7話 俺の妹が可愛すぎる
「お兄様、甘いお菓子はいかかですか」
「お兄様、そろそろ休憩してはいかがですか」
「お兄様ーー」
(俺の妹が可愛すぎるッ!!)
窮地を救ったあの日から、リオンに対するサラの態度が激変した。
今までは「お兄様なんか知らない!」ってツンツンしていたのに、今は「お兄様と一緒にいますわ!」と極デレデレ状態だ。
ぐへへ、ベタベタと兄に甘えてくるサラが可愛すぎてどうにかなりそうだ。心の中の俺はキモ過ぎるほど絶叫しまくっている。リオンの変換機能があるお蔭で、キモい様子が表に出てこないのが唯一の救いだった。
(それにしても、いったい誰がサラを殺そうと企んだのだろうか)
サラを殺せと命令した真犯人は見つかっていない。
父のジオやセバスチャンが手掛かりを探しているようだが、未だに足取りは掴めていないようだった。再びサラを襲ってくるかと警戒しているが、今のところは何も起きていない。
因みに、サラを殺そうとした男はジオに拷問され始末されたそうだ。
誰が、何故サラを殺そうとしたのかはわからない。
けど、絶対に死なせたりはしない。サラはこれからも俺が守ってやる。
「お兄様、膝枕してください」
「鬱陶しいぞ、離れろ(いいよいいよ、いつでもしてあげるからね!)」
「えい、ですわ」
「ちっ(ンギャワイイ!)」
サラはソファに座っている俺の横で寝転がり、勝手に膝枕してくる。綺麗でサラサラな銀髪をすくように撫でると、可愛い妹は気持ちよさそうに瞼を閉じた。
「私、今とっても幸せですわ」
「どうでもいい(俺も幸せだよ)」
「お兄様のこと、ずっと勘違いしていました。お兄様は私に関心はないと思っていましたが、必死に私を探してくれて、私のために怒ってくれたお姿を見た時、そうではないと気づきました」
「……」
「今までお兄様に冷たい態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでしたわ」
「気にするな。俺は気にしていない」
今の言葉に噓偽りはない。
実際、リオンは妹のサラに対して全く関心を抱いていなかった。サラが死んだからって涙の一つも流さず、忠告を無視して死んだ愚かな妹だと吐き捨てるような最低な兄貴である。
けれど、一つだけ気がかりなことがあった。
それは、サラが死ぬ未来の映像が頭に浮かび上がった時に胸の奥にあった、激しい後悔と喪失感が今はもう消えている。この感情が消えたのは、サラを救った時からだった。
(もしかしたらリオンは、サラが死んだことに傷つき後悔していたのかもしれないな)
そんなあり得ないことを考えてしまう。
だって、“あるはずのない未来の感情”をリオンが抱くはずもないんだから。
(いや……本当にそうなのか?)
ふと、頭の中に疑問がわいた。
これまでも不意に未来の記憶が起きることは時々あった。
セバスチャン、リコ、料理長、サラ。未来の記憶が浮かび上がる時は、連動するように贖罪したいという感情が溢れ出てきていた。
過去の記憶ならまだしも、あるはずのない未来の記憶なんて何かの勘違いだと気にしていなかったが、今ではあり得るかもしれないと思えてきた。
そう思うように至ったのは、未来の記憶の一つにある。
(サラが閉じ込められた場所が、村の外れにある倉庫の地下室……この記憶は今までとは違う)
サラを救うため、俺は必至に未来の記憶を呼び起こそうとした。今までのように不意にではなく、自発的にだ。
奇跡的に未来の記憶を呼び起こし、サラの居場所を突き止めることができた。しかし、この記憶が単なる幻想だったら、サラを見つけられず救うことができなかっただろう。
注目すべき点は、記憶通りの場所にサラがいたこと。
つまりそれは、あるはずのない未来の記憶は偽物や幻想なんかではなく、本物だということだ。
(未来の記憶が本物であることが確定だとして、何で未来のことが分かるんだろう?)
考えられる理由としては、俺が転生者だろうか。
この世界の舞台である「魔術学園の無能力」を始まりから終わりまで知り尽くしているから、俺は未来を知り得ることができる……というのは考えられる。
けれど、俺は主人公カイトの物語は知っているが、悪役貴族であるリオンの物語はよく知らない。リオンの母親が死んでいたことも、リオンに妹がいて、さらに殺されてしまうなんて設定は全く知らなかった。
だから、俺が未来の記憶を知ることができる理由は未だに分からないまま。そもそも突発的で、見ようとして見れる訳でもないしないな。
(今になって思えば、リオンって大変な人生を送っていたんだな……)
母親のヴェラ、妹のサラ。大切な家族を二人も失っていたんだ。
それに加えてあの父親だろ。平民を憎んでいる父親に好き勝手していいと育てられれば、そりゃリオンだってろくでなしに育つのも仕方ないし、平民のカイトに「調子に乗るなよ平民風情が!」って台詞を吐いた理由も分かる気がする。
リオンの性根が腐っているのは事実だし、庇う訳ではないんだけど、彼に同情してしまう部分もあった。
リオンが悪役貴族になったのは、そうなるだけの理由があったんだってね。
(というか、リオンの設定って本当にあるのかな。公開されてないだけで、原作者はリオンの設定を深く作っていたのだろうか)
だったら公開してくれればいいのに。そうすれば、リオンがファンにめちゃくちゃ叩かれることもなかったのにな。
まぁ、設定を公開したらつまらなくなってしまうかもしれないし、そもそも設定を作っていない場合もあるから、何とも言えないか。
(わからないことを考えたって仕方ないな)
リオンに知らない設定があろうがなかろうが、俺がやることは変わらない。
強くなって、なんとしても死亡フラグを回避するだけだ。
「お兄様ぁ、今日は一緒に寝たいですわ」
「断る(いいよ、一緒に寝よう!)」
「ええ~! いいじゃないですの~!」
クソッ! 俺はサラと一緒に寝たいのに口が言うことがきかない! リオンめ~!
「坊ちゃま、明日の準備はされていますでしょうか」
「何のことだ(明日って何かあったっけ?)」
サラと仲良くじゃれ合っていると、セバスチャンが明日の予定を聞いてくる。全く身に覚えがないので聞き返すと、彼はやれやれと言わんばかりに小さくため息を吐いてこうこう答えた。
「明日は坊ちゃまの婚約者であらされる、レイラ・ベルンツベルン様にご訪問される日でございます」
な、何だって~~~~~~~!?




