91話 帝国
「リオン様、こちらの料理も美味しいですよ」
「いただこう。うん、美味いな(うんま!)」
「ふふ、よかったです」
「レイラ、これも中々に美味だぞ」
「いただきます……はい、食べやすくて美味しいです」
レイラがパスタを食べ、可愛らしい笑顔を浮かべる。
いや~俺の彼女は可愛いな~。こんな素敵な彼女と料理をシェアして和やかな会話をできるのは幸せだな~。
あ~あ、これが二人っきりだったらもっと幸せだったのにな~。
「貴方達、人前で堂々とイチャつかないでくれるかしら。不快ですわよ」
「おいリオン、テメエ俺の前で娘とイチャコラするたぁ良い度胸だな」
「レイラ、このジュースも美味しいぞ」
「甘いのにスッキリしていますね」
「「聞けよ」」
ルマンドとラドクリフが頬をピクつかせながらツッこんでくる。
はぁ~、このお邪魔虫の二人さえいなければレイラと楽しいデートだったのに。こいつ等だけでも帰ってくんね~かな~。
「大体貴方、こんな所で呑気にしていていいのかしら? 【純血使徒】が帝国に攻めてくるというのは本当なの?」
「本当です。組織に居た時、その情報を入手しましたから」
俺達は今、アルカディア帝国の首都である帝都を訪れている。
それは、【純血使徒】の魔の手から帝国を守るためだ。
物語では、魔術大会襲撃後に【純血使徒】が帝国を滅ぼすことになっている。大陸でも随一の軍事力を誇る帝国を堕とすことで、【純血使徒】の脅威を世界中に知らしめる。抵抗することは無駄だと分からせ、世界征服をし易くするためだ。
死亡フラグを回避した後も物語と深く関わると決めた俺は、滅びゆく帝国を守ると決めた。大勢の人間が死ぬと分かっているのに、無視を決め込むことはしたくなかったんだ。
だから俺は、審問会の後すぐに帝国へと赴いた。
俺の監視者であるラドクリフとルマンド、その場にいた流れでレイラまでついてきてしまったけどね。
ラドクリフとルマンドは仕方ないとしても、レイラだけは連れてきたくなかったたんだよな。これから帝国は戦場になるし、そんな危険なところに彼女を連れてきたくないのが本音だった。
俺と一緒にいるって聞かなかったから、仕方なく連れてきちゃったけど。
「そんでよ~リオン、奴等がいつ襲ってくのか分かんねえ~のか」
「それは……分かりません」
尋ねてくるラドクリフに、俺は申し訳なさそうに答える。
【純血使徒】が帝国を攻めてくることは確かなんだ。だけど、いつ攻めてくるか詳しい所は俺も分かっていない。
原作だと、「闇の魔術師によって帝国が滅ぼされた」という事実しか描写されていなかったからな。
だから先に帝国に出向いて、奴等が襲ってくる時を待つしかない。とは言っても、魔術大会襲撃後からそれ程時は経っていない筈だからそろそろだと思うんだけどな……。
「闇の魔術師が攻めてくるというのに、この国は何の対処もしておりません。同盟も却下したようですし……一体何を考えておられるのでしょうか」
「奴等を舐めてるんだろ~な」
不可解そうな顔を浮かべるレイラに、ラドクリフが唇を尖らせる。
俺達は帝国に対して、正式な手続きで謁見を申し込んだ。こっちには大貴族のラドクリフとルマンドが居たからな。
しかし帝国は謁見を却下した。闇の魔術師が襲ってくるという情報を伝えても門前払い。それに加え、リアーナ王国からの闇の魔術師に対する同盟すら却下してしまったようだ。
因みに俺の名前は出していない。
帝国にとってエルファルド家は憎き敵だと分かっているからな。
「それもありますけど、他国に介入されたくないのでしょうね。この国は今、跡目争いの政戦やら色々ときな臭いですから」
(せめて兄妹と会えればな~)
帝国のアルカディア兄妹に護衛を頼まれた際、帝国の内情をうっすらと聞いている。
皇帝の体調が芳しくなくいつ死んでもおかしくないほど先が短い為、第一王子と第二王子による跡目争いが起きているそうだ。
国が亡びるかもしれない時に跡目争いなんて呑気な奴等だよ。それだけ【純血使徒】を舐めてかかっているとも言えるがな。
俺としちゃ跡目争いはどうでもいい。
ただ、オレオとココア兄妹とは会いたかった。皇帝と謁見することはできなかったが、顔見知りのオレオとココア兄妹と会えれば【純血使徒】の脅威を伝えられるんだけど、あの兄妹にすら会うことすらできなかった。
(あの二人、今頃何してるんだろうな~)
◇◆◇
「父上、どうかお考え直しください!」
「「父上!」」
アルカディア帝国第一王子のグリードが跪いて必死に頼むと、オレオとココア兄妹も追随する。しかし、ベッドで横になっている彼等の父、皇帝は厳しい眼差しで首を横に振った。
「ならん」
「どうしても、同盟を結ばないおつもりですか」
「他国の力など我が国には必要ない。それに、いずれ世界を征服する帝国が他国と協力するなどあり得ん話だ」
「お言葉ですが父上、【純血使徒】の力は計り知れません。手を取り合う必要があるのです」
実際にその場に居て闇の魔術師の脅威をこの目で見たオレオが説得するも、皇帝はくくっと馬鹿にするように笑う。
「【最悪】の魔術師? 【純血使徒】? くだらん、それが何だ。奴等など、我が帝国の足下にも及ばんわ。現に、たった一人の小僧に撃退されておるではないか」
「それはっ……」
「ですが父上、奴等の幹部にはアルフォートもいるのです」
「……」
ココアの口から出た名前に、帝王は初めて口を閉ざした。
アルフォート・ロッテ。
彼は元帝国の人間であり最高戦力。帝国が誇る軍事力の「帝国十師」の更に上、「最強の魔術師」を冠する男である。
しかしアルフォートは、数年前に突如行方をくらました。行方を探していたが、まさか闇の魔術師の幹部になって現れるとは……。
アルフォートの実力は自分達がよく知っている。彼が敵に回れば、いくら強大な軍事力を誇る帝国といえど滅ぼされかねない。
「ふん、アルフォートが何だ。奴など帝国十師がおれば問題ない。新たな「最強の魔術師」もおる」
「ですが!」
「そこまでにしろ、グリード」
「父上も体調が優れないのだ」
「……ガリア、キャリーサ」
説得しようとするグリードを止めたのは、第二王子のガリアと第一王女のキャリーサだった。
グリードの外見が優男だとすれば、ガリアはゴリマッチョで、キャリーサは姫騎士と呼ばれるような風貌である。
他国と和平を結んで帝国を繁栄しようという考えのグリード派閥に対して、第二王子のガリアは父の野望を引き継ぎ世界征服を考えている。
そしてオレオとココアはグリードの派閥で、キャリーサはガリアの派閥だ。
帝国では今、第一王子グリードと第二王子ガリアのどちらが次の皇帝になるか激しい跡目争いが行われている。
本来なら長男のグリードが皇帝になるのだが、帝国の悲願である世界征服を掲げているガリアが皇帝になるべきという声も大きい。
「下がれ、今はお前達の相手をしている場合じゃない」
「それはこちらの台詞だぞ。兄上がこの機に乗じて他国と同盟を結び地盤を築こうとするのは見え透いている」
「なんと愚かな! 世界の危機に跡目争いをしている場合ではないと言っているのだ!」
キャリーサの言葉に憤慨するグリードだったが、ガリアは「どうだかな」と鼻で笑い、
「お前は力が強くないが、頭はキレる奴だからな。本心では何を企んでいるか分からん」
「貴様!」
「よさぬか」
一触即発な雰囲気を断ち切るように、皇帝が口を挟む。
子供達も、父上には逆らえないのか素直に口を閉ざした。
「グリード。他国と同盟を結ぶことはない。これは決定事項だ」
「くっ」
「ガリア、キャリーサ。闇の魔術師がいつ攻めてくるか分からん。早急に軍備を整えろ」
「「はっ!」」
「話は終わりだ。もう下がれ」
皇帝に追い返されてしまうグリードと兄妹。
そんな中、ココアが心配そうに兄に尋ねる。
「どういたしましょう、お兄様」
「確かリアーナ王国から使者が来ていたな」
「はい。父上が謁見を断ってしまいましたが……」
「俺が会おう。悪いがお前達、リアーナ王国の使者を探し出してくれるか」
「「はい!」」
兄から頼られた兄妹は、胸を張って返事をする。
グリードは王子としての覚悟を告げた。
「闇の魔術師なぞに帝国を滅ぼさせはさせんぞ」




