夜のおやつタイム
「まぁ、食ってくれ」
燃えさかる森を遠くに見ながら、あたしたちは広場で夜のおやつタイムをとっていた。
チビちゃんが笑顔で甘いモンブランのクリーム部分だけみたいなものを革袋の中からニュルルッと出してくれる。
「美味しい!」
一口舐めて、とりこになった。
「これ、なんておやつ?」
「チューるるっていうんだ。オレが発明したおやつだぜ」
「アネキの発明力、ハンパねぇッス」
アマゾネスたちも夢中だ。
「さすがは転生者のチート能力」
「うまうま」
「魔族夢中」
ハリウスもどよーんとした目をしながら、中毒患者みたいにチューるるを舐めてる。
あたしたちを乗せて逃げてくれたアマゾネスさんの馬たちも、木に繋がれながらチューるるを堪能していた。
「……あれ、どうしよう」
あたしは遠くの大山火事を眺めながら、言った。
「あたしのせいで……」
「大丈夫、どうぶつはオレたちが避難させたし──」
そう言って、チビちゃんが周りでチューるるに夢中になっているどうぶつたちを見た。
鹿さんも、うさぎさんも、イタチさんも、クマさんも、みんなチューるるで目つきがとろんとなってる。
「燃えるものがなくなるまで燃えたら収まるよ。まぁ、昆虫までは救ってやれなかったけどな」
ハリウスがチューるるを舐めながら、チビちゃんたちアマゾネスのことを警戒する目で見てる。領地に侵入した魔族は駆除しないと──そう思ってる目だ。
「ハリウス……」
あたしはお願いした。
「チビちゃんはあたしの古い知り合いなの。見逃してあげて?」
何も言わずにハリウスが、チューるるを舐めながら、険しい目をしてる。
「それに……転生者なの」
そう口にして、気づいた。
「あ! チビちゃん、それじゃ魔王に見つかったら食べられちゃうんじゃない?」
「アタシらアマゾネスはどうせ流浪の民なんスよ」
チビちゃんの手下さんたちが教えてくれた。
「だからべつに魔王さんに仕えてるわけではないですし──」
「何よりアネキの見た目じゃ転生者だなんてバレないッス」
そう言われて、改めてチビちゃんの容姿をよくよく眺めた。
黒いワイルドな短髪に、褐色の肌──瞳は青くて、どこの国のひとと言っていいかわからない。
なめした黒い革でぴっちりと胸や下半身を隠していて、丸い顔と精悍なスタイルがまさに猫科って感じだ。
他のアマゾネスさんたちも同じような見た目をしてるけど、チビちゃんのカッコよさは特別級だった。
「そっか……。あたしと違って、見た目はまんまアマゾネスだから、バレないんだ?」
「いや……」
「そういうわけじゃないッス」
アマゾネスさんたちが何やらクスクス笑ってる。
「アネキは特別な部族ッスから」
突然、暗い空がさらに暗くなった。
山火事を起こしてる森の上に真っ黒な雲がかかる。それが激しく雨を降らせているようで、遠くで轟々と嵐のような音が聞こえはじめた。
あたしにはすぐに何が起きているのか、わかった。
お父さまが山火事に気づいて、風系統と水系統を合わせた高級魔法を唱え、消火しているのだ。
「うわ、何スか、あれ?」
アマゾネスさんたちがびっくりしてる。
「急にすげー雨、振り出したッスよ?」
「でもコレで火事、収まりそうッスね」
「リエの父親だな?」
チビちゃんが察して、言った。
「すげぇ力だな……。近づきたくねェって思ってたけど、自然を操るなんて、やっぱりバケモンだ」
お父さま、起きてらっしゃるんだ……
たぶん、お母さまも、ジージも、みんなも──
あたしがいないってわかったら、大騒ぎするかな。
「今、何時だろう」
あたしはスマホを取り出して時間を確認しようとして、ないことに気づいて、チビちゃんに聞いた。
「月があの位置だから……たぶん1時くらいかな」
「あたし、帰らないと……。きっと心配させてる」
GPSで帰り道を調べようとして、また心の中で自分にツッコんで、チビちゃんにまた聞いた。
「元の場所からだいぶん移動したよね? 邸に帰るのはどっちへ行けばいい?」
「うーん……?」
チビちゃんが諦めたように、アハハと笑った。
「さぁ?」
やっぱりスマホは便利だ。
魔法も便利だって思ってたけど、スマホほどじゃない。
浮遊魔法で空へ飛び上がっても、夜ではなんにも見えないだろうし、何よりハリウスも連れて帰らないと──
「こんな時、スマホがあれば、ナビしてくれるのに……」
呟いたあたしの言葉に、みんなの顔がハテナマークになった。
そうか……、チビちゃんは転生者とはいえ前世が猫だから、スマホなんて知らないんだ。
そうだ! お母さまに電話して──と思いついたのをまた打ち消して、自分の魔法でなんとかできないかと考えていると──
「オレがなんとかしてやるよ」
チビちゃんが言い出した。
「リエには返しきれない恩と、償いきれないほどの罪悪感がある。オマエをこの世界に連れて来ることになっちまったのは、オレが道路に飛び出したせいだからな」
「なんとかって……どうするの?」
「オレは元ネコだ。帰巣本能がある。オマエの家はオレらが巣にしている場所の反対方向だ、たぶん」
なんだかテキトーなことを言い出したな──と思ったけど、今は藁にもすがるしかなかった。
アマゾネスさんたちが繋いでいた木から馬を外し、背中にまたがりはじめた。
「オマエたちは先に巣に帰ってろ」
手下のうち六人に、チビちゃんが命令する。
「チョロ、オマエは一緒に来い。後ろにその弱っちぃ兄ちゃんを乗せてやれ」
「へい、アネキ!」
チョロと呼ばれた長い黒髪の女のひとが、威勢良く返事をする。
弱っちぃ兄ちゃんと呼ばれ、ハリウスがムッとした表情を浮かべた。
気持ちはわかる。ハリウスだって相当手練れのニンジャなんだから。ただ、チビちゃんのほうが強かったってだけだ。
「後ろに乗れ、リエ」
そう言われて、あたしはスカートを捲り上げ、チビちゃんの後ろに飛び乗った。
引き締まって逞しいチビちゃんの腰に手を回し、ふいに思ったことを聞いた。
「ところでチビちゃんて、何歳? あたしと同じ12歳なんだよね?」
「オレはネコだから、人間と違って、成長が早いんだ。産まれた時から喋れたぞ」
うん。どう見ても二十歳ぐらいに見える。
「よし! 行くぞ! ニャアッ!」
チビちゃんがかけ声をかけると、二頭の馬が勢いよく走りはじめた。




