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スマホ中毒転生  作者: しいな ここみ
第一部 スマホ中毒転生

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6/30

俺の名はヒロアキ、未来の大剣士さまだ

 俺は七歳になった。 


 この七年で逞しく成長した俺をリエに見せたいものだ。

 何しろ元魔王征伐パーティーの切り込み隊長だったというミレーディアに手取り足取り教わって育ってきたのだ。オムツも丁寧に取り替えてもらった。ママには心から感謝している。


 むこうに残してきた実の親たちはどうしてるだろう。あの後、俺を失って悲しんだだろうか。

 まぁ、うちは6人兄弟だから、一人ぐらいいなくなったところで立ち直りは早いかもな。親より先に死んでしまった俺としても気が楽だ。


 教会にやって来るひとたちの、俺は人気者になった。

 教会の前を掃除していると、いつものおばさんたちがやって来て、笑顔で話しかけてくる。


「あら、ヒーローちゃん。お掃除えらいわねぇ」

「いつもかわいいわねぇ。ちっちゃい子がおおきなホウキを持って……」

「でも、ちょっとだけでいいから、お顔が見たいわぁ」


「すまん。この仮面ははずすわけにいかないんだ」


 俺はミレーディアが作ってくれた虎の仮面をギュッとかぶり直す。


 それでみんな諦めてくれた。俺は幼い時に顔を火傷し、醜いことになっているということにしてある。誰も俺が転生者特有の、この国の人間とは違った顔をしていることは知らない。


 みんな俺のことを『ヒーローちゃん』とか『ヘロちゃん』とか呼ぶ。ヒロアキという語は発音しにくいようだ。


『ヒロアキ』

 教会の中にいるミレーディアが、俺の頭の中に話しかけてきた。

『明日のミサの準備をするの。手伝ってちょうだい』


 明日は安息日。教会ではミサが行われる。大勢の信者さんたちが集まり、俺とミレーディアでパンとワインを振る舞うのだ。


『わかった、ママ』

 俺も頭の中で返事をすると、掃き取ったゴミを片付け、中へ入った。



 厨房に入ると長い髪を束ねてエプロンをつけたミレーディアが、困った顔をしていた。いつもながら美人のママだ。歳はもう40を超えているが。


「うーん……。困った、困った」

 心から困ったような顔でそう呟いている。


「どうした、ママ?」 

 虎のマスクをつけたまま俺が聞くと、こっちを見て辛そうな顔をした。


「だめよ、ヒロアキ。私と二人だけの時には仮面を取ってちょうだい」


 そう言って傍らに立てかけてあったムチを取ると、ヒョオッ! という風切り音とともにその切っ先が俺めがけ飛んできた。見事に仮面だけを絡め取り、一瞬で剥がされた。


「それでいいわ」

 現れた俺の素顔を眺め、満足そうに笑う。

「相変わらずかわいいわよ、私のヒロアキちゃん」


 俺は傍らの姿見に映る自分を見た。

 ブサイクだ。掘りの深い美人のママと並ぶと特にそう見える。黒いボサボサの髪に平べったい顔、足も短めで、いいところが見当たらない。日本人としてはまぁ、ふつうレベルだと思うが、アーストントンテンプル人にはあり得ない地味さだ。でも、いいんだ。ママがかわいいと言ってくれるから。


 ミレーディアだけは俺の名前をネイティブ並みに発音できる。俺が教え、訓練したからだ。

 それにやはり精神感応能力があるというのも大きいらしい。思えば初めて会った時から俺たちは会話ができていた。テレパシーで俺の考えたことを読む。俺が『加瀬ヒロアキ』と心の中で名乗れば、その言葉がそのままミレーディアに伝わる。ゆえに口では発音できずとも、思考での会話の中では正確に『ヒロアキ』と発音できていたのだ。


「ところで何を困ってるんだ?」


 俺が聞くと、ミレーディアは我に返ったように口を開けた。


「そうだ、あなたに見とれていて忘れていたわ。明日のミサで振る舞うパンが足りないのよ。確かたくさんあったと思ったのに……」


「なんだって? あんなの二週間ぐらいもつんだろ?」

  

 この世界のパンはカチカチに硬い。石のような硬さだ。スープにつけなければ硬すぎて食えたもんじゃないが、その代わりにめちゃめちゃ日持ちがする。


「ええ……。それで食糧庫に保存してあったと思ったから安心してたんだけど……。いくつかなくなってるみたいなのよ。ヒロアキちゃん、知らない?」


「あっ」


 思い出した。

 俺はミレーディアに剣を教わり、自分一人で練習もしている。

 そういえば、カチカチのパンを一刀で両断できるかどうか試したくて、教会の裏庭の切り株の上にパンを置いて、剣技の訓練に使ったんだった。

 まだ木刀しか持たせてもらえないので、包丁を剣代わりに使った。あまりにも綺麗に斬れて、自分がカッコよくなった気分だったので、調子に乗って5個斬っちまった。粉々になるまで斬りまくって、集ってきた小鳥にぜんぶ食わせちまった。


「そうだったのね」

 ミレーディアが俺の思考を読んで、呆れた顔をした。

「しょうがないイタズラ坊主ねぇ……。でも、かわいいから許すしかないわ」


「食べ物を粗末にしてごめんなさい」

 たくさんあったからこのぐらいいいだろうと思ってた。罪悪感もなかったから、剣技の訓練に使ったことも忘れてた。


「忘れてたのね。元気すぎるわんぱくさん。それぐらいのほうが男の子はかわいい……。でも、パンはなんとかしなくちゃ……。共同のパン焼き窯は予約してないと使えないし……。どうしましょう」


「ミレーディア」

 俺は思いついたことを口にした。

「街へ行かないか? パンを買いに行こう」


 産まれてからずっと、教会のあるこの小さな村から出たことがなかった。俺は街へ行ってみたくてウズウズしていた。


「だめよ。いつも言ってるように、あなたが転生者だってバレたら危ないのよ。行くなら私一人で行くわ」


 そう言いながら、ミレーディアもウズウズしているように見える。


「仮面をかぶって行けばいいじゃないか」


「だめだめ。村の人たちはみんなあなたのことを知ってるけど、虎の仮面をかぶったあなたを知らない人が見たらモンスターかと勘違いして警察に通報されかねないわ」


「じゃあ素顔さらして行こうぜ」


「だ……、だめよっ! そんなことをしたら、あなたのかわいさに注目が集まってしまうわ」


 わかってる。

 ほんとうはミレーディアは自慢の息子を広い世界に見せびらかしたいのだ。

 でも転生者だとバレたら魔王が喰らいにやって来るから、そのジレンマに身悶えしている。


「なんか顔を隠せる服とかないのかよ」


 俺が聞くと、ミレーディアがハッと何かを思い出した顔をした。


「そうか! そうよ! ここは教会! 修道士の服装があるじゃない! フードをかぶれば顔は隠せる。……あぁ、でも! それじゃあなたのかわいさがみんなに見せびらかせない!」


 身悶えしながらミレーディアがムチを振り回しはじめた。周囲のものを次々と破壊していく。鍋が真っ二つになり、調理台に亀裂が入る。いつものことだ、慣れている。俺はサッとかわして見守った。


 やがてミレーディアが動きを止め、嵐のような息を吐きながら、言った。


「……わかったわ! 一緒に街へ行きましょう」


 わぁい♪

  

 街へ行けるぞ、初めてだ。



 

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― 新着の感想 ―
 しいな ここみさん、こんにちは。 「スマホ中毒転生 俺の名はヒロアキ、未来の大剣士さまだ」  ヒロアキ、7歳。この間まで、乳を飲む赤子だったのにね。  育ての親のミレーディアさん、以前は魔王討…
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