61話 純血使徒
目を開くと、薄暗い部屋の中にいた。
身体に異常は……うん、ないな。ここは……家か?
薄暗い部屋を見渡していると、背後から人の気配を感じる。
「よく来たね、リオン君」
「ラウル先生」
相変わらず胡散臭い野郎だ。
ジオを殺したのはこいつではないだろう。ラウル程度の力でジオに敵うはずがない。だが、後で情報は聞き出す。
「丁度よかった。今から君を組織のメンバーに紹介するから」
「はい」
「言っておくけど、決して粗相のないようにね。万が一機嫌を損ねるような真似をしたら、君、“消されるからね”」
その言い方で、どんな奴が待っているのか分かった。
薄々気付いてはいたが、どうせ会うのはラスボスのデモルト・ブラックロードだろう。御託はいいからさっさと会わせろ。こっちは忙しいんだよ。
ラウルに連れていかれると、大きな扉の前に立たされる。
「心の準備はいいかい?」
「いつでも(さっさとしろ)」
若干苛々しながら促すと、ラウルは大きな扉を開いて広い部屋の中に入っていく。長いテーブル席の上座にいた人物が俺に右手を向けながら口を開いた。
「紹介しよう。私たち闇の魔術師の同志となった、リオン・エルファルドだ」
(こいつ等もいたのか)
広い部屋には、上座にいるデモルト以外に九人の男女がいた。
俺はこの九人を知っている。
こいつ等全員闇の魔術師の組織の最高幹部であり、「魔術学園の無能力者」に登場する重要人物。
てっきり会うのはデモルトだけだと思っていたのだが、幹部まで勢揃いしているとは思わなかった。
「リオン・エルファルド~? 聞いたことね~な~」
俺から見て左二席目に座っている、ヤンキーみたいな柄の悪い男。
【爆弾魔】クランキー・キット。
「おいブルボン、テメエ知ってるか」
「いや~オイラも知らないっスね~」
俺から見て右一席目、帽子を被ったお調子者の青年。
【魔主】ブルボン・ブランチュール。
「う~ん、どこぞの誰かもしれない馬の骨ですか」
俺から見て右二席目、糸目でロン毛の男。
【変態】パキーラ・バームロール。
「馬の骨と決めつけるのは判断が早いのではないのでござるか」
俺から見て左三席目、刀を帯刀している侍のような恰好をしたちょんまげの男。
【人斬り】森永明治。
「そうだよ~。ワタシ好みの可愛い顔だし~、こんなブチャイクより全然良いもんね~チョコちゃ~ん」
「あぁん!? 誰が不細工だって! 俺は硬派なんだよ!」
「何をいきり立っている。お主と言っている訳でもないのに」
「えっ、そうなのか?」
「ううん、アナタのことよ」
「ああん! やっぱりそうじゃねーか!」
俺から見て左一席目にいる、おどろおどろしい兎の人形を持っている少女。
【操り人形】ミルキー・チェダーチーズ。
「だからうっせーんだよクソ野郎! 殺されてーのか!」
俺から見て右三席目、目つきも口も悪いビキニのような薄着の女の子。
【鮮血姫】ベッキー・ウィットバンナー。
「いい加減にしないか。我が君の前ですよ」
俺から見て右四席目、二メートルを有に超える体格の男。
【生首】グリコ・ファヤージュ。
「そうだね。少し静かにしようか」
俺から見て左四席目、頭に大きなネジが刺さっている白衣を纏った女。
【闇医者】シルベーヌ・ラシュクーレ。
「……」
俺から見て右五席目、腕を組んでじっと黙っている美青年。
【黄昏】アルフォート・ロッテ。
【爆弾魔】クランキー・キット。
【魔主】ブルボン・ブランチュール。
【変態】パキーラ・バームロール。
【人斬り】森永明治。
【操り人形】ミルキー・チェダーチーズ。
【鮮血姫】ベッキー・ウィットバンナー。
【生首】グリコ・ファヤージュ。
【闇医者】シルベーヌ・ラシュクーレ。
【黄昏】アルフォート・ロッテ。
以上九人が、闇の魔術師の最高幹部だ。
こいつ等は一人一人が超一級の最上級魔術師。ラドクリフやジオの実力では単体で倒せない。大貴族が三人四人と束になってやっと拮抗するほどの実力者たちだ。
奴等の能力を把握している俺なら一対一でも勝てるが、三人以上を相手にするとキツいだろう。それほど厄介な奴等だった。
「我が君、もしやあの子供を我らの仲間に加えるおつもりですか」
アルフォートが尋ねると、デモルトは「そうだ」と頷く。
何も言われずここに連れて来られたようだが、どうやら俺を幹部の一員にするつもりなのか。これは願ってもない機会だ。組織の中枢に入れれば、ジオを殺した奴を探り安くなる。
「先ほども言ったが、リオンは我らの同志となった」
「こんな弱そうなクソガキが俺たちの仲間になり得るのかよ、我が君」
不満そうに言うクランキーの代わりに答えたのはラウルだった。
「本来は彼の父親であるジオ・エルファルドが加わる予定でした。ですが、彼は先日亡くなってしまったので息子である彼に声をかけたのです」
「ジオ・エルファルド? 誰だそいつ」
「知らないね」
(白を切る気か)
父の名前を聞いても幹部たちはピンときていない様子だった。
ジオを殺せたのは闇の魔術師の中でも上の方だ。俺としては幹部の中に犯人がいるのではないかと踏んでいる。
なのにこいつ等ときたら、誰一人としてジオを知らないときた。本当に知らないのか、しらばっくれているのか。
因みにラウルはまだ、ジオを殺した者が闇の魔術師と俺が知っていることを知らない。組織に入らせるため、犯人のことは俺に隠しているのだろう。親を殺した組織なんか憎みこそすれ入る訳ないからな。
「貴方たちに比べれば、リオン君はその辺に転がっている石ころに過ぎません。しかし彼は磨けば光るダイヤの原石です。経験を積めば、我々の力になるでしょう」
「ベッキー、お前にリオンのことを頼みたい」
「はぁ~? アタシがこんなクソガキの面倒見なきゃなんね~の!? そりゃないですよ我が君」
「へへ、良かったじゃね~か。お前今、パートナーいねぇもんな」
(げっ、よりにもよってベッキーかよ)
幹部はそれぞれ二人一組で動いている。
だから俺も幹部の中に加わるなら誰かのパートナーとなるのだが、ベッキーだけはやめて欲しい。
二人一組なのにベッキーは単独行動が多いし、面倒事もしょっちゅう起きる。一番厄介な点は、こいつがやらかしたせいで何人ものパートナーが死んでいることだ。
どうせ仲間になるなら、話が通じやすい森永やグリコとパートナーになりたかった。
「アタシは一人が良いんだよ。雑魚と一緒は疲れるし、パートナーなんかいらねぇかんな」
「我儘を言うなベッキー。お前のためだ」
「我が君のご命令だ。ぐだぐだ言っていないでそいつの面倒を見ろ」
「ぐぬぬ」
デモルトとアルフォートから強く言われたベッキーは、頭をガシガシと掻いて、
「だ~クソ! わかったよ、やりゃ~いんでしょやりゃあ! おい後輩、仕方ねーからアタシがパートナーになってやるよ!」
「よろしくお願いいたします(クソ、最悪だ)」
「新たなパートナーも決まったことですし、皆さんには早速世界各地に散らばっている我が君の魂を探し集めていただきます」
ラウルの話で思い出したが、そういやそんな物語もあったな。
こいつ等幹部が初登場した時は、すでにデモルトの魂は集まった後だったから忘れていた。
「ベッキーさん、リオン君。貴方たち二人は極東の島国アズマに向かってください」
「はぁ~!?」
(アズマの国だと!?)
嘘だろ。こっちは領主としての仕事や勉強があるんだぞ。
アズマなんて遠い場所に物探しなんてやってられっかよ。
「おいテメエ、何でアタシたちがアズマなんだよ。アズマ出身の森永に行かせりゃいーだろうが」
「森永さんの故郷はアズマですが、彼は顔が割れていて自由に動けないのです。なので森永さんには別の場所に行ってもらう予定です」
「かたじけない」
あぁ……そういやそうだったな。
森永はアズマで人を無差別に斬り殺しまくった極悪人で、全国に人相書が配られている。仮面で顔を隠してもいずれはバレるだろう。
「ラウル先生」
「ぷっ、おい聞いたか今の! 先生だってよ! ここはいつから学校になったんだ!」
うるせぇぞヤンキー。一々突っかかってくんじゃねえよ。そのリーゼント頭燃やしてやろうか。
「何でしょう、リオン君」
「俺はエルファルド家の当主となったばかりで、やらなければならない事が多いです。可能であれば近場にしていただきたいのですが」
「おお、良いこと言うじゃねーか後輩! そーだ、もっと近場にしやがれ!」
「それには及びません。リオン君に渡した転移魔術が施されているロケットを使えば、君の家からでもアズマに行ったり来たりできますよ。アズマにある組織の拠点に転移を登録してあるので、ご心配なく」
「承知いたしました(それでも面倒だが、これ以上は食い下がれないか)」
「おい後輩、何諦めてんだよ!」
仕方ない、こうなったらさっさとデモルトの魂を探し出すか。こんな事に割いている時間なんて俺にはないんだよ。
「他の皆さんも、担当場所は任せましたよ」
話が纏まったところで、デモルトが立ち上がり口を開く。
「皆、よく聞け。これより我ら闇の魔術師の組織は【純血使徒】と名乗ることにする。この名を世界に刻み込ませるのだ」
「「承知いたしました、我が君」」
「うむ。ではゆけ、期待しているぞ」
そう告げると、デモルトの姿が忽然と消える。
恐らく転移魔術でどこかに行ったんだろう。
「おいベッキー、しくじんなよ」
「頑張ってね~ベッキーちゃん」
「うっせ~、さっさと行きやがれ」
クランキーとミルキーが同時に消える。
転移魔術が施されたロケットで指定された場所に向かったのだろう。あの二人はパートナーだからな。
他の幹部たちも、それぞれのパートナーと一緒に指定場所へ転移していく。最後に残ったのは俺とベッキーだけだった。
「おい後輩、何ぼーっと突っ立ってんだ。アタシたちもさっさと行くぞ」
「はい」
「先に言っておくけどよ、役立たずはいらね~からな。邪魔だと判断したらぶっ殺すぞ」
「ご心配及びません」
「ふん、そう言った奴は皆あの世行きだったよ」
お前が殺したの間違いじゃないのか。
「ほれ、行くぞ」
「行くと言われても、どうすれば?」
「あ~もう面倒臭ぇな!」
そんな事言われたってこっちは転移の仕方なんか知らないんだよ。
ガシガシと頭を掻くベッキーは、俺の腕を掴んでロケットを開いた。
その瞬間、俺たち二人はロケットの中に吸い込まれていくのだった。




