TRICK 5-0
藍沢美月は、家に入ると息をつく。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
使用人がお辞儀をする。
「ええ。ただいま……。お父様は?」
「まだ、戻られていませんが」
「そう。わかったわ」
……この家は、自分には広すぎる。
なにせほとんど、自分一人で住んでいるのと同然なくらい、一人でいる時間が長いからである。
玄関を入ると中世を意識した広い空間に、シャンデリア。
大理石で造られた床。
自分の靴の音が、家の中に響き渡る。
その音が、なんだか空しく感じるのだ。
「どうされますか?」
「……しばらく部屋にいるわ。夕食になったら声をかけて」
「かしこまりました」
藍沢はエントランスの階段をゆっくり上り、自分の部屋に入る。
ハンガーコートにブレザーをかけ、ネクタイを外す。
息をつき、自分の机に座る。
ハンターフォンをグレードルに置き、カバンから数学の宿題を取り出す。
1時間くらいで宿題を終わらせ、背伸びをする。
そして、考えることを先延ばしにしていた、カバンの中の小包を手に取り、机の上に置いた。
「捨てようか、返そうか迷っていたけれど……」
そう言いながら、藍沢美月は小包の包装を開いた。
開いた小包の中には、異様な気配を放つ、一枚のSimカードが入っていた。
——ガーディアンSIM。
何故、これを私に見せたのだろうかと、慎重に確かめる。
これを、スマートフォンに挿せば、怪物が生まれる。
自分のスマートフォンが、怪物に変化してしまうのだ。
そんな危険なものを、なぜあの男は私に託したのだろう。
考えながら、藍沢は気になる印を目にした。
「これって……」
間違いない。
藍沢エレクトロニクス社のロゴだ。
藍沢は飽きるほどこのロゴを見ているから、見間違えるはずなんてない。
考えたくもないことが起きている。
この事件に、少なくとも、”藍沢“が何か絡んでいる。
海賊品であったとしても。藍沢の名を使うからには、何かあるに違いない。
そのロゴを見た瞬間、藍沢美月は初めてあの男に渡された意味を理解した。
これを、私に調べろというのか。
身内を疑えというのか。
少し、藍沢は考えて、simカードを包装材で包みなおし、カバンの中にしまった。
霜村静文。彼は一体、何を考えているのだろうかと。




