転生者さんたちがやって来た
広間へ行くと、お客さまたちがやって来ていた。
あたしはお父さまから言いつけられていた通りに、興奮を心の中に隠して、平静を装う。
『いいかい、リエ』
お父さまに事前に言われていたのだ。
『同じ転生者に会えて、嬉しいことだろう。でも、油断してはだめだ。魔族が一緒に来るんだ。しかもただの魔族ではない。魔王ヴンの側近らしい。けっしてキミが転生者だということを知られてはいけないよ。だからけっして興奮したところを見せず、変身して、ほんとうの姿は見せずにいなさい』
あたしはつまらなそうなフリをして、心の中ではワクワクしながら、四人のお客さまたちを順に眺めた。
サラサラの銀髪の、白いローブ姿の女の子──このひとが魔族、魔王の側近『四機神』の一人、ヒミカさんらしい。そんな強いひとには見えない。ただひたすらに優しそうで、かわいい。16歳ぐらいかな。この子とだったらあたし、アイドルグループ結成してもいい。
ヒミカさんの横にいる金髪の女の子が転生者。あたしより年下で、なんだか無愛想な印象だけど、早くこの子とスマホの話したい。
緑色の長髪の、背の高い女のひとが、お母さまのお友達──。とてもお強い剣士らしい。邸内なので帯刀してらっしゃらないし、ふつうのチュニック姿だけど、それでも見るからに強そう。
その横に男の子がくっついていた。
なんかへんな覆面をかぶってる。令和の特撮ヒーローみたいな──あぁ、そうか。この子も転生者なんだ。
あたしのほうを何かに気づいたように熱烈に見つめたかと思うと、すぐに興味を失ったように目をそらした。
なんか不審者みたいな子だ。
とても仲良くはなれそうにない気がした。
それにしても──変身、解きたいな。
転生者さんたちに、かわいいあたしの素顔を見てもらいたいのに……
「お初にお目にかかります」
緑色の髪の女剣士さんが挨拶をした。
「私はミレーディア・アースガルド。奥さまとは昔、魔王討伐パーティーで──」
「あぁ……。自己紹介は結構だよ」
お父さまが言葉を遮った。
「わざわざ来てもらっておいてすまないが、私はキミたちを受け入れるつもりはない」
「はぁ!?」という顔で、お母さまとあたしが一斉に視線を向けた。
「辺境伯たる私が転生者を匿っているなどと、もし外部に漏れてみなさい。大変なことになる。魔王を怒らせて、もしかしたら戦争になるかもしれないよ」
しれっとした顔で、お父さまが言う。
「数日ゆっくりするぐらいは構わない。その間にどこか移住できるところを見つけてくれないか」
「あなた!」
お母さまが噛みつくように横から言う。
「私のお友達を受け入れてくださると仰ったではありませんか」
「そうは言ってないよ。ただ、とりあえず会ってみると言っただけだよ」
今日のお父さま、なんだか強気だ。
その時、あたしの頭の中で、女のひとの声がした。
『アレクシア……。失礼ながら、辺境伯さまの頭の中を読ませてもらったわ。たまには辺境伯としての威厳を見せないとって思ってらっしゃる』
なんだ、この声……。
次にははっきりと、お母さまの声が頭の中で聞こえた。
『まあぁ……! 私のお友達が困ってるから、助けてくださるって仰ったのに……!』
どうやらお母さまとミレーディアさんがテレパシーみたいなもので会話をしているようだった。お母さまの口はまったく動いていない。
ミレーディアさんの声が言う。
『お願い、アレクシア……。隣にいるこのクソ魔族のことはどうでもいいから、うちの子だけは受け入れるよう、とりなしてもらえないかしら?』
お母さまの声が答えた。
『もちろんよ、ミレーディア。私とリエが二人でお願いしたら弱いんだから、うちのひと』
お父さまにはまったく聞こえていないようだ。
でもまるで聞こえていたかのようなことを言い出した。
「ミレーディアさんは妻の友人だ。ゆっくりして行ってもらっていい」
「では……!」
ミレーディアさんが笑顔になった。
「いや、勘違いしてもらっては困る。その子を受け入れるつもりはないよ。ただ、積もる話もあるだろうから、しばらくはゆっくりして行きなさいというだけで──」
お母さまがキッと睨みつけたけど、なんだか今日のお父さまは揺るがない。
「しかし──、魔族の方は、すぐに領地を出て行ってもらえないかね」
お父さまがとても冷たい目をして、ヒミカちゃんを見る。
「キミに対しては何の義理もない。それに、通行手形は持っているのかね?」
「はい、ちゃんと持っております」
ヒミカちゃんがローブの中から立派な革の巻物を取り出し、お父さまに見せ、にっこりと笑った。
「期限は?」
「無期限となっております」
お父さまが歯ぎしりをして、続ける。
「キミの事情は妻から聞いた。転生者を娘として育て、魔王から匿っているそうだね?」
ヒミカちゃんはあくまで笑顔で、余裕たっぷりな態度で返事をする。
「ハイ。母親としての愛情に目覚めております。この子はかけがえのない、私の娘です」
そう言って、金髪の女の子の頭をクシャクシャッと撫でた。
「しかし──信用しきれんのだよ。こんなことを言うと失礼かもしれないが、何か……私を陥れようとしている気もしてしまう。その子が転生者だという証拠は?」
「この世界にはない知識を持っています」
ヒミカちゃんが愛おしそうに金髪の娘の髪を撫でながら、言う。
「それに──ご存知と思いますが、私は子どもが産めません」
「そうらしいね」
お母さまからそのことを聞いていたお父さまが、うなずく。
「キミはあれらしいね。元々は魔力によって動く、人形のようなものらしいね。そういう『命なき動くもの』を退治するのは、白魔導師アレクシアの得意分野なのだが……うちの妻を目の前にして、怖くはないのかね?」
「うふふ。怖いです」
あたしには何のことかわからないけど、ヒミカちゃんがお母さまを見てぺこりと頭を下げた。
「ですけど、転生者の娘を匿ってくれるとしたら、アレクシアさんしかいないと思ったんです」
「匿わないよ、何度も言ってる通り──」
「えぇ? それって、おかしくありません?」
ヒミカちゃんがなんだかオーバー・リアクションで驚く格好をした。
「だって……! ご自分だって、転生者を匿ってらっしゃるのに!」
そう言って、あたしのほうを見る。
そして、ローブの裾をつまんで挨拶しながら、あたしに言った。
「初めまして、リエ・フォンティーヌ辺境伯令嬢さま。どうせなら髪の色は茶色のままのほうがよろしいと思いましてよ? だって、お父さまもお母さまも、髪の色は茶色ですのに──」
あれ……?
このひと、もしかして、あたしの変身を見透かしてる?




