TRICK 4-2
霜村静文は、粉々に砕け散ったスマホを見て、息をつく。
自分とは違う属性だったが、やれるものはなんとかなるということを。
粉々になり、消えてくガーディアンの体を確認した後、ハンターフォンを元の形に戻す。
田中貞夫は手遅れだった。
既に侵食が進み、心臓部分までガーディアンウイルスに侵食されていた。
このままでは、Version3になる可能性だってあり、危険だと感じた霜村は、容赦なくガーディアンを倒した。
風に舞うガーディアンの欠片の一部をプラスチック製の管に入れ、蓋をした。
周囲を確認すると、ブレイクアバターSimと形が似ていて、それ単体が異様な煙を放つ、一枚のSimカードを見つけた。霜村はそれを手に取り、ジャケットの内ポケットに格納する。
「ガーディナイザーに配られたガーディアンSim。これでブローカーの正体が探れると良いが」
「しかし……何が起きている?」
胸騒ぎがする。霜村は研究所の方を見ながら、何か嫌な予感がしていた。
いや、空が晴れてきているから、もう出来事は終わったのだろう。
間違いなく、研究所で何かが起きた。
確かめる必要があるだろう。
霜村はヘルメットを被り、モタードバイクのエンジンをつけ、研究所方面へと向かった。
*
高速道を走り抜け、次第と空が晴れやかに鳴っていくことに気づく。
藍沢はハンターフォンを取り出し、画面が赤くならなくなっていることを確認した。
どうやら、ガーディアンによる停止現象は収まったようだ。
二人乗りのバイクでの会話は風の音で聞こえないが、ミヤビと藍沢が被っているヘルメットにはインカムがあり、それで話すことが出来た。
「終わったようね」
「ああ」
「……その、大丈夫?」
「何が?」
「貴方の、お父様のこと」
「正直、受け入れていないよ」
次第と周りに車が出てきて、いつもの風景になった。あたりはすっかり暗くなっている。
時刻はAM3:00と、普通の高校生なら寝ている時間だ。
アドレナリンが出ているせいか、全然眠くない。
むしろ、時間を見てこんな時間かと思うくらいだ。
ミヤビはICの出口を確認した後、バイクを進路変更させ高速道を降りた。
「そう……。この後はどうするつもり?」
「そのまま帰りたい、ところだけど」
「ええ」
「ちょっと、海が見たい」
気分的にそうだった。
このまま帰ってもいいが、どうも気持ちの整理がつかない。
こんな時は、海を見るに限る。
「構わないわ」
降りた場所は舞浜の海浜公園近くだったようで、夜間でも開いている公園へバイクを止める。
藍沢とミヤビはバイクを降り、ヘルメットを外した。
「千葉にこんな海浜公園があるなんてね。聞いてはいたけれど」
「俺も初めてさ」
「……いい景色ね」
あたりに人は誰もいない。
二ノ宮に連絡を入れ、すこし遠回りしてから帰ることを伝えた。
向こうは向こうで、警察とのやり取りがあるようだった。
たぶん、自分も事情聴取とか、受けないといけないかもしれない。
けれどそんなことより、まずは気持ちの整理をつけたかった。
親父の死。
数時間しか立っていないから、まだ現実のものと認識していない。
けれど、次第と、次第と……。
ミヤビの脳裏から、あの光景が頭から離れない。
「ああ。小さい頃からさ、なんか辛いことが合ったら、親父がツーリングに連れて行ってくれて、よく海に連れて行ってもらってさ」
原風景というのだろうか。
なんだか、海を見ているとかつての親父と自分を思い出す。
さざ波の音で、思い出される、親父との思い出。
「そう……いいお父様ね」
「最近はそんなこともなくなったけど」
「それでも、貴方に対しての思いは、変わらなかったと思うわ」
「どうして?」
「気を悪くしたのなら謝るわ。けれど少なくとも、私から見て貴方のお父様は、理想のお父様だったと思う。正直羨ましいくらいよ。息子のためにあんなにいいバイク用意してくれてるなんて」
「……確かに」
サプライズ。そう二ノ宮さんは言っていた。
東京に来て。
二ノ宮探偵事務所に来て。
全く会話もないまま、親父は何をしていたのだろうか。
そんなことを考えながら、一ヶ月近く過ごしてきた。
本当に何をしてきたのか、わからないままだけど。
これは確実に言える。
親父は、一日たりとも親父じゃなかった日は、なかったんだって。
事情があるなら話してほしかったけれど、あんな事情、聞いたって自分は信じないはずだ。
正体不明の怪物に襲われる危険性があるから、東京に連れてきた。なんて。
今の力を手に入れる前なら、何か別の病気にでもかかったんじゃないかとおもうくらい。
だからミヤビは、そんな親父が何を思って、何をしてきたのか。
こんな立派なバイクをプレゼントしてまで。
――ミヤビ、お前はお前の人生を生きろ。俺にもう、囚われるな
親父はそう言った。たしかにそうだったかもしれない。
自分は、自分自身は。こんな騒動を心の何処かで、“親父のせい”にしてきたきらいがある。
こんなに息子を思ってくれているのに。
それが誤解として、自分勝手な親父だと認識していた。
囚われるな……か。
「謎を残したままだとか、気持ちが悪いよな」
わからないことが多すぎる。
ブレイクアバター、ガーディアン。そして親父を殺した白いガーディアン。
――ここからはお前の選択だ。普通に日常に戻るか。それとも今の火炎をVersionアップして、倒すか。お前が決めろ。父さんは、お前に危ない思いはさせたくない。
裏切ったと思っていた。見捨てられたと思っていた。
だが全てが自分を守るための口実だったなんて、言われるまで分かるはずがない。
研究所のあんな光景を見て。
ガーディアンが人間の命を脅かすのを見て。
それを倒すための力が自分にあるのに、このまま何もしないで終わる?
そんなこと、出来るわけ無い。
「決めた。俺は、俺の選択で、“謎”を追う」
立ち直りの早さに、藍沢は驚くも、決心したミヤビを見つめ、頷く。
「ええ。私も出来ることは協力したい。なんだって貴方は私の、命の恩人なのだから」
「そんな義理堅く」
「いえ。貴方は自信を持っていいわ。人を救う力があるもの。それも人の心を揺れ動かすまでに」
藍沢は、まっすぐにミヤビを見つめる。
その瞳に、ミヤビは思わずびっくりする。
「どういうことだ?」
「なんでもないわ。気にしないで」
「あ、ああ……ありがとう。寄り道した甲斐、あったよ」
「ええ。戻りましょう」
「送ってくよ。電車もないし」
「ありがとう」
バイクに跨り、エンジンをつけ、藍沢を乗せる。
運転するミヤビの背中を見つめながら。藍沢はヘルメットのシールドに水滴がついていることに気付いた。
雨が降っているわけではない。
藍沢は、すぐにわかった。
ミヤビは、泣いているのだ。
自分の肉親を亡くして、ようやく心を落ち着かせた用に見せても、強がっていたのだ。
その表情を、こちらに見せたくないのだろう。
隠しているつもりなのだろう。
藍沢はそんなミヤビを、気付かないフリをして、ミヤビも人間らしいところがあると、少し安心した。
出会った時は、まるでロボットのように落ち着いていて、心情の変化も見せなかったのに。
心情の変化を見せないのは、最近の高校生も同じかもしれないけれど、彼からは喜怒哀楽がないように見えたのだ。ただ淡々と喋り、淡々と行動する。それがクールな青年と、第一印象では受け取る人も多いだろう。だけど藍沢は、そんな彼の奥底にある、真の表情を確かめてみたくなったのだ。
そんな表情の一面を、藍沢は見ることが出来て少し安心した。
命の恩人である彼を、支えていこう。
自分には力がないけれど、支えていこう。
彼がそれに対してどう思うかはわからないけれど、藍沢は、この瞬間、そう決心したのだった。
「ありがとう。ここで良いわ」
「……ああ」
こちらの顔を見ようとしない。そっぽを向いている。
変なところで強がりなのだと、藍沢は思って思わず吹き出した。
「な、なにがおかしい?」
「い、いえ。何でもないわ。これからが大変でしょうけど、お互い、頑張りましょう」
「あ、ああ……」
「じゃあ。また」
「おう」
テールランプが流れるように消えていく。
藍沢はその光景を見つめ、自分の家を見る。
「……水無君は水無君での問題があるように、私も、私の問題があるわね」
そう、独り言を呟きながら、大きな家の門を開いた。




