83話 余興
「なんだあいつ……」
「デモ……何だって?」
「何かのイベントか?」
「引っ込め~! 邪魔なんだよ~!」
突如、決闘場のフィールドに現れた謎の人物に生徒達は困惑し、怖れ知らずもヤジを飛ばしている。
それもそのはず、若い世代の生徒達はデモルトという名に聞き覚えがないからだ。
今から五十年以上も前、一人の魔術師が多くの人間を無差別に虐殺した。
その恐ろしい魔術師の名は【最悪】の魔術師デモルト・ブラックロード。
王族は貴族と協力し、多くの犠牲を払いながらもデモルトを討伐する。
しかし問題だったのは、デモルトが貴族だったことだ。
王家はデモルトの存在も大量虐殺したことも一切世に公表しなかった。平民に魔術が使える貴族は恐ろしい存在だと思わせないためと、貴族の汚点を消し去る為に、その名を二度と表舞台に出さないよう固く禁じ、歴史から抹消したのだ。
だから、生徒達がデモルトの名を知らないのも無理はない。
しかし、高官や貴族は違う。
「馬鹿な……デモルトだと!?」
「本当に復活したのか!?」
「あれが……【最悪】の魔術師」
「なんという悍ましい魔力だ……」
デモルトの存在を知っている世代の高官や貴族は、驚愕し動揺する。
【最悪】の魔術師が復活したことはダニエル校長から報告を受けていたが、とても信じられなかった。
が、いざ本人を目の前にすると信じざるを得ない。何故ならデモルトの身体から滲み出る濃密かつおどろおどろしい魔力を目にするだけで冷や汗が止まらず、恐怖を抱いてしまうからだ。
体験したことのない恐怖を抱かせる魔術師など、デモルトに他ならないだろう。
(あいつがデモルトなのか? 何で生きているんだ)
デモルトとフィールドで対峙するカイトは違和感を抱いていた。
カイトは夏の長期休暇で行った強化合宿の際、デモルトに襲われたが返り討ちにしている。倒したはずなのに生きているのも不思議だが、戦った時と今では姿が丸っきり違っていた。
因みに今のデモルトは若い男の魔術師に乗り移っている。
生前の姿でもなければ、カイトと戦った時の肉体でもなかった。
「いかん! 先生方、すぐに生徒達を避難させるのじゃ!」
「つまらんことをするな、ダニエル」
ダニエル校長が慌てて指示するも、デモルトがパチンと指を鳴らす。
直後、漆黒のマントを羽織った怪しき人物が十人ほど、観客席にバラバラに現れた。
「うわ!? なんだこいつ!」
「びっくりした~」
「おい、突っ立ってんじゃねぇよ。見えないだろーが!」
「ああん? ぶっ殺されてぇのか」
「ひっ!」
「ちょっとやめときなさいよ。何かヤバいわよ」
突如現れた怪し気な集団に生徒達が困惑する。
中には命知らずにもイチャモンを付ける者もいるが、隣の生徒が慌てて止めた。そのまま文句を言い続けていたら殺されていただろう。
「愚かな真似をするな、ダニエル。大事な生徒が死んでもいいのか?」
「ぐぬ……」
生徒を人質に取られたダニエルは、悔しそうな顔を浮かべて座り込む。場の空気を支配したデモルトは、上空にある幾つものモニターを見上げながら愉しそうに口を開いた。
「私の姿は世界中に映されているようだな。丁度良い、改めて我等の存在を知ってもらおうか。私はデモルト・ブラックロード。闇の魔術師の組織、【純血使徒】を束ねる者だ」
「闇の魔術師……」
「【純血使徒】……」
「そして【純血使徒】の存在意義は、この世界を支配することである」
「な、何だと!?」
「闇の魔術師め、やはり良からぬことを企んでいたか!」
デモルトの目的を聞いた貴族たちが怒りを露にする。
闇の魔術師の組織は純血派の貴族で構成されており、彼等の思想は魔術が使える自分たちは神に選ばれた者だと信じ、魔術が使えない平民は人間として認めず、奴隷にするべきという恐ろしい考えを抱いている。
そして闇の魔術師の目的は、「魔術師のための世界を作る」というものだった。
そしてデモルトは、大きく手を広げて世界中に向けて発信する。
「私はここに宣言する。魔術を使えない下等な人間を全て奴隷にし、魔術師のために死ぬまで一生尽くさせる。魔術師だけの、魔術師のための世界を作るのだ」
「酷い……」
「守るべき平民を奴隷にするなんて……」
デモルトの話を聞いた生徒たちが顔を青ざめさせる。
しかし生徒の中には、賛同する者も少なからずいた。
「でも、俺たちにとっては良いことじゃないか?」
「うん、私もそう思う」
魔術が使える生徒たちからしたら、【純血使徒】の思想は特に問題ないように思える。それどころか恩恵を受けられるだろう。生徒の反応を感じたデモルトは続けて、
「【純血使徒】の考えに賛同する魔術師はいつでも、誰でも歓迎しよう。共に魔術師のための世界を作ろうではないか」
「そんな事はさせないぞ、デモルト!」
不穏な空気を切り裂くかのようにカイトが吠える。
彼は鉄剣を構え、脅えることなくデモルトに告げた。
「平民だって魔術師と同じ人間だ! 誰一人として粗末にしてはいけない大切な命だ! お前の考えは間違っている!」
「あぁ、そう言えば貴様もいたのだな」
「俺がまたお前を倒してやる!」
ダッと地を蹴り上げ、カイトはデモルトに攻撃を仕掛ける。
【最悪】の魔術師は右手を掲げ、魔力による不可視の衝撃波を放ちカイトを吹っ飛ばした。
「がはっ!?」
「カイト殿!」
「“同胞よ”、今は貴様に構っている暇はないのだ」
壁に激突したカイトを心配した撫子が駆け寄る。意識は失っているようだが、命に別状はなさそうだ。
「嘘だろ、強化合宿より強くなったカイトが……」
「一撃でやられるなんて……」
「カイトー!」
カイトの友人であるガイとディックが信じられないといった顔を浮かべ、ユイが瞳に涙を溜める。
確かにカイトは強化合宿の時、デモルトに勝った実績がある。しかしあの時のデモルトは仮の肉体で、完全体には程遠い姿であった。
今も完全体ではないが、【純血使徒】の幹部たちに集めさせた魂を取り込んだことで、全盛期に近い力を発揮できていたのだ。
「魔術大会か。懐かしい、私もここで凌ぎを削ったものだ」
デモルトは決闘場を見渡すと、懐かしそうに呟く。
面白いことを考えているのか口角を上げると、
「そうだな。我等の力を世界に知らしめるためにも一つ余興でもしよう。来てくれ、森永」
「はっ! 我が君!」
デモルトが名を呼ぶと、観客席にいる十人の内の一人がフィールド上に降り立つ。その者がマントを投げ捨てると、アズマの着物を纏った丁髷の男がモニターに映し出された。
デモルトは丁髷の男に手を指しながら、場内に問いかける。
「誰か、この者と決闘する者はいるか?」
「【人斬り】!」
「森永!」
「明治!」
【純血使徒】幹部である【人斬り】森永明治に強烈な反応を示したのは、アズマの者達だった。
観客席にいた大和猛や、既に敗北していた代表選手の徳田徳之助、そして大和撫子が怨嗟の顔を浮かべて対峙する。
「ふむ、神聖な決闘において三対一とはいただけんな」
「拙者は構いませぬぞ、我が君」
「そうか」
三対一でも余裕の態度を見せる森永。
そんな彼に対し、撫子達が刀を構えながら怒号を放つ。
「ようやく見つけたぞ、森永明治!」
「母上の仇、貴様の命を持って償ってもらう!」
「アズマの大罪人め! 将軍家の者として、必ずや貴殿の首を持ち帰る!」
「ふっ、どうやらあの者たちはお前に因縁があるようだぞ」
デモルトが聞くも、森永は顎に手をつけ身に覚えがなさそうに首を傾げる。
「はて、拙者は斬った人間を一々覚えぬのでな。誰のことを言っているのかさっぱり分からぬでござる」
「貴様ぁぁああ!」
怒りが頂点に達した撫子は、森永に勢いよく斬りかかったのだった。




