TRICK 4-4
the trick trap hunters
4-4
ようやく知ることが出来た、親父が何をしていたのかを。
――セキュリティー会社の執行役員。
職業すら知らなかった親父のこと。
ブレイクアバターsimを自分の荷物に紛れ込ませた理由は分からないけど、やるべき事は決まった。
ミヤビは、"謎”を追うのだ。
スマートフォンにまつわる怪物を。
親父を殺した、白いガーディアンを。
親父は言っていた。VersionをFinalにすれば、白いガーディアンは倒せると。
一体、Versionはいくつあるのだろうか。
契約をして、Version2になった。
これから上のVersionには、どんな条件でなれるのだろうか。
それも同時に、理由を探していかなければならない。
「桜、散っちゃったな」
バイクを止め、学園が見える丘の上の公園へ。
都内にこんな場所があるなんて、知らなかった。
ミヤビは辺りを見回して、地面に舞う桜の花びらを見つめる。
転校して直ぐ、通学路には桜が満開だった。
いろんなことがあって気にしてはいなかったが、いざ散ると儚くなる。
2週ほどしか、咲かなかったはず。
そう考えると、結構レアだよな、桜って。
<ミヤビ……大丈夫か?>
ハンターフォンから火炎の声がする。
ミヤビはポケットからハンターフォンを取り出して、火炎に話しかける。
「何が?」
<いやよ、明日行くんだろ、学校。お前追いつめられてた感じだったし>
火炎がそんなことを言うなんてと、ミヤビは以外に思いつつ、火炎に返答する。
「珍しいな、君が心配なんて。いつも軽口ばかりだと思ってたのに」
<……俺だってたまには心配するさ>
「まあ、追いつめられてるってのは間違っちゃいないかもな。けど、今やらないと、多分このままずっと引きずることになるから」
落ち込むことは何時でも出来る。
けど、自分に力があって、それを使わないと命が脅かされるなら。
自分が経験した様な状況を、他の人間にならないように食い止めたい。
そして、こんなことになったやつを見つけて、ぶっ倒したい。
その思いが、今一番強いのだ。
追い込まれていることは追い込まれているし、転校早々いろいろなことがありすぎて気が動転しているのは確かだ。
けど、"力”を持つ者は、それに惑わされてはいけない。
<なるほどな、自分の状況は理解してんなら、それでいい。……けどえらく落ちついてんな。気持ち悪いくらいに。もっと怒り狂ってるモンだと思ってたぜ>
「怒り、か。たしかにあるけど、それよりも分からないことが多すぎるから、それを知りたいっていう欲が強いかな」
……けど、感情的にならなさすぎるのも、自分でどうかと思ってる。
<たぶん、考え過ぎなんだよ。気楽にいこーぜ。気楽に>
「ああ」
しかし、何か引っかかる。
まるでそんな、感情的な自分が、切り離されたかのようにいなくなっているような、そんな気がするのだ。
こんな事を感じるようになったのは、ここ最近だろうか。
考え出すと止まらない気がしたので、ミヤビはそのへんにしておいた。
バイクにまたがり、エンジンをかける。
公園を去り、探偵事務所へと向かった。
*
ミヤビよりもいち早くたどり着いていたのは、霜村静文だった。事務所の前にモタードバイクを停め、ヘルメット
とグローブを外し、事務所の中へ入る。
「おっ、静文じゃん」
コーヒーカップを片手に、霜村を迎えたのは黒崎だった。
「黒崎先輩……。相変わらずですね」
「相変わらずってなに」
「いや、客人かもしれないのに、コーヒー片手によくうろつけるなと。二ノ宮探偵事務所の名に恥じますよ」
「えーだって静文のバイク音で分かるもん」
「まあ、確かに」
霜村のバイクは改造を施してあり、通常よりもマフラーの音が普通のバイクと異なり、低音が増している。
ガーディアンと戦うバイクなのだから、フルカスタム仕様なのだ。
「ま、上がりなよ。半年ぶりだよね」
「ええ。まあ」
「来たか」
ベストを来た二ノ宮が霜村を迎える。
事務所内に案内し、書類を受け取った。
「……かなりの改変だな。事件を闇に葬り去るつもりか」
書類には、マル秘"情報庁組織再編計画"と書かれていた。
「ええ。白いガーディアンの事件は無かったことにし、当初の関係者すべてをリストラ。あの事件は単なる、第三者の放火による火災事故。そうなっていますから」
「やれやれ。権力ってのは恐ろしいな。んで、どうするんだ?」
霜村はすかさず、透明な袋に入った、傷だらけのsimカードを見せた。
その瞬間、ミヤビのバイクがガレージに入る音がし、ミヤビも戻ってきた。
「おかえりミヤビ君」
「ただいま。……あんた」
ミヤビは、霜村をみてなぜここにいると言い掛けた瞬間、黒崎が話した。
「あんたじゃないよミヤビ君。一応先輩なんだから」
「霜村静文だ。おまえと同じ、ハンターだな」
「よろしくお願いします……」
ミヤビは霜村と握手をする。
いろいろ聞きたいことはあるが、話を遮ってしまったのはミヤビにもわかったので、そのまま続けて下さいと言い、霜村は頷いた。
「これが、ガーディアンを動かしていた、ガーディナイザーのスマートフォンから検出された、simカードです」
「ふむ……。」
二ノ宮はそれを受け取り、持っていたスマホで写真をとった。
「ようやく現物が確認できたな」
「ええ。恐らく。そしてこれを売りさばいている、ブローカーがいることも」
「ブローカー?」
ミヤビは初耳だった。黒崎が解説をする。
「ガーディナイザーになるためのガーディアンsimを売りさばいている闇の証人ってとこ。私たちはその足取りを探していて、根元を絶とうとしてるの」
「だな。その手がかりとして、ガーディアンsimの本物を手に入れたのは大きい」
ミヤビは、霜村が持つガーディアンsimをまじまじと見つめた。
こんな小さなカード1つで、あんな凶暴な怪物を生み出してしまうなんて。
そう考えると、なんだか恐ろしい。
けどそれは逆に、召喚している火炎にも言えることだ。
こんな小さなカードで、どうして人と同じサイズになるのだろうか。
しかしそれよりも気になるのは、ブローカーの存在だ。
そんな商人が居るとなると、ますます“事件”というものに近い気がする。
「……静文君、そのガーディアンsimの原理、ある程度わかっている範囲で整理してみるか」
「はい。このガーディアンsimの流通経路は不明ですが、ブレイクアバターと同様の原理で動いていることは分かっています。これを」
霜村はハンターフォンを取り出し、4人の中央に立体映像を移す。
ハンターフォンには、ホログラム映像を反映する技術も入っているのだ。
そこには、スマートフォンに、ガーディアンsimを入れる一人の男の姿が。
「ガーディアンsimは一言で現すならば、超強力なコンピュータ・ウイルスです。対象のスマートフォンを一瞬で感染させ、対象をガーディナイザーにします」
「ガーディナイザー……。ガーディアンを操る者か」
「ええ。そして、ガーディアンsimでハッキングされたスマートフォンから、周辺の機器の動作に影響が出る、妨害電波ガーディアン・ノイズが発せられます」
――妨害電波。
あの、スマートフォンが赤い画面になる現象は、ガーディアンsimによるものだったのだろうか。
しかし、1つのスマートフォンから大量の機器に影響が出る電波が出るのならば、少なくとも人体に何か影響はしないのだろうか。
電波の仕組みをあまり知らないけれど、なんとなくミヤビはそう感じた。
「……ガーディアン・ノイズは周囲の人間に影響は出るんですか?」
「影響か。全く出ないといえば嘘になる。一時的にだが、頭痛や吐き気のような症状を出す影響もある」
「そして、ガーディアンに“認知”されてあの空間に引きずり込まれる」
「ああ」
「その原理って、その“妨害電波”によるものなんですか」
「……断定は出来ていないが、影響はしているだろうな」
まるで隔離されたかのような空間。
ガーディアンが現れると、自分たちだけその空間からまるで切り離されたような感覚になり、周囲から全く人の気配が無くなる。
それが単なる電磁波のようなもののせいなら、安直すぎる気がする。
それくらいあの空間は異様なのだ。
一番最初に東京に来て目撃した、おぞましい光景。
血塗られたスマートフォンから、這いずりだす手。
火炎……ブレイクアバターの仕組みもそうだけれど、説明がつかない事象が次から次へと起きて、その状況に慣れつつあったけれど、今改めて考えてみると自分がいかに異常な状況に取り込まれているのかを再認識する。
異常が日常。そんな言い方はおかしいけれど、色々なことがありすぎて、何処か慣れてしまったのかもしれない。
「ガーディアンの仕組みについては謎が多いですが、現状理解している範囲を言いました」
「ありがとう。さて、静文。聞かせてもらおうか……」
コーヒーを置き、二ノ宮が霜村に尋ねる。
「田中貞夫。捜査の結果はどうたったのか?」
「身分証明書と顔、警察のDNA鑑定結果も一致でした」
霜村が見せたファイルには田中貞夫の顔写真が写っていた。
「これは……」
間違いない。新聞に掲載されていた田中で、さらに自分達を襲ったガーディナイザーは……
「やはり、死んでいた人間だったということか」




