俺の名はヒロアキ、魔王討伐パーティーのリーダーになるべき男だ
「おかしなことになっちゃったね」
与えられた部屋に、荷物を運び込みながらママにそう言った。
匿ってもらうつもりで来たのに、なんだか俺は明日から、試練のようなものを受けることになったのだ。
「私の剣は特殊……、しかも我流」
ママが自分の荷物を整理しながら、言う。
「そんな私よりも、基礎をしっかり教えてくださるこちらの剣のお師匠さんについて学びなさい。あなたは素質があるから、めきめき強くなれるわ」
魔王討伐の話は、辺境伯から国王さんに報告され、おそらくは実行されることになるだろう。
しかしパーティーのメンバーをどうするか? という話になった。
尻に紋章のある勇者たる俺は、もちろんその筆頭候補として選ばれた。
しかし自分でも思うが、まだ実力不足だ。何より年齢がまだ若すぎる。
あと三年──
俺が十五歳になるまで、ここで秘密の訓練を受けることになった。
師匠を務めてくれるのはジージという名のじーさん、そして忍者だという陰の薄すぎる若い男だ。名前は忘れた。
つまりここで俺は天才勇者としての才能を最大に開花させ、魔王討伐のヒーローとして生まれ変わることになる。
俺がリーダーを務めるべきだと、ヒミカが太鼓判を押してくれた。
今から武者震いが止まらねぇ……。
俺が全転生者とその親を救う救世主となるんだな。
まぁ、この俺様に任せてくれれば、魔王討伐はもう、成功したも同じようなものだ。
しかし、ヒミカの娘──ミィリヤ……あれにはびっくりしたな。あいつにそんな才能があるだなんて──
ヒミカはあの後、白魔導師アレクシア・ホーリーさんに、こんなお願いをしたのだった。
「私の娘──ミィリヤには、白魔法の才能があります。どうか……アレクシアさまにその才能を開花させることをお願いすることはできないでしょうか」
白魔法が弱点のフレッシュ・ゴーレムのヒミカの、その娘に白魔法の才能があるなんてな……
ゴキブリが産んだ子どもに、ホウ酸団子を作れる才能があるみたいなもんじゃねーか、それ。あ、いや、ヒミカはゴキブリじゃねーけどな。
まぁ、あと、あの、リエと同じ名前をもつあの女の子にも、びっくりしたな。
顔はいかにも日本人好きしない、白ブタみたいなくせして、なかなか中身は話のわかる子だ。あれでルックスもよかったらリエ、ヒミカに続いて、俺の三人目の恋の対象になるところだった。あぶない、あぶない……
まぁ、でも、ヒミカが信用してもらえて、本当によかった。
俺はもちろん最初から信用してた。あの、初めて出会った時、僧服のフードをかぶっていた俺の顔を覗き込んできた、あのかわいい顔を見た時からだ。
かわいいは正義。西洋人なのに日本人好みの顔をしたヒミカは、正義そのものだ。なんで辺境伯さま、それをわかるまで、あんなに時間がかかったんだろう。
木製のドアが、外から軽くノックされた。
返事も待たずにそれが開く。びっくりした。天使が顔を覗かせたのかと思った。
「ミレーディアさんっ」
まぶしい微笑みを部屋の中に振りまきながら、ヒミカが言った。
「これから女性みんなでお風呂に行くんです。すごいんですよ、ここのお風呂。大浴場といって、大勢でいっぺんに入れるんですって」
ヒミカの下からミィリヤも顔を覗かせた。相変わらず愛嬌のない、ムスッとした顔だ。
「風呂か……」
ママがなんだかウズウズしながら答えた。
「そういえばヴァルキュロスと闘り合ってから入っていなかったな」
「ね? みんなで入りましょう」
ヒミカの笑顔ががかわいい。
「まずはみんなで仲良くならないと。親睦を深めるために最良なのが、裸のお付き合いというものですよっ」
は……、裸……
どうなんだろう。
俺、見た目は12歳なんだけど──
12歳はまだギリギリ、女風呂にママと入ってもいい年齢なんじゃなかったっけ……
「よし、行こう」
ママがそう答えてから、俺の思考を読んで釘を刺した。
「ヒロアキちゃんも、男性の方々と、親睦を深めてらっしゃいよ」
「えー……? ぼく、まだ子どもだよ? ママと一緒に入る」
「だめよ。中身はもうオトナでしょ?」
そういえば俺が七歳になったのを最後に、ママは一緒にお風呂に入ってくれなくなった。
何を危険視してるんだろう。俺、まだまだ子どもなのに……
「ふふっ」
ヒミカが俺の下半身のあたりを見つめ、からかうように笑う。
「見えてますよ、ヒーローさん」
な、何が見えているというのだろう? その透視能力で?
その脇を潜り、急接近してきたミィリヤが、俺をグーで殴った。そして恐ろしい顔で吐き捨てる。
「このスケベ」
ミレーディアがヒミカたちと一緒にお風呂へ行ってしまうと、俺はベッドに顔をこすりつけ、涙を拭いた。
ミィリヤのグーパンチはべつに痛くはなかった。涙の理由は悔しさだった。なぜ、12歳の男の子が、ママと一緒にお風呂に入ってはいけないのか……
妄想でお風呂の様子を思い描いた。
ママがヒミカと仲良く談笑している。よかった……。やっぱり親睦を深めるには裸の付き合いが一番だ。裸の……。よし、みんなの裸を思い描こう。
ママの裸はよく知っている。大理石のような肌と、マシュマロのような胸をもつ、立派なボディーだ。
ミィリヤの裸はどうでもいい。
ヒミカのを思い描いた。雪のような白さだ。胸の大きさは控えめというか、ちょうどいいってやつだ。
匠の造形したフィギュアのようなその裸体が、湯けむりの中で揺れている。
鼻血でシーツを汚してしまい、慌てて青刀カリスマアローで自分の腕に斬り傷をつけた。剣の素振りをしていて誤って斬ったことにしておこう。
「隠蔽工作か」
誰もいないと思ってたのに、いきなり男の声がして、びくっとした。
よく見ると、側にあの忍者だという若い男が立っていて、軽蔑するように俺を見下していた。
「い……、いつから!?」
「ずっといた」
さすがは忍者だ。ここまで気配を消せるなんて──
羨ましいと思った。その能力が、俺も欲しいと思った。それがあれば、俺もこっそり女風呂でご一緒できるのに……
「ハリウス・ニンニンだ」
聞いてもないのに、忍者が俺に自己紹介した。
「明日からおまえを鍛える役目を辺境伯さまから仰せつかっている。ビシビシやるから覚悟しておけ」
細身のイケメンだ。
なんだか仲良くなれそうにない気がした。
そんな──気配を消せるスキルをせっかく持っているのに、女性たちが皆、お風呂に入っている今、こんなところで男の俺と会話してるようなやつなんて……生真面目すぎて気が合わない気がした。
「ところで……聞いたぞ?」
忍者が俺になんか話しかけてる。
「おまえ、尻に伝説の勇者の紋章があるそうだな? 見せてみろ」
「あっ、見たい?」
自慢のポイントを話題にされて、俺の機嫌がまたたく間に直った。
「よし、特別に見せてやる。男に尻を見せる趣味なんてないんだけどな。まぁ、見せてやんよ。とくと見やがれ」
忍者にケツを向けて、ズボンを下ろした。
忍者が面白くなさそうな顔をした。
「……どこに紋章があるんだ?」




