念の為、警察へも連絡済みです」

 医師が補足する。普通なら触らないで下さいとか言いそうだが、二ノ宮のことを理解しているのだろうか。

「切り傷……。失礼ですが、刃渡りはどれくらいでしょうか」

 お見舞いに来た保護者と言うより、まるで捜査だ。

「かなり、長いと思われます。この傷から察するに、ナイフや包丁などの短いものではなく、30cmくらいの、刀で斬りつけられたと言われたら、納得するくらいの」

「刀……わかりました。もし、彼が目を覚ましたら、ご連絡を」

「当然です」


 その後、二ノ宮は医師にいくつか質問をし、部屋を出た。

「……命に別状がなくてよかったよ。どう思う、水無」

「なんとも言えません。霜村先輩が倒れた箇所を調査してみないと」

 刀のようなもので切り裂かれた傷跡。

 ミヤビが見たガーディアンの爪が残す傷跡とは違うらしい。

 しかしさすがプロだ。傷跡でどんな刃物なのか判別できるなんて。

 霜村静文は、ガーディアンに襲われたのだろうか。

「頼んで良いか。俺はあの学園に入る権限がない。警察でもないから強制調査権限もないしな。俺は俺で、別の路線を調査してみる」

「はい」

 医師から、二ノ宮が倒れた詳細の場所を聞き出し、ミヤビはハンターフォンのメモ機能に記した。

 そしてミヤビは再び二ノ宮の車に乗り、学校へ向かった。

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