森の中の遭遇
チビにゃんの腰は細いのに逞しい。
ホンマに逞しい。
顔はあどけないといえるほどなのに、身体はガッチリ、鋼鉄みたい。
あたしはとても頼れるものを抱きしめるみたいに、その腰に捕まって、馬が駆けるのに身を任せた。
ふと振り向くと、チョロさんが後ろにハリウスを乗せてついて来る。ハリウスは『魔族の腰になんか捕まってたまるか』みたいに、馬のお尻の上で立っていた。よくあんな揺れるところに立っていられるものだ。さすがニンジャだ。
「おっ……?」
チビにゃんがそう声をあげて、馬を急停止させた。
あたしは彼女の背中に思いきりぶつかった。
チョロさんも後ろで急停止した。ハリウスが振り落とされた。しかし三日月を背にくるくると宙返りすると、地面に降り立った。
どうして急停止したのかと、聞くまでもなかった。
前におおきなものが立ち塞がっていたのだ。ものというか、人……いや、これって──
「オイオイオイオイ……」
そのおおきなものが、地響きを立てるような声で、喋った。
「山火事が起きてるみてーだから見に来てみたら、まさかてめーに会えるとはな、チビ。この火事もてめーの仕業か?」
「めんどくせーのに出遭っちまったな」
チビにゃんが舌打ちするのが聞こえた。
「ガンガロス。今はてめーと闘り合ってる暇はねェ。消えてくれ」
巨人だった。
身長4メートルはありそうだ。
その巨体に革の鎧を着けて、巨大な棍棒をかついでいる。
「友達?」
あたしが聞くと──
「敵だよ」
チビにゃんがそう答えた。
「オレの天敵みてーなヤツだ。弓矢が効かねぇ」
「アネキは下がっててくださいッス!」
そう言いながら、チョロさんが前へ出た。
「弓矢が効かねーなら、アタシの剣で……」
ぶん! と、音がした。
巨人が棍棒を一振りしたのだ。
チョロさんの身体がバラバラになって飛び散った。
「チョロさぁーーーん!?」
「あーあ……」
叫んだあたしがまるで場違いみたいに、チビにゃんは落ち着いていた。
「てめーの勝てる相手じゃねェよ、馬鹿チョロが」
「一発KOされたッス!」
バラバラになったチョロさんが、どこからともなく言った。
「面目ねーッス!」
「チビよ、てめーより俺のほうが強えェってこと、今日こそ教えてやんよ」
チョロさんが喋ったことには少しも驚きもせず、巨人さんが言う。
「勝負だ。闘ろうぜ」
「あー……。闘んねェ、闘んねェ」
チビにゃんがため息を吐く。
「オマエのほうが強い、強い。それでいいか? オレたち急いでるんだ」
「いやだね。ここは通さねー。通りたきゃ俺を倒して行きな」
頬の傷痕をごっつい指でなぞりながら、巨人さんが舌なめずりした。
「てめーにつけられたこの傷が疼くんだよ。てめーをぶちのめさねーと収まんねェ」
あたしたちの後ろから、鋭い風が飛んできた。
「魔族、駆除……」
小さな声でそう呟きながら、ハリウスが巨人さんめがけて飛んでいく。
「おいおい、よせよせ」
チビにゃんが口で制止する。
「オマエ弱っちぃのに……。死ぬぞ?」
「忍法……、黒手裏剣」
ハリウスの手から黒い手裏剣が百発ぐらい発射された。
「うわあっ!?」
それをすべて喰らって、巨人さんが声をあげる。
「か……、痒いな、オイ! 百匹の蚊に食われたみてーだぞ、オイ!」
プライドを傷つけられたようだ。地面に降り立ったハリウスが、全身から真っ黒なオーラを立ち昇らせた。
「なぜ…国境を易々と越えて、これほどまでに魔族が人間領に入り込んで来てるんだ」
震える声でハリウスが言う。
「許さんぞーーー!」
巨人さんが棍棒を一振りすると、華奢な身体のハリウスが紙切れみたいに飛んでいった。
「ハリウス!」
「大丈夫だ、当たってはねェ。風圧で飛ばされただけだ。だからよせって言ったのに。弱っちぃんだから……」
いやいや……。ハリウスって、あれでも次期辺境伯候補なんだけど。まだ15歳にしては戦闘力めっちゃ高いはずなんだけど……。
彼がこんなに簡単にあしらわれるなんて……魔族って、そんなに強いのか──。
「闘ろうぜ、チビ!」
巨人さんが吠える。
あの強い巨人さんがこれだけこだわるってことは、チビにゃんも相当強いのかな。実際、ハリウスを子ども扱いしてたし……
「やれやれ……」
チビにゃんがため息を吐きながら、呟いた。
「ああいう筋肉バカ、苦手なんだ。かわすのはわけねーし、勝てって言われたら勝てるんだけどな、めんどくせーんだ。アレをやんなきゃいけねー……」
「アレはやんないでおくれッス!」
後ろで再生しながら、チョロさんが泣いた。
「醜いアネキは見たくないッス!」
「醜いとか言うな! オレはアレをやっても醜くはねェぞっ!」
「来ねーなら、こっちから行くぞ」
チョロさんと口喧嘩みたいなことをしてるうちに、チビにゃんの頭の上に棍棒が降ってきた。
咄嗟に、あたしは魔法を唱えていた。
「ファイヤイヤイヤーーー!!」
効いた。
やった。
巨人さんがもがき苦しんでる。
でも、ちょっと魔法がでかすぎた。
また山火事にしてしまった。




