87話 真の敵
「うっ、ここは……」
「目が覚めたか」
「り、リオン君……?」
目を覚ましたウラルが俺を見上げる。
奴は周りを見渡すと、困惑した表情で尋ねてきた。
「ここはどこですか?」
「学園の裏側にある森の中だ」
デモルトや幹部が襲撃してくる直前、俺はラウルを気絶させて転移魔道具のロケットを使い森の中に運び出していた。
理由は一つ。
こいつにあることを聞き出すためだ。
「そ、そうですか。それと、手錠は何のつもりですか」
「お前を逃がさないためだ」
ラウルの手足には手錠がはめている。この手錠も魔道具の一種で、微力な魔力障害を起こし魔力を練れないようにする機能があった。
手錠について説明すると、ラウルは益々困惑した。
「な、何故そんな真似を? そうです、襲撃、襲撃はどうなったのですか」
「襲撃は失敗した」
「失敗……馬鹿な、そんな筈ある訳がありません」
「というより、俺が失敗させた」
「なっ!?」
俺の言葉に驚いたラウルは、やっと状況が呑み込めたのか怒りに満ちた顔で口を開いた。
「まさか、裏切ったのですか!?」
「裏切ったというのは語弊があるな。俺は最初から、お前達の仲間になったつもりはない」
「なんですって……では何故、【純血使徒】に加わったのですか」
「目的があったからだ」
「目的?」
その目的を達成するためにお前が必要だったんだよ。
俺はラウルの前髪をぐっと引っ張り上げ、
「俺の父、ジオ・エルファルドを殺した闇の魔術師を探して殺すためだ」
「っ!? ふ、ふふふ……なるほど、復讐する為に敵の組織に入り込んだ、という事ですか」
「そうだ。そしてラウル、闇の魔術師の情報を貴様が握っていることも知っているぞ」
「とても残念ですが、私は君の父親を殺した者なんて知りませんよ。まぁ、知っていたとしても教えませんがね」
「サンダー」
「ぎゃあああああ!?」
減らず口を叩くラウルに電撃を浴びせる。
五月蠅い奴だな。この程度の電撃で大袈裟に叫ぶなよ。
「俺を勧誘し、組織の仕切り役である貴様が知らない訳ないだろう」
「はぁ、はぁ……どうやら貴方の中で私が犯人だと確信しているようですね。ですが、私にこんな事をしてもいいのですか?」
「何が言いたい」
思わせぶりな態度のラウルに聞くと、こいつはニタニタと下卑た笑みを浮かべて、
「実はですね、リオン君に強くなれると言って渡した薬はただの薬ではなく、魔族の血だったのですよ!」
「……」
「君は適合したようですが、これからどうなるか分かりません。醜い化物となって死んでしまうかもしれませんよ? ですが、私なら調整できます! 私を殺したら、君も死んでしまいますよ」
あ~成程な。こいつがまだ余裕なのは、俺に対して主導権を握れる手の内があったからなのか。
なら、真実を教えて黙らせてやろう。
「実はな、俺はあの薬を飲んでいないんだ」
「ほえ?」
「だから醜い化物になって死ぬことはないし、お前を殺すことに何の躊躇いもない」
「そ、そんな……飲んでないなんて、あり得ない!」
信じられないのか、激しく動揺するラウル。
確かに、何度もカイトに打ちのめされて勝つ為に力を欲した当時の俺が、ラウルから譲り受けた薬を飲まないはずがないとは思うのは当然だろう。
「何故、飲まなかったのですか。あの時はまだジオは死んでいない。私を怪しむ理由はなかったはずです」
「お前に教えることではない」
リオン・エルファルドの末路を知っている転生者、だということをわざわざ教えてやるつもりもない。
「お前の話は終わりだ。父を殺した奴を吐け」
「ふ、ふふ……先程も言いましたが、例え知っていたとしても教えるつもりはないですよ。どんな拷問をされてもね」
「そうか。なら無理矢理にでも吐かせるまでだ」
そう言って、俺は懐から注射器と小瓶を取り出す。
「そ、それは何ですか。私に何をするつもりですか」
「強力な自白剤だ。この薬を打たれた者は、自我を失い聞かれたことに素直に話すようになる」
「なっ!?」
この自白剤は、【闇医者】シルベーヌ・ラシュクーレとの取引で作ってもらったものだ。医者であるシルベーヌなら、自白剤を作れると思って頼んでいた。ジオを殺した犯人を知っているであろうラウルに吐かせる為にな。
俺は小瓶に注射器を差し込み、薬を注入する。
「やめろぉ、やめなさい!」
「暴れるな」
「ぐぁ!?」
注射器をラウルの首筋にぶっ刺し、自白剤を体内に注射する。
様子を窺っていると、ラウルの目が虚ろになり口から涎を垂らす。よし、効き目はあるようだな。
「お前は誰だ」
「私は、ラウル。学園の教師で、闇の魔術師……」
「ジオ・エルファルドを殺した闇の魔術師は誰だ」
「じ、ジオ・エルファルドを殺したのは――」
「何……だと!?」
ラウルの口から告げられた犯人の名前を聞き驚愕する。
そうか……そうだったのか。
物語に登場していなかったから、全く気付かなかった。
「お前だったのか」
ジオの妻であり、混血派のヴェラ・エルファルドを平民を利用して殺害し、平民に怒りを向けさせ。
それでも足りず、娘のサラ・エルファルドの命を奪おうとし。
親交のあるラドクリフ・ベルンツベルンを殺そうと闇の魔術師を送り込み。
辺境にある本家を潰すため、帝国を装い侵攻し。
リオン・エルファルドを引き込もうとした。
全ては純血派のジオ・エルファルドを組織に引き入れるための手段。
だけど、ジオは組織に入らなかった。
純血派でありながらも、愛したヴェラの想いを貫くために。
そしてジオは、闇の魔術師に殺された。
やっと、やっと辿り着いた。
全てが繋がり、やっと気付いた。
『儂にできることなら何でも手を貸そう。必要な時はいつでも頼りなさい』
「よくも、よくも騙したな!」
ジオを殺した本人が、よくも何食わぬ顔でいけしゃあしゃあと葬儀に出やがったな。
馬鹿か俺は、敵はすぐ近くにいたのに何故気付けなかったんだ。
「許さん、絶対に許さんぞ」
魂の奥底から怒りが込み上げてくる。
リオンの人生を狂わせ、ジオを殺したお前だけは必ずこの手で殺してやる。
主人公カイトの真の敵がデモルト・ブラックロードならば。
俺の、いや……。
リオン・エルファルドの真の敵は奴だった。
待っていろ。
「リアーナ王国宰相、ヴェリアル・ヴァンデッド」
◇◆◇
「閣下、私のラウルが今、死にました」
「そうか……」
ここは王城の一室、ではなく【純血使徒】の拠点の一つ。
リアーナ王国の政務を牛耳る宰相ヴェリアル・ヴァンデッドは、配下であるロズワルドの報告を受けて思案する。
その姿はリオンに優しい言葉をかけていた好々爺とは別人であるかのように、悍ましく恐ろしい老人であった。
「どうやら閣下の企てが全て、リオンに知られてしまったようです」
「残念じゃ……実に残念じゃよ。折角優秀な人材を、儂の後継者となる者を見つけたというのに」
ヴェリアルは生粋の純血派である。
魔術師だけの世界を作る。その野望を叶えるため、影でデモルトや闇の魔術師を利用していた。
そして純血派のジオ・エルファルドを気に入っていたヴァンデッドは、老いて死ぬ自分の後継者にしようとした。
だが、ジオは最後まで首を縦に振らなかった。
妻の想いを繋ぐ、というくだらない理由で勧誘を断り続けた上、愚かにも歯向かってきたので仕方なく殺しのだ。
それでも、息子のリオン・エルファルドは手中に収められた。
父にも勝る才能のリオンを後継者に決めた。
だから【純血使徒】の幹部という地位を与えてやったのだ。
だというのに、組織を裏切ったリオンは魔術大会で殺すはずだったダニエルをデモルトや幹部から助け、退けてしまった。
リオンは父の復讐相手を探すために、闇の魔術師になったフリをしていたのだ。
ヴェリアルからすれば誤算だっただろう。
後継者にする予定だったリオンに裏切られたのだから。
そして全てを知ったリオンは、今度は己を殺しに来るはずだ。
「どうなさいますか、閣下」
「リオンが儂を殺しに来るのなら、迎え撃つまでだ。リオンは想像以上に成長していたが、私の手持ちにはデモルトを凌ぐものもある。何の問題もない。そしてリオン、お前も儂のコレクションに加えてやろう」
ヴェリアルは老獪な笑みを浮かべ、真実を知って自分を憎んでいるだろうリオンに告げる。
「リオン・エルファルド。儂の敵になったことを後悔させてやろう」
これより「魔術学園の無能力者」は――。
否。
「リオン・エルファルドの物語」は、終盤へと突入する。
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます!
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少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
これで第六章は終わりです!
第七章は帝国篇となっております。
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