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最強の自宅警備員、俺  作者: きなこもち
第5章 『頼るのはやめてほしい』

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「健太、お前はトラブルを持ち込む天才なのか?」



近所の小学生には、二種類いる。


静かなやつと、そうでないやつだ。


そして、健太は後者である。

かなり後者である。

むしろ後者の代表選手みたいな顔をしている。


声が大きい。

動きが雑。

勢いで物を扱う。

考える前に走る。

困るとすぐ来る。

しかもその“困る”の大半が、自分で雑に動いた結果である。


つまり、トラブルの発生源としてはかなり優秀だ。

こちらとしてはまったく嬉しくない方向に。


その日も、俺は自室で平和にしていた。


平和という言葉はいい。

最近の俺にはあまり長く続かないからこそ、余計に響く。


ノートPC。

机。

エナジードリンク。

窓の外の少しぬるい風。

完璧である。


少なくとも、三分前までは。


バン。


ドアの開き方がもう駄目だった。


「おじさん!!」


健太である。


俺は椅子の上で肩を落とした。


「ノックしろ」


「した!」


「しながら開けるな」


「緊急だから!」


その“緊急”も信用できない。

こいつの中では、靴紐がほどけたのも、カードが曲がったのも、プリントが一枚足りないのも全部緊急である。


だが今日は、顔が少しだけ本気だった。


「何だよ」


「自転車のカギなくした!」


来た。


物理トラブルである。

しかも面倒なやつだ。


「知らん」


第一声は当然それだった。


「あるはずなんだよ!」


「なくしたんだろ」


「なくしたかも!」


「どっちだよ」


説明が曖昧すぎる。


健太は部屋の中へ二歩ほど入ってきて、両手をぶんぶん振りながら続けた。


「さっき公園行こうと思って、自転車出して、カギ取ろうと思ったらなくて、でも昨日はあった気がして、でもお母さんに聞いたら知らないって言うし」


「落ち着け」


「落ち着いてる!」


「全然だ」


この時点で、俺の中ではすでに嫌な予感が完成していた。

こういう話は、だいたい二種類に分かれる。


一つ、本人が本当にどこかへ落としたパターン。

二つ、本人が“そこへ置いたことを忘れてるだけ”パターン。


経験上、後者の方が多い。

特に健太はそうだ。


「最後にどこで見た」


「えーと……」


考え始める。

長い。

こういう時だけ、こいつは急に思考速度が落ちる。


「昨日」


「広い」


「夕方」


「まだ広い」


「帰ってきて」


「だからそのあとどこ置いた」


「たぶん……ランドセルのとこ?」


たぶん。

来た。

信用できない副詞ランキング上位である。


「見たのか」


「見てない」


「じゃあまず見ろよ」


「でも、おじさんの方が見つけるのうまいし」


やめろ、その前提。


最近、本当にこれが増えた。

健太はもう、困ると普通に俺へ持ってくる。

しかも、自分で探し切る前にだ。

よくない。

非常によくない。


「自分で探せ」


「探した!」


「どこまで」


「そのへん!」


雑。

あまりにも雑。


そこへ、廊下からひなが顔を出した。


「けんた、また?」


「また、じゃないよ!今回ほんとにない!」


ひなは俺と健太を交互に見て、少しだけため息っぽい顔をした。


「おじさん、見に行く?」


「……行きたくない」


「でも行くでしょ」


何でお前までそういう言い方をするんだ。


そのタイミングで、良子まで後ろから来た。


「何の騒ぎ?」


「健太が自転車の鍵なくした」


「あー」


その“あー”は、わりといろいろ察している音だった。


「また適当なとこ置いたんじゃないの?」


「置いてない!」


「その否定、信用できないんだよね」


良子、お前も容赦ないな。


だがその通りでもある。


俺は椅子から立ち上がった。


「……とりあえず見に行く」


「やった!」


健太、お前が一番喜ぶな。


「ただし、見つからなくても知らんぞ」


「うん!」


その“うん”に責任感はほぼ含まれていない。

だがもう、ここまで来たら放っておくのも後味が悪い。


この“放っておくのも後味が悪い”が、一番面倒なのだ。


---


健太の家は近い。

近いのがまたよくない。

近いから呼ばれやすいし、近いから断りにくい。


玄関へ入ると、健太の母親が少し困った顔で出てきた。


「あ、すみません、太郎さん……」


その“すみません”の時点で、すでに少し負けた気分になる。

悪意がない大人の困り顔は強い。


「鍵、ないって」


「そうなんです。

朝から自分で探してるんですけど、全然で」


自分で探してる、の解像度が気になる。

健太の場合、“見える範囲を二分見てないと言う”も十分ありえる。


玄関の脇にはランドセル。

横に帽子。

床に靴下片方。

それだけで、だいたいの生活感がわかる。


「最後に使ったの、昨日?」


俺が聞くと、健太の母親が答える。


「たぶんそうです。

公園から帰ってきて、そのあとゲームしてたから……」


よし。

ルートが見えてきた。


公園。

帰宅。

ランドセル周辺か、ポケットか、机の上か、ゲーム機の横。

子どもの物の動線は、だいたいそういう感じだ。


「自転車どこ」


「庭!」


庭へ行く。

自転車はある。

当然だ。

鍵だけないのだから。


まずはポケット。

上着。

ズボン。

ない。


「昨日のズボンは」


「洗濯!」


「洗濯機見たか」


「見てない!」


何で見てない。


見ろ。

そういうところだぞ。


洗面所へ移動。

洗濯機の横。

洗濯かご。

ズボンのポケット。

ない。


「ない!」


「うるさい」


健太は結果報告が早い。

そしてその報告に新情報はあまりない。


次にランドセル周辺。

机。

教科書の隙間。

引き出し。

筆箱の横。

……ない。


「ほんとにないじゃん!」


「今のところはな」


ひなが後ろで言う。


「けんた、昨日どこでゲームしたの」


「え?」


「リビング?部屋?」


「……リビング」


それだ。


子どもの物は、使った場所の近くへ置いたまま忘れることが多い。

特に“帰ってきてそのまま別のこと始めた”時は怪しい。


リビングへ戻る。

ソファの横。

テーブルの下。

クッションの隙間。

テレビ台の上。

ゲーム機の周辺。


そして、あった。


テーブルの脚の内側にかかった小さなフック。

そこに、自転車の鍵がぶら下がっていた。


「あるじゃねえか」


俺は思わず言った。


「えっ!?」


健太が飛んでくる。


「何でそこ!?」


「こっちが聞きたい」


健太の母親が額に手を当てた。


「昨日、おやつ食べる時にたぶん引っかけたのね……」


なるほど。

流れが見えた。


公園から帰る。

鍵を手にしたまま家へ入る。

そのまま何となくフックへ。

そのあとゲームへ移行。

忘却。


非常に健太らしい。


健太は鍵を受け取って、本気で目を丸くしていた。


「うわ……ほんとにあった……」


「だから自分でちゃんと探せって言ってるだろ」


「探したもん!」


「今のは探したうちに入らん」


ひなが横から静かに言う。


「やっぱおじさん」


「その言い方やめろ」


だが、健太もそこは素直だった。


「ありがとう、おじさん!」


この“ありがとう”はまっすぐだ。

うるさくて雑で反省も浅いが、感謝だけは本物である。


だから完全には腹が立たない。

そこもまた面倒だ。


健太の母親が申し訳なさそうに言う。


「ほんとすみません。

毎回……」


「いや、まあ……」


毎回。

本人も自覚しているのか。

それはそれでつらいな。


「でも太郎さん、本当に見つけるの上手ですね」


その評価はやめろ。

また次が来る。


「たまたまです」


「たまたまじゃないよ!」


健太が即座に言う。


「おじさん、すぐ見つけるじゃん!」


その雑な信頼が、最近本当に多い。

多いし、困るし、でも間違っているわけでもないのが一番嫌だ。


---


家へ戻る途中、健太は自転車を押しながらずっと喋っていた。


「オレ、ちゃんと探したんだけどなあ」


「ちゃんとしてない」


「でもテーブルのとこ見てなかった」


「そこを見ろって話だ」


「だって、鍵ってもっと鍵っぽいとこにあるじゃん」


「鍵っぽいとこって何だよ」


「玄関とか」


「じゃあ最初にそこ見ろ」


「うっ」


ひなはその横で静かに言う。


「けんたは、思ったより見てない」


「ひどい!」


「ほんとだから」


子ども同士のその雑な断罪は、たまに容赦がない。


俺は歩きながら、小さく息を吐いた。


こういうことが増えた。

健太が困る。

呼ばれる。

行く。

わりとすぐ解決する。

感謝される。


冷静に考えると、かなり面倒な流れである。

しかも問題の大半は、最初から本人がもう少し落ち着いて探せば済む。


だが、子どもは落ち着いて探さない。

そして近くに俺がいる。


構造として負けている。


「おじさん」


健太が急にこっちを見る。


「何」


「やっぱ、おじさんいれば何とかなるね」


その一言に、俺はかなり微妙な顔をしたと思う。


「そういう言い方すんな」


「何で?」


「次から最初に来るだろ」


「来るよ?」


即答だった。


お前、本当にそういうところだけはまっすぐだな。


「来るな。まず自分で見ろ」


「見る!

でもそのあと来る!」


「意味ないだろそれ」


ひなが小さく笑っていた。

良子ならここで“はい出た、完全信頼”とか言いそうだが、いないだけまだ静かだ。


健太は少し考えてから、また言った。


「でも、おじさん、いてよかった」


今度の言い方は、さっきより少し静かだった。


うるさくない。

勢いでもない。

ただ、見つかったから本当にそう思った、という声。


それに対して、俺はもう“うるさい”と言う気にもなれなかった。


「……まあ、次は自分で見つけろよ」


「がんばる!」


その“がんばる”も、たぶん信用度は六割くらいだ。

だが今は、それでいいのかもしれない。


少なくとも、健太の中では“困ったら太郎”がかなり完成している。

それは面倒だ。

かなり面倒だ。


でも、完全に嫌なだけでもなかった。


---


家へ戻ると、良子が玄関で待っていた。


「どうだった」


「テーブルの横」


「は?」


「鍵の場所」


「あー……健太くんっぽい」


それで通じるのか。

通じるのだろうな。


ひなが言う。


「やっぱおじさんだった」


「その評価便利だな」


「でもそうだよ」


良子は俺を見て笑う。


「お兄ちゃん、健太くんの中で完全に“何とかなる人”だね」


「迷惑なんだよ、それ」


「でも助かったんでしょ?」


「まあ、助かったは助かった」


「じゃあいいじゃん」


全然よくない。

……いや、少しはよかったのかもしれない。


だが、それを今ここで認めるのは何となく癪だった。


俺は二階へ戻りながら、小さく呟いた。


「お前はトラブルを持ち込む天才かよ……」


健太の顔が頭に浮かぶ。

自転車。

鍵。

雑な説明。

でも最後の“いてよかった”。


どれも騒がしくて、どれも面倒で、でも全部がゼロにしたいわけでもない。


それが今の俺の生活圏だった。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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★★★★★を入れていただけると作者のやる気が大幅に上がります(^^)/


また、ブックマークや感想も今後の執筆の支えになります。

引き続きよろしくお願いいたします。

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