96話 帝都炎上
「始めろ、ミルキー」
「はいは~い。盛大にいっちゃおっか、チョコちゃ~ん」
【純血使徒】の幹部、【爆弾魔】のクランキー・キッドが言うと、【操り人形】ミルキー・チェダーチーズが魔術を発動する。
――刹那、帝都中で爆発が起こった。
「きゃーー!」
「な、何だ!? 何が起こっているんだ!?」
「うわぁぁあああ!」
「助けてくれぇぇええ!」
爆発に巻き込まれ、民が逃げ回りながら悲鳴を上げる。その光景はまさに地獄絵図であった。
何故、帝都のあちこちで爆発が起きているのか。それはクランキーとミルキーによる混合魔術であった。
クランキーは触れた物を爆発させることができる。その魔術をミルキーが操る人形に付与して抑え込むことで、爆発のタイミングをミルキーが操作できるようになっていた。
二人は帝都を訪れてから今まで、至る所に爆弾人形を設置している。それを今一斉に起爆させたのだ。
ゲリラ戦において、このコンビの能力は非常に強力である。
「はーっはっは! 皆吹っ飛んじまえ!」
「綺麗だね~チョコちゃん」
帝都が燃え上がる光景を見下ろし歓喜する幹部。
そんな二人の前に、五人の魔術師が現れた。
「この爆発はお前等の仕業だな!」
「よくもやってくれたな、覚悟しろ!」
「今すぐ止めてもらうぞ!」
「おっと、奴さんのお出ましか」
五人の魔術師は、帝国が誇る「帝国十師」のメンバーだった。強力な魔力を感じた彼等は、敵のもとに駆けつけたのである。
「少しは愉しませてくれよテメエ等!」
「面倒臭いけど、仕事だから相手をしてあげるね」
両手に魔力を溜めるクランキーに、二体の人形を操るミルキー。
「帝国十師」と【純血使徒】がぶつかることで、世界大戦の火蓋は切られたのだった。
◇◆◇
「リオンめ、うちの娘を連れてどこほっつき歩いてやがる」
「あの子、自分が監視対象だってこと忘れていないかしら」
時は少し前まで遡る。
ここ暫く、リオン達四人は別々に分かれ、帝都に闇の魔術師の気配がないか探っていた。今は子供達と別行動し、大人組のラドクリフとルマンドの二人で気配を探っている最中である。
歩き疲れてカフェのテラスで小休憩を取るカッツェ家の当主は、コーヒーを一口飲みながら不満気に愚痴を溢した。
「闇の魔術師なんて本当に来るのかしら? 帝都に来て随分経っているけれど、全く襲って来ないじゃない」
「【純血使徒】の幹部だったあいつが言うんだから間違いないだろ」
「解せないわね。貴方は何故そこまでリオンに肩入れするのかしら。娘の婚約者だからかしら?」
「そんなんじゃねぇよ。俺はただ、坊主を信じてるってだけだ」
「だから、あの子を信じる根拠がなんなのかって聞いているのよ」
怪訝気味に問いかけるルマンドに、腕を組んでいるラドクリフは大きなため息を吐いて、
「一年前、俺の命を狙って闇の魔術師が襲ってきたことは覚えているか」
「ええ、覚えているわよ。でも貴方が倒したんでしょ? 貴族総出で探したけど結局出所が分からなかったのよね。他国も関係ないようだったし」
「実はな、襲撃してきた闇の魔術師を倒したのは俺じゃなくてリオンだったんだ」
「な、何ですって!?」
ラドクリフの話を聞いたルマンドは驚き、ガタンとテーブルが揺らぐ。信じられない彼女は目の前にいるむさ苦しい男に真剣な表情で追及した。
「それはいったいどういう訳かしら」
「闇の魔術師はマジで強くてよ、俺じゃ手も足も出なかった」
「【氷獣】の異名を持つ貴方が手も足も出なかった相手をリオンが倒した、と?」
「そうだ、あん時はマジで驚いたぜ。俺もボロボロにやられてレイラが危ねぇって時によ、颯爽と駆けつけてくれたんだぜ。そんで、命を懸けて闇の魔術師を倒してくれたんだ」
今でも鮮明に覚えている。
闇の魔術師がレイラを殺そうとした時、リオンが助けに来てくれた光景を。命を懸け、自分達を守り闇の魔術師を倒した小さくも頼りがいのある背中を。
「何故真実をありのままに報告しなかったのかしら?」
「リオンが倒したなんてお前等貴族は信じねーと思ったからだ。国に危機感を与えるには、俺だけの方が良いと判断した」
「確かに、そうね。子供のリオンが倒したと聞いても絶対に信じないし、仮に信じたとしてもその程度かと思うのが関の山ってところかしら」
「まぁな。それにこれは、ジオと相談して決めたことだ」
「ジオと?」
ラドクリフはリオンが闇の魔術師を倒したことを国に報告するか、今は亡きジオ・エルファルドと相談していた。その結果、リオンは関与するべきでないという判断したのだ。
理由は今ラドクリフが説明した通り、彼が勝てなかった敵を子供であるリオンが倒したなんて信じられないし、信じたとして軽んじられると判断したから。
そしてもう一つは、ジオの言葉だった。
『リオンの事は国に伝えるな』
『何でだよ。この事を報告すればリオンは英雄になれるぜ』
『英雄などならんでいい。“目をつけられてしまう”』
『ん? そりゃどういう意味だよ』
『貴様は知らんでいい』
あの時はジオの言葉の意味が分からなかったが、今なら分かる気がする。
ジオはリオンの力を隠そうとしていたんだ、と。
リオンの話が本当なら、ジオを殺した真犯人はリアーナ王国宰相、ヴェリアル・ヴァンデッドである。そしてジオは、宰相から闇の魔術師になるよう何度も勧誘を受けていた。
もし宰相がリオンの力を知ったら、ジオだけではなくリオンまで“目をつけてしまう”。ジオは息子を守るために、力を隠そうとしていたのかもしれない。
(ジオ……まさかお前が息子思いな奴だなんて知らなかったぜ)
「ちょっとラドクリフ、聞いているの?」
「ああ、すまない。何だっけか」
亡き戦友に想いを馳せていると、ルマンドが注意してくる。悪ぃ悪ぃと謝りながら尋ねれば、ルマンドは難しい顔を浮かべて、
「リオンは“エルファルド家のろくでなし”って聞いていたけど、その頃から強かったのかしら?」
「う~んと、そうだな……その時より少し前から“心を入れ替えた”ようだぜ」
「心を入れ替えただけで、貴方を負かした闇の魔術師を倒したっていうのかしら? どんな才能なのよ……まぁ、魔術大会でデモルトや幹部を圧倒した光景を目にしたら、信じる他ないでしょうけど」
「ああ……(才能だけじゃねぇ。あいつはまだ何かを隠してやがる)」
ラドクリフはリオンに疑念を抱いていた。
何故、闇の魔術師の襲撃が分かったのか。
闇の魔術師を圧倒した魔力と魔術はなんだったのか。
『どうして賊が俺を襲うことが分かっていたんだ?』
『友から頼まれました。レイラ嬢を助けて欲しいと』
『それと、最後の“アレ”は何だ? 感じたことがない魔力量に、上級魔術を遥かに超える魔術。賊との戦いぶりからみて力を隠していたわけでもなかったし、何をしたんだ?』
『……俺は何もしていません。友に力を貸してもらっただけです』
リオンは全て友のお蔭だと言っていた。
その友が誰だかも言う気がなく、隠していた。
リオン・エルファルドは“何かを隠している”。
ただ、ラドクリフは追及しようとは思わなかった。
「って訳で、リオンはベルンツベルン家の命の恩人なんだ。だから俺は何があろうと坊主を信じている」
「成程、そういう事だったの。確かに貴方の立場ならリオンを信じてもおかしくないわね」
リオンに肩入れする理由を聞いて納得するルマンド。
それならば、闇の魔術師が帝国を滅ぼす計画を立てているというのも信じられなくはない。
と、コーヒーを口にしようとした時だった。
突如、目の前のカフェが爆発する。
「やべっ!」
爆発に巻き込まれないよう、ラドクリフは手を振って氷の壁を作る。安堵の息を吐いたが、他の場所でも次々と爆発が起こった。
彼は眉間に皺を寄せると、
「ついに来やがったか!」




