TRICK 4-3
――騒動から1週間後。
煮え切らない部分はあるが、気持ち的に少しは落ち着いてきた。
テレビは、情報庁崩壊のニュースでもちきりだ。
被害総額は何十億円とか。あの爆発でかなりの機械がやられていたらしい。
ミヤビは、二ノ宮と黒崎と、そのニュースを見ながら夕食を食べていた。
学校は1週間休むことを許され、親父の葬儀やら、身辺整理やら、警察の事情聴取やら。
休みを貰ったは良いものの、慌ただしい1週間だったと思い返す。
「……ようやく、落ち着いたな」
死亡者は1名。自分の親父だけだった。
何故親父だけ。と考えてしまうこともあったが、仕方がない。
「はい。これからが大変でしょうけど」
黒崎は、お茶を淹れ、ミヤビと二ノ宮に渡す。
「あの、二ノ宮さん」
ミヤビは、あの瞬間決意したことは、今も変わっていない。
親父を、この事件の“謎”を、追うって決めたのだ。
聞かなきゃいけない。親父が何をしていたのか。
聞かなきゃいけない。これから何をすべきなのか。
「どうした?」
「前に、調査の協力をしてほしいって、俺に頼んだじゃないですか」
「ああ」
「俺、協力します。俺にしか出来ないことあるし。それに、親父が何をやっていたのか、あの白いガーディアンがなんだったのか、探し出して、仇を取りたいんです」
ミヤビはまっすぐに、二ノ宮を見る。
「いいのか? こんな状況になっているのに」
「こんな状況だからこそです。俺は決めました」
「……わかった。ありがとう。その言葉を待っていた」
「だから教えてください、親父がこれまで、“何を”していたのか」
お茶を飲み、湯呑みを置いた二ノ宮は、話を始めた。」
「良いだろう。君の親父さんは、元々はインターネットセキュリティー会社の執行役員だった」
「!?」
インターネットセキュリティー会社、それも執行役員だったなんて。
偉い人だったのかと、ミヤビは思った。
「国家レベルの案件を扱う会社だったから、身分を明かせなかったんだ」
「初耳です。家でパソコン持ってくることもなかったのに」
「恐らく、君に仕事を悟られてほしくなかったんだろうな」
「どういうことです?」
「……国家レベルの“情報”を取り扱っていた努さんは、家族にすら仕事の話は出来ない。もし何か起きたら、責任問題どころか、会社が倒産するレベルにあるからね。さらに、仕事の話が原因で、家族に危険が及ぶ恐れだってある。それくらい、“機密情報”を取り扱っていた」
「そんなの……」
「欠片も見せなかっただろう? 仕事関係の道具は全て家に置いていないからな」
「それなら何故」
情報庁の職員になったのだろうかと、ミヤビが言いかけた瞬間、二ノ宮は話す。
「1年前、努さんの会社の従業員が努さん以外全員、死亡したんだ。何者かによる殺害で」
「えっ……」
全員が、死亡?
一体、何があったのだろうか。
「原因は今俺達が直面している、“ガーディアン・ウイルス”によるものだった。実体化するウイルスなんて当初は誰も信じなかったから、事件はお蔵入りのまま。憤りを感じた努さんは、“ほぼ一人”で、ガーディアンについての謎を探り始めたんだ」
「けどそんなに死んだなら、ニュースになってても……!!」
そうやって二ノ宮が見せたのは、一枚の小さい新聞記事。
従業員が一人を除き全員死亡って、かなり大きなニュースのはずなのに、ベタ記事で、小さく書かれている。
「“情報統制”だな。ネットニュースにも上がること無く、今時新聞を見る人もいないから、当時はそれほど騒ぎにはならなかった。だからこそ努さんは、悔しかったんだ」
「そんな素振り、見せたことないのに」
けど、ミヤビは思うフシがある。
二ノ宮が明示した新聞記事の日付あたりから、仕事が忙しいという理由で、あまり顔を合わせなくなった。
この事実を伝えられた今なら、合点がいく。
「ガーディアンの研究をしていた努さんを、俺は縁あって当初からサポートしていた。誰も信じられない事件が起きているからな。有力な証拠は何もない。あるのは割れた画面と、若い人に聞こえるモスキート音のみ。それでも俺達は足掻いた」
「モスキート音……」
若者ににしか聞こえない、高周波の音だ。
そういえば、ガーディアンが現れる際、いつもモスキート音が鳴っている。
「そんな日々が続いて、数ヶ月後、努さんはある発見をしたんだ。“ブレイクアバター”をね」
「ブレイクアバター」
自分のハンターフォンを見つめ、画面越しに火炎を眺める。
これを、親父が見つけたというのか。
「それをどこから入手したのかは、努さんは聞かせてくれなかった。ただ、これがあることで、“ガーディアン”の謎を解消する手がかりになる。そう、伝えられてね」
「そうだったんですか……けど、どうして親父は、こんなことになっても言わなかったんだ……?」
どういう意図で自分の荷物に、ブレイクアバターSimを紛れ込ませたのだろう。
ガーディアンに近づけたくないのだとしたら、“間違えた”で済むようなことで自分に持たせるような真似、するのだろうか。
それに、電話での親父は淡白で、あまり大事なものというような感じはしなかった気がする。
それすら、わざとだったのだろうか。
今となっては、分からない。
けれど、それを知っていたのなら。
二ノ宮は何故自分に言わなかったのだろうかと、ミヤビが言おうとしたその時。
「君が謎に迫りたいと言わない限り、言わないつもりでいたんだ」
「……」
「人間に危害を加え、実体化するコンピュータウイルス、“ガーディアン”。それを駆除し、人間を守るための存在、アンチウイルスAI、“ブレイクアバター”。これは努さんが作ったものではなく、発見したんだ。だからそのブレイクアバターの謎を迫れば、きっとガーディアンの謎を深めることが出来ると」
「じゃあ、何故、俺の荷物の中に、そんな大切なものが入っていたんですか!!」
尚更そうだ。
親父が火炎を使って、ガーディアンを倒せばいいだけの話だったんじゃないのか。
「……その理由は、俺には分からない」
「親父は、かつての仕事仲間が死んで、その原因を探るために、情報庁に勤めてたって事ですか」
「概ね、その理解で相違ないだろう。情報庁は元々努さんが当初から仲良くしていた総務省の職員の紹介が大きい。なにせ、情報庁特別捜査局の、主任研究員だったからな。」
二ノ宮は、そう言って情報庁のロゴ入りの親父の名刺を見せた。
ミヤビは初めて、親父がどのような仕事をしていたのか、この日初めて知ることになった。




