82話 襲来
「さぁ続きまして第二回戦! アズマ代表大和撫子選手、ハモニカ代表セレン選手です!」
(さて、ちょっくら行きますか)
「どうされたのですか?」
「少しの間席を外す」
二回戦が始まろうとしたところで立ち上がると、レイラがそう聞いてくるので気にするなと伝えた。
別にトイレではない。前回の反省を生かして早めに済ませておいたからな。
今回は帝国の兄妹を守るための見回りだ。刺客が襲ってくるなら試合の最中か、試合の直前だろう。
物語で兄妹が襲われるなんて展開はなかったから問題ないとは思うが、未来視の力があるイシスからの伝言が気になる。
既に物語で存在しないはずのリオンに頼ったということは、物語が変わってしまい本当に刺客に襲われる可能性が無きにしも非ずだからな。
(とはいってもな~、この警護を掻い潜ることなんてできるのか)
決闘場には宰相や高官、大貴族や各国の要人が多数いるので警護する兵士の数がべらぼうに多い。こんな厳戒態勢の中帝国の刺客が選手を襲うのは不可能に近いだろう。
代表選手の控室に近づく毎に兵士の数も多くなっているしな。
「お止まりください。これより先は代表選手の控室となっております。立ち入り禁止ですのでお戻りください」
「帝国代表のオレオ選手とココア選手に用がある。リオン・エルファルドが話があると伝えて欲しい」
「承知しました。確認いたしますので少々お待ちください」
俺を引き留めてくる兵士たちにそう言うと、一人の兵士が確認を取りに向かう。待っていると、ガタイが良くてイカつい兵士が声をかけてきた。
「私は護衛兵士の隊長です。大貴族であるリオン・エルファルド様といえど、試合を控えている代表選手に接触するのは困りますな」
「すまない。ただ、親交のあるオレオ選手とオレオ選手の安否が気になってな」
「どういう意味でしょうか。まさか我らの警備に不備があるとでも仰りたいのですか」
うん、そうだよ。
とは正直に言えないので、適当にボカしておいた。兄妹が身内から命を狙われているかもしれないなんて軽々しく言えないしないな。
すると確認を取りに行っていた兵士が戻ってくる。
「隊長もいらっしゃったのですね。リオン様、確認が取れましたのでご案内いたします」
「助かる」
「ふん」
不満そうな隊長の横を通り過ぎ、一人の兵士に案内してもらう。
その道中、俺は気になったことを兵士に問いかけた。
「一つ聞いていいか」
「なんでしょうか?」
「何故、お前から魔力の反応がするんだ?」
「――っ!? 何のことでしょうか」
しらばっくれたようだが、残念ながら一瞬の動揺を見逃さなかったぞ。
そんなんじゃバレバレだっつうの。
「俺は魔力探知に自信があってな。魔術を使っていればすぐにわかるんだ。もっと言えば、これぐらいの至近距離ならはっきりと分かる。お前、魔術を使っているだろ?」
「死ねぇぇい!」
「遅い」
「ガハッ!?」
振り向き様に振ってきた短剣を躱し、カウンターで腹を殴る。間髪入れずに電撃魔術を放ち気絶させた。
「なるほどな、変身する魔術か」
意識を失った兵士の姿が、暗殺者のような装いに変貌した。顔も服もさっきまでとはまるっきり違う。この国では見掛けない格好からすると、恐らくこいつが兄妹の命を狙う帝国の刺客だな。
上手いこと考えるな。兵士に化ければバレないし、代表者にも容易に近づける。そして背後から毒がついたこのナイフで一突きって訳か。
だが、この程度の刺客なら俺が助けなくても帝国兄妹だったら問題なかっただろうな。
「どうされましたか!?」
「賊が紛れ込んでいた。護衛に化けてな」
「な、何ですと!?」
様子を見に来た護衛に、気絶している刺客を指しながら告げると驚愕した。更に騒ぎを聞きつけた隊長たちもやってくる。
「賊が忍び込んでいたぞ。これはとんでもない失態だぞ、隊長」
「も、申し訳ございません!」
「謝罪はいらん。今すぐ護衛全員を確認しろ。変装しているか、魔術で変身しているかを調べるんだ」
「は、はい!」
ふぅ、これで一先ず片付いたな。
安心してオレオの控室に入ると、妹のココアもいた。お前ら同じ部屋だったのかよ、仲良いな。
「リオン、話があると聞いたがどうしたのだ」
「お前たちを狙っている帝国の刺客なら俺が捕まえた。もう安心していいぞ」
「ほ、本当か!?」
驚くオレオに小さく首肯し、刺客が魔術で護衛に化けていたことを伝える。するとココアが信じられないといった表情で呟いた。
「本当に、お兄様が私たちの命を狙っていたのですわね……」
「くっ!」
(気まず……)
控室の空気がず~んと重くなる。
そりゃそうか。実の兄に命を狙われたんだからな。俺だって、世界一可愛い妹のサラに命を狙われたらショックどころの話じゃない。
用は済んだし、もう出るか……。
「もう刺客は居ない。お前たちは試合に集中してくれ」
「あ、ああ……恩に着るぞ、リオン」
「感謝いたします」
兄弟に一言告げてから部屋を出る。
念のため、他に刺客が紛れ込んでいないかパトロールでもするか。
◇◆◇
「はぁあああ!」
「おぉおおお!」
「カイト選手、撫子選手、両選手とも目にも止まらぬ激しい攻防を繰り広げております!」
(もう二回戦か)
一通りパトロールを済ませて客席に戻ると、カイトと撫子が戦っていた。既に一回戦が終わり、二回戦目の初戦が始まっていたようだ。
因みに一回戦の結果はこうなっている。
カイト〇――ウラエウス×
撫子〇――セレン×
イシス〇――ココア・アルカディア×
レオン〇――リヒト×
トーマス・ドルトン〇――徳田徳之助×
オレオ・アルカディア〇――カスティア・リッツェ×
一回戦を勝ち抜いたのは、カイト、撫子、イシス、レオン、トーマス、オレオの六人だ。そして今、二回戦のカイトと撫子の試合が行われている。
「ははは! 素晴らしいで剣技でござるな、カイト殿!」
「撫子もな!」
激しい剣劇を繰り広げている最中、カイトと撫子が楽しそうに笑う。
そりゃ楽しいわな。
互いに磨き上げた剣技を持てる存分発揮できるんだからさ。まぁ、魔術大会なのに魔術を使わず剣で試合してどうなの? って思わなくもないが、客も盛り上がっているから問題ないだろう。
それに撫子も、魔術は使っていないがカイトの怪物染みた力に対抗するために身体強化は使っているしな。
(強くなったな……カイト)
今のカイトは、俺と最初に決闘した時のようなチャンバラ剣技ではない。まだ荒さは残っているが、達人級の撫子にも引けを取らないほど上達している。
俺が退学して学園を離れている間にも努力し続け、強敵と戦いイベントを熟して強くなっていたのだろう。
カイト……お前ならいずれラスボスにも勝てるだろう。
「最後の勝負に出るでござるよ!」
「来い、撫子!」
撫子が一旦刀を鞘に納め、腰を深く落として魔力を練り上げる。対しカイトは何が来てもいいように、集中力を研ぎ澄ませた。
仕掛けたのは撫子。一瞬でカイトとの間合いを詰めると、瞬速の居合切りを放った。
「花鳥風月――鳥鳴!」
「はぁぁあああ!」
カイトも凄まじい速さで剣を振るう。
剣士同士の熱き戦い。果たして最後まで立っていたのは、カイトだった。
「がはっ……」
「はぁ、はぁ……」
「撫子選手ダウ~ン! よって第二回戦、剣士同士の戦いを制したのは学園代表カイト選手だ~~!!」
「「わぁぁあああああああ!!」」
カイトの勝利に歓声が轟く。
そんな中、勝者のカイトが倒れている撫子に手を差し伸べる。撫子は一瞬悔しそうな表情を見せるも、ふっと笑みを溢して手を取って立ち上がった。
「拙者の完敗でござる。カイト殿」
「ありがとう、撫子。凄く楽しかった、またやろう」
「勿論でござる。次は負けぬでござるよ」
「素晴らしい! 観客の皆様、今一度選手たちに大きな拍手をお願いします!」
スポーツマンシップではないが、握手を交わして再戦の約束するカイトと撫子に観客が割れんばかりの拍手を送る。
場内は感動に包まれた。
しかし、感動をぶち壊すように闇が訪れる。
――ドオオオオオオンッ!!
突如、けたたましい爆音が鳴り響く。
煙が晴れると、決闘場にはカイトと撫子、審判のスレイン以外の侵入者が現れた。
「な、何だ何だ~!? 何が起こったんだ~~!?」
場内にどよめきが広がる中、決闘場にある全てのモニターに男が映し出される。
その男はマントのフードを上げて若い男の顔を晒すと、口を開いた。
「私はデモルト・ブラックロード。この世界の支配者だ」




