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やっぱり横暴?

 誤解が誤解を生んだのか、大広間に集まった使用人たちの空気が重い。

 だが、私のクビにしないと言う発言で重かった空気は一変して、戸惑いの声でその場は騒然としだした。


「クビにしないとは……どういうことですか?」


「ロミーナさんは、泣きながら訴えまわっていましたが……」


「私も聞きました……」


「自分も……」


――ロミーナの言葉はすごい勢いで広まったのね。


「ロミーナや皆に誤解を与えてしまった事は謝罪します。申し訳なかったわ。

改めて事の経緯と、今後の体制を伝えます――」


 そう言って小さく深呼吸をすると、騒然としていた場はシンと静まり返った。

 その状態を視界に納め、誤解を招いた経緯を大まかに伝える。

 私の意図を理解してくれたのか、静まり返っていた場がまた少し騒がしくなり始めた。

 それは、私の考えに対する疑問や戸惑いの声だった。


 その中で、一人の使用人が恐る恐る手を挙げ、質問を投げかけてきた。


「あの……それでは、「私達が必要ない」という事ではなく、「そこまで仕事をする必要がない」という事でしょうか?」


「そうよ。必要な所に、必要なだけ手間をかける。

手が回らなければ新たに雇い入れ、皆で補い合う。

そうして不要な力が入らず、効率や性能が上がれば後の働く意欲ややりがいに繋がると思うの」


「あのマリアンヌがそのようなお考え……」


「信じられません……」


「それにあたって、クリスやクロエ達とまとめた事項を読み上げるわね――」


 私は持ってきていた書類を軽くパンっと伸ばして、皆に聞こえるように事項を読み上げた。

 あれほど騒然としていた場も、私が事項を読み上げている間は再びシンと静まり返る。

 皆の今後に関わってくる事項だ。

 真剣に聞いてくれているのだろう。


「――と……以上をもちまして、今後の体制を改変していくものとします!」


 事項を読み終えて皆に視線を移すと、ポカンと口を開けてこれまた信じられないといった表情を浮かべている。

 そしてまたも疑問や戸惑いの声で騒がしくなった。


「……うそ。あのマリアンヌ様が、クロエさんやクリスさん達と協力しただなんて……」


「しかも、今よりも好条件の勤務体制……」


「王宮の好条件を聞いた事があるけど……それ以上のものでは……」


 皆の反応は様々だ。

 互いに話し合って事項の確認をしている者もいれば、一人で考え込み何かぼそぼそと言っている者もいる。


「私からは以上よ。何かあれば後ででも聞きにきて頂戴ね」


 騒然としている場を後にしようと足を動かした矢先、少しだけ裏返った声で呼び止められた。

 それは泣き腫らしたロミーナの声だった。


「あの! 本当に私達はクビにならないのですか?! 本当に好条件で雇ってもらえるのですか?!」


「本当に本当よ」


「……あの、私……申し訳ございませんでした! 勘違いとはいえ、あのように取り乱してしまって……。それに、このような大事にまでしてしまって……」


「いいのよ。誤解を招く言い方をした私にも非はあるのだから。そんなに自分を責めないで」


 勢いよく頭を下げたロミーナは、自責の念が強いのか、私がどう声掛けをしても頭を上げようとしない。

 事を見守っていたニコラやリザが、ロミーナを諭し始める始末だ。


「マリアンヌ様が許すと仰ってくださっても、自分で納得いきません……。何か罰をお与えください!」


「え、罰?」


 今度は勢いよく頭を上げ、詰め寄ってきたロミーナ。

 ロミーナの必死さに思わず後ずさりしてしまう。

 しかし、罰と言われても困ったものだ。


 助け船を出してもらいたくてニコラやリザに視線を移すも、二人とも私と同様に困った表情で首を横に振るばかり。

 他の使用人の皆にも視線を移すが、二人同様に首を横に振るのみ。


「マリアンヌ様! 何か罰を! なんでも聞きます!」


「えぇ、そんなこと言われても……」


「あの、マリアンヌ様……ロミーナさんの願いを聞いてあげてください……」


「これではあまりにもかわいそうで……」


 罰を与える気なんてないのに、執拗に迫られている私はかわいそうではないのだろうか。


「マリアンヌ様! お願いします!」


「マリアンヌ様! 私からもお願いします!」


「私からも!」


 ロミーナの懇願する姿に焚きつけられたのか、広場にいる他の使用人達からも懇願され始める。


「……皆まで。そこまで言うならわかったわ」


「ありがとうございます!」


「何でもいいのね?」


「はい! なんでもどうぞ!」


「えぇ~っと……う~ん――」


 罰ならなんでもいいと承諾はもらえたが、正直これといったものは思いつかない。

 思考を巡らせて考え抜いた結果、一つだけ思いついた。


「ロミーナに受けてもらう罰は一週間、おやつ抜きというものにします」


「おやつ……抜き、ですか?」


「そうよ」


 私が言い渡した罰に唖然とするロミーナ。

 パワハラになり得ることは避けたいし、使用人たちに作っている日々のお菓子を一週間抜いても特に問題はないだろうと思ってこの罰にしたのだ。


 だが、私の思いとは裏腹に、今まで唖然としていたロミーナはまたも目に涙を浮かべて詰め寄ってきた。


「おやつ抜きだなんて、そんなのあんまりですよ! 横暴すぎます!」


「えぇ?! あなたさっき、なんでもいいと言ったじゃない!」


「それとこれとは話が違います!」


「いや、理不尽!」


 まさか、おやつ抜きと言う罰に反感を持たれるとは微塵も思っていなかった。

 子どもならまだしも、大の大人がこうも反論を見せるだなんて。


 私とロミーナが論争を繰り広げている中、一人の執事が弱々しい声で間に入ってきた。


「あ、あの、ロミーナさん……おやつ抜きは比較的軽い罰なのでは……」


「軽い訳ないでしょ?! マリアンヌ様の作るおやつよ?! あんなに見た目が可愛くて美味しいおやつが一週間も抜きだなんて横暴よ!」


 罰とはそういう物だと突っ込みたいが、火に油だろう。

 罪のない彼にこれ以上の飛び火がいかないように、二人を見守る事にした。


 それにしても、間に入ってくれた彼。

 背は私やロミーナよりも少し低く、ひょろりとして弱々しい姿勢だが、なんとも勇敢だ。

 女性のいざこざの間に入るとは恐れ入った。


「それでは……一週間ではなく、三日と言うのはどうでしょうか?」


「三日なんて長すぎるわ! 今日一日だけでお願いします!」


「それじゃぁ罰にならないでしょ! あなたの勇気を称えて三日にするわ」


「いいえ! 一日でお願いします!」


「い、一日でお願いします!」


「あなたはどっちの味方なの」


 間に入って助け舟を出してくれたのかと思いきや、そうではないらしい。

 右往左往と言い分が変わるのだ。


 すると、他の使用人たちからまたも懇願され始めた。

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