聖女降臨
いつか。
いいことがあるよ。
そんな事を言った友は、去った。土の下の国に。
地下につながれて、用があるときだけ外に出される。それを殺せと叫ぶ声がいくつも連なる。今日こそは負けろとも、もっと勝って儲けさせろとも。
自分が勝つという気はしなかった。
運よく死ななかった。代わりに相手を死なせただけ。
声の主たちがなにを求めてそうも叫ぶのかわからなかった。だって、外に出たことも、儲ける、ということも知らなかったから。
ガシャンと音がして、扉が開く。
同胞とはいえないが、同じ種の獣が追い立てられるようにやってくるのが見えた。どこか怯えたようなまなざしは同じように見えた。
「もう、」
いいかと思った。
今日で、おしまいで。
「はーっはっはっ! 我! 降・臨!」
その声に上を見上げれば白い何かが降ってきた。
「あ、やべっ、ぱんつ」
「モザイク入れておきました。皆様の精神安定のために」
「神々しいから?」
「特級呪物だからですよ
ほら、ひどいとか言ってないで、皆さんがお怒りです」
最初からそこにいたといわんばかりに仮面の男がいた。
なにもかも場違いだ。
わーっと大きな声に応じるように彼女は手をあげた。さながら勝者のように。
「わたしが、これを倒します。商品として、このひとをもらいます。
倒せなかった場合、ここに残ります。以上」
一方的にされた宣言。
しんと静まり返った場に彼女は首を傾げた。
「翻訳できてる?」
「理解したうえで理解できなかっただけです。
主催者はここにはおりません。そう大事な試合でもありませんし。担当者も酔っぱらって転がってる」
「あらあら、なってない。
それなら聴衆の皆様、私が、戦う姿がみたいかあっ!」
とまどった様子からおおーっ! 大きな声になるまで間は空かなかった。
細身の女が獣と戦えるように見えなかったからだろう。八つ裂きにされるか、そうでなければ、ここに飼われる。
「やめたほうが」
「ふふっ、我が最終兵器、抜かりなく。
ね! ルール!」
「ほんと効きますかね?」
仮面の男は大きな袋を取り出した。
「私の最高にかっこいいところ覚えておきなさい」
袋をごそごそしながら彼女はそう言った。出てきたのは大きな骨。
「この世にない、最高にいけてる骨ガムよっ! 液体状のごはんもあるわよぉ! さあ、私にしっぽをふりなさいっ!」
「わふっ!」
飢えた獣は、食欲に忠実だった。
そして、次々現れるボールや円盤状のものを追いかけまわし、腹を見せ忠誠を誓った。
「ケモに好かれるにはケモの好きを極めるべし!」
そう言ってにっと笑った彼女が降臨したての聖女と知ったのは、神殿へ連れていかれた後のことだった。
液体ごはん、それは、わんちゅ~……。




