63話 大和撫子
「なぁ、いいだろう?」
「言葉わかるか? あそびましょ~」
(うぜぇ)
ダル絡みしてくる侍風の男二人に、胸中で舌打ちする。
こんなコッテコテの絡みを今になってされるとは思わなかった。異世界転生でよくある冒険者に絡まれるようなお決まりのパターンは今までなかったのである意味新鮮ではあるけれど。
さて、こいつ等をどうやり過ごそうかと頭を働かせていた俺は、危機を感じてチンピラの腹を蹴り飛ばす。刹那、蹴り飛ばした方の男の前髪がハラリと宙に散った。
「な、何してくれてんだごらぁ!」
「やりやがったなてめぇ!」
ごろつき共が青筋を立てて怒鳴ってくるが、今はそんなことどうでもよかった。
たらりと額から汗が流れる俺は、ちらりと横にいるベッキーを見下ろす。
(こいつ今、殺そうとしやがったッ)
俺が蹴り飛ばさなかったらチンピラの首が刎ね飛ばされていたぞ。
こんな街中で白昼堂々と殺そうとすんじゃねえよ。
これだからベッキーと組むのは嫌だったんだ。こいつはしょっちゅう面倒事を起こすからな。
でもまさか、こんな簡単に、往来の中微塵の躊躇もせず人を殺そうとする奴だとは思っていなかった。なんて恐ろしい奴なんだ……。
「おい後輩、邪魔しやがったな」
「先輩、何の為に俺たちがアズマに派遣されたと思っているのですか。お尋ね者の森永さんの代わりに来たのに問題を起こしたら意味がない」
「ちっ、面倒臭ぇな。ならテメエに任せた」
「分かりました(ふぅ、助かった)」
「おい、無視してんじゃねえよ!」
安堵の息を吐く。
後はどうやってこの場を収めるかだな。既に注目を浴びてしまっているし、下手なことはできない。気絶……はまずいから動けない程度に麻痺させるか。
そう判断して初級雷魔術を使おうとした刹那、横から大声が放たれる。
「やいやい! そこのごろつき共、外国の方々への狼藉は拙者が許さぬでござるぞ!」
(こ、こいつは!?)
新たに現れた女性を見て驚愕する。
まさか、こいつがここで出てくるのか!?
「何だぁテメエは!」
「邪魔すんならお前から殺っちまうぞ!」
ついにごろつき共は刀を抜いてしまう。
二人がかりで襲いかかるも、女性は刀を抜かず鞘のまま見事な殺陣を繰り広げごろつきを打ちのめした。
「「ぐ、ぐぇ……」」
「拙者の目が黒いうちは、この大和での狼藉は決して許さぬ!」
「きゃ~~!」
「いいぞ~!」
ごろつき共を華麗に成敗した女性に、観衆が拍手と黄色い声援を送る。
まるで時代劇の主人公を思わせる彼女は、俺たちのもとへ歩み寄り声をかけてきた。
「外国の方、お怪我はないでないでござるか」
「ああ。すまない、助かった」
「こちらこそ町の者がご迷惑をおかけして申し訳ないでござるよ」
謝罪してくる女性は、改めて自己紹介してきた。
「拙者は大和撫子と申す」
(ああ、知ってるよ)
艶のある黒い長髪はポニーテールに纏めてある。力強い眼差しに、日本人風の凛とした顔立ち。背は高くモデル体型。
下半身は朱色の袴で、大きな胸を包むようにさらしを巻いており、朱色の羽織を肩にかけていた。
大和撫子。
「魔術学園の無能力者」に登場する重要人物の一人。
大和家の長女にして剣客であり、魔術大会にはアズマの代表選手として参加する。
主人公カイトの第三ヒロイン……とまではいかないが、カイトの仲間に加わる主要キャラだ。
まさかこんな所で彼女と会うとは驚いたな。
(数奇な巡りあわせだな……)
物語ですでに死んでいるリオンが撫子と出会うことはない。
会うことのないリオンと撫子が出会ったのは、一ファンとして感慨深いものがあるな。
「リオン・エルファルドだ」
「よろしくでござる、リオン殿。そちらの御方は……」
「あん?」
助けてくれた人を睨むんじゃないよ。
態度が悪い先輩の代わり俺が紹介する。
「彼女はベッキー。見ての通り人当たりは良くないので失礼な態度は許して欲しい」
「気にしないでござるよ。リオン殿、ベッキー殿、ここで会ったのも何かの縁。よかったら拙者が町を案内しよう」
「それは……」
ありがたい話ではあるが、これ以上撫子と関わるのは遠慮したい。なので断ろうとしたのだが、不意にベッキーが口を開く。
「いいんじゃねえの。案内してもらおうぜ」
(マジかよ)
「よし来た! それではまず服を見に行くでござるか。二人の格好は少々目立つでござるからな」
苦笑いしながらそう言われたので、俺とベッキーは撫子の後に着いて行く。服装に関しては俺もどうにかしたいと思っていたところだ。特にベッキー。
服屋に着くと、俺たちに合う服を店主に見繕ってもらった。
「おお! よいではないか!」
「お二人とも、とってもお似合いですよ?」
(そうか? 外国人が着物を着ているようにしか見えないぞ)
俺は黒い袴で、ベッキーは鮮やかな緑色の着物。
俺もベッキーも顔立ちが外国人だから、京都に観光してきた外国人がコスプレしているようにしか見えない。着物が一番合うのはやっぱり日本人だよな~と改めて実感する。
「なんだよこの服、動き辛いし息苦しいんだけど」
(おい、胸を出すな)
そりゃマイクロビキニに比べたら着物は動き辛いだろう。
だからといって胸元を緩めるなよ。谷間が見えちゃってるし、花魁みたいになってんぞ。
「はっはっは、苦しいならそれでも良いでござるよ。服も用意したし、次に向かうでござるよ」
「待て、金はどうする」
「安心せい、ここは拙者が持つでござるよ」
「お~、気前が良いじゃね~か」
いやいや俺が払うよ、と言いたがるのは日本人の気質だよな。
ベッキーはもう奢ってもらう気満々だし、ここは撫子の好意に甘んじよう。
「ここの団子は天下一品でござるよ。店主、団子と茶を三人分頼む!」
「はいよ、撫子お嬢様!」
趣のある町並みを堪能しながら歩いていると、撫子が茶屋に入っていく。長椅子に座って待っていると、すぐに店主が団子と茶をお盆に乗せて持ってきた。
ベッキーは串に刺さった三つの団子を丸ごと頬張ってしまう。
「うんめ~! なんだこれうめーぞ! おい、もっとくれ!」
お前、さっき朝飯食ったばっかだろ……。
と心の中で突っ込みながら、俺も団子を食べる。
(懐かしいな……)
よもぎの味に、もっちりとした感触。
日本でよく食べていた団子だ。まさか異世界で団子を食べられるとは思わなかったな。お茶も絶妙に苦くて美味しくて、少し郷愁に駆られてしまう。
そんな俺たちを楽しそうに見つめる撫子は、思い馳せるように口を開いた。
「ふふ、喜んでもらえて何よりでござる。拙者は生まれ育ったこの大和が大好きでござる。活気があって、人々はよく笑い、よく働き、団子が美味い」
「……」
「だから、外国の方にも大和を好きになってもらいたいのだ」
そうか、だから俺たちの案内を買って出てくれたんだな。
領主の娘として、この町――大和を気に入ってもらおうと。
「案内感謝する。俺たちはもう行く」
彼女の心遣いは嬉しい。
だが、これ以上一緒にはいられない。いずれ俺たちと彼女は敵対関係になるんだからな。物語でベッキーと撫子が直接戦う展開はないが、関わらないことに越したことはない。
「そうでござるか。もし困ったことがあれば拙者を頼ってくれ。ここの店主に言伝を残してくれればいつでも駆けつけるでござるよ」
「わかった。ん、どうした?」
「いや、何でもないでござるよ。では二人共、この後も大和を楽しんでいってくれ」
爽やかにそう言って、撫子は俺たちの前から去って行く。
俺は見逃さなかった。
撫子が店の壁に貼り付けてある、森永明治の人相書を親の敵のように睨んでいたことを。
◇◆◇
「また子分が大和の娘にしょっぴかれたそうですぜ、親分」
「な~に~!?」
「賭博に商売、次々とやられちまってます」
「このままじゃ大和でやっていくのも難しいですぜ」
「どうしやす、親分?」
「たかだか成り上がりの大名が調子に乗りやがって。こうなったら少々痛い目に遭わせないといけね~よ~だな」
「いいんですかい? もし将軍様に泣きついてでもしたら、おいら達は一貫の終わりでっせ」
「ふん、見栄っ張りの大和はそんな無様なことしね~よ」
「でしたら、本気で大和と争うってことでよろしいんで?」
「おうとも。テメエら、大門一家が大暴れしてやろうじゃねえか」
「「へい! 親分!」」




