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物語中盤で死ぬろくでなしの悪役貴族に転生したけど、死にたくないから最強になって死亡フラグを回避する  作者: モンチ02
第七章 帝国篇

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92話 砂の国アメン

 




「なんて砂嵐だ」


「堪えてください。この砂嵐を越えれば見えてきます」


 カイト達は今、ラクダの背に乗り砂の国アメンへ向かっていた。

 その理由は、イシスの頼み事にある。


『どうか、我が国をお救いください』


 未来を予知する彼女の能力によると、どうやら闇の魔術師がアメンを滅ぼそうと攻めてくるらしい。

 残酷な未来を防ぐには、カイトの助けが必要だったのだ。

 自分の力でアメンを救えるならとカイトは了承する。だが、アメンに行くのはカイト一人だけではない。


「僕達が行っても役に立つのかな~」


「馬鹿野郎! 友達《ダチ》の力になんのが本当のダチってもんだろうが」


「ガイの言う通りよ、ディック。カイトだけに戦わせたりしないわ」


「皆……ありがとう」


 カイトの友達であるディックとガイ。そしてカイトの後ろに乗っているユイ・アストレア。三人もカイトの力になりたいとついてきていた。

 行く先は危険が待ち構えているというのについて来てくれた仲間達に、カイトは心から感謝する。


 アメンに向かうメンバーはカイト達だけではない。


 アメンからは魔術大会で訪れていたホルス、ウラエウス王子、セトとバステト兄妹、イシス。


 極東の島国アズマからは、大和猛、大和撫子、徳田徳之助。

 何故アズマの人間が参加しているのかというと、同盟国というのもあるが、イシスの予言が深く関わっていた。


 イシスの予言によると、アメンに攻めてくる闇の魔術師の中にアズマと因縁がある者がいるらしい。

 アズマと因縁がある闇の魔術師といったら一人しかいない。アズマの大罪人【人斬り】森永明治だ


「必ず来い、森永明治。今度こそ拙者の刀で母上の仇を取るでござるよ」


「アズマの汚点は消さなければならない。父に代わって俺が討つ」


(二人共、気負っているな)


 母の仇を取ろうとする撫子と、将軍である父の代わりに大罪人を討たねばならない徳之助。怒りの肉に染みを抱いている若者達を心配する猛だった。


「皆さん、見えてきましたよ」


「おお! あれがアメンか」


「綺麗……」


 砂嵐を抜けると、アメンの姿が現れる。荘厳かつ美しい光景に、カイトは目を見開きユイが感嘆の息を漏らした。


 砂漠の中にあるアメンは、広大な湖《オアシス》を中心として人が住めるようにした国である。

 他国と比べると人口が少ない小国ではあるが、人々は生き生きとし、豊かな生活を送っていた。


 アメンが豊かなのは、古代遺跡が豊富だからである。遺跡の中には古代の金銀財宝や魔道具が眠っており、探索し発掘した財宝を売ることで莫大な富を得ているのだ。


 しかし、数年前までアメンは貧富の差が激しい国だった。

 ウラエウスの祖父にあたる前王が、王族や貴族に富が集まるようにしていたからである。郊外はスラム街と化し、平民はその日を生きるのも厳しい生活を送っていた。


 それを変えたのがウラエウスの父である現王。

 前王が死んだ後の現王は、貧富の格差をなくした。民は豊な暮らしを得られ現王に深く感謝している。

 ただ、富を分配したことで王族や貴族から不満が出たり、王族である【生首】グリコ・ファヤージュが闇の魔術師になってしまった反面もある。


「あっ! ウラエウス様だ!」


「ホルス様もいるぞ!」


「「ウラエウス様―!」」


「「ホルス様―!」」


(ウラエウスって慕われているんだな)


 二人に気付いた民衆が手を振り声をかけてくる。

 ウラエウスが慕われていることにカイトは心の中で驚いていた。カイトにとってウラエウスは強引にユイを口説こうとした我儘な王子という印象があったので、民に慕われていることが意外だったのだ。


「私はアメン王オシリス。ようこそ、砂の国アメンへ」


 カイト達を出迎えてくれたのは現王オシリスだった。

 貫禄のある風貌ながらも穏やかな表情を浮かべるオシリスは、兄弟であるホルスと息子のウラエウスとよく似ている。


「砂漠を越えての長旅、疲れただろう。まずはゆっくり休んでくれ」


「父上、お話があります」


「そう焦るな、ウラエウス。闇の魔術師についてはイシスから聞いている。逸る気持ちは分かるが、今は客人を持て成さなくてはな。彼等を案内してやってくれ」


「はっ!」


「皆、こっちに来てね」


 ホルスと大和猛を残して他のメンバーはセトとバステト兄妹についていき、男女に別れてアメン独自の衣装に着替えた。


「これ、結構動きやすいな」


「アメンの服は肌触りも良くて、体温調整の機能が備わっているんだぜ」


「へぇ、すっげぇな」


「でもお腹が出るのは恥ずかしいなぁ」


 アメンの衣装に感心しているカイトとガイとは違い、ぽっこりお腹が露になっているディックは恥ずかしそうにしていた。


「どうかしら、カイト」


「うん……凄く綺麗だよ、ユイ」


「拙者、こういったひらひらとして服は苦手でござる……」


 女性陣も着替え終えたようで、ユイが感想を聞くとカイトは照れ臭そうに褒める。ユイの服装はイシスと似ていて、胸元が開いておへそも出ており、踊り子のような扇情的な格好だった。


 撫子も同じ格好なのだが、肌面積が多い衣装に恥ずかしがっている。さらしを巻いておへそを出しているのと比べれば大差ないように思うが、本人は生足が露になっているのが駄目だそうだ。


 アメンの衣装に着替えた女性陣は美しく、男共が見惚れてしまうのも無理はないだろう。因みに、徳之助だけは頑なに袴を脱がなかった。


「着替えを終えたならばついてこい。飯にしよう」


 ウラエウスについて行き、カイト達は食堂に向かう。

 大きなテーブルには、主に果物を食材とした料理が並べられていた。


「どうぞ、好きなだけ食べてくれ」


「「いただきます」」


 既に席についていたオシリス王が告げると、カイト達は目の前のご飯に手をつけていく。


「この果物美味しいな! なんて果物なんだろ?」


「このジュースも濃厚で美味しいわよ」


「いくらでも食べられちゃうよ!」


「ふっ。そう慌てずとも、おかわりなら沢山あるぞ」


 砂漠の長旅で疲れていたのか、カイト達の食いっぷりが凄まじい。特にディックは口と手が止まらない。そんな若者達を、オシリス王は穏やかな表情で見守っていた。


「ふぅ……食った食った」


「もう食べられないよ……」


 たらふく食べた後に一息ついたところで、オシリス王が全員を見渡し王の顔つきで口を開く。


「この度は我が国を救うために遠路はるばる来ていただき、誠に感謝する」


「頭を上げてください。助けるのは当たり前なんですから」


「そうでござる。闇の魔術師は世界共通の敵。皆で力を合わせなければならないでござる」


 深々と頭を下げて感謝してくるオシリス王に、カイトと撫子がそう告げる。二人の言葉に同意するように、他の者も強く頷いた。


「早速だが会議を行う。イシスの予言によると、闇の魔術師は近く我が国を攻めてくる。敵の数は不明だが、【純血使徒《ノーブルブラッド》】の幹部、【人斬り】森永明治と【生首】グリコ・ファヤージュの二人が来ることは確かだろう」


「「……」」


「グリコは我々アメンに任せて欲しい。我が国の不始末は我が国で肩を付ける。森永明治については――」


「私達に任せて欲しい」


 オシリス王の話を遮ったのは大和猛だった。

 森永明治の首だけは、必ずやアズマの人間が取らなければならない。


「うむ、任せたぞ。二人の他にも強い魔術師がいるだろう。カイトよ、お前の力を頼りにしているぞ」


「はい!」


 カイトの魔術を消す力は、魔術大会の投影魔術によって把握している。魔術師の天敵でもある彼が居れば心強いことこの上ない。


(リオン・エルファルドにも来て欲しかったがな……)


 胸中で惜しむオシリス王。

 カイトの力は特別だ。だがそんな彼よりも目を引いたのは、デモルトを倒し【純血使徒】の幹部を圧倒したリオンだった。


 彼が居れば鬼に金棒であったのだが、残念ながらリアーナ王国に却下されてしまう。同盟を結んだとはいえ、あの戦力を易々と貸し出せない気持ちは王として分かる。


 ただ、イシスが言うには“リオンには他にやらなければならない事がある”そうだ。


「奴等がいつ攻めてくるか正確には分かっていない。皆は決戦の時まで準備していて欲しい。この国の未来は其方たちにかかっている。頼んだぞ」


「「はい!」」



 ◇◆◇



「眠れないの?」


「ユイ……うん、ちょっとな」


 夜。

 満天の星空を眺めていたカイトの隣にユイが座り込む。難しい顔を浮かべている愛しい人に尋ねた。


「不安?」


「ああ、ちょっとな」


「カイトなら大丈夫よ。凄く強くなったもの」


 励ましてくれるユイだが、カイトは無言を貫いた。

 確かにカイトは強くなった。魔術学園に入学した時よりも遥かに。剣術や戦い方に磨きが掛かったのもそうだが、覚醒した尋常ならざる怪力も自分の意志で使うことできるようになっている。


「怖いんだ……」


「怖い?」


「俺の中に得体の知れない“何か”があるのは分かっているんだ。力が強くなる度に、その何かは俺に訴えかけてくる。もっと壊せ、好きなように暴れろって……」


 これまでも尋常ならざる怪力を出す度に、自分の中にいる“何か”が浸食してくる。


 夏の合宿でデモルトと戦った時は我を忘れそうになった。剣術の師である仙亀《せんき》の玄に教わった明鏡止水の有り方で抑えられたが、果たしてこれからも自分でいられるか。


「ユイや、ガイにディック……仲間を俺の手で傷つけてしまわないかって、怖くなるんだ」


「大丈夫よ、カイト」


「ユイ……」


 不安がるカイトを強く抱きしめるユイ。


「貴方は一人じゃない。例え我を忘れて暴走したって、私達が止めてあげるわ。誰も傷つけさせたりしない。それにカイトは強いもの。その何かにだって、絶対に負けたりしないわ」


「そうだな。ありがとう、ユイ。お蔭で不安が消し飛んだよ」


「貴方の不安はいつだって私が消してあげるわ。だって私はカイトの彼女だもの」


「ああ。俺は幸せ者だよ」


 煌々と輝く星空の下、カイトはユイと口づけを交わしたのだった。



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