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物語中盤で死ぬろくでなしの悪役貴族に転生したけど、死にたくないから最強になって死亡フラグを回避する  作者: モンチ02
第五章 闇堕篇

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67話 お主も悪よのう

 




「根津山様と金田様に緊急のご報告がございやす」


「なんじゃ、申してみよ」


 大和の隣の領地である根津山。

 根津山の領主である根津山は、民から多額の税をむしり取る悪代官として知られていた。


 さらに根津山では博徒――いわゆるヤクザ――が運びり、治安も非常に悪い。やってくる商人も悪徳で物価も高く、民は苦しめられていた。


 根津山城で、三人の男が会談を行っていた。

 根津山の領主である根津山と、博徒の親分の大門、悪徳商人の金田である。大門は手もみをしながら、根津山と金田に報告する。


「本日の夜、鬼の頭領が物の怪の集団を率いて大和を襲いやした」


「ほほう、それは面白いのう。鬼は討伐されたのか? それとも大和の領主が討たれたのか?」


「鬼の頭領は大和によって討伐されやした」


「なんじゃ、残念じゃのう。あの成り上がりが死んでいればいいものを」


 出っ歯で鼠顔の根津山は、博徒の頭領大門から話を聞いて残念そうな顔を浮かべる。根津山は成り上がりで大名になった大和のことを好ましく思っていなかった。


 新参者なのに賄賂を寄越してこないのもそうだが、清廉潔白なところも大嫌いだった。それでいて、大和が年々と豊になっているも非常に気に食わない。


「領主様のおっしゃる通りでございやす。俺たち大門一家も賭博場を何度も開いているのですが、目敏い大和に見つかり商売ができないのでございやす」


「私も同じです。あの成り上がりに私の商売を規制されて困っています」


 大門の話に悪徳商人の金田が同意する。

 二人は景気の良い大和であくどい商売をしたいと思っているのだが、町奉行に見つかり追い出されてしまっている。大抵は賄賂を贈れば見逃してもらえるのだが、大和の町奉行も領主と同じで頭が固い者はばかり。


 さらに厄介なのは、領主の娘も直々に見回りしてくるのであくどい商売はできなかった。


「そんな折、ついに絶好の好機が来やした。物の怪が暴れ回ったお蔭で、町はとんでもないことになっていやす」


「ほほう。大和め、いい気味じゃ」


「根津山様、今なら大和を取れます。この大門にお力を貸していただけやせんか。この通りです!」


「ふ~む」


 土下座して頼んでくる大門に、根津山はパチンと扇子を閉じると金田に尋ねる。


「金田殿、何か良い案はあるか?」


「勿論ございますとも。根津山様、大和に金を貸すのでございます」


「何故儂が大和なぞに恩を売らねばならんのじゃ?」


「物の怪の襲撃で大和の町は崩壊しております。復興には大金がかかるでしょう。そこで大和に金を貸す代わりに、私と大門殿の商売を認めさせるのです」


「それで儂に何の得があるのじゃ。得するのはお主たちだけではないか」


 不満を抱く根津山に、金田は「そんなことはございません」と言い続けて、


「私たちの商売が上手くいけば、大和は金を稼ぐことができず、根津山様に返金できず借金は増すばかり。さすれば大和は根津山様の奴隷のようなもの。大和を飼い慣らすことや、責任を追及して排斥することも可能です」


「う~む、良い考えではあるが、あの大和が儂の案に乗るかのう?」


「そこで大門殿の出番でございます」


「むむ?」


 首を傾げる根津山に、金田は横にいる大門に視線を向けながら説明する。


「大門一家に復興の邪魔をしていただくのです。物の怪の襲撃で町奉行にも怪我人が続出しており、取り締まりが緩くなっている今なら邪魔はされないでしょう。そして民を慮る優しき大和は、我々の提案に乗るしかないのです」


「おお! それは良い考えじゃ!」


 金田の話を聞いた根津山は大いに喜んだ。

 これなら気に入らない大和を煮るなり焼くなり好きにできる。根津山は扇子を開いて口を隠すと、下卑た笑みを浮かべてこう告げる。


「ふっふっふ、お主も悪よのう」


「商人はあくどく生きるのが成功の秘訣ですから」


「そうかそうか! 大門、そちも任せたぞ」


「へへ~!」


 三人の卑劣な男たちによる悪巧みが、蛇のように大和を飲み込まんとしていた。



 ◇◆◇



「ふぅ……またやり直しか」


 ついため息を吐いてしまう。

 結局、鬼の頭領からデモルトの魂《かけら》が出てくることはなかった。鬼が死んだことで一緒に消滅してしまったのか?


 いや、あり得ない。デモルトの魂《かけら》は不滅だ。カイトの能力以外で消せるとは思えない。だとすると、一体どこにあるんだ。

 くそ、折角手掛かりを見つけたのに振り出しに戻ってしまったじゃないか。


「おい後輩、朝っぱらから辛気臭ぇ顔してんじゃねぇよ」


(誰のせいだと思ってんだ)


 居間で茶を飲んでいると、ベッキーが文句を言ってくる。お前が少しでも協力的だったら俺だってこんな顔してないんだよ。


「仕方ね~な、団子食いに行くぞ」


「結構です」


「ああん? 先輩の言うことが聞けね~ってのか」


「わかりました」


 はぁ……面倒臭いな。

 こっちは暢気に団子を食っている場合じゃないんだよ。さっさと物探しを終わらせて領主の仕事に集中したいんだ。


 とはいえ、先輩の機嫌を損ねるともっと面倒臭くなるのは目に見えているので、仕方なく付き合うことにした。


「おい、何だよこれ。町がボロボロじゃねぇか」


「昨夜、物の怪の襲撃に遭ったのです。気付かなかったのですか?」


「ああ、魔物のことだろ。五月蠅くて眠れね~からぶっ殺しておいたぜ」


 そういえば、お鶴が拠点にも多くの物の怪が襲ってきたって言ってたな。恐らくベッキーの魔力に吸い寄せられたのだろう。


 くノ一だけでは対応しきれないから、仕方なく彼女が戦ったって訳か。ベッキーなら物の怪など赤子の手をひねるよりも簡単だしな。


(それにしても、酷い有様だな)


 あんなに栄えていた大和の街並みが一晩で見るも無残だ。無事な家もちらほらと見かけるが、殆ど崩れている。朝から民が懸命に修復作業をしているが、復興は大変だろうな。


「あの茶屋、潰れてね~だろうな~」


「さぁ」


 まぁ、この様子だと茶屋も無事ではないだろうな。

 と思っていたのだが、茶屋の被害は最小限だった。


「おっちゃん、やってるか」


「ああ、ベッキーさん。悪いね、うちも今日は開かないんだ。客も来そうにないしね」


「んだよ。しょうがね~な~」


「待ってくれ。折角来てくれたんだ、特別に用意するよ」


「マジか! サンキューおっちゃん」


 団子が食べられると聞いて喜ぶベッキー。

 おっちゃんにベッキーさんねぇ。随分と仲が良いじゃないの。


 そりゃそうか。ベッキーは俺を手伝わず毎日この茶屋に来ていたし、店主にとっては金払いのいい得意様だよな。


「兄ちゃんも食べてきなよ」


「いや、俺は「おっ、見つけたでござる!」


 断ろうとすると、近くから大声が聞こえてくる。振り向けば、撫子が手を振りながら歩み寄ってきた。


「リオン殿ならここに来るかと思ったでござるよ」


「俺に何か用か」


「父上がリオン殿にお礼がしたいと申しているのでござる。一緒に来て欲しいでござるよ」


「いや、俺はいい」


 別にお礼をされるほどのことはしていないし、これ以上撫子と関わりたくないんだよな。

 という理由で断るも、撫子は俺の腕を掴んで強引に引っ張ってくる。


「遠慮せず、行くでござるよ」


「遠慮ではなくてだな……」


「うるせ~な~、さっさと行ってこいや」


 先輩からも追い打ちをかけられたので、仕方なく撫子に同行することに。悲惨な町並みを中を歩いていると、撫子がこう言ってくる。


「リオン殿が居なかったら、これだけでは済まなかったでござる。本当に感謝しているでござるよ」


「だが、それでも被害は大きい。復興は大変だな」


「心配ないでござるよ。大和の民は強い。これくらいの窮地、彼らとならきっと乗り込えられるでござるよ」


「ああ、そうだな」



 ◇◆◇



「改めてご挨拶申し上げる。大和の領主、大和猛と申す」


「リオン・エルファルドです」


 撫子の父、大和猛はまさに戦国武将といった風貌だった。

 身体はゴツく、ちょんまげにちょび髭。時代劇で見たまんまだが、実際に会ってみると迫力が凄い。

 ただ、鬼の頭領から受けた傷は回復しておらず、巻かれている包帯が痛々しかった。


 因みに撫子の母親は既に他界している。

【純血使徒】の幹部、【人斬り】森永明治に殺されてしまったからだ。だから撫子は、母親の仇である【人斬り】を恨んでいるんだ。


「まずはお礼を言わせて欲しい、リオン殿。其方《そなた》が居なければ大和は滅び、大事な娘を含め多くの民が犠牲になっていた。我らを救っていただき、誠に感謝いたす」


 猛は深々と頭を下げて真摯にお礼を言ってくる。まさか領主が土下座までしてくるとは思わなかった俺は慌てて告げた。


「頭をお上げください、大和殿。俺としても鬼の頭領を討つ理由があったので戦ったまでで、お礼を言われるまでもありません」


「例えそうであっても助けていただいたことには変わりない。何かお礼をしたいのだが、欲しい物はあるか?」


「いえ、お気になさらず。そちらも何かと物入りでしょう」


 これから町を復興させなきゃいけないって人から金目の物を頂くのは忍びない。気持ちだけ受け取って断ろうとしたのだが、猛は納得しなかった。


「そういう訳にはいかぬ。恩人に何も返さないのは武士の恥。せめて、大和の料理でも食べて行ってくれ」


「遠慮します」


「そう申すな。リオン殿は顔色が悪いぞ。精のあるものを食べて元気になってくれ」


「そんなに顔色が悪いですか?」


「自分で気づいておらんのか? 顔はやつれ、目の下に大きな隈《くま》が出来ておるぞ。病人よりも酷い顔だ」


(そんなに酷いのか……)


 最近鏡を見ていなかったから気付かなかった。

 まぁ日中はアズマで物探し、夜はエルファルド家で領主の仕事をしていたら顔色も悪くなるか。


 不眠症で一睡もしていないし、疲れは溜まる一方。それでいて鬼の頭領と戦ったから、体調はさらに悪化している。

 それでも俺は根を上げる訳にはいかないんだ。


「わかりました。大和殿のご厚意に甘え、食事をいただきます」


「それがよい。おい、食事を用意してくれ!」


 猛が大声で言うと、使用人がバタバタと食事を運んでくる。頼んですぐに出てくるってことは、元々作っていたんだな。

 俺の目の前に、豪勢な食事が並んだ。


「さぁ、好きなだけ食べてくれ」


「どれも美味しいでござるよ!」


 いつの間にか隣に現れた撫子に言われた俺は目の前にある椀を持って啜る。


(懐かしい味だ)


 飲んだのは味噌汁。

 味噌の風味が鼻腔を通り、五臓六腑に染み渡る。

 はぁ……なんて美味いのだろうか。


 ただの味噌汁がこんなに美味しく感じられるなんて初めてだ。リオンの身体だから泣きはしないが、心の中では泣いている。

 味噌汁を飲むと、やはり俺の魂は日本人なんだなって思わされた。


 他には魚の塩焼きに白米、たくわん、山菜の天ぷら。全て日本食だ。全部美味いが、やはり一番は白米だ。ぶっちゃけ元の世界の米より美味く感じられる。土鍋で炊いているからか?


 久しぶりの日本食を満喫していると、猛と撫子が驚いた顔で俺を見てくる。


「うむ、良い食べっぷりだ。外国の方の口に合うか心配であったが、喜んでもらえて嬉しいぞ」


「リオン殿は箸の使い方が上手でござるな。普段から使っておったのか?」


(やっべ)


 そうか、普通外国人は箸を使わないもんな。全く気にせず食べてたわ。俺はすぐさま理由を考え言い訳を述べる。


「俺の国でも箸が使われているところがあるんだ」


「ほう、アズマの文化が外国に根付いているのか。それは良きことだな。そういえばリオン殿も外国から来たのでござろうが、アズマには何故《なにゆえ》来られたのだろうか。先ほど申していた、探し物とやらが目的か?」


「そうです。俺が探している物がアズマにあると聞いてやって来ました」


「わざわざ遠い外国から来て大変だのう。どんな物か教えてくれ。協力できるかもしれぬ」


「それには及びません」


 猛の申し出をきっぱりと断る。

 見つけはしたいが大和に借りを作りたくない。それに撫子ともこれ以上深く関わりたくないしな。


「そうか。困った時はいつでも相談してくれ」


「お心遣いありがとうございます」


「リオン殿に聞きたいことがあるでござる」


「何だ?」


 突然言ってきた撫子は、懐から人相書を取り出し真剣な顔つきで俺に見せながら尋ねてくる。


「この者に心当たりはござらぬか。名は森永明治。アズマの大罪人でござる」


「……」


 知っているも何も、この前会ったばかりです。


「止めぬか撫子、食事中だぞ。それに、祖奴ならもうとっくに死んでおるわ」


「死んではおらぬ! 奴はアズマのどこを探しても見つからなかった! ならば外国に逃げたとしか考えられませぬ!」


 その通りです。


「リオン殿、心当たりはござらぬか」


「申し訳ないが、俺は知らないな」


「そうか……」


 きっと撫子は、俺のような外国人に森永明治の行方を聞き回っていたのだろう。母親の仇の手がかりを得るために。


 だが心配するな。魔術大会でこっちに来れば仇に会える。撫子が魔術大会に参加するのは、外国にいるかもしれない森永明治を探すためでもあるからな。


「ご馳走になりました。そろそろ俺は帰らせてもらいます」


「そ、そうか。またいつでも来るがよい」


 十分食べたし、撫子のせいで雰囲気も悪くなったからお暇することにした。

 立ち上がって帰ろうと襖に手をかけようとしたその時、先に襖が開かれ爺さんが慌てて入ってくる。


「殿、殿! 大変ですぞ!」


「何を慌てておる爺や、客人の前ぞ」


「そんな場合ではないのです! 根津山が、あの根津山が大和《この》城にやって参りました!」


「何ぃ!?」



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