第80話 招集
「おいおい、新入りが一番遅ぇってどうなってんだよ。教育がなってねぇんじゃねーのかベッキー」
「うっせぇんだよ」
(全員いるな)
ラウルと共に転移魔道具のロケットで【純血使徒】の拠点に行くと、既に俺以外の幹部が全員揃っていた。
遅れたことに【爆弾魔】クランキー・キッドがいちゃもんをつけてくるが、ラウルがフォローしてくれる。
「まぁまぁクランキーさん。リオン君はまだ学生の身ですから、今日の所は許してください」
「い~や、許せねーな。大体オレはな、こんなクソガキが幹部ってのも気に入らねーんだよ。どう考えても力不足だろーが」
「はん! アタシたちより我が君の魂を手に入れるのが遅かった奴がどの口でほざいてんだが」
「あ~ん!? テメエらの担当が超簡単だってことだろ~が」
魂を手に入れた順は俺とベッキーのペアが二番目だった。するとクランキーは俺たちより後ってことになる。
今更だけど全員揃っているということは魂を全部集めたのか。物語通りとはいえ、やはり幹部の力は侮れないな。
「大体よ~、我が君に言われたから仕方なく受け入れたが、オレたちは誰一人として新入りの加入を認めてねーんだぜ」
「クランキーさんは我が君の命令に背くと仰りたいのですか?」
「そうは言ってねーだろ」
ラウルの問いを否定するクランキーに、俺は口を開いて「なら……」と言い続けて、
「どうすれば認めてくれるんだ?」
「幹部に足り得る実力を見せな。もしどうしようもね~雑魚だったらオレが殺してやるよ」
「お待ちください。幹部同士の私闘は禁じられていますよ」
まぁそうだろうな。
結局のところ幹部等は新入りである俺の力を知りたいんだ。だからクランキーは挑発するよう仕向けてくるし、他のメンバーは何も言ってこない。
いいだろう。ならその挑発、乗ってやるよ。
丁度俺も、物語で恐れられた幹部の実力を肌で感じたいと思っていたところだったんだ。
「ガタガタと五月蝿い雑魚が。相手をしてやるから、来るならさっさと来い」
「テメエ、死にてぇのか?」
「恥をかきたくねーんならやめとけクランキー、テメエじゃ後輩に勝てねえよ」
「ああん!?」
この中で唯一俺の力を知っているベッキーが口を挟む。
意外だ、先輩は俺のことを認めてくれていたんだな。
「笑えねー冗談言ってんじゃねーぞ! テメエからぶっ殺してやろうか!?」
「弱い奴ほどよく吠えるとはこの事だな。吠えてないで、来るならさっさと来い」
「殺す」
刹那、部屋が爆発する。
爆発に吹っ飛ばされた俺は宙を舞いながら外の風景を観察する。ふ~ん、拠点は城のようになっていたのか。辺り一面は荒野だし、まるでラストダンジョンの魔王城みたいだな。
「あ~あ、ついにやっちゃったよ」
「遅かれ早かれでござるよ」
呑気に観察していると、拠点の城から爆発音が鳴り響き、ビュンとロケットのように火を噴きながら飛来してくる。飛んでくる物の正体は魔術でも物でもなく、クランキー本人。
「オラもう一丁!」
飛んできたクランキーが両手を重ね叩きつけてくる。腕を交差して防御するが、触れた瞬間に爆発し、真下に吹っ飛ばされた俺は地面に叩き付けられた。
「そらそら、まだまだこんなもんじゃないぜ!」
間髪入れずに空の上から追撃してくる。
クランキーの両手から放たれる連続の魔力弾はグミ撃ちのように降り落ち、着弾すると共に爆発が起こった。
「悪い悪い、つい殺しちまったぜ」
「誰が誰を殺したんだ?」
「ン……だと!?」
煙が晴れ、無傷な俺の姿を目にしたクランキーが驚愕する。
それは奴だけではなく、城で戦いを観察している幹部の連中も同様だった。
「へぇ、今ので死んでないんだ」
「わ~お! リオンちゃんやるじゃ~ん!」
【爆弾魔】の異名通り、クランキーが扱う魔術は火属性の派生である爆発系だ。
足元を爆発させてロケットのように空を飛んだり、手足に触れた対象物を爆発させたり、爆発が付与された魔力弾を撃つことができる。
ヤンキーな見た目通り、高い火力でごり押しする脳筋スタイルだ。
まぁ脳筋だけども、バカ高い火力だけでこの世界でも上位に位置する。
「テメエ……何で傷一つねーんだよ」
「手の内を教える馬鹿がどこにいる」
「ンの野郎……」
お~怒ってる怒ってる。リーゼントがプルプルと震えてるよ。
因みにあれだけの攻撃を受けて俺が無傷なのは、全身を高密度の魔力で覆っているからだ。
この技法は身体強化の応用版であり、俺は『魔鎧』と命名した。
魔鎧を発動している最中は、攻撃を喰らってもダメージにはならない。魔術を通さなければ、物理的な衝撃すら吸収するからだ。
だがこの魔鎧を使えるのは恐らくこの世界で俺だけだろう。
何せ魔鎧は膨大な魔力を高密度で身体に覆い維持しなければならないという超絶難しい技法だからだ。
魔力が膨大でなければそもそも使えないし、高密度でなければ強固にはならない。そして高密度で維持するには、超絶な魔力操作が必要だからだ。
俺だって使えるようになったのは最近だ。
魔鎧自体の案は転生したすぐからあったけど、魔力も足りないし魔力操作も難し過ぎて難航していたからな。
伯母のエリザベスに領主代行をしてもらい、復学するまでの空いた時間を使って死に物狂いで鍛錬した末に身につけられたんだ。
まぁ、これでもまだ完璧とは言えないけど、クランキーを相手にするには十分だ。
「もう終わりか?」
「調子に乗んじゃねー!」
クランキーが凄まじい速度で俺との距離を詰めて拳を振ってくる。まるで喧嘩のようにブンブン振り回す攻撃なんか当たる訳ないだろ。
確かに威力や速度は常人離れしている。肘や足裏といった体の部位を爆発させることで、推進力を乗せているからな。
しかし攻撃は単調で読みやすい。セバスチャンに体術を仕込まれた俺にとっては容易に捌ける。
「欠伸が出そうだな」
「舐めんじゃ――ガハッ!?」
クランキーの顎をかちあげ、ガラ空きになった腹に掌底を打つ。軽く吹っ飛び、地面に膝をつ着いて胃液を吐く彼に問いかけた。
「そろそろ認めたらどうだ」
「絶っっってぇ殺す!」
どうやらまだやる気らしい。仕方ない、こうなったら少し痛い目に遭ってもらうか。
俺は腰に差している鞘から刀を抜き放つ。実はこんなこともあろうかと、大和猛から譲り受けた名刀雷切丸を持ってきていたんだ。
「オラぁ!」
クランキーが再びグミ撃ちを放ってくる。
しかし破れかぶれではなく、目的は爆煙を立てて視界を塞ぐため。脳筋にしては頭を使うじゃじゃないか。
けどな――、
「死ねや!」
「甘い」
「ぐぁあああ!」
背後から襲ってきたクランキーの右腕を斬り落とす。
不意をつくにしても殺気や魔力が駄々洩れなんだよ。雑魚ならまだしも、俺からしたらバレバレもいいところだ。
失った腕を抑えながら呻くクランキーの首筋に刀の切っ先を突き付け問いかける。
「まだ戦るか?」
「ったりめぇだこの野郎!」
「そうか」
ならば仕方ない。もう一本失えば流石にこいつも大人しくなるだろう。
刀を振り上げ、クランキーの左腕を斬り落とそうとしたその時、邪魔が入る。
「そこまでだ」
「……」
【人斬り】森永明治の刀が俺の首筋に突き付けられ、【操り人形】ミルキー・チェダーチーズの人形が両腕を掴み、【生首】グリコ・ファヤージュの砂が両足を縛る。
さらに目の前に【黄昏】アルフォート・ロッテと【闇医者】シルベーヌ・ラシュクーレが現れた。
幹部が揃いも揃って俺を止めに来たか。
「テメエら邪魔すんじゃねぇよ!」
「はいはい、それ以上暴れると腕がくっつかなくなるよ」
暴れるクランキーの頭をシルベーヌが叩く。
医者の彼女なら容易に腕を取り付けられるだろう。それを知っている上で、俺も綺麗に腕を斬ってやったんだ。
緊張感が漂う中、アルフォートが俺に言ってくる。
「もういいだろう。お前の力は十分知れた」
「俺は売られた喧嘩を買っただけだ。認めてくれたのなら戦う必要もない」
「そうか」
納得してもらうと、幹部も俺の拘束を解除する。
ふぅ……危ない危ない。流石に幹部全員の攻撃を喰らったら俺の魔鎧も砕けるからな。ここで幹部全員を敵にするほど無茶はしないさ。
「このままじゃ済まさねーぞ、クソガキ」
「いつでも相手になってやる。ただし、もう少し強くなってから出直してこい」
腕を斬られておいてガン飛ばしてくるクランキーに、俺はそう告げた。
◇◆◇
「よくぞ集まってくれた、同胞たちよ。おや、クランキーとシルベーヌの姿が見えぬが、どうしたのだ?」
「二人は今別室にいます、我が君」
「ふむ」
デモルト・ブラックロードが尋ねると、ラウルがそう答える。
あの二人はクランキーの腕をくっつけるために治療室にいる。因みにクランキーのせいで吹っ飛んだ拠点の部屋はアルフォートの魔術で綺麗サッパリ元通りになっていた。
デモルトは改めて俺たち幹部を見渡すとお礼を口にした。
「お前たちの尽力により、私の魂は全て集まった。心より感謝する」
「当然のことをしたまでです、我が君」
恭しく頭を下げる【変態】パキーラ・バームロールにデモルトは首肯する。
「同胞たちよ、聞いてくれ。明日、魔術学園を襲撃しダニエルから「魔法の杖」を奪う。そして我ら【純血使徒】の存在を世に知らしめるのだ」
「おお! ついに我らが表舞台に立つのですのね!」
「我らが望む世界を作りましょう!」
デモルトの言葉に幹部たちが盛り上がる。
そう――こいつら闇の組織は、魔術大会の途中に襲ってくるんだ。この展開も物語通りである。
「明日、世界は我ら【純血使徒】の手に落ちる。同胞たちよ、決戦までに今夜は十分休んでくれ」
「「はっ!」」
デモルトが姿を消すと、幹部も順に転移していく。
俺も学園に戻ろうとポケットからロケットを取り出そうとすると、シルベーヌが声をかけてきた。
「リオン君、ちょっと着いてきてくれるかい」
「……ああ」
シルベーヌに促され、別室へと着れていかれる。
そこには壁に鎖で縛られて憔悴した女が居て、その女を目にした俺は驚愕する。
(こいつは!?)
「リオン君は初めてみるかい? 彼女の名前はルベリエ。遥か昔、魔術師によって滅ぼされた魔族の生き残りだよ」
(ああ、知っているよ)
漆黒の肌に紅の瞳が特徴的で、獣のような身体能力と膨大な魔力を有している種族。
「魔術学園の無能力者」に物語終盤で登場する魔族が彼女、ルベリエだった。
それにしても何て痛々しい姿なのだろうか。
初登場した時はなんともなかったから、彼女がこんな酷い目に遭っているとは思わなかった。生気も失っているし、廃人同然だ。
やったのはシルベーヌの仕業だろう。こいつの狂気は研究のためなら魔族が酷い目に遭ったって構わないと思っているからな。
「リオン君、君の体には魔族である彼女の血が宿っているんだ」
「……」
「今までの実験体は血を与えてもすぐに化物になってしまった。だが君は化物にならなかった唯一の実験体にして適合者なんだよ。お願いだ、君の体を調べさせて欲しい」
うっとりした顔でお願いしてくるマッドサイエンティストに、俺は淡々とした声音で要求する。
「前に言ったはずだ。調べさせて欲しければ、俺の望む物を作って欲しいと」
「勿論用意しているさ。これがそうだよ」
と言って、シルベーヌは注射器と小瓶を渡してくる。
もう出来たのか。まぁ彼女にとってこれくらいは朝飯前なのだろう。
「約束は果たした。今度は君がボクの約束を果たす番だ」
「悪いがそれはできない」
「何だと?」
怪訝な顔を浮かべるシルベーヌに、俺はこう告げる。
「何故なら俺は適合者ではないからだ」
「それはどういう意味かな?」
「俺は魔族、彼女の血を取り込んでいないということだ」
「まさか……ボクに嘘を吐いたというのかい? どうやら君は殺されたいようだね」
殺気を迸る彼女に、俺は「慌てるな」と言って、
「魔族の血を使わなくても、“貴女の妹を救う方法を知っている”」
「な……ぜ、君がボクの妹のことを知っているんだい。君はいったい何者なんだ」
「俺のことなどどうだっていい。妹を救う方法を知りたいのか、知りたくないのか、どっちなんだ」
距離を詰めて脅すように問いかけると、シルベーヌは逡巡してから口を開いた。
「いいだろう。もし君の言うことが本当なら願ってもないことだ。ただし、嘘だったら許さないよ」
「その時は煮るなり焼くなり好きにすればいい」
「取引成立だね」
俺は欲しかった物を手に入れ、シルベーヌも妹を救える。
互いにウィンウィンだ。
(これで手札は揃った)
後は明日の決戦、激動の魔術大会をどう乗り切るか。
(もう少しだ。精々首を長くして待っているがいい)
父上、ジオ・エルファルドを殺した闇の魔術師に辿り着いてやるからな。




