71話 回収
「これがデモルトの魂か」
八岐大蛇が爆散した場所を魔力探知し、落ちている勾玉を拾う。
勾玉からは禍々しい魔力が発せられており、俺を取り込もうとしていた。物語通りなら、俺は“この力を取り込んで醜い化け物になって死ぬはずだった”。
「ふん」
雷の魔力で勾玉を包み、魂の力を抑える。忌々しい魂をぶっ壊してやりたいが、俺には壊せないし壊すつもりはない。
ラスボスであるデモルト・ブラックロードを殺すには、奴を完全復活させた上で主人公カイトに消滅させるしかないからだ。
「後輩、物は見つかったか」
「はい」
妖狐に乗って来たベッキーが声をかけてくる。
彼女の最後の一撃は見事だった。「ブラッディ・フルバースト」は、溜め切った血を一気に放出し爆発させる大技だ。
それでも、八岐大蛇を確殺するには至らないかもしれない。だから彼女は血の鎌を突き刺し、内部から爆発させたんだ。ごり押しでもなくちゃんと考えている。パワー系のスタイルながら頭も使えるんだよな、こいつ。
「お前、結構やるじゃね~か。特別にアタシの相棒になることを認めてやんよ」
「ありがとうございます」
「勘違いすんなよ。認めるっつっても、アタシが先輩でテメエは後輩だかんな。舐めた口聞いたらぶっ殺すぞ」
「わかっています、先輩」
認めてくれたところ悪いが、これ以上お前と何かをするつもりはないぞ。
「先輩、俺は勾玉を持って先に帰還しますのでお鶴によろしく言っておいてください」
「あん? 何だテメエこのまま帰っちまうのかよ。大和とかっつう奴等に挨拶しなくていいのか」
「ええ、必要ありません」
課せられた目的は果たした。これ以上アズマに留まるつもりはないし、撫子に会こともしなくていいだろう。元々リオンと撫子は会うはずのない運命だったしな。
「そうか。んじゃアタシも最後に団子をたらふく食ってから帰るとするか」
「河童、笠小蔵、妖狐。お前たちにも礼を言う。色々と協力してくれてありがとう」
「お礼を言うのはこちらの方ですよ! 鬼の頭領だけではなく、龍まで倒してくれてありがとうございました! お侍様方のお蔭でボクらも平和に過ごせます」
「ありがとな!」
「またいつでも遊びに来なさいよ」
物の怪たちに礼を言うと、彼らもこちらこそと返してくる。実際、彼らが居なければ八岐大蛇を倒すのは難しかっただろう。倒せたとしても、大和に甚大な被害が起きていたかもしれない。
最初はちんちくりんの物の怪たちだと思っていたが、ここまで頼りになるとは思わなかった。
「笠小蔵、二つ頼まれてくれるか」
「いいですよ」
「この刀を撫子殿に返して欲しい。それと “魔術大会に出場する”よう伝えてくれ」
「はい、分かりました」
どの道撫子は将軍の要請によって、冬に行われる魔術大会にアズマ代表として出場する。
撫子としても、母親の仇である森永明治を探したく外国に行くのは願ったり叶ったりだからな。それでも念を押しておくことに越したことはないだろう。
あと刀はちゃんと返さなきゃな。業物みたいだし、このまま借りパクする訳にもいかない。
「お前たち、世話になったな」
最後にそう言って、俺はロケットを開き拠点に転移しようとする。
だが、その前にベッキーに一つだけ問いかけた。
「先輩、俺の父を知っていますか? 名前をジオ・エルファルドと言うのですが」
「あ? お前の父親?」
もし彼女がジオを殺した犯人であったなら、その時はこの場で即座に――。
「んなもん知るかよ」
「本当ですか?」
「うるせぇな、本当だよ! テメエの父親なんかアタシが知る訳ね~だろうが」
「……」
この反応、嘘を吐いているようには思えない。元々ベッキーは嘘を吐くタイプではないからな。
そうか……彼女は白か。候補の中でも下の方だっただが、念のためだ。
「申し訳ございません、今のは忘れてください。それでは帰還します」
「「さよなら~」」
ベッキーと物の怪たちに見送られながら、俺は【純血使徒】の拠点に転移したのだった。
◇◆◇
「八岐大蛇が消えた……本当にリオン殿が倒してしまったのか」
大和撫子と父の猛。それと【純血使徒】のお鶴と配下のくノ一たちは、デモルトの魂の影響を受け凶暴化した物の怪たちから大和を必死に守っていた。
彼女たちの実力なら凶暴化した物の怪にも遅れを取れない。しかし伝説の八岐大蛇だけは別だ。あの怪物にはどう抗ったところで倒せる気がしない。
が、リオンは倒せると断言した。彼の言葉を信じて立ち向かうことを決意したが、まさか本当に八岐大蛇を倒してしまうとは思わなかった。
「皆の者、リオン殿が八岐大蛇を退治してくれた! もうひと踏ん張りだ!」
「「おおーー!」」
猛が鼓舞すると、大和の術師たち士気が上がる。
撫子やお鶴も力を振り絞り、残った物の怪を掃討した。
「お~い」
「ベッキー様! 八岐大蛇を倒されたのですね!」
「アタシにかかりゃ余裕だ。まぁ、後輩もちょっとは役に立ったけどよ」
「リオン殿のお姿が見られないようですが……」
リオンが居ないことに気付くお鶴にベッキーが答える。
「あいつは戻ったぜ。我が君の魂を回収したからな」
「そうでしたか……一言だけでもお礼を伝えたかったのですが」
「アタシもちょっと休んで団子食ったら戻る」
「分かりました。ベッキー様、アズマをお救いくださり誠にありがとうございました」
「おう」
ベッキーとお鶴が合流している中、笠小蔵たちも撫子に会っていた。
「お侍様~」
「おお、お主たちも無事であったか。リオン殿はおらぬのか?」
「お侍様は帰ると言っていました」
「それは残念だ……大和をお救いいただいたお礼を言いたかったのだがな」
リオンが挨拶もなしに帰ったことにしょんぼりする撫子に、笠小蔵がリオンから預かっていた刀を渡す。
「お侍様から刀をお返しするようにって頼まれました」
「かたじけない」
「それとお侍様から伝言があります。魔術大会に出場するようにと言っていました」
「魔術大会? それは何でござるか?」
「さぁ、ボクに分かりません」
「魔術大会……か」
◇◆◇
「ラウル先生」
「おや、リオン君」
拠点に戻るとラウルがいた。
こいつ何でここにいるんだ? 仮にも魔術学園の先生だろうが。もしかして暇なのか?
用があったから別にいいけどさ。
「任務はどうしましたか?」
「物は手に入れました」
「お~! まさに我が君の魂です!」
ポケットから勾玉を取り出して渡すと、ラウルは嬉しそうな声を上げた。
「流石はリオン君、私が目をかけただけのことはありますね。魂を取ってきたのは貴方たちが二番目ですよ」
「ありがとうございます」
何だ二番目か。結構早く終わったから一番乗りだと思ってたんだけどな。
「よくやりました。ところで貴方の相棒はどうしたのですか?」
「まだアズマに居ます。用が終わったらすぐに戻ってくるでしょう」
「そうですか。兎に角お疲れ様です、リオン君。我が君も喜ばれるでしょう。貴方は次の任務まで待機していてください」
「ラウル先生」
労いの言葉をかけて去ろうとするラウルの背中に声をかける。
「何です?」
「ラウル先生にお聞きしたいことがあるのです」
「ほう、いいでしょう。元とはいえ私は君の先生でしたから、知りたいことを教えてあげましょう。それで、何を聞きたいのですか?」
俺はコツコツとラウルのもとまで歩み、彼に問いかける。
「俺の父、ジオ・エルファルドを殺害した者が誰だかわかりませんか?」
「……」
「俺としては大貴族の誰かではないかと考えているのですが、ラウル先生は心当たりがないでしょうか?」
ラウルの目をじっと見つめて問いかける。すると彼は一拍置いて口を開いた。
「さぁ、申し訳ございませんが私にも心当たりはありません」
「そうですか」
「リオン君はお父様を殺した犯人を見つけてどうする気なのですか?」
「勿論殺します」
即答すると、ラウルは深いため息を吐いて、
「お父様が亡くなられた君の気持も分かります。私たちとしても、仲間になるはずだったジオ様が亡くなられたのは誠に遺憾ですからね」
(遺憾だと!? どの口が言ってやがる!)
ドス黒い殺意が芽生える。
ジオはお前ら闇の魔術師の誰かによって殺されたんだぞ。知らない訳がないだろう。今ここで殺してやろうか。
(いや、落ち着け。ラウルを殺してはダメだ)
幹部ではないが、こいつは【純血使徒】のまとめ役でもある。ジオの死について必ず何かを握っているはずだ。
信頼を得るために魂を回収したのだが、どうやらまだ教えてくれるほどの信頼は得られていないらしい。
まぁこいつが信頼しているのはデモルトだけだからな。
「もし何かわかりましたら教えてください」
「勿論さ。もういいかい? 早く魂を我が君に渡しに行きたいんだ」
「どうぞ。引き留めて申し訳ございませんでした」
去って行くラウルの背中を睨みつける。
待っていろ。教える気がないないなら、無理矢理聞き出すまでだ。
「リオン君、だったかな」
「……」
背後から女性の声がかかる。
振り向くと、頭に大きなネジが刺さっている白衣を纏った女が立っていた。
こいつは【闇医者】――、
「シルヴェーヌ・ラシュクーレ」
「おや、もう名前を覚えてくれたのかい」
「勿論ですよ。それで、俺に何か用ですか」
こいつが気配を消して俺とラウルの会話を聞いていたことは分かっている。ラウルに声をかけなかったことから、俺に用があって出てきたのだろう。
ていうか、シルヴェーヌがここに居るってことは魂を一番早く回収してきたのは彼女たちだったのか。
「私はこれでも医者でね、研究のために是非君の身体を調べたいんだ」
「何故ですか?」
尋ねると、シルヴェーヌは俺の胸にメスを突き立て、
「決まっているじゃないか、リオン君。君が初めての“適合者”だからだよ」
「……」
「おや? もしかして自分が適合者だということも知らないのかね?」
(知っているさ)
けど、知らないふりをした方が得策だと考えている。俺に力を与えたラウルが力について説明してきていないからな。
「何の話ですか?」
「ふ~ん、ラウル君も酷なことをしているね~。なら彼の代わりに私が教えてあげよう。君の身体には今、“魔族の血”が流れているんだ」
「――っ!?」
衝撃の事実を聞いた俺は、目を見開いて驚くふりをする。
そう。
ラウルがリオン・エルファルドに与えたのは強くなる薬ではなく、魔族の血だったのだ。魔族の血を身体に取り込めば莫大な力を手に入れられるが、拒否反応が出て死んでしまう。
醜い化け物になって死んでしまった本物のリオンのようにな。
魔族は遥か昔に絶滅していると言われているが、実は生き残りがいる。その一人を闇の組織は確保しており、どうにか魔族の力を手に入れられないかと実験しているんだ。
それで実験の第一人者が目の前にいるシルヴェーヌだった。
「今まで魔族の血を取り込んだ者は化物になってしまった。適合した者は誰一人としていなかったよ。リオン君、君を除いてね」
「……」
「だからお願いだよ。魔族の血に適合した君の身体を調べさせてくれ」
「お断りします」
何故なら俺は適合なんてしていないからだ。ラウルから貰った薬は消し炭にしたからな。が、そのことは敢えて言わず俺は続けて、
「と、言うつもりでしたが、条件があります」
「ほう、何だね」
「貴女にある物を作っていただきたい。それを渡してくださったら、いくらでも調べて構いません」
「取引という訳か。いいだろう、乗ったよ」
よし、上手くいった。彼女なら俺が欲しい物を作り出せるだろう。
俺の身体を調べられると知ったシルヴェーヌは、不気味な笑顔を浮かべる。
「早く調べたいな~。あっ因みに言っておくが、私は君の父親を殺していないからね。会ったこともなければ、興味もない」
俺とラウルの会話を聞いていたのか、自分から言ってきた。彼女の性格を知っている俺としては、恐らく嘘ではないだろう。
「すぐに作るから待っていてくれよ。あ~楽しみだな~」
(ふぅ……)
去っていくシルヴェーヌを見つめながら胸中でため息を吐く。
これで目的は果たした。後は時が来るまで領主としての仕事に専念しよう。
ロケットでエルファルド家の執務室に転移した俺は、深々と椅子に座る。
「うっ!」
書類に手を伸ばした瞬間、激しい頭痛が襲ってくる。
何だこれ……やばい。意識が……。
「失礼します、坊ちゃま」
「が……ぁ……」
「坊ちゃま!?」
部屋に入ってきたセバスチャンが、苦しみ悶える俺を見て慌てて駆け寄ってくる。
頭が痛い……まさか死ぬのか? こんなところで? まだ何も成し遂げていないのに。
「坊ちゃま、しっかりしてください! 坊ちゃまーー!」
セバスチャンに身体を揺さぶられる俺は、眠るように意識を失ったのだった。




