94話 第一王女キャリーサ
「こそこそ何をしているかと思えば密会していたとはな。やはり他国と繋がっていたか、グリード兄様!」
(な、なんだこいつ!?)
グリード第一王子にやるべき事を伝えていたら、バンッと突然扉が開いて金髪美女が入ってきた。
おいおい、この部屋は密会用じゃなかったのかよ。何で普通に入って来てんだ。
「「お姉様!?」」
「キャリーサ! 何故お前がここにいるんだ!」
「ふん、部下にオレオとココアの動向を追わせていたら、見知らぬ者達と話していると報せが入ってな。尾行させてみたら、案の定他国の者ではないか」
(ちっ、尾行されていたのか)
「しかもよりにもよってエルファルド家の人間だと!? 兄様は帝国の怨敵と手を組むつもりか!」
うわぁ、こいつはエルファルド家を恨んでる側の人間かよ。
グリードを兄と呼び、オレオとココアが姉と呼んでいるから彼女は王女で間違いないだろう。
いや~それにしても何て綺麗な人だ。
金色の長髪に、勝気な顔立ち。紅のドレスに包まれた身体は抜群のプロポーション。その上、全身から溢れ出る覇気。
確かキャリーサって呼ばれてたよな。
「魔術学園の無能力者」に登場していないが、帝国にこんな魅力があるキャラが居たなんてな。
「リオン様?」
「な、何でもないぞ」
やっべ。
余りにキャリーサが綺麗で見惚れていたら、レイラが低いトーンの声色で聞いてくる。彼女の前で他の女性に見惚れるなんて絶対ダメだよな。
ごめんなさい、反省しますから許して。
「お前はまだエルファルド家がどうこう言っているのか! 今は些末なことを気にしている場合ではないだろう! 我々の敵は闇の魔術師だ!」
「兄上こそ目を覚ませ! 闇の魔術師とエルファルドのどちらが敵か聞かれたら、帝国の敵は――」
キャリーサの右手に粒子が集約し、紅の大剣が顕現する。彼女はその大剣を大きく振り上げた。
おいおいマジかよこの女!?
「――エルファルドだ!」
大剣が振り下ろされ、部屋が吹っ飛ぶ。
俺とレイラが座っていた席なんて木端微塵だ。
「レイラ、大丈夫か」
「はい、ありがとうございます」
(危なかった)
咄嗟にレイラを抱え、雷魔術で部屋を破壊し店から脱出した。
間一髪だったよ。まさか話もせず問答無用でたたっ斬ってくるとは思いもしなかった。っていうかVIP御用達の高級店がぶっ壊れちまったけどいいのかよ。
「死ねぇ!」
「ちっ!」
追撃を仕掛けてきたキャリーサが上から大剣を振り下ろしてくる。俺はレイラを抱えたまま距離を取った。
この野郎、ここは街中だぞ。民がどうなってもいいってのかよ。
「あのお方、王女のようですが許せません。リオン様、私に戦わせていただけませんか」
「いや、駄目だ」
珍しく激怒し戦意を表に出すレイラ。
彼女が俺の為に怒ってくれるのは凄く嬉しいし、逆の立場だったら絶対にキャリーサを許せないだろう。
しかし、彼女には戦わせられない。
「逃げるのか。どうやら今代のエルファルドは腰抜けのようだな」
(あいつ、結構強い)
大剣を引き摺り、白煙の中から堂々と出てくる金髪の王女。
彼女の身体から陽炎のようにゆらゆらと魔力が溢れ出ている。完璧には計れないが、魔力量だけでいうなら【純血使徒】の幹部クラスだ。流石は貴き王族の人間ってことか。
レイラも十分強くなっているけど、あの王女相手では荷が重い。
ここは俺がやるしかないんだろうけど、出来れば王族と揉め事を起こしたくないんだよなぁ。
「やめろキャリーサ! 彼は味方だ!」
「お姉様! ここは街中ですよ!」
「落ち着いてください、お姉様!」
いいぞいいぞ、お前達であいつを抑えてくれ。
「黙れ」
「「っ!」」
あちゃ~、睨まれただけで怯んじゃったよ。
それにしてもなんつ~覇気だ。あの王女、伯母上と同じタイプだな。
仕方ない。こうなったら被害が出る前に速攻で黙らせるしかないな。
抱えていたレイラを丁寧に下ろし、身体に雷属性を付与させ強化する。
「瞬雷」
「速いが、私には通じないぞ」
(何ぃ!?)
瞬雷でキャリーサの背後を取り、首トンで気絶させようとしたのだが手首を掴まれてしまった。さらにそのまま投げ飛ばされ、壁に激突する。
「ぐっ」
「リオン様!」
クソ、なんて女だ。
まさか初見で瞬雷を見切られるなんてな。その上軽々と俺を投げ飛ばす怪力、性格だけじゃなくて戦い方もエリザベスにそっくりなのかよ。
「もう許しません。アイシェード・ブロッサム!」
「む」
レイラが花の氷像でキャリーサを閉じ込める。
でも駄目だ、火属性と氷属性じゃ相性が悪過ぎる。
「邪魔をするな小娘、貴様から燃やすぞ」
「っ……」
じゅーじゅーと氷像が解け、何事もなかったかのようにキャリーサが出てくる。魔術を使わず、火属性を付与した魔力放出だけで上級魔術を溶かしやがった。
(最上級魔術は駄目だな、街に被害が出る。体術で制圧するしかない)
俺は魔力の鎧を身に纏う。
地面を蹴り上げ、一瞬でキャリーサに肉薄した。
「見えているぞ!」
タイミングを計り真上から振り下ろされる大剣を半身にして回避する。右足で側頭部を狙った蹴りを放つが回避されてしまった。
続けて連打するも、キャリーサは大剣を消して防御に徹する。んの野郎、魔術と剣術だけじゃなくて体術もできんのかよ。
それなら絡め手で攻めるまでだ。
「サンダー」
「むっ」
「ここ!」
閃光で目をくらませた隙をつき、顔面に向かって正拳を放つ。これで決まったかと思われたが、拳を止められてしまった。
(嘘だろ!?)
「私に小細工が効くか!」
放たれた蹴りは両腕を交差してガードしたが、威力が強く軽く吹っ飛ばされてしまった。
いったいどうなってんだ、光で視界を封じたのに何で反応できる。
初撃の瞬雷を防がれた時も違和感を抱いたが、何か特別な能力でもあるのか?
超反射神経? それとも自動防御?
何にせよ、特別な能力があるのは間違いない。でないと俺の攻撃を防げる理屈が通らない。
「アイシェード・ショットブラスト!」
「ファイヤード・シールド」
レイラが放った氷塊の散弾を炎の盾で防ぐ。しかも俺から視線を外さず、仁王立ちしたままでな。
なんつ~魔力コントロールと戦闘センスだ。こいつ、魔力だけじゃなくて実力も幹部に匹敵するぞ。
「三度目はないぞ小娘。次に攻撃したら殺す」
「うっ……」
「オレオ! ココア! 今すぐ民を避難させてくれ!」
「「わ、わかった!」」
レイラに牙を剥けるというのなら手加減はできない。
街に多少の被害は出るが、最上級魔術で押し切ってやる。
「ジオボルト――」
「おいおい、どういう事だぁ? もうおっぱじまってるじゃねぇか」
「おかしいですね、爆発の合図は無かったはずですが」
(今度は誰だよ……)
一気に決めようとしたところ、怪し気な奴が二人現れる。
片方は野獣みたいな顔つきと体躯の男で、片方はいかにも魔術師って風貌の男だ。
まさかあいつ等、闇の魔術師か?
このタイミングで仕掛けてきたってのかよ。
「グリード王子、レイラ! 奴等は闇の魔術師だ! 今すぐここから離れろ!」
「何っ!?」
「は、はい!」
「おいスネル、もうバレちまったぜ」
「金髪の子供に、膨大な魔力量。どうやら閣下が仰っていたリオン・エルファルドはあの子で間違いないでしょう」
(閣下だと!? あの二人、ヴェリアルの手下か!)
糞爺め、俺を抹殺する為にわざわざ帝国にまで手下を向けてきたのかよ。上等だ、あいつ等を生け捕りにしてヴェリアルの居場所を聞き出してやる。
「闇の魔術師だと? 今は貴様等の相手をしている暇はない。消え失せろ」
「やめろ!」
キャリーサが野獣の方に突っ込み斬撃を繰り出す。だが大剣は片手で軽々と受け止められてしまった。
「お~お~、イキが良いねぇ。オレはお前のような女を屈服させるのが大好きなんだよ」
「ちっ!」
「やれやれ、これ以上邪魔が入っては面倒ですね。場所を変えましょう、空間を騙す魔術」
まずい――
◇◆◇
「こっちは準備できたぜ、アルフォート」
「バッチリだよね~チョコちゃ~ん」
「そうか」
【純血使徒】幹部の【爆弾魔】クランキー・キッドと【操り人形】ミルキー・チェダーチーズが告げると、【黄昏】アルフォート・ロッテは静かに頷いた。
幹部の三人は今、帝都に居た。
目的は帝国を滅ぼすため。その為の準備をようやく終えたところだった。
「でもいいの? この国はアルフォートちゃんの母国なんでしょ?」
「問題ない」
アルフォートは帝国で生まれ育った。
しかし、母国に対して彼にはもう何の未練もない。あるのは失望と憐れみだけだった。
「お前達は好きなように暴れてくれ」
「テメエはどうすんだよ」
クランキーの問いに、アルフォートは王城を見上げながら、
「叶わぬ夢を追い続ける哀れな王に、引導を渡してやるさ」




