バレてしまったじゃない!
誤解を招き、大事にしてしまった事に対しての罰を受けたいと言ったロミーナ。
彼女の必死さに広場にいる皆からも懇願され、否応なく応えたのだが、反論されてしまった。
そして減罰するようにロミーナから申し出を受け、さらには間に入ってくれたのだと期待した執事や他の使用人たちからも申し出を受ける事になった。
「これじゃぁ、罰にならないんだけど……」
「おやつ抜き以外でお願いします! おやつ抜きの罰なら、せめて今日一日でお願いします!」
「呆れた……どんだけおやつにこだわりがあるのよ」
「だって、マリアンヌ様が作るおやつですよ?! 先ほども言いましたが、あんなに見た目も可愛くて美味しいおやつは他に知りません! 皆もそうでしょ?!」
私が作るおやつをこんなにも褒めてくれるのは正直に嬉しい。
だが、納得がいかないからといって他の使用人たちに同意を求めるのはいかがなものか。
もう一度言おう。
これでは罰にならない。
そして皆も皆だ。
ロミーナの訴えに一理あるのか、視線を向けられた皆は腕を組んで考え込んだり、目を閉じながらも宙を仰ぎ考え込み始める者もいる。
――おやつってそんなに大事? 大の大人が? 皆ダイエットする時とかどうしてるんだろう。一週間おやつ抜きとかよくある事だと思うんだけど。
呆れて物も言えずにいると、小さく震える声で私を呼ぶ声が聞こえた。
その声の方に視線を移すと、信じられないと言った表情でこちらを見つめるレオンの姿とノアの姿がそこにはあった。
「おやつって……え、マリアンヌ様が? マリアンヌ様は料理が出来ないはずでは……」
「あ、いやぁ……それは~そのぉ――」
しまった。
子ども達にはおやつを作っている事を秘密にしているのだった。
使用人たちの事で頭がいっぱいで、この場に子ども達がいる事をすっかり忘れていた。
普段、あんなに美味しそうにおやつを頬張ってくれるのだ。
子ども達の笑顔を失くしたくない。
そう思って私が作っているとバレないように、時にはニコラが作ったように誤魔化したりしていたのに、今回の事で知られてしまった。
今からでもまだ誤魔化しはきくだろうか。
「ち、違うわ! 私ではなくて、シェフの皆が作ってくれているのよ!」
「ですが、さっきロミーナはマリアンヌ様の作るおやつだと……」
「えぇっと、だからそれは~――」
私も作ってはいるが、シェフの皆が作っているのも間違いではない。
私が作ったお菓子に感銘を受けたシェフたちが手伝ってくれているのだ。
それ以来、屋敷の皆のおやつは私とシェフたちで手掛けている。
だが、それを子ども達に知られたくない。
この場をどう乗り切るか考えるものの、出てくる言葉は言葉にならず、しどろもどろになるばかり。
そしてそんな私の意図を汲み取ってくれず、空気を呼んでくれない使用人たちの声が飛び交うのもまた事実だ。
「マリアンヌ様! お坊ちゃま達に誤魔化しはいけません!」
「そうですよ! お坊ちゃま達には誠意を見せないとなりませんよ!」
「そ、そうかもしれないけど、今はその時じゃないの!」
「時期も何もありません! 嘘はよくないです!」
――わかっているけど、時期尚早なのよ~~。
使用人たちの言葉を制止しようと努めるが、多勢に無勢で収まる気配を見せない。
そこへロミーナが加わったかと思えば、なんとレオンやノアにこれまでのおやつ作りの説明を始めたのだった。
「ちょ、ちょっと、ロミーナ! 何を説明始めているの?!」
「あんなに素敵なお菓子を作れるなんて才能ですよ! それを黙っているのはもったいないです!」
「い、いや、そういう問題じゃなくて……」
子ども達に知られたくない気持ちとは裏腹に、事はどんどん運ばれていく。
どうしようもない事になっていっているのはわかるが、やはり制止しようと体は動いてしまう。
だがそれは、レオンの張りつめた私を呼ぶ声によってピタリと止まったのだった。
「ロミーナ……続きを、聞かせてくれ。最近のおやつは……本当にマリアンヌ様が?」
「はい! すっごく可愛い時もあれば、キレイな時もありますし……何といっても美味しいですよね! ね! ノア様!」
ロミーナはまるでガールズトークをしているように意気揚々と説明をするのだが、レオンの表情は険しい物へと変わっていく。
一方でノアは、啞然としたままの表情だが、時折、こちらに視線を向けてくる。
――あぁ……終わった。知られてしまった。
事の運びに愕然とすると、案の定、レオンは何か考え込んだかと思いきや、無言でノアの手を引いて広間から出て行ってしまった。
「……はぁ」
「あ、あの……よくわかりませんが、元気出してください!」
「元気……出ないわよ! 子ども達に知られたくなくて隠してたのに! バレてしまったじゃない!」
「隠してたのですか?! そ、それは……申し訳ございません?」
「どうして疑問形なのよ! もぅ!」
ロミーナに励ましの言葉をもらったが、今は素直に受け取れるほどの余裕はない。
それどころか、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「こうなったら連帯責任よ!」
そう言って再び皆が見えるように使用人たちの前に立ち、一つ宣言をした。
「ロミーナだけじゃなくて、ここにいる使用人の皆、一週間おやつ抜きよ!
それを連帯責任の罰とします!」
私の宣言を聞いて、ロミーナと同じく反感を持ったのか、至る所から文句が飛び交ってくる。
「連帯責任だなんてあんまりです!」
「そうですよ! それは横暴にあたいします!」
「そうです! 横暴です!」
「わがままです!」
「マリアンヌ様!」
「ちょっと! 「マリアンヌ」は悪口でも文句でもないわよ!」
再び使用人たちとの論争が繰り広げられているが、収まる気配をみせない。
そこでもう一つ、提案を言い渡した。
「そんなにおやつ抜きが嫌なら……そうねぇ。今から私が言う事を後に続けて言ってちょうだい。大声でハキハキとよ。これは命令です」
そう言って大声が出るように息を軽く吸い込んで言葉を発する。
「安、全、第、一!」
「「「「「……はい?」」」」」
「「……はい?」 じゃないの! 続けて言うの! さんはい!」
「「「「「あ……安、全、第一……」」」」」
「もっと大声で! ハキハキと!」
「「「「「あ、安、全、第、一!」」」」」
「安、全、第、一!」
「「「「「安、全、第、一!」」」」」
「健、康、一、番!」
「「「「「健、康、一、番!」」」」」
「いつも心に報、連、相!」
「「「「「い、いつも心に報、連、相!」」」」」
「ふぅ~。さて……これを毎朝の朝礼にやるのと、一週間のおやつ抜き……どっちがいいかしら?」
私が皆に笑顔で言い切ると、どうしてか皆の顔が青ざめて引きつっていく。
それに、どこかで唾をのむ声も聞こえた。
再度どちらがいいか問うと、おやつ抜きの方がましだと返事をもらえたのだった。
――ふふ、勝った!
ちなみに、今のは現世の保育園でやっていた朝礼の一部である。
必要とわかっていても、私は恥ずかしくて苦手だったものだ。