TRICK 5-1
藍沢が家に帰る、少し前。
ハンターフォンに、霜村静文から、メッセージが入っていた。
“渡したいものがある。ガーディアンに関するものだ。気になるなら理科室に来い。”
「なにそれ」
上から目線のメッセージ。差出人は確か、研究所に向かう途中に助けてくれた、謎の男。
どんな人かも分かっていないので、迂闊に会うのは避けたほうが良い気がする。
悪い人ではないと思うし、ガーディアンに関するものならば、気にならないと言っては嘘になる。ただ、怪しい。
それに、何故私なのだろうか。そんな疑問を浮かべながら、藍沢は返事もせず、ただそのメッセージを削除した。
そして、放課後。
水無に、相談しようか。
そう思い、鞄をからい、帰ろうとする水無に、声をかけようと思った矢先。
「ねぇねぇ藍沢さんー」
クラスのメンバーが、その行く手を止めた。
「あ……」
結局、水無は帰ってしまった。
「……来たか」
白衣を纏い、黒縁のメガネをかけ、右手に試験管を持った男子が、藍沢を見て言う。
結局、来てしまった。
水無に相談もせずに。
気にならないといえば嘘になるわけだし、それに、自分は見てしまっているのだ。
水無の父親が、自分の目の前で。
必死に隠してはいるけれど、ショックを受けている彼を見ているのが、心もとない。
だから、自分も自分に出来ることを、何かしたかったのだ。
この霜村静文という男は、少なくともそれに何か関係している。
危なかったら、逃げればいい。ハンターフォンのエマージェンシー機能をオンにしているから、何かあればアラートが鳴るはずだ。
「一つ、聞いていいかしら。何故、私のアドレスを知っているの?」
「……それより、これを」
藍沢の質問なんて聞かずに、霜村は小包を藍沢に渡した。
「なにこれ」
「ガーディアンSimだ。ガーディアンを生み出すガーディナイザーが使用する、ウイルスSimだ」
「どういうことよ」
「使用はするな。コレを調査しろ。用は以上だ。さっさと帰れ」
「は?」
「帰れ。用は以上だ」
「……何よ、それ」
自分の用事だけ押し付けて。
霜村から理科室を追い出され、藍沢はため息をついた。
「なんなの、あの男」
再び気になって、理科室の扉を開ける。
するとそこには、誰もいなくなっていた。
「どういうこと……?」
「……どうした、確か、藍沢……美月か」
まるで初めて会ったかのように声をかける霜村静文。
この男は何を言っているのだろうか。とぼけているのだろうか。
わざわざ呼び出して、訳の分からないものを渡した事を渡した挙句、こんな態度を取るのか。
こんなわけの分からない男、関わる必要はないだろう。
「なに、それ。こんなわけの分からないもの、返すわ」
「ん?何だその荷物は」
「もういい!!」
藍沢は、その場を走り去った。
そして、その場に居た霜村静文は、眉間に皺をよせどういうことかと少し考え……
「……まさか」
霜村は、理科室のロッカーを確認しようとした矢先。
『Peeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee』
――モスキート音。ガーディアンだ。
「くっ、こんな時に」
霜村はハンターフォンのメニュー画面に表示される、五芒星のアイコンをタップした。そして、文字が次々と画面に現れ始める。
[BREAK OUT SYSTEM Ver.α]
[Loading…]
[使用者生体認証システム作動]
[認証完了。ユーザー名『シモムラ・シズフミ』、登録済みユーザーです。BREAK AVATOR -Electric Shooter-,の設定ユーザーとの一致を確認。アバターデータをサーバーより読み込み中です。]
[読み込みが完了しました。ハンターサモン画面を起動します]
《Summon Your Hunter!!》
……そういえば、水無のハンターフォンは《Select Of Hunter》だったなと、思い出す。
あいつのハンターフォンは、何か特殊なものなのだろうか。
そんな考えはさておき。
《Electric Shooter, Ready?》
「ブレイクアウト」
《Break Out! Electric Shooter!!》
霜村は、静かにつぶやき、ハンターフォンを垂直に突き落とす。その瞬間、破片が散らばり、その破片が人形に再構成していく。
《Electric Shooter Ver1!! ビリビリ痺れる弾丸ッ!! 完全Shooting!!》
全身を機械で出来た人形。サトラスを召喚する。
「サトラス、索敵しろ」
《Roger》
サトラスの目が光り、周囲の熱源を探し出す。
何かが、何かが、前から来ている。
コツ。コツ。コツ……。
ブーツの音が、ゆっくりと聞こえ始める。
《Lock On》
「撃て」
サトラスの右手からレールガンが射出され、目の前の影を撃つ。
しかし音は絶えることなく、コツ、コツ……と、ゆっくり近づいていく。
「撃て……」
《Roger》
サトラスは何度も撃つ。
しかし、目の前の何かはそれを次々と交わし始める。
電撃を一瞬で交わす。
珍しく、焦る。
しかし、そんなことはいつものことだ。
常に未知のものを相手にしているのだから。
コツ……コツ……。
「何者だ」
「コレ以上、関ワルナ。ガーディアンニツイテ、オ前ハ知リスギタ」
不気味な声が、霜村に話しかける。
こいつ、変声しているのか。
声を低めの声に機械で変声している黒い影が、目の前に現れた。
「……通じないみたいだな。サトラス!!」
《Roger》
「無駄ダ」
黒い影は、ハンターフォンのようなものを取り出した。
こいつ、ガーディアンじゃないのか。
黒い、ハンターフォン。奴が右手に持っているのは、
ハンターフォンはたいてい、白や銀色の形が多い。
《Select of Hunter》
「何だと!?」
音声を聞いた瞬間、耳を疑った。
こいつ、ハンターなのか。
ガーディアンでは、ないのか。
霜村はただただ、驚いていた。
こんなやつ、聞いたことが無い。
黒い影の右手が、ハンターフォンらしき画面をタップする。
《Black Blade Ready?》
「ブレイクアウト」
《OK. Break Out》
黒い影は、端末から手を放す。
そして、端末は砕け散り、人形を形成していく。
《Black Blade Version1. 黒イ、炎ッ!! 真ッ黒なタマーシイッ!》
現れたのは、長髪黒髪の、サムライ。
シルエットは火炎流星丸とそっくりだが、雰囲気がまるで違う。
刀を鞘から取り出す。
殺気を帯びたその目は赤く光り、充血している。
「……消エテモラウゾ。」




