72話 RE:START
ここは、どこだ。
まさか、死んだのか?
は、はは……マジかよ、何やってんだよ俺。
過労の恐ろしさは、ブラック企業で死んだ俺が一番よくわかってるはずだったのに。
なのに、何で死んじまってんだよ!
領主としてエルファルド領を守っていかなければならない。
ジオを殺した犯人に復讐しなければならない。
俺にはまだ、やらなければならないことがあるのに……。
こんなところで過労で死ぬなんて馬鹿だろうが!
くそ。
くそ。
くそぉぉぉおおおおおおお!
「焦るな、お前はまだ死んでいないぞ」
「――っ!? リオン? リオンなのか!?」
「ああ、僕だ」
「ああ、よかった! 本当に良かった! やっぱりお前は生きてたんだな!」
「お前に力を渡した時は魂ごと消えたと思っていたが、どうやら消えなかったようだ」
そうか、そうだったのか。
絶対に消えていないと思っていたけど、本当に良かった。
「また会えて嬉しいよ、リオン」
「ああ、僕も嬉しい」
「ごめん、リオン……」
「何故謝る」
「俺の、俺のせいでッ! ジオが、お前の父が死んでしまった!」
目の前にいるリオンに心から謝罪する。
彼の父親を死なせてしまったことを、ずっと謝りたかったんだ。
「何故お前が謝る。父上が死んだことはお前のせいではない」
「違う、俺のせいなんだ! 物語でジオは死ななかった。物語を変えたことで、俺が生き残った代わりにジオが死んでしまったんだ!」
「例えそうであっても、お前は悪くない」
「俺が悪いんだ! 俺が……」
泣き崩れる俺に、リオンは膝を着いて俺の肩に手を添える。
「顔を上げてくれ」
「……」
「僕はお前の中で、これまでのお前をずっと見てきた」
「……」
「僕のように与えられた紛い物ではなく、過酷な鍛錬で手に入れた真の強さ。悪魔に英傑に物の怪と、数々の強敵を討ち倒してきた。物語通り進めるために、カイトを強くさせようと屈辱に耐え、愛しい彼女さえも捨てた」
「……」
「あらゆる艱難辛苦を乗り越え、お前は見事成し遂げた。醜い化け物になって死ぬ運命を乗り越えたのだ」
「リオン……」
「感謝する。そして、よくやった」
そう言って、リオンは俺を強く抱きしめた。
「ぅ、ぁ、ぁあ……ぁぁあああああああ!」
嬉しかった。心の底から嬉しかった
別に、孤独だった訳ではない。
だけど、俺にしか分からない苦労を誰かが知ってくれることが。
よくやったと、認めてもらえたことが嬉しかった。
「お前は僕の無念を晴らしてくれた。もう物語に囚われることはない。これから先はお前の人生を歩み、好きなように生きてくれ」
「でも、俺は……」
「父上が亡くなってしまったのは僕も悲しく、許し難いことだ。だが、無理をするな。それでお前が死んでしまったら、それこそ父上が悲しむだろう」
「そうかもしれない。だけど、それでも俺は許せないんだ」
リオンは庇ってくれるが、俺のせいでジオを死なせたことに変わりない。
だからせめて、ジオを殺した奴に復讐したいんだ。俺にとってもジオは父であったから。
「わかった、お前の気が晴れるならそうすればいい。いや、詭弁だな。僕も父上を殺した者を許せない。できることなら復讐してやりたい」
「リオン……」
「だが、一人で無理をするな。僕と違い、お前は一人じゃない。これまで培ってきた仲間がいるだろう」
一人じゃない、か。
「それとこの際だから言っておくが、レイラのことを諦めるな」
「な、何言ってんだよ」
「誤魔化すな。お前の心は僕に筒抜けなんだぞ」
ぐぬぬ……なんか恥ずかしいな。
「でも、物語でレイラはカイトに必要だし」
「物語に囚われるなと言っただろう。それに僕の見立てでは、レイラが想っているのはカイトではなくお前なのではないか」
ま、まぁ……自惚れでなければそうだと思うけど。
「けど、ユイのことはいいのか?」
「ふっ、僕に気遣っているのか? 確かに、この期に及んで僕はまだユイを好いているし、カイトも気に食わん。だが、これも言っただろう。お前の人生だ、好きなように生きろ。お前の幸せが僕の幸せでもあるんだ」
「リオン……」
「さぁ、そろそろ目を覚ませ。皆がお前を待っている」
皆が?
「忘れるな。お前は決して一人ではない。僕という相棒もいる」
「そうだな。ありがとう、相棒」
「行ってこい、リオ・サカキ」
「ああ。行ってくるよ、リオン」
◇◆◇
「ここは……俺の部屋か」
「リオン様、目を覚まされたんですね!」
「リオン様~!」
「ゴーズ、クラッド……」
見知った天井。
目を覚ますと、二人の友が号泣しながら抱き着いてきた。
「一週間も寝たきりと聞いて心配したんですよ!」
「リオン様が無事で本当に良かったです!」
そうか、俺は一週間も寝ていたのか。
それで二人は、学園を休んでわざわざ見舞いに来てくれたのか。
「リオン様、学園に戻ってきてください!」
「俺たちリオン様がいないと楽しくないんです! リオン様と一緒に居たいんです!」
「二人共、ありがとう」
「「リオン様~!」」
彼らを抱き寄せて心からお礼を告げる。
二人を皮切りに、次々と見舞いが訪れた。
「お兄様ー!」
「リオン様!」
「サラ、リコ……」
可愛い妹が飛び込んでくる。サラは俺の胸に顔を埋め、泣きながら懺悔してきた。
「申し訳ございません、お兄様! 私が愚かでした! お兄様が大変な時に、私は部屋で閉じ籠っていただけでした!」
「お前が気にする必要はない」
「いえ、私は自分が許せません! お兄様、私強くなります! エルファルド家の人間として立派になって、お兄様のお役に立ちますから!」
「ありがとう」
再び胸に顔を埋めてくる妹の頭を優しく撫でていると、今度はリコが歩み寄ってくる。
「私はリオン様の専属メイドです」
「そうだな」
「私ができることはリオン様の身の回りのお世話をするぐらいです。私ではリオン様のお役に立てません」
「そんなことはない。今でも十分助かっている」
「でしたら! でしたらもっと頼ってください! 倒られるまで抱え込まないでください! 何でもしますから……少しでもリオン様のお役に立ちたいんです!」
「わかったよ、リコ。心配かけてすまなかった」
「うわぁぁあああん!」
泣きじゃくるリコを抱き寄せる。
俺はどれだけの人に心配をかけてしまったのだろうか。
「おうリオンはん、見舞いに来てやったで」
「こらナナリー、リオン様になんて口の利き方をするんだ」
「名前で呼ばんといてって言ってるやろおとん! それにわてはリオンはんのダチやからこれくらいえーんや」
次に訪れたのは、ナナと父親のマーマンだった。
この親子は相変わらずだな~と思っていると、マーマンが真剣な顔つきで口を開く。
「リオン様、以前おっしゃいましたね。貴方様の身に何か起きましたら、エルファルド家の力になって欲しいと」
「あ、ああ……」
「今がその時です。マーマン商会が全力でリオン様をサポートいたします」
深々と頭を下げ、そう言ってくるマーマン。
確かに俺の身に何かあった時助けて欲しいと言ったけど、あれは俺が死んだらの話だったんだよな。
「そういうこっちゃ、リオンはん。あんさんは周りに相談もせずぜ~んぶ自分で勝手に決めるやん。そんで倒れてちゃほんまに世話ないで」
「……」
「だからこそ、わて等が力になったる」
「感謝する」
「かっかっか! そんなしおらしいのはリオンはんらしくないで。さっさと元気になりぃ、待っとるからな」
ナナとマーマンの次に来たのは、なんと伯母のエリザベスだった。
「この馬鹿野郎」
(痛っ)
会った直後に頭にげんこつをもらう。
病人にする仕打ちじゃないだろうと思っていると、エリザベスは申し訳なさそうに、
「すまなかった」
「謝るくらいなら殴らないでください」
「そっちじゃね~よ。領主のことだ」
おい、殴ったことは悪くないと思っているのか。
「許せリオン。お前ならできると勘違いした私が愚かだった」
「いえ、俺が至らないだけです」
「もう心配いらないぞ。これからは私が領主代行を務める。セバスチャンにサポートしてもらうから安心しろ」
「お任せください」
「なりません! 俺ならできます!」
「ガキが調子に乗ってんじゃねーよ」
(痛っ!)
また殴りやがったな。さっきより強いぞこんちくしょう。
「ガキはガキらしく、学園で勉強でもしてろ。早くてもお前が卒業するまで、私が領主代行を務めてやる。それが、死んだ弟のために私ができることだ」
「伯母上……」
「話は以上だ。ほら、彼女が待ってるぜ」
「彼女?」
「リオン、女を泣かせる男はエルファルド家にいらねーからな」
そう言って、エリザベスはセバスチャンを連れて部屋から出て行く。その後すぐに入ってきたのは、レイラだった
「レイラ……」
「リオン様」
互いに名前を呼ぶ。目の前の人間を確かめるように。
彼女は俺のもとまで歩み寄ると、険しい表情を浮かべて、
「私も学園を退学してきました」
「なっ!? 何故そんなことをした!」
「リオン様を支えるためです」
「お前……」
言葉が出て来ない。
そんな、俺のために退学しただと?
何で、何でそこまでレイラは俺のことを……。
「愛しているからです」
「っ!?」
顔に出ていたのか、俺が何かを言う前にレイラがはっきりと告げた。
唐突な告白に動揺していると、彼女は俺の手を握りしめ、
「もう一度言います。私はリオン様を愛しております。愛しているからリオン様を支えたいのです」
「レイラ……」
「例えリオン様が私を愛していなくても構いません。私以外の人を愛しても構いません。何があろうと、リオン様を支えます」
目も、顔も、言葉も、全てに覚悟が宿っていた。
レイラは本気で俺を想い、俺を愛していたんだ。
(いいのかな、相棒)
心の中にいる本物のリオンに問いかける。
物語通りに進めるため、俺はレイラと結ばれようとしなかった。心の底からレイラを愛しているくせに、理由をつけて彼女を突き放し、傷つけてしまった。
だけど、リオンは言ってくれた。
俺の好きなようにしろって。俺の人生を歩んでいいんだって。
だったら、俺がレイラと結ばれてもいいのかな。
(覚悟を決めろ)
レイラだって覚悟を持って告白してくれたんだ。
なら俺も、彼女の気持ちに応えたい。
俺はレイラの手を握り返し、言葉を紡いだ。
「俺もだ」
「……」
「俺も、レイラを愛している」
「っ!?」
ああ、やっと言えた。
この言葉を、どれだけ言いたかったことか。
ついに自分の想い告白すると、レイラは誰もが見て分かるぐらい驚いた顔を浮かべた。
「そんな、だって!」
「信じられないかもしれないが、ずっと前からだ。ずっと前から俺は、レイラを想い、レイラを愛していた」
「リオン様……それは本当ですか? 嘘では、ないのですか」
声を震わせる彼女を安心させるように、俺は笑顔を浮かべて、
「嘘ではない。俺はこの世界で誰よりも、レイラ・ベルンツベルンを愛している」
「っ! リオン様ぁあ!」
嬉しいのかどうか分からないが、レイラが泣きながら胸に飛び込んでくる。俺は彼女の身体を強く抱き締め、これまでのことを謝った。
「すまなかった、レイラ。俺はお前のことを傷つけてしまった」
「いいんです! 仕方ないことだと、何か訳があるのだと思っていましたから!」
(えっ、そうなの?)
「リオン様が私を愛してくれる。それだけで私は、十分過ぎるほど幸せです」
ああ、なんて良い人なんだろうか。
あんなに酷く傷つけたっていうのに、それでもレイラは俺を愛してくれていたのか。
俺はレイラの肩に手をかけ、少し体を離してから目を見つめる。
「レイラ、俺と結婚してくれ」
「っ……いいのですか。私で……」
「勿論だ」
「ぅ、ぅぁ……」
「返事を聞かせてくれ」
問いかけると、彼女は涙を流しながら強く頷いて、
「はい」
「ありがとう」
「っ!?」
返事をもらった俺は、堪え切れずレイラの唇を奪った。
彼女は一瞬驚くも、口づけを受け入れてくれた。
(俺は一人じゃない)
ゴーズ、クラッド、ナナ。
親しい友達がいる。
サラ、リコ。
大切な家族がいる。
エリザベス、セバスチャン、マーマン。
頼れる大人がいる。
そしてレイラ。
愛しい人がいる。
他にも沢山、今まで仲を紡いできた人たちがいる。
俺は一人なんかじゃないんだ。
相棒。
大事なことに気付かせてくれて本当にありがとう。
お蔭で俺は前に進めるよ。
これからの俺を見ていてくれ。
絶対に生き抜いてやるから。
いや、違うな。
絶対に、“幸せになってやるからな”。
「リオン様、ずっと貴方の側にいます」
「俺も、ずっとレイラの側にいよう」
頑張ろう。
もう一度やり直す気持ちで、これからの人生を生きていこう。
ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます!
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
これで第五章は終わりです!
第六章は大会篇となっております。
ブクマ、評価ポイントありがとうございます!
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誤字脱字のご報告と修正、本当に助かります!
ありがとうございます!
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