2-7 不死身の天使長はお好きですか?
「ぶーん」
幸いだったのは、観客席を囲う手摺がフランの背丈よりも遥かに高かったことだ。
眼下のアリーナで起きた惨劇など知る由もなく、フランは俺から受け取ったミニカーを座席の上で走らせている。小さな手に押された車輪が、無邪気な音を立てた。
「――決まった!」
「マジか……」
「やっぱ陽奈乃様つえー!」
「けど……雨ノ宮様、大丈夫なのか……?」
一千万人の観客が、一斉に騒めき立つ。
無理もない。
陽奈乃の右腕は天音の腹部を完全に貫通していた。純白だったメイド服は血に染まり、腹部と背中からは止め処なく鮮血が流れ落ちている。
常人ならば、既に命を落としている。
だが――。
「――ふふ、仮にも私は世界二位なんですよ?」
腹に巨大な風穴を空けられた当人が、不敵に微笑んだ。声音に震えはない。痛みに顔を歪めることすらない。
陽奈乃が目を見開く。
その刹那、天音の背後で待機していた四つの〈アクアリアス〉が、一斉に注ぎ口を陽奈乃へ向けた。青白い聖水が迸る。
「――っ!?」
四本の水流が陽奈乃の身体へ絡み付き、その身体を天音から強引に引き剥がした。
引き抜かれた右腕の跡から鮮血が噴き出す。
直後、陽奈乃の身体は聖水に呑まれたまま、凄まじい勢いで地上へ叩き落とされた。
轟音。アリーナの大地が陥没し、砂塵が円形に弾け飛ぶ。
衝撃が〈継戦ノ結界〉を揺らし、透明だった壁面へ無数の正六角形を浮かび上がらせた。
――地面へ叩き付けられた衝撃だけじゃない。
〈アクアリアス〉の聖水そのものに、天音がこれまで治癒してきた損傷が蓄積されている。触れた時点で、陽奈乃の肉体には外見からは判別できない程のダメージが流し込まれているはずだ。
「うぐっ……流石ね……。あまねえ」
陥没した地面の中心で、陽奈乃が苦しげに息を吐いた。両腕を地面へ突き、震える膝を立てる。全身を襲う痛みに顔を歪めながらも、辛うじて立ち上がった。
その視線の先。天音は、六枚の翼を広げたまま宙へ浮かんでいる。腹部に空いていた大穴が、見る見るうちに塞がっていく。断裂した肉が繋がる。臓器が再生する。白い肌が傷口を覆い、血に染まっていたメイド服までもが、時間を巻き戻すように純白を取り戻した。
数秒後。そこには、傷一つない天音がいた。
「マジかよ……!あれが……第二席……!」
「夢でも……見てるのか……?」
「あんな傷……常人なら死んでるぞ……!」
観客の驚愕が収まるより早く、〈アクアリアス〉が再び動く。四つの注ぎ口から聖水が放たれた。地上の陽奈乃へ、青白い流線が四方から殺到する。
陽奈乃は地面を蹴った。全身を光へ変え、一瞬で上空へ跳び上がる。
四本の水流が、その残像を貫いた。
だが、外れた聖水は止まらない。空中で蛇のように進路を変え、陽奈乃の背後を追い始める。
上昇。急降下。直角に近い方向転換。
陽奈乃は空を縦横無尽に駆けながら、執拗に追い縋る聖水を紙一重で回避し続けた。
光速を謳う陽奈乃の身体を、それでも水流は逃がさない。
「マ……マジかよ、姉御ォ……!陽奈乃のアレ喰らってピンピンしてんのかよォ……!」
「理論上、雨ノ宮女史に勝利できる者は存在しないのかもしれませんな……」
「あァ?どういうことだァ?」
「例えば——」
俺は、陽奈乃を追って天空へ伸びていく四本の水流を見つめた。
「〈天衡〉の仕様上、俺は天音には絶対に勝てない」
「あァ!?ボスでも姉御には勝てねェってのかよォ!?」
〈天衡〉によって定める掟。それを破った者へ、俺は罰を与えられる。だが、罰として直接的な死を指定することは出来ない。
対する天音は、即死しない限り、〈聖癒〉によってどれほど深刻な傷でも瞬時に治癒出来る。腕を落としても。腹部を抉っても。心臓が動いている限り、何度でも元通りになる。
「天音を倒そうと思えば、一撃必殺しかないからな。〈天衡〉で直接的な死を齎す罰を指定出来ない俺には絶対に勝てない相手だ」
「マジかよォ……!そういやトレーニングのときも……あんなに姉御は動いてたのに、全然疲れてなかったぞォ」
「体力やスタミナの消耗もダメージと捉えて回復できるからな……。つまり体力切れやスタミナ切れもない」
天音には、疲労という概念すら存在しない。
傷付かない。疲れない。攻撃を受ける程、その損傷を〈アクアリアス〉へ蓄積し、相手へ返すことが出来る。長期戦になればなる程、天音だけが一方的に有利になる。
「むむっ!閃きましたぞ!」
拓生が人差し指を立てる。
「〈天衡〉で『回復を禁ずる』という掟を定め、雨ノ宮女史の治癒を阻止するのはいかがですかな?」
「それ自体は可能だと思う」
「では――」
「だが、天音は空を飛べる。〈エフェメラリズム〉の射程外まで上昇し、そこから〈アクアリアス〉で一方的に攻撃されたら終わりだ」
そもそも、掟を破らせなければ罰は発動しない。回復を禁じても、天音が傷付かなければ意味がない。飛行能力と遠距離攻撃を併せ持つ天音を相手に、俺が有効打を与えられる状況そのものが想像しづらかった。
「そんな機会はないだろうが……天音と本気で殺し合うことになったなら、一撃で心臓か脳を潰すしかないだろうな」
「天音さん、さすが〈十傑〉・第二席ですねーっ!」
「『言うは易く、行うは難し』ですな……」
「かたし?拓生のダチかァ?」
「相も変わらずアホですな……」
「アタイはアホじゃねェ!」
「一番怖いのは竜歌に選挙権があることだな……」
だが次の瞬間、アリーナ上空を青白い光が縦断し、俺達の意識は強制的に戦場へ引き戻された。
陽奈乃が、急上昇と急降下を何度も繰り返している。迫り来る聖水を、上へ、下へ、左右へと振り切りながら、少しずつ天音との距離を詰めていく。その速度は、最早、速いという言葉では表現出来ない。
俺の目には陽奈乃の姿が消え、別の場所へ突然現れているようにしか映らなかった。
「日向女史も……凄まじいですな……!」
「おォ!陽奈乃も意味わかんねェくれェ強ェからなァ!」
質量を持つ物体は光速へ到達出来ない。旧世界の科学では、それが絶対の原則だった。
仮に近付くことが出来たとしても、必要なエネルギーは際限なく増大し、肉体も周囲の空間も無事では済まない。
だが陽奈乃は、それら全てを無視している。物理法則を知らないのではない。陽奈乃の神話級ユニークスキル・〈天照〉が、物理法則そのものを捻じ伏せているのだ。
それこそが、「#ぶっ壊れギャル」。
〈十傑〉・第七席――日向陽奈乃。
「陽奈乃様……なんつー動きだよ……!」
「〈十傑〉、ガチやべぇ!」
「陽奈乃ちゃん、押されてるか……!?」
「いや……!負けてないぞ……!」
死者すら蘇る世界だ。今は、ユニークスキルとはそういうものなのだと受け入れる他ない。
「『陽喰鳥』っ!」
陽奈乃の声が、空から降った。四本の聖水の隙間を縫い、遂に天音の眼前まで接近する。
ガントレット・〈キラメキ〉が眩い光を放った。
陽奈乃は拳を振りかぶる。
次の瞬間。
無数の打撃音が、一つの轟音へ重なった。
高速――否。
光速の連撃。
拳。
掌底。
肘。
膝。
回し蹴り。
残像すら追いつかない程の打撃が、天音の全身へ絶え間なく叩き込まれる。
一撃が命中する度、肉が抉れ、骨が砕け、身体に穴が空く。
陽奈乃の速度を乗せた拳は、威力を数万倍へ跳ね上げていた。
天音の肩が弾ける。
脇腹が貫かれる。
右の翼が根元から千切れ、白い羽根と鮮血を撒き散らした。
それでも。
千切れた翼は即座に生え直す。
砕けた骨が繋がる。
空いた風穴が、血を噴き出した直後には塞がっていく。
破壊と再生が、同時に起きていた。
――〈不如帰会〉への復讐のため。
何処にでもいる普通の女の子だった陽奈乃が、どれ程の研鑽を積んできたのか。
一つ一つの身の熟しを見ればわかる。
ただ神話級ユニークスキルを授かっただけではない。
血を流し。
骨を折り。
何度も地面へ倒れ。
それでも立ち上がって、光速の力を自分のものにしたのだ。
「ボスが陽奈乃とバトったらどうなんだァ?」
「ん?ああ、陽奈乃にも勝てないよ」
「——おあッ!?マジかよォ!」
「俺の〈天衡〉は対象の視認が絶対条件だからな」
「確かに光の速さで動き回られては、目で追うのはまず不可能ですな……」
「ああ。認識するより先に光速で殴られて、俺の肉体が弾け飛ぶ。勝負にもならない」
天音も陽奈乃も、俺とは根本的に能力の階層が違う。
〈天衡〉には、相手の行動を制限し、戦況そのものを支配出来る強みがある。だが、発動条件へ辿り着けなければ、何の意味もない。
最強に思える〈天衡〉も、同格である一部の神話級ユニークスキルに対しては無力という訳だ。
光速で放たれる陽奈乃の拳が、再び天音の胸部を貫く。
「――アタシは……!あまねえに勝ちたい……っ!」
「ふふ、痛いものは痛いんですよ?陽奈乃さん」
「くっ……!」
天音の胸から血が噴き出す。
それでも天音は微動だにしない。
苦痛を感じていない訳ではない。
痛みを受け入れた上で、表情へ出していない。
微笑みすら崩さない。
陽奈乃が拳を引き抜くのと同時に、胸部の穴が塞がった。
その異常な光景を前に、観客は歓声を上げることさえ忘れていた。
「……陽奈乃さんが〈十傑〉へ加入した時から随分と変わりましたね」
陽奈乃の拳を受けながら、天音が穏やかに語り掛ける。
「〈不如帰会〉への復讐だけに囚われていた、あの頃の陽奈乃さんとは、もう違うんですね」
「雪渚に振り向いてもらうって決めたからね!」
「ふふ。陽奈乃さんは魅力的で、私にとっても十分な脅威です」
天音の笑みが僅かに深くなる。
「ですが、せつくんは渡しませんよ?」
「あまねえには負けられないからっ!」
「ふふ、そうですか」
天音の背後で、〈アクアリアス〉が回転を始める。
「ですが……実力の差は歴然のようですね」
「そう?あまねえも無敵ってワケじゃないでしょ?」
「同じ新世界の頂点――〈十傑〉であっても、席次によって格付けは完了しておりますから」
四つの水瓶から、再び聖水が射出された。青白い水流が陽奈乃の両脇を擦り抜け、上空へ伸びる。一度は外れたように見えた軌道が、大きな弧を描きながら反転した。
四方向。死角から、陽奈乃へ迫る。
――俺は、二人の戦いに完全に魅入られていた。
言葉も出ない。
常識も、科学も、人間の限界も。
二人の間では、何一つ意味を成さない。
四本の聖水が陽奈乃へ触れる――寸前。
陽奈乃が消えた。
聖水同士が衝突し、空中で巨大な水飛沫を弾けさせる。
刹那。陽奈乃は、地上付近を飛ぶ天音の背後へ現れていた。
「――っ!」
天音が初めて目を見開く。
陽奈乃の右脚が、光の尾を引きながら振り抜かれた。
強烈な回し蹴りが、天音の側頭部を捉える。
鈍い衝撃音。
天音の首が不自然な角度まで折れ曲がり、その身体が横へ吹き飛んだ。
だが、六枚の翼が一斉に開く。
天音は空中で体勢を立て直し、急上昇した。
陽奈乃も間髪入れず追従する。
「な、なんつー戦いだよォ……」
「凄まじいですな……」
天音の頬から側頭部にかけて、皮膚が焼け爛れている。
陽奈乃の蹴りが空気との摩擦によって生んだ火傷だ。
しかし赤く爛れた皮膚も、折れ曲がった頸椎も、瞬く間に元へ戻っていく。
――陽奈乃が完全な殺意を込めて蹴っていれば、天音の頭部そのものが吹き飛んでいたかもしれない。
いや。
首が完全に千切れるより先に〈聖癒〉が損傷を相殺する可能性もある。
最早、どこからが即死なのかすらわからない。
「ふふ、火力と速度では陽奈乃さんには勝てませんね」
天音は素直に認めた。それでも、敗北を認めた声音ではない。
空中を駆ける陽奈乃が、再び拳と蹴りを繰り出す。
天音は四つの水流を盾にしながら回避する。
避けきれない打撃は、敢えて身体で受けた。
左肩が砕ける。腹部が裂ける。白い翼が抉られる。その全てが、次の瞬間には癒えていく。
空には陽奈乃の黄金色の残光と、〈アクアリアス〉が放つ青白い水流が幾重にも交差していた。
太陽と聖水。光と生命。
人間の姿を借りた二柱の神が、冬空を戦場にしている。この戦いは、既に神々の域にまで到達していた。
「ホント……どう勝てっての……!」
陽奈乃が歯噛みする。
その時だった。
天音が六枚の翼を一度、大きく羽ばたかせた。聖水の追撃が止まる。天音はふわりと陽奈乃へ近付いた。
攻撃ではない。防御でもない。余りに無防備な接近に、陽奈乃が僅かに戸惑う。
天音は、その耳元へ唇を寄せた。
そして。
ここからでは聞き取れない程の小さな声で、何かを囁く。
「――――――――――――」
「……なっ!?」
陽奈乃の顔が、一瞬にして真っ赤に染まった。
目を見開き、口を僅かに開く。
戦闘中には決して見せなかった、明確な動揺。
その一瞬。
「『ベトサダの聖なる泉』——」
四つの〈アクアリアス〉が、同時に陽奈乃を向く。
青白い聖水が噴き出した。逃げる間もない。
四本の水流は陽奈乃の手足と胴体へ絡み付き、その身体を瞬く間に覆い尽くしていく。
水は球状に膨張し、やがて上空へ巨大な青い繭を形成した。
陽光を透かし、神秘的な光を放つ水の繭。
「――な、なんだァ!?」
竜歌の声と同時だった。青い繭が、ぱぁん、と弾ける。
大量の水飛沫が冬空へ散った。
その中心から、陽奈乃の身体が現れる。
四肢に傷はない。
意識を失う程の打撃を受けた様子もない。
ただ――。
陽奈乃は穏やかな表情を浮かべ、すやすやと眠っていた。
「『何れかが戦闘不能状態に陥れば決着』……でしたね」
力を失い、地上へ落下していく陽奈乃。
天音はその身体へ追いつくと、両腕で優しく抱き留めた。
陽奈乃の桜色の毛先が、風に揺れる。
天音は彼女を抱えたまま、六枚の翼を広げ、ゆっくりと地上へ舞い降りた。
突然の決着に、観客席が三度騒めき立つ。
「陽奈乃のヤツ……ね、眠ってんのかァ!?」
「そ、そのようですな……」
「ああ、そういうことか……」
眠気は、単なる精神論ではない。
覚醒中の脳内には、アデノシンを始めとする睡眠圧に関わる物質が蓄積されていく。それらが一定量へ達すると、脳は休息を求め、強烈な睡魔を生じさせる。
天音が疲労を損傷として治癒出来るなら。反対に、これまで治癒によって取り除いてきた疲労を〈アクアリアス〉へ蓄積しているのなら。
陽奈乃へ、眠りに落ちるだけの疲労を一度に流し込むことも可能なのだろう。
殺さず。傷付けず。確実に戦闘不能へ陥れる。大天使の名を冠する回復能力の、恐るべき応用だった。
「年季が違いますよ」
天音が告げる。
アリーナの端。
離れて戦いを見守っていたミルルンが、驚愕を隠しきれないままマイクを構える。
『――決着!決着です!』
その声には、司会者本人の興奮さえ滲んでいた。
『親善試合の勝者は――〈十傑〉・第二席!!雨ノ宮天音様ッ!!!』
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
一千万人の歓声が爆発した。
〈継戦ノ結界〉の内側で、天音は眠る陽奈乃を抱いたまま静かに佇んでいる。
この親善試合で、二人には〈極皇杯〉出場者が持つ〈犠牲ノ心臓〉が与えられていない。
陽奈乃が天音の治癒を完全に上回って勝利しようとすれば、即死へ至る程の攻撃を加える必要があった可能性が高い。
無論、陽奈乃のスピードと攻撃力なら、それは容易だっただろう。
だが陽奈乃は、天音を殺したい訳ではない。
一方の天音は、蓄積した疲労によって陽奈乃を傷付けずに眠らせることが出来る。
能力の相性。勝敗条件。そして、二人の性格。その全てが、天音が圧倒的に有利な戦いだった。
「とはいえ、私がここまで追い詰められたのは初めてでした。お見事です」
天音が、眠る陽奈乃へ穏やかに告げた。
「す、すげェ……!姉御……!」
俺が八十五年の眠りから覚めた、あの日。
〈五六総合病院〉で、天音は自分についてこう語っていた。
――戦闘能力はない、と。
「何が『戦闘能力はない』だ……。OPじゃねーか……」
「――おいボス!バトルで負けたら〈十傑〉から下ろされるんだろォ!?陽奈乃は〈十傑〉辞めちゃうのかァ!?」
「いや、これは飽くまで親善試合だ。そうはならねーよ」
「おォ!そうかァ!」
「これが〈十傑〉っ!憧れちゃいますーっ!」
天音は眠る陽奈乃を抱いたまま、観客へ恭しく一礼した。
万雷の拍手が降り注ぐ。
その後、天音は六枚の翼を広げ、十傑観覧席へ向かって飛び上がった。
玉座へ戻る途中。天音の腕の中で、陽奈乃の瞼がゆっくりと開く。
自分が抱き抱えられていること。既に勝敗が決したこと。それらを理解したのだろう。
陽奈乃は悔しそうに唇を噛んだ。
だが、その表情に後悔はない。
持てる力の全てを出し切った者だけが浮かべられる、清々しさが滲んでいた。
――何にせよ。
俺が二人の親善試合を許可した目的は達成された。
天音が回復しか能のない非戦闘員ではないこと。
陽奈乃が卑怯な手に敗れただけの名ばかりの〈十傑〉ではないこと。
二人が、新世界の頂点へ座るに足る怪物であること。
世界中へ、これ以上ない形で示された。
今後、実力差も理解せず、〈神威結社〉へ安易に手を出そうとする馬鹿は大幅に減るだろう。
そのことは確実に、仲間たちを守る力になる。
「第二席やべえ……!最強じゃねーか……!」
「相性が絶望的に悪かっただけで、陽奈乃様もヤバかったぞ!」
「本気の殺し合いなら陽奈乃様が勝ってたんだろうな……」
「この二人が揃った〈神威結社〉……どうなってんだよ……!」
熱の冷めない観客達。十傑観覧席へ戻った二人へ、賞賛を込めた盛大な拍手が送られ続けている。
〈極皇杯〉の開会式は、大盛況だった。
だが。
これはまだ、開会式に過ぎない。
俺は膝の上で、力強く拳を握り締めた。
胸の奥で、〈犠牲ノ心臓〉が鼓動する。
――さて。
次は――俺達の番だ。
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