表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/143

2-7 不死身の天使長はお好きですか?

「ぶーん」


 幸いだったのは、観客席を囲う手摺(てすり)がフランの背丈よりも遥かに高かったことだ。


 眼下のアリーナで起きた惨劇など知る由もなく、フランは俺から受け取ったミニカーを座席の上で走らせている。小さな手に押された車輪が、無邪気な音を立てた。


「――決まった!」


「マジか……」


「やっぱ陽奈乃様つえー!」


「けど……雨ノ宮様、大丈夫なのか……?」


 一千万人の観客が、一斉に騒めき立つ。


 無理もない。


 陽奈乃の右腕は天音の腹部を完全に貫通していた。純白だったメイド服は血に染まり、腹部と背中からは止め処なく鮮血が流れ落ちている。


 常人ならば、既に命を落としている。


 だが――。


「――ふふ、仮にも私は世界二位なんですよ?」


 腹に巨大な風穴を空けられた当人が、不敵に微笑んだ。声音に震えはない。痛みに顔を歪めることすらない。


 陽奈乃が目を見開く。


 その刹那、天音の背後で待機していた四つの〈アクアリアス〉が、一斉に注ぎ口を陽奈乃へ向けた。青白い聖水が(はし)る。


「――っ!?」


 四本の水流が陽奈乃の身体へ絡み付き、その身体を天音から強引に引き剥がした。


 引き抜かれた右腕の跡から鮮血が噴き出す。


 直後、陽奈乃の身体は聖水に呑まれたまま、凄まじい勢いで地上へ叩き落とされた。


 轟音。アリーナの大地が陥没し、砂塵が円形に弾け飛ぶ。


 衝撃が〈継戦ノ結界(バリア)〉を揺らし、透明だった壁面へ無数の正六角形を浮かび上がらせた。


 ――地面へ叩き付けられた衝撃だけじゃない。


 〈アクアリアス〉の聖水そのものに、天音がこれまで治癒してきた損傷が蓄積されている。触れた時点で、陽奈乃の肉体には外見からは判別できない程のダメージが流し込まれているはずだ。


「うぐっ……流石ね……。あまねえ」


 陥没した地面の中心で、陽奈乃が苦しげに息を吐いた。両腕を地面へ突き、震える膝を立てる。全身を襲う痛みに顔を歪めながらも、辛うじて立ち上がった。


 その視線の先。天音は、六枚の翼を広げたまま宙へ浮かんでいる。腹部に空いていた大穴が、見る見るうちに塞がっていく。断裂した肉が繋がる。臓器が再生する。白い肌が傷口を覆い、血に染まっていたメイド服までもが、時間を巻き戻すように純白を取り戻した。


 数秒後。そこには、傷一つない天音がいた。


「マジかよ……!あれが……第二席……!」


「夢でも……見てるのか……?」


「あんな傷……常人なら死んでるぞ……!」


 観客の驚愕が収まるより早く、〈アクアリアス〉が再び動く。四つの注ぎ口から聖水が放たれた。地上の陽奈乃へ、青白い流線が四方から殺到する。


 陽奈乃は地面を蹴った。全身を光へ変え、一瞬で上空へ跳び上がる。


 四本の水流が、その残像を貫いた。


 だが、外れた聖水は止まらない。空中で蛇のように進路を変え、陽奈乃の背後を追い始める。


 上昇。急降下。直角に近い方向転換。


 陽奈乃は空を縦横無尽に駆けながら、執拗に追い縋る聖水を紙一重で回避し続けた。


 光速を謳う陽奈乃の身体を、それでも水流は逃がさない。


「マ……マジかよ、姉御ォ……!陽奈乃のアレ喰らってピンピンしてんのかよォ……!」


「理論上、雨ノ宮女史に勝利できる者は存在しないのかもしれませんな……」


「あァ?どういうことだァ?」


「例えば——」


 俺は、陽奈乃を追って天空へ伸びていく四本の水流を見つめた。


「〈天衡(テミス)〉の仕様上、俺は天音には絶対に勝てない」


「あァ!?ボスでも姉御には勝てねェってのかよォ!?」


 〈天衡(テミス)〉によって定める掟。それを破った者へ、俺は罰を与えられる。だが、罰として直接的な死を指定することは出来ない。


 対する天音は、即死しない限り、〈聖癒(ラファエル)〉によってどれほど深刻な傷でも瞬時に治癒出来る。腕を落としても。腹部を抉っても。心臓が動いている限り、何度でも元通りになる。


「天音を倒そうと思えば、一撃必殺しかないからな。〈天衡(テミス)〉で直接的な死を(もたら)す罰を指定出来ない俺には絶対に勝てない相手だ」


「マジかよォ……!そういやトレーニングのときも……あんなに姉御は動いてたのに、全然疲れてなかったぞォ」


「体力やスタミナの消耗もダメージと捉えて回復できるからな……。つまり体力切れやスタミナ切れもない」


 天音には、疲労という概念すら存在しない。


 傷付かない。疲れない。攻撃を受ける程、その損傷を〈アクアリアス〉へ蓄積し、相手へ返すことが出来る。長期戦になればなる程、天音だけが一方的に有利になる。


「むむっ!閃きましたぞ!」


 拓生が人差し指を立てる。


「〈天衡(テミス)〉で『回復を禁ずる』という掟を定め、雨ノ宮女史の治癒を阻止するのはいかがですかな?」


「それ自体は可能だと思う」


「では――」


「だが、天音は空を飛べる。〈エフェメラリズム〉の射程外まで上昇し、そこから〈アクアリアス〉で一方的に攻撃されたら終わりだ」


 そもそも、掟を破らせなければ罰は発動しない。回復を禁じても、天音が傷付かなければ意味がない。飛行能力と遠距離攻撃を併せ持つ天音を相手に、俺が有効打を与えられる状況そのものが想像しづらかった。


「そんな機会はないだろうが……天音と本気で殺し合うことになったなら、一撃で心臓か脳を潰すしかないだろうな」


「天音さん、さすが〈十傑〉・第二席ですねーっ!」


「『言うは(やす)く、行うは(かた)し』ですな……」


「かたし?拓生のダチかァ?」


「相も変わらずアホですな……」


「アタイはアホじゃねェ!」


「一番怖いのは竜歌に選挙権があることだな……」


 だが次の瞬間、アリーナ上空を青白い光が縦断し、俺達の意識は強制的に戦場へ引き戻された。


 陽奈乃が、急上昇と急降下を何度も繰り返している。迫り来る聖水を、上へ、下へ、左右へと振り切りながら、少しずつ天音との距離を詰めていく。その速度は、最早(もはや)、速いという言葉では表現出来ない。


 俺の目には陽奈乃の姿が消え、別の場所へ突然現れているようにしか映らなかった。


「日向女史も……凄まじいですな……!」


「おォ!陽奈乃も意味わかんねェくれェ強ェからなァ!」


 質量を持つ物体は光速へ到達出来ない。旧世界の科学では、それが絶対の原則だった。


 仮に近付くことが出来たとしても、必要なエネルギーは際限なく増大し、肉体も周囲の空間も無事では済まない。


 だが陽奈乃は、それら全てを無視している。物理法則を知らないのではない。陽奈乃の神話級ユニークスキル・〈天照(アマテラス)〉が、物理法則そのものを捻じ伏せているのだ。


 それこそが、「#ぶっ壊れギャル」。


 〈十傑〉・第七席――日向陽奈乃。


「陽奈乃様……なんつー動きだよ……!」


「〈十傑〉、ガチやべぇ!」


「陽奈乃ちゃん、押されてるか……!?」


「いや……!負けてないぞ……!」


 死者すら蘇る世界だ。今は、ユニークスキルとはそういうものなのだと受け入れる他ない。


「『陽喰鳥ひくいどり』っ!」


 陽奈乃の声が、空から降った。四本の聖水の隙間を縫い、遂に天音の眼前まで接近する。


 ガントレット・〈キラメキ〉が眩い光を放った。


 陽奈乃は拳を振りかぶる。


 次の瞬間。


 無数の打撃音が、一つの轟音へ重なった。


 高速――否。


 光速の連撃。


 拳。


 掌底。


 肘。


 膝。


 回し蹴り。


 残像すら追いつかない程の打撃が、天音の全身へ絶え間なく叩き込まれる。


 一撃が命中する度、肉が抉れ、骨が砕け、身体に穴が空く。


 陽奈乃の速度を乗せた拳は、威力を数万倍へ跳ね上げていた。


 天音の肩が弾ける。


 脇腹が貫かれる。


 右の翼が根元から千切れ、白い羽根と鮮血を撒き散らした。


 それでも。


 千切れた翼は即座に生え直す。


 砕けた骨が繋がる。


 空いた風穴が、血を噴き出した直後には塞がっていく。


 破壊と再生が、同時に起きていた。


 ――〈不如帰会(ほととぎすかい)〉への復讐のため。


 何処(どこ)にでもいる普通の女の子だった陽奈乃が、どれ程の研鑽を積んできたのか。


 一つ一つの身の(こな)しを見ればわかる。


 ただ神話級ユニークスキルを授かっただけではない。


 血を流し。


 骨を折り。


 何度も地面へ倒れ。


 それでも立ち上がって、光速の力を自分のものにしたのだ。


「ボスが陽奈乃とバトったらどうなんだァ?」


「ん?ああ、陽奈乃にも勝てないよ」


「——おあッ!?マジかよォ!」


「俺の〈天衡(テミス)〉は対象の視認が絶対条件だからな」


「確かに光の速さで動き回られては、目で追うのはまず不可能ですな……」


「ああ。認識するより先に光速で殴られて、俺の肉体が弾け飛ぶ。勝負にもならない」


 天音も陽奈乃も、俺とは根本的に能力の階層が違う。


 〈天衡(テミス)〉には、相手の行動を制限し、戦況そのものを支配出来る強みがある。だが、発動条件へ辿り着けなければ、何の意味もない。


 最強に思える〈天衡(テミス)〉も、同格である一部の神話級ユニークスキルに対しては無力という訳だ。


 光速で放たれる陽奈乃の拳が、再び天音の胸部を貫く。


「――アタシは……!あまねえに勝ちたい……っ!」


「ふふ、痛いものは痛いんですよ?陽奈乃さん」


「くっ……!」


 天音の胸から血が噴き出す。


 それでも天音は微動だにしない。


 苦痛を感じていない訳ではない。


 痛みを受け入れた上で、表情へ出していない。


 微笑みすら崩さない。


 陽奈乃が拳を引き抜くのと同時に、胸部の穴が塞がった。


 その異常な光景を前に、観客は歓声を上げることさえ忘れていた。


「……陽奈乃さんが〈十傑〉へ加入した時から随分と変わりましたね」


 陽奈乃の拳を受けながら、天音が穏やかに語り掛ける。


「〈不如帰会(ほととぎすかい)〉への復讐だけに囚われていた、あの頃の陽奈乃さんとは、もう違うんですね」


「雪渚に振り向いてもらうって決めたからね!」


「ふふ。陽奈乃さんは魅力的で、私にとっても十分な脅威です」


 天音の笑みが僅かに深くなる。


「ですが、せつくんは渡しませんよ?」


「あまねえには負けられないからっ!」


「ふふ、そうですか」


 天音の背後で、〈アクアリアス〉が回転を始める。


「ですが……実力の差は歴然のようですね」


「そう?あまねえも無敵ってワケじゃないでしょ?」


「同じ新世界の頂点――〈十傑〉であっても、席次によって格付けは完了しておりますから」


 四つの水瓶から、再び聖水が射出された。青白い水流が陽奈乃の両脇を擦り抜け、上空へ伸びる。一度は外れたように見えた軌道が、大きな弧を描きながら反転した。


 四方向。死角から、陽奈乃へ迫る。


 ――俺は、二人の戦いに完全に魅入られていた。


 言葉も出ない。


 常識も、科学も、人間の限界も。


 二人の間では、何一つ意味を成さない。


 四本の聖水が陽奈乃へ触れる――寸前。


 陽奈乃が消えた。


 聖水同士が衝突し、空中で巨大な水飛沫を弾けさせる。


 刹那。陽奈乃は、地上付近を飛ぶ天音の背後へ現れていた。


「――っ!」


 天音が初めて目を見開く。


 陽奈乃の右脚が、光の尾を引きながら振り抜かれた。


 強烈な回し蹴りが、天音の側頭部を捉える。


 鈍い衝撃音。


 天音の首が不自然な角度まで折れ曲がり、その身体が横へ吹き飛んだ。


 だが、六枚の翼が一斉に開く。


 天音は空中で体勢を立て直し、急上昇した。


 陽奈乃も間髪入れず追従する。


「な、なんつー戦いだよォ……」


「凄まじいですな……」


 天音の頬から側頭部にかけて、皮膚が焼け(ただ)れている。


 陽奈乃の蹴りが空気との摩擦によって生んだ火傷だ。


 しかし赤く爛れた皮膚も、折れ曲がった頸椎も、瞬く間に元へ戻っていく。


 ――陽奈乃が完全な殺意を込めて蹴っていれば、天音の頭部そのものが吹き飛んでいたかもしれない。


 いや。


 首が完全に千切れるより先に〈聖癒(ラファエル)〉が損傷を相殺する可能性もある。


 最早(もはや)、どこからが即死なのかすらわからない。


「ふふ、火力と速度では陽奈乃さんには勝てませんね」


 天音は素直に認めた。それでも、敗北を認めた声音ではない。


 空中を駆ける陽奈乃が、再び拳と蹴りを繰り出す。


 天音は四つの水流を盾にしながら回避する。


 避けきれない打撃は、敢えて身体で受けた。


 左肩が砕ける。腹部が裂ける。白い翼が抉られる。その全てが、次の瞬間には癒えていく。


 空には陽奈乃の黄金色の残光と、〈アクアリアス〉が放つ青白い水流が幾重にも交差していた。


 太陽と聖水。光と生命。


 人間の姿を借りた二柱の神が、冬空を戦場にしている。この戦いは、既に神々の域にまで到達していた。


「ホント……どう勝てっての……!」


 陽奈乃が歯噛みする。


 その時だった。


 天音が六枚の翼を一度、大きく羽ばたかせた。聖水の追撃が止まる。天音はふわりと陽奈乃へ近付いた。


 攻撃ではない。防御でもない。余りに無防備な接近に、陽奈乃が僅かに戸惑う。


 天音は、その耳元へ唇を寄せた。


 そして。


 ここからでは聞き取れない程の小さな声で、何かを囁く。


「――――――――――――」


「……なっ!?」


 陽奈乃の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。


 目を見開き、口を僅かに開く。


 戦闘中には決して見せなかった、明確な動揺。


 その一瞬。


「『ベトサダの聖なる泉』——」


 四つの〈アクアリアス〉が、同時に陽奈乃を向く。


 青白い聖水が噴き出した。逃げる間もない。


 四本の水流は陽奈乃の手足と胴体へ絡み付き、その身体を瞬く間に覆い尽くしていく。


 水は球状に膨張し、やがて上空へ巨大な青い(まゆ)を形成した。


 陽光を透かし、神秘的な光を放つ水の繭。


「――な、なんだァ!?」


 竜歌の声と同時だった。青い(まゆ)が、ぱぁん、と弾ける。


 大量の水飛沫が冬空へ散った。


 その中心から、陽奈乃の身体が現れる。


 四肢に傷はない。


 意識を失う程の打撃を受けた様子もない。


 ただ――。


 陽奈乃は穏やかな表情を浮かべ、すやすやと眠っていた。


「『(いず)れかが戦闘不能状態に陥れば決着』……でしたね」


 力を失い、地上へ落下していく陽奈乃。


 天音はその身体へ追いつくと、両腕で優しく抱き留めた。


 陽奈乃の桜色の毛先が、風に揺れる。


 天音は彼女を抱えたまま、六枚の翼を広げ、ゆっくりと地上へ舞い降りた。


 突然の決着に、観客席が三度(みたび)騒めき立つ。


「陽奈乃のヤツ……ね、眠ってんのかァ!?」


「そ、そのようですな……」


「ああ、そういうことか……」


 眠気は、単なる精神論ではない。


 覚醒中の脳内には、アデノシンを始めとする睡眠圧に関わる物質が蓄積されていく。それらが一定量へ達すると、脳は休息を求め、強烈な睡魔を生じさせる。


 天音が疲労を損傷として治癒出来るなら。反対に、これまで治癒によって取り除いてきた疲労を〈アクアリアス〉へ蓄積しているのなら。


 陽奈乃へ、眠りに落ちるだけの疲労を一度に流し込むことも可能なのだろう。


 殺さず。傷付けず。確実に戦闘不能へ陥れる。大天使の名を冠する回復能力の、恐るべき応用だった。


「年季が違いますよ」


 天音が告げる。


 アリーナの端。


 離れて戦いを見守っていたミルルンが、驚愕を隠しきれないままマイクを構える。


『――決着!決着です!』


 その声には、司会者本人の興奮さえ(にじ)んでいた。


親善試合(エキシビションマッチ)の勝者は――〈十傑〉・第二席!!雨ノ宮天音様ッ!!!』


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 一千万人の歓声が爆発した。


 〈継戦ノ結界(バリア)〉の内側で、天音は眠る陽奈乃を抱いたまま静かに佇んでいる。


 この親善試合(エキシビションマッチ)で、二人には〈極皇杯〉出場者が持つ〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉が与えられていない。


 陽奈乃が天音の治癒を完全に上回って勝利しようとすれば、即死へ至る程の攻撃を加える必要があった可能性が高い。


 無論、陽奈乃のスピードと攻撃力なら、それは容易だっただろう。


 だが陽奈乃は、天音を殺したい訳ではない。


 一方の天音は、蓄積した疲労によって陽奈乃を傷付けずに眠らせることが出来る。


 能力の相性。勝敗条件。そして、二人の性格。その全てが、天音が圧倒的に有利な戦いだった。


「とはいえ、私がここまで追い詰められたのは初めてでした。お見事です」


 天音が、眠る陽奈乃へ穏やかに告げた。


「す、すげェ……!姉御……!」


 俺が八十五年の眠りから覚めた、あの日。


 〈五六(ふのぼり)総合病院〉で、天音は自分についてこう語っていた。


 ――戦闘能力はない、と。


「何が『戦闘能力はない』だ……。OP(オーバーパワー)じゃねーか……」


「――おいボス!バトルで負けたら〈十傑〉から下ろされるんだろォ!?陽奈乃は〈十傑〉辞めちゃうのかァ!?」


「いや、これは飽くまで親善試合(エキシビションマッチ)だ。そうはならねーよ」


「おォ!そうかァ!」


「これが〈十傑〉っ!憧れちゃいますーっ!」


 天音は眠る陽奈乃を抱いたまま、観客へ(うやうや)しく一礼した。


 万雷の拍手が降り注ぐ。


 その後、天音は六枚の翼を広げ、十傑観覧席へ向かって飛び上がった。


 玉座へ戻る途中。天音の腕の中で、陽奈乃の瞼がゆっくりと開く。


 自分が抱き抱えられていること。既に勝敗が決したこと。それらを理解したのだろう。


 陽奈乃は悔しそうに唇を噛んだ。


 だが、その表情に後悔はない。


 持てる力の全てを出し切った者だけが浮かべられる、清々しさが(にじ)んでいた。


 ――何にせよ。


 俺が二人の親善試合を許可した目的は達成された。


 天音が回復しか能のない非戦闘員ではないこと。


 陽奈乃が卑怯な手に敗れただけの名ばかりの〈十傑〉ではないこと。


 二人が、新世界の頂点へ座るに足る怪物であること。


 世界中へ、これ以上ない形で示された。


 今後、実力差も理解せず、〈神威結社〉へ安易に手を出そうとする馬鹿は大幅に減るだろう。


 そのことは確実に、仲間たちを守る力になる。


「第二席やべえ……!最強じゃねーか……!」


「相性が絶望的に悪かっただけで、陽奈乃様もヤバかったぞ!」


「本気の殺し合いなら陽奈乃様が勝ってたんだろうな……」


「この二人が揃った〈神威結社〉……どうなってんだよ……!」


 熱の冷めない観客達。十傑観覧席へ戻った二人へ、賞賛を込めた盛大な拍手が送られ続けている。


 〈極皇杯〉の開会式は、大盛況だった。


 だが。


 これはまだ、開会式に過ぎない。


 俺は膝の上で、力強く拳を握り締めた。


 胸の奥で、〈犠牲ノ心臓(サクリファイス)〉が鼓動する。


 ――さて。


 次は――俺達の番だ。

評価(すぐ下の★★★★★)やブックマーク、感想等で

応援していただけると執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ