81話 魔術大会
「魔術学園校長のダニエル・ゴッドヴァルトじゃ。今日という日を迎えられたことをとても喜ばしく思う」
魔術大会当日。
試合が行われる決闘場は魔術大会用に客席が拡張されていても尚満席だ。
客席には先生方や生徒は勿論のこと、王宮側からは宰相や高官が出向いている。来賓席にはアズマの大和猛や亜人国ハモニカのメイベルといった各国の要人も見られた。
「各国の十二名の代表者がここに集った。代表者たちは誇りを胸に戦い抜いて欲しい。そして見事勝ち抜いた優勝者には偉大なる魔術師の称号が与えられるのじゃ」
大貴族も勢揃いで、代表選手の親であるドールズ・ドルトンやルマンド・リッツェ。レイラの父であるラドクリフ・ベルンツベルンやユイの父であるウィルバート・アストレアの姿がある。
(ジオ……)
本来なら、俺の父親であるジオ・エルファルドもあの場に居たはずなんだ。闇の魔術師に殺されてさえいなければ……。
亡き父を思い、無意識に拳を握ってしまう。
「リオン様……」
「ありがとう、レイラ。俺なら大丈夫だ」
些細な感情を感じ取ったのか、隣にいるレイラが俺の拳を包むように握ってくれる。彼女を心配させまいと小さく笑顔を作った。
「これより、魔術大会を開催する」
「「わぁああああああああ!」」
校長のダニエルが挨拶を終えると、会場が熱気と興奮に包まれる。
盛り上がりを見せる中、進行役兼実況の三年生キアラ・ベッラが拡声魔術を施されたマイクを握った。
「さぁさぁついにやってきました魔術大会! 進行と実況はこの私、三年生キアラ・ベッラが務めさせていただきます! 解説は試合毎に変わりますが、一回戦目はウィルバート・アストレア様に来ていただいております。ウィルバート様、どうぞよろしくお願いします!」
「よろしくね~」
あいつ軽いな~。
大貴族なんだからもっとしゃきっとしろよ。なんで初戦にウィルバートをチョイスしたんだろうか。
「さぁ、栄えある初戦を飾るのはどの代表者なのでしょうか? ウィルバート様、よろしくお願いします」
「オッケー任せて」
キアラに頼まれたウィルバートが、「決闘の盃」を手に取る。盃には代表者十二名の名前が書かれた紙が予め入っており、魔力を込めると紙が出てくる仕組みになっているんだ。
ウィルバートが魔力を込めると、盃からボンッボンッと二枚の紙が飛び出てくる。ひらひらと舞い落ちてくる二枚の紙を手に取ったウィルバートがキアラに見せた。
「初戦が決まりました! 第一回戦は学園代表カイト選手、アメン代表ウラエウス選手です!」
「「おおおおお!」」
やはり物語通りだ。
初戦はカイトとウラエウスの対戦。早速二人の因縁の対決が見られる。
「カイトー! 絶対負けるんじゃないわよー!」
「「頑張れカイトー!」」
決闘場のフィールドにカイトが出場すると、ユイや親友のガイとディック、それと平民クラスの生徒たちが熱い声援を送る。彼らの気持ちに応えるように、カイトが拳を高く突き上げた。
「王子~! アメンの力を見せてやれ~!」
「「アメン! 王子! アメン! 王子!」」
「ふっ、余の雄姿をしかと見ておれ」
アメン側の応援も凄まじいな。
ウラエウスが出てくると、セトとバステト兄妹を筆頭にアメンの人たちが息の合った掛け声を叫ぶ。プロスポーツのサポーター並みに迫力があるな……。
カイトとウラエウスがフィールドで対峙すると、何やら会話を始めた。
「やはり我らは戦う運命にあったようだ。下民よ、約束は忘れておらぬな? 余が勝てばユイを娶らせてもらうぞ」
「それは無理だ。俺が勝つからな」
「ふん、減らず口が」
「お~っと!? 何やら開始前からただならぬ雰囲気を放っている二人です! では開始前にお客席の皆様、上空を見上げてください!」
「「おお!」」
キアラの言う通り見上げると、驚きの声が木霊する。
拡張された客席の上には、幾つもの巨大なモニターが出現していた。そのモニターにはカイトやウラエウスが映し出されている。
「ご覧ください。空には様々な角度で試合を観戦できるよう投影魔術が施さています。さらにこのモニターは、世界各国で放映されるのです!」
「すげ~!」
「面白いな!」
モニターの存在に客たちが大いに喜ぶ。
しかし、世界各国に放映される楽しい取り組みが、後に世界を絶望に染める仕掛けとなることを俺だけが知っていた。
「最後に試合の審判をご紹介しましょう。戦闘魔術の教師であるスレイン先生です」
「試合のルールを説明する。魔術、体術、武器の所持を許可する。勝敗の決定は、戦闘不能になるか、自ら敗北を宣言するかである。そして注意すべきは……」
モニターに映るスレインが、真剣な表情で口を開いた。
「この大会は生死不問である。仮に相手を殺してしまっても罪には問われない。無論そうなる前に危険と判断した場合私が止めるが、万が一もある。代表者には既に通達しているが、改めて確認する。二人とも、問題はないか?」
「ありません」
「ふっ、余に都合が良い条件だ。問題などあろうはずがない」
スレインが問うと、カイトもウラエウスも同意した。
生死不問のおっかないルールに客たちがゴクリと生唾を呑む。ネタバレしちゃうけど、このルールで死ぬ代表者は一人もいないんだよな。
「それでは二人とも、位置につけ」
カイトとウラエウスが離れ、所定の位置につく。
カイトは刃が潰れた鉄剣を構えるのに対し、ウラエウスは優雅に腕を組んだ。
そしてスレインが右手を掲げ、宣言する。
「試合開始!」
「デザート・ヴァイパー」
「お~と! 先制したのはウラエウス選手です!」
ウラエウスが放った魔術は、砂で構成された二頭の大蛇だ。うねりながら不規則に向かってくる大蛇に対し、カイトは冷静に対処する。
「はっ!」
「出たー! カイト選手の十八番によって魔術を両断!」
「おお……」
「あれが噂に聞く魔術を消す力か」
カイトの力を見た各国の要人が興味深そうに頷く。代表者まで上り詰めたカイトが魔術を使えないことも、魔術を消す力があることも既に各国の人間に知れ渡っていた。
「ほう。下民の癖にやるではないか」
「今度は俺の番だ!」
「ガハッ!?」
力強く大地を蹴り上げるカイトは、瞬く間にウラエウスに肉薄した。凄まじい速度で鉄剣が振り抜かれ、無防備に喰らって吹っ飛んだ王子は壁に激突した。
「決まった~! カイト選手の一撃によってウラエウス選手ダウン! ウィルバート様、今の攻防の解説をお願いします」
「いや~カイト君のスピードとパワーは人間離れしているね。アレを初見で躱すのは厳しいんじゃないかな」
数か月前に最後に俺と戦った時、カイトの力は更に覚醒した。
そして今に至るまで力を完全に自分の物にし、覚醒した力を自由自在に使い熟せるまでに至っている。
はっきり言って今のカイトは強い。並大抵の魔術師では相手にもならず、ラドクリフやウィルバートのような最上級魔術師でも勝てるか分からないだろう。
カイトに勝つには遠距離から強大な魔術で削り切るか、怪物染みたカイトに対し真正面から体術や剣術で対抗するしかない。
「これで決まったか~!」
「う~ん、そう甘くはないんじゃないかな」
解説のウィルバートの言う通り、まだ試合は終わっていない。壁に激突したウラエウスの体がサラサラと砂のように崩れ落ちる。
「ふん、人間というより猛獣だな」
「やっぱり違ったか……」
突如、ウラエウスが違う場所に現れる。
手応えがなかったんだろう。カイトも警戒を解かず剣を構えていた。
「ウィルバート様、これはどういうことでしょうか?」
「砂の分身魔術だね。カイト君が攻撃する前に発動していたんだろう。見てごらん、まだ続いているよ」
「何だこれは~!? フィールド上にウラエウス選手が沢山いるぞ~!」
キアラの言う通り、フィールドに王子の分身が沢山現れる。
あの王子、上手い手を考えるな。口と態度がでかいだけではないようだ。
「くっ!」
「「どうした下民、本物の余を見つけられないのか?」」
「果敢に攻めるカイト選手! しかし本物のウラエウス選手を捉え切れません!」
分身魔術に翻弄されるカイトは、片っ端からウラエウスをぶった斬る。だが、全て分身で本物にはたどり着けなかった。そして遠距離攻撃の手段がないカイトは打開策が無い。
だが、厄介なのは分身だけではない。
「ねぇ、何だか暑くない?」
「喉が乾いてきた」
フィールドの異変にようやく気がつく観客たち。
場内の気温は今、恐らく三十度後半まで達しているだろう。
「私の気のせいでしょうか? 凄く暑いのですが……」
「気のせいじゃないよ。彼の仕業さ」
「サンディゴ・サブトゥラピカル」
急激に気温が上昇したのはウラエウスによる魔術だ。
この魔術は砂漠の亜熱帯を彷彿させるような暑い天候に変える魔術で、直接的な攻撃魔術ではない。
しかし、この暑さを体感したことがない一般人は急激に体力を奪われていく。
因みに決闘場には、選手の攻撃から観客席を守るように凹上の超強固な結界が張られている。なので直接的な攻撃は守られるのだが、気温の変化などは結界を通り抜けてしまうんだ。
「はぁ、はぁ……」
「カッカッカ。下民には砂漠の暑さは堪えるか」
体力を奪われバテ始めているカイトや観客に対し、ウラエウスやアメンの客たちは余裕だ。砂の国で生きている彼らにとって、この程度の暑さは屁でもないからな。
「体力を失い打つ手がないカイト選手、勝負は決まったか~!?」
(「さて、それはどうかな」)
ウィルバートの台詞と俺の思考が重なる。
確かに絶対絶命のピンチだが、この程度のピンチで主人公が負ける訳がない。
「ふん。じわじわと嬲り殺してもよいのだが、寛大な余が慈悲をくれてやる。負けを認めるなら、恥を晒さずに終わらしてやるぞ」
「俺は負けない! 絶対に!」
「諦めぬか。なら望み通り息の根を止めてやろう」
「はぁぁああああああ!」
砲声を上げるカイトは、円を描くように大きく鉄剣を振る。
刹那、暑い空気とウラエウスの分身が吹き飛ぶように消滅した。
「何ぃ!?」
今のカイトは、斬るだけではなく魔術を消す力を波動のように放つことができる。魔力を大量に消費してしまうデメリットはあるものの、これで戦況が覆った。
最大の好機に、カイトがウラエウスへと疾駆する。
「くっ! サンディゴ・サズヴァイパー!」
(遅いな)
慌てて上級魔術を放つ王子だが、発動のタイミングが遅い。
三首の大蛇が完全に構成される前に、カイトの鉄剣が根元を斬り裂いた。追撃するように、カイトは鉄剣を振り上げる。
「はっ!」
「ガハッ!」
降り降ろされた鉄剣がウラエウスの体を打ち抜く。
地面に叩き付けられた王子に、鉄剣の切っ先を突き付けた。
「はぁ、はぁ……俺の勝ちだ」
「お、己……王子である余が下民風情に!」
「それまで!」
スレインが試合を止め、キアラがカイトの勝利を告げる。
「決まった~! 魔術大会第一回戦を勝利したのは、学園代表カイト選手です!」
「「わぁぁあああああああ」」
見応えのある逆転劇をしたカイトに、観客たちが絶叫と万雷の拍手を送ったのだった。




