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スマホ中毒転生  作者: しいな ここみ
第二部 ようやくのはじまり

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辺境伯アンドレアス・ド・ラ・フォンティーヌ

「すげーな、リエ!」

 チビにゃんが楽しそうに叫んだ。


「か、火事ッスーー!」

 チョロさんが泣き叫んだ。


「こ、こんなもの!」

 巨人さんが炎を振り払った。


 ハリウスはどこかへ飛んでいったままだ。


 炎を見て、二頭の馬たちがパニックになってる。


「まぁ、でも、やりすぎだ」

 チビにゃんが真顔になって、あたしに言う。

「消してくれ」  


「そ……、そう言われても……」


 火炎魔法は結構得意だけど、水魔法には苦手意識があった。だってあたし、カナヅチだし──


 メラメラと炎が燃え広がり、黒い煙が空へ──

 その時、あたしたちの前に、ひょろりと背の高い男性の後ろ姿が、突然現れた。


 あたしは叫んだ。

「お父さま!」


 寝間着姿だった。


 お父さまがサッと空に向かって片手を上げると、みるみる黒い雲がそこに集まる。


「ゲリラ豪雨」

 

 お父さまの詠唱と同時に、滝のような雨が地面をどかーん! と叩き、あたしたちは押し潰されるように倒れた。

 山火事はあっという間に収まっていた。


 お父さまがこちらを振り返る。


 あたしたちは豪雨をモロに浴びたのに、ちっとも濡れてらっしゃらない。

 三日月の下、その形相が鬼みたいだった。いつものヘラヘラしたお父さまじゃない──。


「アンドレアス・ド・ラ・フォンティーヌ辺境伯……」

 チビにゃんが緊張した声でその名を呼んだ。

「まさか……そっちからリエを迎えに来てくれるとは……」


 お父さまがてのひらをチビにゃんに向けた。

「消えろ」


「待って!」  

 咄嗟にあたしはその前に立ち塞がった。

「この子、あたしの友達なの!」


「ゴアアアア!」

 棍棒を振り上げて、後ろから巨人ガンガロスがお父さまに襲いかかった。


 振り返りもせず、お父さまがそっちに手をかざすと、巨人さんは氷漬けになって動きを止めた。


「リエ……。火事はおまえの仕業か」

 お父さまがいつもと違う。

「どうしてこんなに魔族の者がいるんだ」

 

「う……、噂は本当だったみたいッス!」

 後ろのほうで完全再生したチョロさんが叫んだ。

「コイツが魔王討伐パーティーに加わっていれば、魔王討伐は成功し、魔族領は人間に占領されていただろうって、あの噂は──!」


 チョロさんに向かって手をかざそうとしたお父さまの前に、あたしは移動魔法で手を広げて立ち塞がった。


「なぜ──、魔族の者を庇う?」


「友達なのっ!」


 チビにゃんが後ろで立ち上がり、びしょ濡れの頭をぺこりと下げた。


「クロ・チビと申します。魔族でありながら転生者です。お嬢さんには前世で命を助けられかけました。結果的には死んで、こちらに転生しましたが──」


「て……、転生者だと……?」

 その単語を聞いて、途端にお父さまがオロオロしはじめた。

「リエの異世界での友達だったのかい? まさか……リエ、その魔族の女も私に匿えというのではないだろうね? リエはいいとして、アレクシアの友達が連れて来るという二人を合わせて、四人も……? む、無理……」

 ガクガク震えながら、チョロさんのほうも見て、聞く。

「ま……、まさか……そっちの魔族の女も?」


 チョロさんが明るい声で答えた。

「あっ! アタシはただのアマゾネスですんで、大丈夫ッス!」


「ご迷惑はおかけしません」

 チビにゃんが礼儀正しく頭を下げる。

「私たちは魔族ですが、流浪の民──。人間に危害は加えません。ただ、美味しいおやつをみんなに届けようと、魔族領と人間領を股にかけて旅しております」


「通行手形は持っているのかね?」


「持っておりません」


「それじゃ、不法侵入者だな」


「待って! お父さま!」

 あたしが間に割って入った。

「チビにゃんのおやつ、本当に美味しいの! チューるるっていうの! お父さまも召し上がったらきっと虜になるわ」


 チビにゃんが腰につけていた革袋から、モンブラン色のそれをにゅるるっと出した。あたしは指でそれをすくってペロッと舐めると、にっこり笑い、お父さまにも差し出した。

 ふつうならお父さまは警戒して、けっして舐めてみたりはしないところだろう。でも、あたしの人差し指についたそれを見ると、厳しいお顔をゆるめて、ペロッと舐めてくださった。


 お父さまの笑顔が、とろけた。


「ね、美味しいでしょ? あたしに免じて、特別にチビにゃんに通行手形を発行してあげて」


「し、しかしだなぁ〜……」

 身も心もとろけかけていたお父さまが、シャキッと背を伸ばし直した。

「通行手形は私の一存で発行してやれるものではない。それに……チビにゃんとやら、危険ではないのかね? 外見的に異質なところのない転生者が、それでも転生者だとバレるのは、この世界にはないものを持ち込むからだ。こんな、この世のものとも思えないような、とろけるスウィーツをみんなに配って回っていては、そのうち魔王ヴンに捕まるのではないかね?」


「たとえ魔王に捕まって喰われても、私はこの世にチューるるを広めたいのです」


 堂々と言い切ったチビにゃんに、お父さまが胸を打たれたような顔をした。


「ね? 私のお友達は、愛と夢と希望にあふれたひとなの! けっして悪いひとではないの! 見逃してあげて!」


「り……、リエがそう言うなら……」


「ありがとう!」


 やっぱり娘には甘いお父さまに、抱きついて、ほっぺたにキスをした。


「しかしリエ……。この山火事の責任はとりなさい。再生魔法を習得し、何年かかってもよいから森を元通りにするのだ」


「はい!」


 あたしは元気よく返事をした。

 楽しそうだ、面白そうだ。いい暇つぶしになりそうだ。


「では……邸に帰るぞ。こっちだ」


 お父さまが歩きだした。その背中をあたしはついて行った。

 振り返って、チビにゃんに手を振ると、彼女も手を振り返してくれた。


「困ったことがあったらいつでもこの森に向かって叫んでくれ。オレは耳がいい。いつでもオマエのために駆けつける」

 目を猫みたいに笑わせて、チビにゃんが言った。

「オマエは恩人だからな、リエ」


 お父さまの腕につかまって、帰り道を歩いた。気がつくといつの間にかハリウスも並んで歩いていた。


 なんか今夜はハチャメチャだったけど、楽しかった。

 スマホゲームの中の世界に入り込んだみたいだった。


 明日はもっと楽しみだ。

 初めて他の転生者さんに会える。


 スマホの話ができるかも!





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― 新着の感想 ―
 しいな ここみさん、こんにちは。 「スマホ中毒転生 辺境伯アンドレアス・ド・ラ・フォンティーヌ」拝読致しました。  凄いけど、さすがにやり過ぎ。消してよ。  け、消し方は、苦手なの。  あ、お…
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