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スマホ中毒転生  作者: しいな ここみ
第一部 スマホ中毒転生

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7/30

俺の名はヒロアキ、死に別れた恋人を探している

 大通りを馬車が行き交い、大勢の人間が歩いている。

 綺麗なドレスを着た貴婦人、簡素な服を纏っただけのご婦人、ボロボロの服でなんとか裸体を覆っているだけの老人──貧富の差がありありだ。


「これがこの世界の街か──」


 フードを少し上げてその光景を眺める俺を、手を繋いで歩くミレーディアがたしなめる。


「だめよ、ヒロアキ。顔を見せちゃだめ」


 教会にあった修道服は小さめとはいえ大人用だ。

 俺が着るとぶかぶかで、まさに服に着られているような状態だ。

 それゆえにフードも大きく、ふつうにかぶっていても顔が隠れてまぁ、いいのだが……

 しかし足元の他には何も見えない。ミレーディアに手を繋いでもらっていないと誰かにぶつかってしまいそうだ。


「何も見えないんだよ。初めて来たこの世界の街だ。見させてよ」

「だめよ。私だってみんなに見せたいのを必死で我慢しているの」


 パン屋に入ると結構おしゃれな感じで、令和のパン屋とそんなには変わらない印象だった、よく見えないけど。

 やわらかいパンなんかもふつうにあって、でもミレーディアは硬くて安いパンを五個買うと、店のひとに聞いてくれた。


「探している子どもがいるの。七歳ぐらいで、髪も瞳も黒くて、顔の平べったい女の子よ。知らないかしら」


 俺が街の人たちに聞いてみてくれとお願いしたら、快く引き受けてくれたのだ。

 リエもこの世界に転生しているなら、すぐに見つかるものと期待していた。何しろこの世界の人間と特徴がまるで違うからな。


 しかし、期待もむなしく、店のひとはこう答えた。


「それって転生人の子どもってことですよね? 知らないし、噂も聞いたことがないなぁ……。魔王が転生者を捕まえに動いたって話もしばらく聞かないし……」


 やっぱり……いつもミレーディアから聞いていた通りの答えだった。


 ミレーディアが外出するたび、俺はリエのことを聞いてみるよう、お願いしていた。いつもは伝聞だったが、直に耳にすると人探しの困難さを痛感する。



 店を出ると、俺はママに向かって両手を伸ばし、言った。


「俺が持つよ、ミレーディア」

「あら、ありがとう。でも重いわよ?」


 紙袋に入ったパンを受け取ると、言葉通りずっしり重かった。カチカチに硬くなるほど密度がぎっしりだから、パンとは思えないほどに、石みたいに重い。


 しかし俺はただの七歳の子どもではなかった。

 ミレーディアから受けている訓練の成果が身をもってわかる。鍛えられた足腰と腕力は到底七歳のそれではない。楽勝とまでは言わないが、5キロはありそうなそれを、俺は猫でも抱いて歩くように、軽々と抱えて歩けた。


 手を繋げなくなったので、ミレーディアが俺の首の後ろを掴んで誘導してくれる。フードがずり落ちて、まったく前が見えない。


「すみません」

 ミレーディアが通行人に声をかけた。

「このへんで、情報通の方って、どなたかいらっしゃらないかしら。探している子どもがいるの」


 しかし誰の返事も同じだった。

「さぁ?」

「そんなひと、知らないなぁ」

「みんな街の外のことには詳しくないの」


 どうやらこの街にはいないようだった。

 俺のように顔を隠している子どもがいるという話にも出会わなかった。


「俺、似顔絵描くよ」

 俺はミレーディアに提案してみた。

「貼り紙をいっぱい作って、あっちこっちに貼れば……」


「そんなことをしたら魔王の目にも留まってしまうわ。あまり目立つことをしないのがリエちゃんのためよ」


「でも……心配なんだ、俺」


 魔王のこともだが、スマホのない世界に転生したあいつが禁断症状に苦しんでいないか──それが心配だった。


「優しいのね、そんなところも大好きよ、ヒロアキちゃん」


 この街に来たのは徒労だったようだ。

 街がどんなところなのか、勉強のために見ておきたいと思ったのだが、こうも景色が見えないのでは……

 リエの情報もまったく得られなかった。まぁ、リエが転生してるとは限らない。あのまま天国へ行って、かわいい天使になっているかもしれないし……


 そう思っていると、ミレーディアが急に立ち止まった。俺は首の後ろを引っ張られ、ひっくり返りそうになるのを必死でこらえた。


「ど、どうした? ママ」

「……しっ」


 正面から誰かが近づいてくるのがわかった。

 落ち着いた、優雅な足取りで、何か金属っぽい音を小さく鳴らしながら、歩いてくる。


 その人物が、言った。なんだか嫌味な感じのする、若い男の声のようだった。


「貴様……ミレーディア・アースガルドか?」


「久しぶりね、ヴァルキュロス」

 ママの声がなんだか殺気を帯びてる。

「……20年振りぐらいかしら? ちっとも変わってないのね」


 ミレーディアが俺の首の後ろを掴む力が強くなった。俺を背中に隠そうとするように引っ張る。


「それは貴様の子か?」

 ヴァルキュロスとかいう男の声が俺を向く。

「どれ、顔を見せろ。似ているかどうか見てやる」


「顔にひどい火傷を負っているの。見ないであげてちょうだい」


「フ……。まさか……」

 男の声が挑発するように言う。

「転生者ではあるまいな? もしもそうならば、ヴンさまに報告せねばならん」


 ヴンさま……?

  

 それって確か、魔王の名前じゃ──


 コイツ、魔王の手下なのか?






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― 新着の感想 ―
 しいな ここみさん、こんにちは。 「スマホ中毒転生 俺の名はヒロアキ、死に別れた恋人を探している」拝読致しました。  無駄に斬って小鳥に食べさせたパンの代わりを求めて、街に来た二人。  ヒロア…
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