パーティーのリーダーになるべき人物
「きっと……ヒーローくんもその伝説の勇者なんだよ」
あたしはミレーディアさんを気遣って、そういうことにした。
っていうか、できればそうであってほしかった。あたしは伝説の勇者なんてガラじゃないし、戦うなんて、やだし──
「ちょっと失礼」
ミレーディアさんがそう言って、あたしのお尻の紋章をしげしげと近くで見てくる。
見て見て。あたしはお尻の形にも自信があった。
「こんなに立派な……うちの子のアレとは比べものにならない……」
「リエお嬢さま──」
ヒミカちゃんが言った。
「魔王討伐の旅──、パーティーに加わっていただけますよね? まだ予定では三年先になりますけど」
あたしはヒミカちゃんのほうを振り返った。
自分がどんな顔をしてるか、見えるようだった。
たぶん苦虫を噛み潰したような、嫌そうな目をして、唇を尖らせている。キスするようにじゃなくて、なんていうか、「ぶーっ」って言う時の口の形だ。
あたしがしたいのは戦うことなんかじゃないのだ。
あたしがしたいのは、アッキネーターであたしの好きなどマイナーな芸能人の名前をスマホに当てさせたり、自分のかわいい角度で写真を撮りまくってインスタントテレグラムに投稿したり、AI生成したあたしの楽曲をランキングに挑戦させたり、『お顔ブック』にファンが書き込んでくれるコメントに丁寧に丁寧に返信したり──あぁ、キリがないけどそういうことなのだ。
でも、なんか、断れない展開だよね、コレ……
断ったら炎上してガッツリフォロワー減っちゃいそう……
自己承認欲求の強いあたしとしては、それは耐えられない……
「お父さまに聞いてみないと……」
うまく逃げた。
あの娘溺愛パパが、あたしをそんな危険な旅に出すわけがない。
「そうですね」
ヒミカちゃんがうなずいてくれた。よし!
「『伝説の勇者であるお嬢さまが同行してくれなければ魔王を討つのは難しいでしょう』とお願いしてみましょうか」
うぐ! なんかそれ、利き目ありそうなフレーズ!
「リエお嬢さまが一緒に来てくれるとすれば……」
ミレーディアさんが、なんだか悔しそうに言った。
「やはりパーティーのリーダーはリエお嬢さまということになるのか?」
「いいえ」
ヒミカちゃんが即答した。
「パーティーのリーダーにはヒーローくんが適任だと思います」
あたしはホッとした。
ミレーディアさんが大喜びを顔に表して、おおきな声で言った。
「そうだよな! うちの子だってお尻に紋章があるんだから! ……あははっ! このクソ魔族、いけすかないやつだと思ってたが、なかなか話せるじゃないか!」
近づいていってヒミカちゃんの細い肩をばしばし叩く。ちょっと痛そうな顔をしながらも笑い、ヒミカちゃんが言う。
「戦いは男性がリーダーを務めるべきものです。リエお嬢さまは伝説の勇者とはいえ女──、女は本来、戦いには向かないですからね」
「そうそう!」
あたしは大声で同意した。
「戦争を起こすのは男! 愚かな男なんだよね! いつだって女は自分と自分の好きなひとさえ幸せだったら世界なんてどうでもいいんだから! それに争ったとしてもせいぜい口喧嘩よ! 女がすべて世界のリーダーだったら戦争なんて口喧嘩で済むわ! ヒーローくんがパーティーのリーダー! 賛成! 何よりあたし、やる気ないし!」
「そう、それです」
ヒミカちゃんがにっこり笑う。
「私が見たところ、最もやる気マンマンなのがヒーローくんなんです。やる気のあるひとがリーダーを務めるべきですよっ」
「……あっ」
なんか恥ずかしくて黙ってしまった。
やる気がなくてごめんなさい。でも、他のことに対してだったら、あたしだってやる気マンマンなんだからね。
今、これをもし物語を読むように傍観している誰かがいるとしたら、きっとこれは私がスマホをこの異世界にもたらして大活躍するお話なんだろうって思ってるんだろうな。
でもごめんなさい。なんだか物語がへんな方向に行っちゃってる。
あたしだってこんなことがしたいわけじゃないのよー……あたしはスマホをもたらすことにやる気マンマンになりたいんだよー……
「それでしたら……リエお嬢さま」
まるであたしの思考を読んだかのように、ミレーディアさんが言った。
「まずは魔王という障壁を取り除くことから始めませんと……。今、あなたがこの世界になかった新しいものをもたらせば、すぐに転生者だと判明してしまい、魔王があなたを喰らいにやって来ます」
「ぶー」と、あたしは答えた。
魔王、邪魔。魔王、きらい。魔王……やっぱり討伐したい。
「……はっ? ところでリエお嬢さま、転生者だということは……」
ミレーディアさんが何かに気づいたようにそう言い、すぐに自分で発言を取り下げた。
「いや……、どう見てもお嬢さまは白人だし……、リエなんて名前はありふれているし……」
なんかブツブツ言ってるけど何が聞きたいのかわからないので、スルーした。
「ブルガリアンでしょ?」
唐突にミィリヤちゃんから言われた。
「違う? 私のカンによるとあんた、前世はブルガリアンって感じだけど」
あたしの前世はブルガリア人だと思ってるらしい。
どういう根拠かはわからなかった。
ヨーグルトをよく食べてそうに見えるのだろうか。
正直に答えた。
「日本人だよー」
そう言ったつもりだったけど、『日本人』という言葉がこの世界にはないからか、そのまま「Nihonjin」と口から出て、ロシア人のミィリヤちゃんには伝わらなかった。仕方なく言い直した。
「ジャパニーズ」
「えっ、その顔で!?」
ミィリヤちゃんにはお母さんみたいな透視能力はないようだ。
「そんな顔のヤポンスキー、いる!? そんな、ブルガリアンみたいなヤポンスキー──。ぶっさいくなヤポンスキーの男の子、身近に一人知ってるけど、全然違うよ?」
こっそり、ミィリヤちゃんにだけ、変身魔法を解いて見せた。
「わっ──!」
ミィリヤちゃんが口に手を当てて、盛大に驚いてくれた。
「わ……、わあぁぁぁっ! かわいい!」
これだ──
この快感が、あたしは欲しいのだ。
できれば今すぐ、かわいいあたしの素顔を世界に解き放ち、みんなを笑顔にし、あたしも笑顔にし、魔王さんが飛んできて……
「魔王を討伐しましょう」
あたしはいきなりやる気になった。
「まずはみんなのレベルアップからです」
ヒミカちゃんが真剣な顔になり、みんなに言った。
「ヒーローくんの剣、ミィリヤの法力、今のままではまだ弱すぎます。三年の間にじっくりと鍛えましょう。そしてリエお嬢さまは──魔法がお得意なのでしょうか?」
「はい!」
ほんとうは『右斜め上45度から自分の一番かわいい顔を撮るのが得意』と答えたいところ、素直にうなずいた。
「……じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日から訓練を始めるとするか」
ミレーディアさんがそう言って、大浴場の天井を仰いだ。
「……そんなつもりなかったんだがな、すっかりやる気にさせられちまったよ。うちの子、いいリーダーになれるかな……?」




