75話 交流会
「綺麗だぞ、レイラ」
「ありがとうございます。リオン様も素敵です」
互いにドレスコードを褒め合う。
レイラのドレスは、白色の髪に合わせた純白だ。ドレスを纏った彼女は最早女神と言っても過言ではない。
雲一つない星空の下、俺とレイラは代表選手と貴族の学生で行われる交流会に来ていた。
貴族と言っても参加できるのは大貴族と一部の中級貴族だけで、下級貴族は招待されていない。
俺の力を使ってゴーズとクラッドを参加させることはできたのだが「畏れ多いですよ!」「俺たちは場違いすぎます!」と断られてしまった。
「レイラ、腕を」
「はい」
左腕の間を少し開けると、レイラが腕を組んでくる。
ふっふっふ、かっこよく決められたぜ。実は退学してから貴族の作法を一通り教わっていたんだよな。
さて、行くとするかな。
俺はレイラをエスコートし、交流会の会場へと向かう。
この会場は代表者の宿でもあり、俺の世界でいうところの高級ホテルのようなものだ。魔術大会の期間中はカイトたち四人の代表者も学園の学生寮ではなくここに泊まっている。
「お名前をお聞かせください」
「リオン・エルファルドだ」
「レイラ・ベルンツベルンです」
「確認しますので少々お待ちください」
扉で待ち構えている衛兵に呼び止められる。
確認を取るためにどこかに行ってしまった衛兵だが、すぐに戻ってきて扉を開けてくれた。
「リオン様、レイラ様、どうぞこちらへ」
「ああ」
俺はレイラをエスコートしつつ会場の中に入る。
パッと場内を見渡すと、代表選手十二人は全員揃っていた。その中には勿論、主人公のカイトもいる。
あとはクラインにバッカス、大貴族でカイトのヒロインでもあるユイ・アストレアもいるな。
学園側は二、三年生の貴族。お付きの者だろうか、他国側も代表選手以外が結構いるな。場内には沢山の郷土料理が並べられていたり、既に生徒同士がわいわいと交流している。
「おや? もしやそこにいるのはリオン殿ではないか」
(げっ!)
「おお、やはりリオン殿ではないか! 其方に会えて嬉しいぞ!」
(しまった~!)
アズマ代表の大和撫子が俺を見つけると嬉しそうな笑顔を浮かべ、力強く抱擁してくる。さらにバシバシとちょっと痛いぐらい背中を叩いてきた。
そうだった、こいつがいることをすっかり忘れていた。あの時は既に学園を退学していたから、二度と会うこともないだろうと別れの挨拶もしなかったんだよな。
「ちゃんとお礼を伝えたかったのだ。リオン殿、改めて大和をお救い「待て」
「むむ?」
「すまないレイラ、少し席を外す」
色々とバラしちゃう前に撫子の話を遮る。レイラに一言謝ってから、誰にも聞かれないように壁際まで撫子を連れて行った。
誤解されないように後でレイラに説明しないとな。
「すまない」
「問題ないでござるよ。何か事情があるのでござろう?」
察しが良くて助かるよ。
「それにしてもリオン殿を見かけたときは驚いたぞ。学園の生徒だったのか?」
「ああ」
「そうだったでござるか。むむ? 妙だな、代表者の中にリオン殿の名がなかった気がするが……これはどういうことでござるか?」
「俺は大会に出場するための予選会で負けたんだ」
「なぬ! それは誠でござるか!?」
大袈裟に驚愕する撫子。
まあ彼女は俺が鬼の頭領や八岐大蛇を倒したところを直に見て実力を知っているからな。怪物を倒した俺が学生如きに負けたのが信じられないのだろう。
「あそこにいるカイトに負けている」
「ほ~、リオン殿を打ち負かすほどの実力者でござるか。是非戦ってみたいものだな」
場内にいるカイトを指し示すと、撫子はワクワクした顔を浮かべる。心配するな、物語通り進めばお前はカイトと戦えるよ。
「何はともあれ、再び会えて嬉しいぞ。そして改めて礼を言わせて欲しいでござる。大和をお救いいただき、誠に感謝いたす」
「気にするな。それより、大和は復興しているのか」
「うむ、大和の民は元気だからな! 復興も早いぞ。拙者も手伝いたかったが、将軍家から魔術大会に出場するよう命令されてしまってな」
鬼の頭領と八岐大蛇を打ち倒した撫子の名は軽く天下に届いている。その力を買って、アズマで一番偉い将軍家が彼女を推薦したのだろう。
「拙者も異国には一度来てみたいと思っていたので丁度良かったというのもある。それに、リオン殿からも魔術大会に出るよう物の怪から言われたでござるしな」
(そうだった)
そういやそんなこと言ってたな。ってことは、笠小蔵たちは俺の言う通りちゃんと撫子に伝えてくれたんだな。あいつら、元気にしてるかな……。
「再会したのも何かの縁だ。応援しているぞ、撫子殿」
「うむ、必ずや優勝するでござるよ」
一先ず撫子とはそこで別れ、レイラのもとに戻ろうとする。しかし、俺の目の前に一人の女性が現れて足が止まってしまった。
「……」
(何なんだよ……)
目の前でじっと佇んでいるのは、アメン代表のイシスだ。綺麗な黒髪は姫カットにされており、砂漠の太陽で焼けた小麦粉の肌は民族衣装に包まれている。
鼻筋が高くモデル体型。小説の挿絵でも美人だと思っていたが、生で見るとこれまた息を吞むほどの美しさだ。
「貴方、数奇な運命を辿っていますね」
「……」
ずっと閉じていた瞼を開くと、唐突に不思議なことを言ってくる。
イシスは未来を見通す力を持っている。俺に会って何かを感じ取ったのだろうか。
まあ俺の存在は異物だからな。本来なら既に死んでいる身だし、本編に無い運命に違和感を抱いたのかもしれない。
下手したら転生者だとバレる可能性もあるので、余り会話はしないでおこう。
そう思って彼女から離れようとした時、場内の中心でちょっとした騒ぎが起こる。
「美しい女性よ、其方の名を聞かせてくれ」
「私? ユイ・アストレアだけど」
「おお、ユイというのか! ではユイ、余の妻となるがよい!」
「うぇ!?」
(そういやこんな展開あったな)
皆がいる前でユイに求婚したのは、アメン代表のウラエウスだ。彼はアメンの王子であり、いずれは王になるだろう。
ユイに求婚しているけど、あいつは既に何人もの妻がいる。男としては羨ましい限りだ。
「急に何言ってんのよアンタ」
「ふっ、愛とは急なものだ。余の妻となれば何でも手に入るぞ」
「ちょっと、何すんのよ」
「ユイに触るな」
ユイの手を取って抱き寄せようとするウラエウスの腕を横からカイトが掴む。ウラエウスは怪訝な眼差しでカイトを睨むと、
「誰だ貴様。気安く余に触れるなど万死に値するぞ」
「俺はカイトだ。いいからその手を放せ」
「カイト……」
「……ふむ」
助けてくれたカイトを王子様のように見つめるユイの眼差しに気が付いた王子様は、引き下がるように手を放した。
意外だな、傲慢なキャラだから意地でも言うことを聞かないと思ったけど。
「貴様はユイの何なのだ?」
「幼馴染だ」
「はっ! 夫ではないのか。その程度の関係で余の邪魔をするな下民」
「何だと」
「ユイ、下民など放っておいて、この後でも余と楽しい夜を過ごそうではないか」
「触るなって言っているだろ」
しゅ、修羅場や~。
皆も注目しているし、これは楽しくなってきたな。いいぞもっとやれ。
「下民、これ以上の狼藉は余でも許さんぞ。殺されたいのか」
「王子、彼とは戦いで決着をつけるべきかと」
「何だイシス、“視たのか”」
「はい」
イシス? ってあれ、いつの間にか居なくなってる。
ふ~ん、王子様もイシスの言うことは聞くんだな。
「おい下民、どうやら余と貴様は戦う運命にあるようだ。そこで、戦いに勝った物がユイを娶ることにしよう」
「な、何勝手に決めてんのよ!」
「いいだろう」
「カイトまで何言ってんのよ!」
「心配するなユイ。俺は絶対に勝つ」
「そういうことじゃないのよ、も~」
ウラエウスの提案を呑むカイト。
あれはもう熱くなって、戦いに勝ったらユイを妻にするってことが分かってないな。ユイも何となく察していそうで、大きなため息を吐いている。
諦めろユイ、主人公のヒロインの宿命だよ。
「下民、余に歯向かったことを後悔するがよい。ユイ、また会おう」
最後にそう告げて、ウラエウスは去っていく。
ふ~、面白いものも見れたことだしレイラのところに戻るとするか。っておい、ユイだけじゃなくてレイラにも変な男が付き纏ってやがるじゃないか。
どこの糞野郎だぶっ殺すぞ。
「なぁなぁ、俺の女になれよ」
「もう一度言いますが、私には既に婚約者がいます」
「平気平気、俺は他人の女だろうが気にしねーから」
「俺が許さん」
「リオン様……」
レイラを口説こうとする男の間に割って入る。すると男は気に入らなそうに俺を睨みつけてきて、
「何だテメエ、邪魔すんじゃねーよ」
「彼女の婚約者だ」
「へぇ、テメエがそうかよ」
「や~ん。アンタ、アタシ好みの良い顔してるじゃない! ね~アタシの男にならない?」
(今度はなんだよ)
さらに女の子が割って入ってきて、俺の胸をツンツンしてくる。おいおい、カオスな状況になってきたぞ。
「何なのですか貴女、失礼ですよ」
今度はレイラが俺の前に立って女の子を窘める。彼女が自分のために怒ってくれるのってなんかいいな!
「別に触るぐらいい~じゃ~ん。ね~お兄ちゃん」
「妹よ、お前はいつも手が早いんだよ」
「「お兄ちゃん?」」
「俺は兄のセト」
「アタシは妹のバステトで~す」
何だこいつ等、兄妹だったのかよ。
改めて兄妹の外見を確認する。簡単に伝えると、兄はオラオラ系で妹はメスガキ系ギャルだ。
小麦粉の肌に民族衣装を纏っているから、アメンの者であることは間違いないだろう。恐らくウラエウスの護衛で来ているのかもしれない。
「貴様たちのことはどうでもいい。これ以上俺たちに関わるな」
「それはできないな。俺は狙った女は逃がさない主義なんだ」
「アタシも~!」
言っても聞かない兄妹に胸中でため息を吐く。
ウラエウスもそうだったし、アメンの連中は遊び好きなのか?
「じゃあこうしようぜ。王子と同じように俺たちもお前たちと戦ってやるから、勝ったらそれぞれの相手を頂くってのは」
「それい~じゃんお兄ちゃん! アタシ賛成~!」
「お断りします。その条件は私たちに何の得もありません」
「え~何アンタ、負けるのが怖いの~?」
「そういう訳ではありません」
流石レイラ、妹の煽りにも全然動じない。
「それならこういうのはどうだ? もし俺たちが負けたら何でも一つ願いを叶えてやるよ」
「わかった、条件を呑もう。俺たちが勝ったら二度と関わってくるな」
「リオン様、よろしいのですか?」
「ああ。一々付き纏われるのは面倒だからな」
願いとかはどうでもいい。
これ以上俺たちのイチャイチャをこいつ等に邪魔されたくないだけだ。ちゃっちゃと終わらせた方がいい。
「いいね~そうこなくっちゃ!」
「で、いつやるよ」
「早い方がいい。今日と言いたいところだが、明日でどうだ」
「OK。じゃあな可愛い子ちゃん。明日には俺の彼女だぜ」
「バイバ~イ」
ふう、やっと去ったか。
まさかカイトだけではなく、俺やレイラにも面倒なイベントが起きるとはな。これも物語を変えてしまった弊害なのかもしれない。
その後は何事もなく、俺とレイラは各国の代表者たちと軽い挨拶を交わして交流会は終えたのだった。




