第41話
想いを通わせた二人の関係は、領にも、温かく受け入れられた。
領主と騎士団長の仲睦まじい姿は、村人たちにとって、何よりの喜びだった。皆が、二人を、心から祝福した。
けれど、アリシアの日々が、甘やかなものばかりになったわけではない。むしろ、勝利の後にこそ、新たな務めが、待っていた。
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ファルケンラート伯爵から取り戻した、莫大な財産。そして、正式に権利が認められた、地下の鉱脈。それらを、いかに活かすか。それが、アリシアの、新たな課題だった。
彼女は、安易な道を、選ばなかった。
「鉱脈の採掘は、慎重に進めます」
会議の席で、アリシアは、皆に告げた。
「一度に掘り尽くせば、たちまち富は得られるでしょう。けれど、それでは、土地を荒らし、いずれ枯れてしまう。わたくしたちが目指すのは、一時の富ではなく、末永く続く、豊かさです」
彼女の方針は、明快だった。
鉱脈の利益に頼りきるのではなく、染料産業や農業と、バランスよく組み合わせる。環境への負荷を抑え、持続可能な形で、領を発展させていく。目先の利益に飛びつかぬ、その思慮深さは、皆を、深く頷かせた。
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取り戻した財は、領のために、惜しみなく使われた。
まず、傷んだ家屋や、古びた施設が、次々と修繕された。新たな井戸が掘られ、用水路が拡張され、道が整えられていく。
学び舎も、建てられた。
子どもたちが、読み書きや計算を学べる場所。フェリクスのような、埋もれた才能を、これからは、若いうちから育てていく。それは、領の、未来への投資だった。生まれや境遇に関わらず、誰もが学び、才を伸ばせる。そんな場所を、アリシアは、自らの経験から、何より大切にしたかったのだ。
「人こそが、領の宝」
アリシアの信念は、形となって、領のあちこちに根を下ろしていった。
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グレンツェの繁栄は、もはや、揺るぎないものとなっていた。
かつて、誰もが見捨てた荒れ地。痩せた土地、寂れた村、減り続ける人口。その面影は、もう、どこにもない。
今、グレンツェは、活気に満ちた、豊かな領へと、生まれ変わっていた。緑なす畑、賑わう市場、笑顔あふれる人々。難民として来た者も、古くからの村人も、皆が手を取り合い、共に未来を築いている。
その評判は、王国中に広まり、グレンツェは、理想の領地経営の、手本とまで称されるようになった。
各地から、領の運営を学びに、人が訪れるほどだった。
「見事なものだ」
ある日、領を視察に訪れた高官が、感嘆して言った。
「これほど見事に治められた領は、王国広しといえど、そうはない。グレンツェ女伯爵、あなたの手腕は、まことに、たいしたものだ」
「もったいないお言葉です」
アリシアは、謙虚に頭を下げた。
「けれど、これは、わたくし一人の手柄ではありません。ここに暮らす、すべての人々が、力を合わせた結果でございます」
その答えに、高官は、深く感じ入った様子だった。
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夕暮れ、アリシアは、いつもの丘から、領を見渡した。
黄金色に輝く畑。温かな灯りの灯る家々。行き交う、笑顔の人々。
すべてが、彼女が、仲間と共に、一から築き上げたものだった。
(ここまで、来たのね)
胸に、深い充足が広がる。荒れ地に立ち尽くした、あの到着の日。あのとき思い描いた「伸びしろ」は、今、確かな実りとなって、目の前に広がっていた。
追放された令嬢は、もういない。ここにいるのは、愛する領と、愛する人々を、その手で守り抜いた、誇り高き女伯爵だった。
穏やかな幸福の日々が、グレンツェに、確かに根づいていた。




