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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK4 「Awakening」
11/23

TRICK 4-2

 霜村静文は、粉々に砕け散ったスマホを見て、息をつく。

 自分とは違う属性だったが、やれるものはなんとかなるということを。

 粉々になり、消えてくガーディアンの体を確認した後、ハンターフォンを元の形に戻す。

 田中貞夫は手遅れだった。

 既に侵食が進み、心臓部分までガーディアンウイルスに侵食されていた。

 このままでは、Version3になる可能性だってあり、危険だと感じた霜村は、容赦なくガーディアンを倒した。

 風に舞うガーディアンの欠片の一部をプラスチック製の管に入れ、蓋をした。

 周囲を確認すると、ブレイクアバターSimと形が似ていて、それ単体が異様な煙を放つ、一枚のSimカードを見つけた。霜村はそれを手に取り、ジャケットの内ポケットに格納する。

「ガーディナイザーに配られたガーディアンSim。これでブローカーの正体が探れると良いが」

「しかし……何が起きている?」

 胸騒ぎがする。霜村は研究所の方を見ながら、何か嫌な予感がしていた。

 いや、空が晴れてきているから、もう出来事は終わったのだろう。

 間違いなく、研究所で何かが起きた。

 確かめる必要があるだろう。

 霜村はヘルメットを被り、モタードバイクのエンジンをつけ、研究所方面へと向かった。

*

高速道を走り抜け、次第と空が晴れやかに鳴っていくことに気づく。

 藍沢はハンターフォンを取り出し、画面が赤くならなくなっていることを確認した。

 どうやら、ガーディアンによる停止現象は収まったようだ。

 二人乗りのバイクでの会話は風の音で聞こえないが、ミヤビと藍沢が被っているヘルメットにはインカムがあり、それで話すことが出来た。

「終わったようね」

「ああ」

「……その、大丈夫?」

「何が?」

「貴方の、お父様のこと」

「正直、受け入れていないよ」

 次第と周りに車が出てきて、いつもの風景になった。あたりはすっかり暗くなっている。

 時刻はAM3:00と、普通の高校生なら寝ている時間だ。

 アドレナリンが出ているせいか、全然眠くない。

 むしろ、時間を見てこんな時間かと思うくらいだ。

 ミヤビはICの出口を確認した後、バイクを進路変更させ高速道を降りた。

「そう……。この後はどうするつもり?」

「そのまま帰りたい、ところだけど」

「ええ」

「ちょっと、海が見たい」

 気分的にそうだった。

 このまま帰ってもいいが、どうも気持ちの整理がつかない。

 こんな時は、海を見るに限る。

「構わないわ」

 降りた場所は舞浜の海浜公園近くだったようで、夜間でも開いている公園へバイクを止める。

 藍沢とミヤビはバイクを降り、ヘルメットを外した。

「千葉にこんな海浜公園があるなんてね。聞いてはいたけれど」

「俺も初めてさ」

「……いい景色ね」

 あたりに人は誰もいない。

 二ノ宮に連絡を入れ、すこし遠回りしてから帰ることを伝えた。

 向こうは向こうで、警察とのやり取りがあるようだった。

 たぶん、自分も事情聴取とか、受けないといけないかもしれない。

 けれどそんなことより、まずは気持ちの整理をつけたかった。

 親父の死。

 数時間しか立っていないから、まだ現実のものと認識していない。

 けれど、次第と、次第と……。

 ミヤビの脳裏から、あの光景が頭から離れない。

「ああ。小さい頃からさ、なんか辛いことが合ったら、親父がツーリングに連れて行ってくれて、よく海に連れて行ってもらってさ」

 原風景というのだろうか。

 なんだか、海を見ているとかつての親父と自分を思い出す。

 さざ波の音で、思い出される、親父との思い出。

「そう……いいお父様ね」

「最近はそんなこともなくなったけど」

「それでも、貴方に対しての思いは、変わらなかったと思うわ」

「どうして?」

「気を悪くしたのなら謝るわ。けれど少なくとも、私から見て貴方のお父様は、理想のお父様だったと思う。正直羨ましいくらいよ。息子のためにあんなにいいバイク用意してくれてるなんて」

「……確かに」

 サプライズ。そう二ノ宮さんは言っていた。

 東京に来て。

 二ノ宮探偵事務所に来て。

 全く会話もないまま、親父は何をしていたのだろうか。

 そんなことを考えながら、一ヶ月近く過ごしてきた。

 本当に何をしてきたのか、わからないままだけど。

 これは確実に言える。

 親父は、一日たりとも親父じゃなかった日は、なかったんだって。

 事情があるなら話してほしかったけれど、あんな事情、聞いたって自分は信じないはずだ。

 正体不明の怪物に襲われる危険性があるから、東京に連れてきた。なんて。

 今の力を手に入れる前なら、何か別の病気にでもかかったんじゃないかとおもうくらい。

 だからミヤビは、そんな親父が何を思って、何をしてきたのか。

 こんな立派なバイクをプレゼントしてまで。


 ――ミヤビ、お前はお前の人生を生きろ。俺にもう、囚われるな


 親父はそう言った。たしかにそうだったかもしれない。

 自分は、自分自身は。こんな騒動を心の何処かで、“親父のせい”にしてきたきらいがある。

 こんなに息子を思ってくれているのに。

 それが誤解として、自分勝手な親父だと認識していた。

 囚われるな……か。

「謎を残したままだとか、気持ちが悪いよな」

 わからないことが多すぎる。

 ブレイクアバター、ガーディアン。そして親父を殺した白いガーディアン。


 ――ここからはお前の選択だ。普通に日常に戻るか。それとも今の火炎をVersionアップして、倒すか。お前が決めろ。父さんは、お前に危ない思いはさせたくない。

 

 裏切ったと思っていた。見捨てられたと思っていた。

 だが全てが自分を守るための口実だったなんて、言われるまで分かるはずがない。

 研究所のあんな光景を見て。

 ガーディアンが人間の命を脅かすのを見て。

 それを倒すための力が自分にあるのに、このまま何もしないで終わる?

 そんなこと、出来るわけ無い。

「決めた。俺は、俺の選択で、“謎”を追う」

 立ち直りの早さに、藍沢は驚くも、決心したミヤビを見つめ、頷く。

「ええ。私も出来ることは協力したい。なんだって貴方は私の、命の恩人なのだから」

「そんな義理堅く」

「いえ。貴方は自信を持っていいわ。人を救う力があるもの。それも人の心を揺れ動かすまでに」

 藍沢は、まっすぐにミヤビを見つめる。

 その瞳に、ミヤビは思わずびっくりする。

「どういうことだ?」

「なんでもないわ。気にしないで」

「あ、ああ……ありがとう。寄り道した甲斐、あったよ」

「ええ。戻りましょう」

「送ってくよ。電車もないし」

「ありがとう」

 バイクに跨り、エンジンをつけ、藍沢を乗せる。

 運転するミヤビの背中を見つめながら。藍沢はヘルメットのシールドに水滴がついていることに気付いた。

 雨が降っているわけではない。

 藍沢は、すぐにわかった。

 ミヤビは、泣いているのだ。

 自分の肉親を亡くして、ようやく心を落ち着かせた用に見せても、強がっていたのだ。

 その表情を、こちらに見せたくないのだろう。

 隠しているつもりなのだろう。

 藍沢はそんなミヤビを、気付かないフリをして、ミヤビも人間らしいところがあると、少し安心した。

 出会った時は、まるでロボットのように落ち着いていて、心情の変化も見せなかったのに。

 

 心情の変化を見せないのは、最近の高校生も同じかもしれないけれど、彼からは喜怒哀楽がないように見えたのだ。ただ淡々と喋り、淡々と行動する。それがクールな青年と、第一印象では受け取る人も多いだろう。だけど藍沢は、そんな彼の奥底にある、真の表情を確かめてみたくなったのだ。

 そんな表情の一面を、藍沢は見ることが出来て少し安心した。

 命の恩人である彼を、支えていこう。

 自分には力がないけれど、支えていこう。

 彼がそれに対してどう思うかはわからないけれど、藍沢は、この瞬間、そう決心したのだった。


「ありがとう。ここで良いわ」

「……ああ」

 こちらの顔を見ようとしない。そっぽを向いている。

 変なところで強がりなのだと、藍沢は思って思わず吹き出した。

「な、なにがおかしい?」

「い、いえ。何でもないわ。これからが大変でしょうけど、お互い、頑張りましょう」

「あ、ああ……」

「じゃあ。また」

「おう」

 テールランプが流れるように消えていく。

 藍沢はその光景を見つめ、自分の家を見る。

「……水無君は水無君での問題があるように、私も、私の問題があるわね」

 そう、独り言を呟きながら、大きな家の門を開いた。




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