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最強の自宅警備員、俺  作者: きなこもち
第7章 『いないと困るらしい?』

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風間凛、心配する時だけわかりやすい





 人の心配の仕方には、その人の性格が出る。


 大げさに騒ぐ人もいる。

 「大丈夫?」を三回くらい言う人もいる。

 逆に、何も言わないくせに妙に近くにいる人もいる。

 差し入れみたいな形で気を遣う人もいれば、わざといつも通りに振る舞うことで気を遣う人もいる。


 だから、心配の仕方を見ると、その人がどこまで踏み込む人間なのかが少しわかる。


 風間凛は、その意味でかなりわかりやすくない側の人間だ。


 普段は短い。

 淡々としている。

 必要以上に近づいてこない。

 余計なこともそんなに言わない。

 そのくせ、時々だけ妙に核心へ触る。


 しかも、その“時々”がたいてい、こっちが少し雑になっている日だから困る。


 その日も、俺はそういう日に当たっていた。


---


 昼過ぎ。

 自室。

 眠い。


 まずそこからだった。


 前日の夜、なぜか少し寝つきが悪かった。

 チャットを閉じたあともしばらく天井を見ていて、気づいたら時計がだいぶ進んでいた。

 そのせいで朝が少し重く、昼を過ぎても頭の奥に薄い膜みたいなだるさが残っている。


 こういう日は、できれば部屋から出たくない。

 静かにして、適当に動画でも流して、夕方まで人と会わずにいたい。


 だが人生は、そういう日に限って小さい用事を差し込んでくる。


 富子に頼まれた醤油。

 父に頼まれた切手。

 良子に頼まれたひなののり。

 どれも大きくはない。

 大きくはないが、まとめると一回外へ出る理由としては十分すぎる。


「……面倒なんだよな」


 そう呟きながら、俺は結局サンダルを履いて外へ出た。


---


 駅前へ向かう道は、いつもより少し明るく感じた。


 たぶん天気がいいせいだ。

 光が強い日には、それだけで人は少し疲れる。

 いや、これは単に俺がそういうタイプなだけかもしれない。


 商店街を抜け、ドラッグストアでのりを買う。

 郵便局で切手を買う。

 スーパーで醤油を買う。

 順番としては正しい。

 だが、頭の回転がいつもより少し遅いせいで、全部が微妙に面倒だった。


「……帰るか」


 最後のスーパーを出たところで、思わずそう漏らす。


 レジ袋の中は、醤油、のり、切手。

 生活感が強いのか弱いのかよくわからない構成だ。

 とりあえず、今の俺にはこれ以上の寄り道をする気力はなかった。


 そのタイミングで、コンビニの前を通る。


 凛がいる時間帯だな、と何となく思う。

 でも今日は寄らなくていい。

 エナジードリンクは昨日買ったやつがまだ部屋にある。


 そう思って通り過ぎようとした時だった。


「今日、買わないんですね」


 声が飛んできた。


 足が止まる。


 見ると、コンビニのガラス越しに凛がいた。

 ちょうど品出しか何かの途中らしく、店の前の棚のあたりに立っている。


「……何を」


 わかっていながら聞く。


「いつものやつです」


 出た。

 その“いつものやつ”。

 エナジードリンクのことだろう。


「今日はある」


「そうですか」


 凛はそれだけ言った。

 それだけなのだが、その“今日はある”を普通に理解した時点で、やはりもうだいぶ生活の観測範囲に入っている。


 俺は少しだけ立ち止まって、店の外から言う。


「何だよ」


「別に」


 その返しが少しだけ早かった。


 しかも、その“別に”のあと、凛はほんの一拍だけこっちを見てから続けた。


「ちょっと疲れてそうだったので」


 そこで俺は、少しだけ目を細めた。


「……何でわかる」


「何となくです」


 何となく、ね。

 その言い方もずるい。

 だが、前よりは少しだけわかりやすい。


「顔ですか」

と俺が聞くと、凛は少し考えてから言う。


「顔もですけど、歩き方もちょっと」


 そこまで見てるのかよ。


「見すぎだろ」


「見えてるだけです」


 その返しは、かなり凛らしい。

 にぼし姫らしいと言ってもいい。


 俺はコンビニの自動ドアの前に立ったまま、小さく息を吐いた。


「別に大したことじゃない」


「そういう時ほど大したことなくないですか」


 その一言が、少しだけ鋭かった。


 疲れというのはそうだ。

 熱があるとか、倒れるとか、そういう大きいものではない。

 ただ、少し寝不足で、少しだるくて、ちょっと頭の回転が遅い。

 その程度。

 その程度だからこそ、自分では流してしまう。


「……まあ、少し寝てないだけだよ」


 そう言うと、凛は何でもない顔で言った。


「じゃあ寝た方がいいですね」


「それはそうだけど」


「帰って寝てください」


「命令かよ」


「推奨です」


 そこで少しだけ笑ってしまう。


 前なら、この会話だけでももっと妙に意識していた気がする。

 今はもう、心配の中身そのものへ目が向く。

 それはたぶん、正体探りのフェーズを越えたからだ。


「お前さ」


「何ですか」


「心配する時だけ、ちょっとわかりやすいよな」


 俺がそう言うと、凛は一瞬だけ止まった。


 本当に一瞬だけ。

 だが、止まった。


「そうですか?」


「そうだよ」


「普段は?」


「普段はわかりにくい」


「それはそれで失礼ですね」


「お前が自分でそうしてるんだろ」


 凛はそこでほんの少しだけ視線を逸らした。

 それから、棚の缶コーヒーを一本直しながら言う。


「心配してるつもりは、そんなにないです」


「今のは嘘だろ」


「嘘ではないです」


「じゃあ何だよ」


 数秒。

 その沈黙は短かったが、妙に濃かった。


 凛は結局、こう言った。


「ちょっと気になっただけです」


 その言い換えもずるい。

 でも、たぶんそれが本音なのだろう。


 心配。

 というほど大げさではない。

 けれど、少し気になる。

 その程度の言葉の方が、この関係には合っているのかもしれない。


「……同じだろ、それ」


 俺が言うと、凛は小さく首をかしげた。


「そうですか?」


「少なくとも、何も見てない人の言い方ではない」


「見てるって言ったじゃないですか」


 そこで俺は、少しだけ言葉に詰まってから、結局また笑ってしまった。


「そうだったな」


「今日はほんとに素直ですね」


「疲れてるからだよ」


「それ、便利な言い訳ですね」


 完全に良子と同じことを言うな。


---


 結局、俺はコンビニには入らなかった。


 入らなくても会話が成立してしまったからだ。

 前なら、店の外でこんなに普通に数分話すこと自体が少し変だった。

 今はその“少し変”が前より薄い。


「じゃあ帰れ」


 俺が言うと、凛は少しだけ眉を上げた。


「雑ですね」


「お前が寝ろって言ったんだろ」


「ちゃんと帰って寝てください」


「はいはい」


 そこまで返してから、少しだけ振り返る。


「お前」


「何ですか」


「やっぱり、心配する時だけちょっとわかりやすい」


 凛は一瞬だけ黙って、それから少しだけ口元をゆるめた。


「そうかもしれません」


 認めるのかよ。


「じゃあ直せよ」


「別に困ってないので」


「こっちが困る」


「それは知らないです」


 その返し方が、また少しだけいつもの凛に戻っていて、妙に安心した。


「じゃあまた」


「……また」


 短いやり取りで別れる。

 コンビニのガラス越し。

 夕方前の光。

 レジ袋の重み。

 眠気。


 全部、かなり日常的だ。

 でも、その日常の中にだけ、この人の少し特別な角度がある。


---


 帰り道、住宅街へ入ってから、少しだけ歩く速度を落とした。


「ちょっと気になった、か」


 小さく呟く。


 心配してるつもりはそんなにない。

 ちょっと気になっただけ。

 その言い方は、この作品にかなり合っている。

 大げさじゃない。

 でも、何もないわけでもない。


 他の人にも頼られている。

 見られている。

 期待されている。

 そういうものは確かに増えた。

 けれど、凛だけは少し見る角度が違う。


 “いて助かる”とか、

 “来ると思ってた”とか、

 そういう生活の重さとは別の角度から、こっちの雑さや無理を見ている気がする。


「……まあ、悪くないんだけどな」


 その結論は、わりとすぐ出た。


 困る。

 でも嫌ではない。

 この関係は、たぶんそういうものの積み重ねでできている。


---


 家へ戻ると、富子がすぐ言った。


「早かったわね」


「今日はもう帰る」


「どうしたの」


「ちょっと眠い」


「あら、珍しい」


 父が和室から顔を出す。


「具合悪いのか」


「そこまでじゃない。

 少し寝不足」


「なら寝ろ」


 父のその短さは、こういう時かなり助かる。


 良子はいなかった。

 ひなも来ていない。

 今日は少し静かだ。

 たぶんそれも、眠い頭にはちょうどいい。


「醤油は?」


「……買ってない」


 そこで富子が一瞬だけ止まった。


「珍しい」


「のりと切手はある」


「まあ、いいわ。

 醤油は明日でも」


 その“明日でも”にも少しだけ驚く。

 いつもなら“えー”くらいは飛んできそうなところだ。

 今日は俺の顔色がそれなりに出ていたのかもしれない。


「寝てきていい?」


「いいわよ」

と富子。


「寝ろ」

と父。


 短い許可をもらって、俺は二階へ戻った。


---


 ベッドへ転がる。

 部屋の空気が少しだけひんやりしている。

 扇風機をつける。

 目を閉じる。


「……心配する時だけ、ちょっとわかりやすいんだよな」


 最後にそう呟いた。


 普段は見えにくい。

 読みにくい。

 短い。

 でも、少し無理している時だけ、そこへちゃんと触ってくる。


 その触り方が、この人らしいと思う。

 大げさではない。

 でも、見ていないわけではない。


 それが少しだけうれしくて、少しだけ困る。


 その“少しずつ”の感じが、この作品の恋愛の進み方としてはたぶんちょうどよかった。


 そう思いながら、俺はわりとすぐに眠りに落ちた。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

もし作品を気に入っていただけましたら、

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★★★★★を入れていただけると作者のやる気が大幅に上がります(^^)/


また、ブックマークや感想も今後の執筆の支えになります。

引き続きよろしくお願いいたします。

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