↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スマホ中毒転生  作者: しいな ここみ
第二部 ようやくのはじまり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/30

紋章

 ヒマだ……


 あたしは自室のベッドの上で、ドレス姿のまま、ただ右に左に寝返りを打っていた。


 新しい住人さんたちがやって来た。しかもいっぺんに四人も。

 魔王討伐とかどうでもいいけど、なんだか楽しくなってきた。スマホゲームでいえば新しいクエストに突入したみたい。

 でも、スマホゲームだったらこんな無為な時間なんてない。サクサクと、ヒマな時間なんてスキップして、楽しいところだけを味わえる。


 そうだ。ミィリヤちゃんは転生者、スマホのことを話題にしてお喋りできるんだ。


 彼女とお話したいな。今、何してるんだろう。


 扉が外からノックされた。


「お嬢さま」

 メイドのマリーが紅茶をもって入ってきた。

「お茶のお時間でございます」


 マリーが用意してくれるのを見ながら、聞いてみた。


「お客さまたちは今、何をされてるの? 邸の案内かしら?」


「皆さまで大浴場のほうへ行かれたようでございます」


 大浴場……


 みんなでお風呂!


 うちのお風呂はだだっ広い。まるで温泉旅館の岩風呂だ。

 あの広いお風呂で、あたしはいつも侍女二人と寂しく入浴してる。みんな黙ってあたしの身体を洗ってくれるだけだ。

 大浴場の醍醐味といえば、やっぱりアレじゃない?

 知らないひとに、あたしを見てもらって、『わぁ……、かわいい娘』とか注目を集めて、あとからそのことを『呟きX』に、「温泉行ってきましたー。なんかみんなにジロジロ見られちゃったけど、もしかして芸能人だと思われた?」とか書くことだよね。

 あたしはインドア派だが、温泉は好きなのだ。

 あの、あたしはなんにもしなくても、一方的にみんなから見られて、お風呂の気持ちよさが五倍ぐらいになるのが好きなのだ。


「あたしも行く!」


 そう言って勢いよく立ち上がるとマリーがびくっとした。


「侍女はいらないわ。お客さまたちと裸の付き合いで親睦を深めたいの」


 あたしがそのまま部屋を飛び出ようとすると、マリーに引き止められた。


「お嬢さま、変身魔法をお纏いください」


 その通り、あたしは変身してなかった。素顔のままだ。


「えー……? だってお客さまたちに素のあたしを見てもらいたいじゃん」


「旦那さまと奥方さまより仰せつかっております。お嬢さまが転生者だということは、お客さま方には明かさないようにと」


 心配性だなぁ……、二人とも。

 あたしが転生者だってバレたところで、魔王があたしを喰らいに来るわけじゃないだろうに。

 魔族のあの娘だって、透視能力があるっていうし、きっととっくにあたしの素顔はバレてるよ。


 でも、まぁ、マリーが叱られないように気遣って、金髪白ブタちゃんに変身すると、あたしは大浴場へ向かった。




 かぽーん……


 脱衣所に入ると、大浴場のほうからは『かぽーん』という音しか聞こえてこなかった。話し声はまったくしない。

 静かだ……。ほんとうにお客さまたち、中に──?


 いた。


 あたしが木の扉を開けると、だだっ広い浴槽の中に、湯けむりを通して三人の影が見えた。

 

「あら!」

 ヒミカちゃんのあかるい声が、浴場に響いた。

「リエお嬢さま、いらっしゃい」


 ヒミカちゃんとミィリヤちゃんがくっついてお湯に浸かっていた。そこから一番遠いところにミレーディアさんが、一人でお湯に入って放心してるのが見えた。


「リエお嬢さま!」

 ミィリヤちゃんがあたしに気づいて嬉しそうに立ち上がった。

「さっきはありがとう! おかげでお母さまの腕がなくならずに済みました!」


 いい子だな。


 同じ転生者どうし、仲良くなれそう。

 あたしも前世と違って愛されることを覚えたし、いい友達になれるかな。


「当然のことをしたまでですよ」

 あたしは母娘の隣にお邪魔して浸かると、早速したかった話を彼女に振った。

「転生者なんだよね? こっちの世界、スマホがないから不便じゃない?」


 するとミィリヤちゃんが、信じられないことを言いだした。


「えっ? 私はスマホのない世界に転生できて、せいせいしてるよ?」

 真顔でとても同意できないことを言う。

「だって友達と集まっても、彼氏とデートしてても、みんなスマホに夢中になってて、会話がないんだもの。スマホなんかないこっちの世界のほうが健全だわ」


「あ……、あははは……。そ、そうだよね」

 早速、共通の話題をなくしてしまった。

「健全……。そっかぁ……。そういう考え方もあるんだね」


「私にはわからない話題ですね?」

 そう言いながら、ヒミカちゃんが微笑んで聞いてくれた。

「なんなのですか? その『スマホ』って?」


「よくぞ聞いてくれました!」

 

 あたしは盛大に語った。

 人間は何かをしていないとヒマで死んでしまうということ、そのために色々な必要もない職業があって、ヒマを潰すためにそんな仕事をしている人間がたくさんいること、そんなヒマを潰すために、スマホという素晴らしいアイテムが転生前の世界にはあったこと、それは誰にでも使えて、誰にも迷惑をかけることなくヒマが潰せて、おまけに勉強も、他人とのコミュニケーションも、自己承認欲求を満たすことさえもでしてしまう万能ツールだということを──


 語り終えると、ヒミカちゃんが明らかに引いていた。


 あぁ……。またやっちゃった。


 あたし、自分の好きなことを語ると、他人から引かれてしまうの、ちっとも変わってない……。


「リエお嬢さま──」

 遠いところからミレーディアさんが言った。

「お好きなことは、胸を張って、堂々と、好きとお言いください。残念なことに私にはわかりませんが、好きなものを語る者を見ているのは、こちらまで嬉しくなるものです」

 そして片目を開けて、厳しい声を出す。

「そうだろう、ヒミカ?」


「そうですね」

 ヒミカちゃんが、にっこり笑ってくれた。

「私も……私がどれだけミィリヤのことを愛しているかを語ったところで、他人にとってはこの子はただのかわいい子でしかありません。好きなものを語るのって、難しいですよね」


「ところであんた……」

 ミィリヤちゃんが、あたしの顔をまじまじと見ながら言う。

「あんたも転生者なの? スマホのことを知ってるって……」


 あっ。


 しまった……。バラすなって言われてたのに、自分からバラしてしまった。

 ……まぁ、いっか。ヒミカちゃんはとっくに見透かしてるみたいだし。


「あぁ……。ちょっと浸かりすぎてしまいました」

 そう言いながら、ヒミカちゃんが立ち上がった。

「ふー……。ちょっと涼ませてもらいますね」

 

 うっ……?


 お湯から上がった彼女の身体を見て、あたしは思わず息が止まりかけた。


 ツギハギだらけだった。

 色の違う肉片が繋ぎ合わされたように、彼女の裸体はグロテスクだった。

 いけない、いけない。

 見た目でキモいとか思ってはいけない。彼女にはなんかの事情があるんだ。そうに違いない。


「ところでリエお嬢さま」

 岩の上にぺたんとその身を座らせて、ヒミカちゃんが言う。

「私に透視能力があることはもう、ご存知ですよね? 見えてますよ? うふふ……」


「あー……」

 あたしは変身魔法を解いて、素顔を見せようとした。でも、マリーや両親の顔がちらついて、できなかった。

「お父さまたちから、バラすなって言われてるから……」


「お顔も確かにおかわいいですけど……」

 ヒミカちゃんが、あたしの顔を覗き込んできた。

「あなたのお尻にある、その赤い立派な紋章を、みんなに見せてほしいのです。それはみんなの士気を高める大切なものですから」


「なんだって……?」

 向こうでミレーディアさんがざばっと水音を立てた。

「まさか……?」


「うーん……」

 あたしは変身魔法を、解いた。お尻のそれだけを──

「つまらないものですが」


 真っ赤なイレズミみたいなあたしの紋章が、みんなの前にさらされた。


「うそ……!」

 ミィリヤちゃんが声をあげた。

「あんたが伝説の勇者だったの?」


「そんな……! まさか……」

 ミレーディアさんがざばざばと近づいてきて、あたしのお尻を食い入るように見た。

「どういうことだ、これは!? 伝説の勇者は二人も産まれるというのか!?」


「二人?」

 お話を聞いてみた。


「や……。取り乱して失礼しました。じつは、うちの息子にもあるのです。お尻に、青い紋章が──」


「もしかして……。ミレーディアさんの息子って、ヒーローくんて、東洋人? 平べったい顔に、黒い髪、黒い瞳?」


「その通りですが……」


 あたしはとても言えなかった。


『それ、きっと東洋人なら誰でも産まれてからはしばらくある、蒙古斑だよ』なんて──






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
蒙古斑だったんかーい(笑)! ヒロアキさんの今後が楽しみすぎる(ひどい)。 何処に行くのか分からない物語。 異世界スマホの発明を楽しみにしつつ追いかけていきたいと思います。
 しいな ここみさん、こんにちは。 「スマホ中毒転生 紋章」拝読致しました。  ヒマだけど、本当は忙しいはず。  だって、新しい来訪者が4人も。  でも、スマホゲームなら、もっとサクサク進んでる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。