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退屈な女と嗤われて  作者: 小林翼


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第44話

 婚礼の日は、よく晴れていた。


 抜けるような青空の下、グレンツェの広場は、領中の人々で埋め尽くされていた。誰もが、最良の装いで集い、二人の門出を、今か今かと待ちわびている。


 会場は、グレンツェ・ブルーの布と、色とりどりの花々で、美しく飾られていた。素朴ながら、心のこもった、温かな婚礼の舞台だった。


 *


 やがて、花嫁が、姿を現した。


 アリシアの花嫁衣装は、最も上質なグレンツェ・ブルーで仕立てられていた。深く澄んだ青紫が、彼女の気高さを、いっそう引き立てている。髪には、あの花が、慎ましく飾られていた。


 その美しさに、会場から、感嘆の溜息が漏れた。


 祭壇の前では、ディートハルトが、緊張した面持ちで待っていた。いつもの無骨な騎士装束ではなく、礼装に身を包んだ彼もまた、凜々しく、晴れやかだった。


 アリシアが、ゆっくりと、彼のもとへと歩み寄る。


 二人の視線が、絡み合う。そこには、長い道のりを共に歩んできた者だけが持つ、深い信頼と、確かな愛が、満ちていた。


「……綺麗だ」


 ディートハルトが、思わず、ぽつりと呟いた。


 いつもは口下手な彼の、飾らない一言に、アリシアは、ふわりと微笑んだ。


「ありがとう。あなたも、とても素敵ですわ」


 *


 婚礼の儀は、厳かに、そして温かく執り行われた。


 二人が永遠の愛を誓い合うと、会場は、割れんばかりの祝福に包まれた。


 拍手と歓声が、グレンツェの空に、響き渡る。人々は、涙を流し、笑い、心から二人を祝福した。


「おめでとうございます、領主様! 団長様!」


「末永く、お幸せに!」


 温かな声が、四方から、降り注ぐ。


 アリシアは、その祝福の中で、満ち足りた幸福を、噛みしめていた。


 *


 祝宴は、夜遅くまで続いた。


 篝火が灯され、音楽が奏でられ、人々は踊り、歌った。誰もが、心からの笑顔で、この幸福な一日を、分かち合っていた。


 その中に、思いがけぬ顔も、あった。


 ローゼンベルク侯爵夫人である。彼女は、王都から、わざわざこの婚礼のために、足を運んでくれていた。年老いた身に長旅は応えたはずだが、その表情は、晴れやかそのものだった。


「おめでとう、アリシア。本当に、良い式ですね」


「夫人! 来てくださったのですね」


「当然でしょう。あなたの晴れ姿を、見逃すわけにはいきません」


 夫人は、慈愛のこもった目で、花嫁を見つめた。


「あなたは、立派になりました。出会った頃から、ずっと……いいえ、それ以上に。誇らしいですよ。あなたを見ていると、わたくしまで、若い頃の希望を思い出します」


「夫人のおかげです。本当に、ありがとうございました」


 二人は、固く、手を取り合った。世代を超えた友情が、この幸福な日に、改めて確かめ合われた。


 *


 夜が更け、祝宴も、穏やかな時を迎えた頃。


 アリシアとディートハルトは、二人並んで、夜空を見上げた。


 満天の星が、二人の門出を、祝福するように瞬いている。


「……幸せだ」


 ディートハルトが、静かに言った。


「俺の人生に、こんな日が来るとはな。あんたと出会えて、本当に、よかった」


「わたくしもです」


 アリシアは、彼の肩に、そっと頭を預けた。


「あなたと、この領のみんなと出会えて。わたくしは、世界で一番の幸せ者です」


 二人は、寄り添いながら、温かな夜を、噛みしめた。遠くからは、まだ祝宴の歌声が、絶えることなく聞こえてくる。村人たちは、夜が明けるまで、二人の門出を祝い続けるのだろう。


 追放された令嬢が、長い旅の果てに掴んだ、確かな幸福。それは、星明かりの下で、いつまでも、優しく輝いていた。


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